ルルーシュとスザクがジノの手引きでそこから脱出して1時間後…
「ナナリー…ルルーシュと、枢木が、逃げた…。しかし、あの厳戒態勢でどうやって…」
シュナイゼルが、やや焦りの色を見せながら、ナナリーに報告した。
ナナリーは至って落ち着いていた。
ここでじっとしているような二人だとも思っていないし、ナナリーとしても、こんなところであの二人が引き籠られていて貰っても困る…。
「そうですか…。シュナイゼル兄様…追手を差し向けて下さい。ただ、あの二人だけで脱出したと考えにくいですので、きっと、手引きをした者…そして、その手引きをした者のバックには…」
ナナリーは、書類から目を離し、シュナイゼルに告げた。
そう、あの二人の事をよく知るナナリーは、あの二人だけでは脱出不可能な状態にしておいた。
ルルーシュのギアスがどのように発動するのかが、ナナリーにはよく解らなかった為、手足を拘束し、眼隠しまでしていた。
そして、スザクにも、彼の身体能力を持ってしても破れないように拘束をしておいた。
「あと…きっと、お兄様たちを助けた人物のバックには何かしらの組織が関与している筈です。不用意に深追いしないで下さい。その組織の正体が解ればいいので…」
と、ナナリーは念を押した。
決して怪しまれないように…そう思って、宮殿には厳戒態勢を敷いていた為に、恐らく、これだけの時間がかかったのだろう。
ナナリーの言葉を聞いて、シュナイゼルが部屋を出て行った。
それを見届けて、ナナリーがほぅ…と息をついた。
「コーネリア異母姉様…」
そう一言、呟いた。
そして、再び書類に目を戻した。
ルルーシュ達が連れてこられたのは、蓬莱島の黒の騎士団本部だった。
そして、ルルーシュとスザクが通された部屋には…
「ルルーシュ…」
コーネリアが立っていた。
どうやら、ダモクレスからは無事、脱出出来たらしい。
元々、ルルーシュ達の考えた『ゼロレクイエム』でも、シュナイゼルとコーネリアには死んで貰っては困る計画だった。
「異母姉上…」
ただ、こうして、対峙して、コーネリアにとっては、ルルーシュは憎きユーフェミアの仇である。
ルルーシュはやや身構える。
そして、スザク自身も、『裏切りの騎士』の呼び名があるだけに、居た堪れない。
「ルルーシュ…私は、お前がユフィを殺した事、『虐殺皇女』の名で汚した事を許してはいない…。ただ、今はそんな事を云っている場合ではないからな…。お前への責任追及は、事の収集が終わったらまとめてきっちりつけてやる!」
コーネリアがルルーシュを睨みつけながら言い放つ。
そして、
「だから…さっさと決着をつけろ!このままでは、ナナリーが…」
コーネリア自身は、強く、厳しく、頭も切れ、そして…自分の兄弟たちには…それが、たとえ異母兄弟であっても、慈悲深く、愛情が深い…。
「解っています…」
ルルーシュは強い瞳を湛えてコーネリアに返答する。
そして、今のこの状況で、使える人間の把握をした。
カレンは蓬莱島にいた。
ヴィレッタも扇の云いつけらしく、蓬莱島に残っていた。
そして、斑鳩にいた、技術者やロイドたちもそこにいたが…
「扇や玉城、藤堂たちはどうした?」
ルルーシュはカレンに尋ねた。
その質問をされてカレンは、躊躇って、答えにくそうに口を開いた。
「扇さんたちは…ナナリーのやり方に…異を唱えて…」
「出て行ったのか?」
ルルーシュは顔色を変えて、カレンに詰め寄った。
「ジノに…二人の奪還を頼んだのに…でも、扇さんたちは、ルルーシュを信じる事も出来ないって…」
カレンの言葉に、ルルーシュはぐっと拳を握り締めた。
先の戦いで、ナイトメアなど、残っている筈もないから、そのまま、ブリタニアに乗り込んでいくような真似はしないとは思うのだが…
「確かに…異母兄上にはうまく丸め込まれたみたいだったからな…。本当の事でも、言葉の使い方でこうも結果が変わってくるとは…」
ルルーシュは独り言のように呟く。
「ルルーシュ…あの時は、状況的に仕方なかったぞ…。お前は、枢木からの通信で、フレイヤの事を知っていたんだからな…。それに、お前が、私たちの異母弟である事も事実だ…」
コーネリアの言葉は一つ一つ、正しいだけに、今となっては、そんなものが、こうした障害の伏線になっている事に苛立ちを感じた。
「ルルーシュ…もしナナリーが僕たちの考えた『ゼロレクイエム』と同じ事を考えているのなら、多分…ナナリーは必ず人目のつくところに出てくる筈だ…。そうでなければ、あんな形で勝利宣言をする意味もない…」
スザクはルルーシュの『ゼロレクイエム』を知っているが故に、ナナリーが何をしようとしているかが解る。
「そう云えば、ナナリーが勝利宣言している時、拘束されているお前がフレイヤのスイッチを押すナナリーに対して大声で『やめろ』と叫んでいるところがばっちり放送されていたな…」
コーネリアの言葉にルルーシュは…ぐっと唇を噛んだ。
「そう云えば…枢木神社はどうなりました?」
「?…別に…普通に残っているが…。実際にフレイヤを撃たれたのは、ダモクレスで太平洋上にブリタニア軍を追い払った後だったからな…」
「!」
コーネリアの言葉にルルーシュは一瞬、目の前が真っ暗になり、倒れそうになった。
それを支えたのが、スザクだった。
「では、テレビ中継で、ナナリーが『ちょうどこのあたりが、枢木神社の上空にあたります。』と云うナナリーの言葉は?」
「否…。確かに、何か喋っていたらしいが、それに関しては音声が完全にオフにされていて聞こえなかった。読唇術を使っても角度的に解析が不可能だった。ただ、ナナリーがスイッチを押す時にルルーシュの叫び声が聞こえただけだ」
ナナリーはそこまで…と云う気持ちでルルーシュはなんとか自分の身体を支えた。
このまま放っておいたら、本当に扇たちがナナリーの暗殺を企む事になり、実行する。
しかも、今のこの状況では、ナナリーが一人で『悪』の名を背負う事になる。
「コーネリア異母姉上…お願いがあります…。ナナリーを止め、全てが終わったら、ジェレミアとジェレミアの持つ領地を私に下さい。皇位も、身分も、名誉も私には必要ありません…。ですから…」
ルルーシュが絞り出すようにコーネリアに頼んだ。
「それは…お前が、世界を創造するという責務から逃げるという事か?」
「必要なら、私は何でもしましょう…。ただ…ナナリーを守る事だけは…許して頂きたい…」
ルルーシュは声を震わせながらコーネリアに請うた。
コーネリアが一瞬、考え込んで、再び言葉を口にした。
「解った…。但し、シュナイゼル異母兄上にお前はギアスをかけたのだろう?だとしたら、ブリタニアを治める者が必要だ。お前が、再び、ブリタニア皇帝に即位しろ…それが条件だ…」
「私に…世界を背負え…と…?」
「ユフィの思いを知っているからこそ、お前はあんな無茶な行為に走ったのだろう?ならば、最後までやり通せ…。それが恐らく…ユフィへの…。それに、ただ殺すのでは、私の気が済まん!どうせなら、目一杯の生き地獄を味わわせてやる!」
そう云って、コーネリアがふいっと横を向いた。
「承知致しました…」
そう云いながら、ルルーシュはコーネリアの前で膝をついた。
「後、枢木…お前は、引き続き、ルルーシュを守れ…。お前達二人には、ユフィを死なせた事への罰を最大限受けて貰う!」
その言葉にスザクも目を見開くが…すぐに膝をついた。
「イエス、ユア・ハイネス…」
そして、それから1ヶ月ほど、ルルーシュとスザクは目の回る忙しさだった。
今、ブリタニア本国にはナナリーがいて、ルルーシュ達は、蓬莱島にいる。
それでも、世界各国からの情報は事欠かない。
コーネリアも、野に下ったとはいえ、皇族としての誇りを失わないまま、ルルーシュ達の力になっている。
もともと、有能な人物であり、ユーフェミアの事がなければ、コーネリアにとって、ルルーシュも、自分にとってはかわいい異母弟だった。
だからこそ、ブラックリベリオンの時、ゼロのマスクをとったルルーシュを見て、驚きを隠せなかったし、クロヴィスはおろか、ユーフェミアまで殺してしまうとは考えられなかったし、考えたくもなかった。
しかし、その事が事実であると悟ると…コーネリア自身、自分の無力さと、ルルーシュのやった事に対する悲しみに苛まれた。
そして、『ギアス』の事を知った時に…コーネリアの怒りは爆発した。
『ギアス』と云う能力がルルーシュを変え、ユーフェミアを殺したと…
その思いから、コーネリアは絶対に『ギアス』を許さなかった。
必ず、自分の手で全てを終わらせる…そう云う思いで、野に下った後も、世界中をかけずり回った。
自分の気持ちに決着をつける為、そして、ルルーシュがどうして、ユーフェミアを殺さなくてはならなかったのかを知る為に…
かつては、同じ宮殿に暮らし、ルルーシュの母を慕い、よく、アリエスの離宮へと赴いていた。
確かに、日本へ人質に送られた事によって、ルルーシュの中で変わらざるを得なかったものがあるのかも知れないが…
でも、ナナリーに対するルルーシュを見ていると、ルルーシュの本質が変わってしまったとは思えない。
後から聞いた話ではあったが、ダモクレスでシュナイゼルにコーネリアが撃たれた後、脱出をさせたのはルルーシュだったと云う…。
ルルーシュとスザクの考えた『ゼロレクイエム』に利用出来るから…だから助けたのか…とも思ったが、それでも、あの後、アヴァロンの乗組員全員が、黒の騎士団に合流していた。
あのまま、アヴァロンに残っていたら、確実に全員が死んでいたし、各国の代表も無傷で帰されたと云う。
だから…コーネリアは今のルルーシュを知りたいと思った。
だから、蓬莱島にいたジノにルルーシュとスザクを助け出すように命令を下した。
ナナリーがあのようになり、シュナイゼルがナナリーの傍にいる。
となると、恐らくは、コーネリアだけでは異母兄と異母妹には勝てない…そう思った。
―――ルルーシュを許す気はない…だが…あんな異母弟でも、今は…必要…か…
思い複雑なのではあるが、とにかく、ルルーシュを観察して、ルルーシュに直接聞きたかった。
『ゼロ』と『コーネリア=リ=ブリタニア』としてではなく、異母弟と異母姉として…
ナナリーが今度、パレードを開くという…ナナリーの皇帝即位の祝いとして…
本当のナナリーの性格を知るルルーシュはそんなニュースを見た時には、涙が出てきた。
そんな事を望んでやっている訳でもないのに…でも…マスコミにはそう云った報道がされている。
そんなルルーシュを見るたびに、スザクがポンとルルーシュの肩を叩く。
自分たちでナナリーを止める…と…。
そんなとき、カレンとジノが慌てて、ルルーシュ達の執務室に飛び込んできた。
「今…情報が入ったんだけど…藤堂さんたちが…」
ルルーシュとスザクの目の色が変わった。
「とすると…決行は、1週間後…だな…」
「ルルーシュ…もう一度、確認する…。今度は本当に『正義の味方のゼロ』になるんだ…。今度こそ出来るだろうな?」
スザクが厳しい目でルルーシュを見ている。
「やるさ…。ナナリーの為の『ゼロ』…。『ゼロ』の出発点だからな…」
「でも…ルルーシュ…そんな事をしたら…『ゼロ』への求心力は…」
「一応、俺が完全な悪逆皇帝になる前にこんな事態になって、しかも、ダモクレスからの映像には、俺がフレイヤを止めようとしている…」
カレンの心配そうな人事にルルーシュはふっと笑って答えた。
確かに民衆の『ゼロ』への求心力が下がるとは思わないが、今回、ナナリーを狙っているのは、『ゼロ』の秘密を知る扇たちだ。
恐らく、ナナリー共々、ルルーシュも狙ってくる。
扇や藤堂たちにしてみれば、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』はさる事ながら、『ゼロ』の存在さえ、彼らにとっては邪魔な存在である。
ナナリーのお陰で、黒の騎士団が孤立無縁となり、今、彼らの出来るのは、パレードでのナナリーの抹殺…。
恐らく、彼ら自身、無傷で帰れるとは思ってはいないだろうが…それでも、様々な策を練っているだろう。
扇とて、凡庸とは云え、いつも一番近くで『ゼロ』の戦略を見てきたのだ。
当然ながら、扇たちも必死らしく、扇は、ヴィレッタをこの蓬莱島に残した。
ナナリーを救い出し、なおかつ、扇たちの抹殺劇を食い止める…。
それが、今、彼らに課せられた使命だ。
「ルルーシュ…」
「頼んだぞ…我がナイトオブラウンズ…」
ルルーシュはその部屋にいる3人にそう声をかけた。
「「「イエス、ユア・マジェスティ」」」
スザク、カレン、ジノがその場で跪いた。
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