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Don't Sigh! 2


 さて、ここからルルーシュと両想いとなったスザクの苦労話などをご披露しよう…
前回記述した通り…スザクの想い人改め、恋人のルルーシュはとにかく無駄にもてる。
それこそ、老若男女問わず…
中には本当に『ストーカー規制法』に抵触しそうな程の輩まで居るのだ。
そんな輩を…(不本意ながら)ルルーシュ親衛隊たちと共に追っ払っている日々が続いているのだが…
そんな中…
アッシュフォード学園に一人の男が現れる。
スザクにとって、ルルーシュ親衛隊全員を合わせたよりも、そこらでルルーシュを愛しすぎて既に迷惑な域にまで達している連中よりも遥かに厄介な…
ルルーシュの異母兄…
その男…ルルーシュの事を『最も愛している異母弟です!』と公言してはばからない。
と云うか、ルルーシュを付け狙う者がその言葉を受け取った時…とっても楽しい…じゃなくて、とっても恐ろしい目に遭うとか、遭わないとか…
とっても頭のいい人ではあるのだけれど…否、なまじ頭がいいだけに暴走している彼を止めるのは一苦労である。
ルルーシュは昔からこの異母兄、シュナイゼルに対して複雑な気持ちを抱えているようだ。
まぁ、シュナイゼルの方が、『ルルーシュへの愛』が大きい事は認めるとして…
しかし、その『ルルーシュへの愛』が大き過ぎるが故に…ルルーシュへの愛情表現がひん曲がっているのだ。
これは…傍から見ていても結構気の毒に見える事がある。
恐らく、シュナイゼルの精神構造が『好きな子ほど苛めたい』と云う奴なのだろう。
そして、ルルーシュへの愛が大きいがゆえに、ルルーシュへと向けられる愛情…否、苛めがどんどんエスカレートして行っているのだ。
この事は、アッシュフォード学園の生徒なら誰でも知っている。
この男が来た時にはアッシュフォード学園全体の空気が変わるのがよく解るのだから…
「カノン…久しぶりにルルーシュと遊べるよ…」
車を降りながら運転手であるカノンにそう告げると…
カノンはルルーシュに対してちょっぴり同情しつつ、『やれやれ…』と云った表情で答える。
「久しぶりと云われましても…1ヵ月半前に訪れているではありませんか…。ルルーシュ様に対してあんな事やこんな事…あまつさえそんな事までなさったくせに…。あの時のルルーシュ様の泣き叫ぶ顔が未だに忘れられませんよ…」
そんなカノンの言葉にシュナイゼルは悪びれる様子もない。
「何を云っている…。あれはルルーシュの『萌え♪』な表情ではないか…。あのルルーシュが泣き叫んで私に許しを請う…ああ…なんと素晴らしい…」
シュナイゼルが悦に入って語っているところに…そこに水を差す報告を今になってカノンがする。
「そう云えば…ルルーシュ様に恋人が出来たとか…」
カノンのその一言にシュナイゼルの表情が一変する。
「何!」
「あの…枢木スザクとか云う同級生と両想いになられて…とてもお幸せそうだとか…。シュナイゼル様もあんまり邪魔をしては…」
カノンがそこまで云いかけた時…シュナイゼルの表情が般若のようになっていた…
「枢木スザク…あの、茶髪の天パで、世が世なら確実にいじめの対象となっていた外見のあいつか…」

 シュナイゼルがそう、修羅のオーラを放ちながら小さく口の中で呟いた。
そんなシュナイゼルの言葉に…カノンが…なんとなく…嫌な予感がする。
恐らくそれは…ほぼ100%的中する事は…カノンは敢えて無視する事にした。
どうせ、そんな事が当たったところで、カノンに降りかかってくる様々なものは変わりはしないのだから…
「おお…ルルーシュ…元気だったかい?」
ルルーシュの姿を見つけるや否や、隣にいるスザクの存在など完全に無視してルルーシュに抱きつこうと走り出したシュナイゼルだが…
しかし…これまでと違って、ルルーシュを抱きしめる事は叶わなかった。
それを阻んだのは…
「シュナイゼルさん!突然現れるなりルルーシュに抱きつこうとしないで下さい!」
思いっきり『喧嘩を売っているんですか?なら、高く買いますよ?』オーラを全開にしてスザクがルルーシュの前に立ちはだかったのだ。
これが、ただの兄弟の抱擁で済むのであればスザクだってこんな邪魔はしないのだが…
シュナイゼルが相手だと…確実にルルーシュはそのまま連れ去られてしまう可能性が高い。
これまで、スザクとルルーシュが両想いになる前は、スザクがルルーシュの隣にいない時も当然のようにあった。
その時には、ルルーシュ親衛隊たちが全力で排除しようとシュナイゼル相手に頑張ったのだが…
相手は、あのシュナイゼルである。
腹黒さにかけてはこの世界中を探してもこいつレベルの腹グロを探すのは無理だと思える程の相手である。
ルルーシュを愛している心は同じなのだが、ルルーシュに向ける愛情の形が全く違うのだ。
1ヶ月半ほど前にシュナイゼルが現れた時にはそれこそ、翌日のルルーシュの顔がシュナイゼルに一体何をされたのかを物語っていた。
先ほど記述したが、カノンの云った『あんな事やこんな事、あまつさえそんな事』をされた後故にルルーシュとしても精も魂も尽きた…と云う顔だった。
実際に、その日のルルーシュは、いつも見たいに起きているふりをして眠っていたのではなく、しっかり眠っていると解る状態で授業中眠っていた。
そんな授業中に堂々と眠っていても教師はルルーシュに注意出来ない事情がいくつかある。

・ルルーシュの成績がとにかくずば抜けていい事
・ルルーシュがどんな目に遭わされているか何となく解っている事
・そんなルルーシュの眠りを妨げた時、当然のようにルルーシュと同じクラスにも居るルルーシュ親衛隊に闇討ちされかねない事

まぁ、大雑把に云ってこの3つの理由から教師もある程度黙認…と云う事である。
しかし、今回はルルーシュと両想いとなったスザクの存在がある。
カノンからちょっとだけ聞いたのだが…
「ふっ…早速私とルルーシュの愛の営みを邪魔する気かい?枢木スザク…」
「何を仰っているんです…。ルルーシュと愛の営みを行っていいのは、ルルーシュと恋人になった僕だけだと云う事をお忘れなく…」
「恋人などと云う肩書…そんなものでルルーシュを自分のものにしたつもりかい?」
「ルルーシュはものじゃありません!ルルーシュは僕のルルーシュであって、他の何でもありません!」

 すっかりバトルモードに入っていそうな雰囲気ではあるが…
しかし、スザクはとりあえず、ルルーシュに体力バカと言われる程の運動神経の持ち主ではあるが…頭は10人並みである。
シュナイゼルはと云えば…ルルーシュに対して様々な嫌がらせ…じゃなくて戯れ合うネタを考えてくる程…そして、確実にルルーシュをGet!している状態なのだ…
ルルーシュは先ほども記述しているが、教師を黙らせるほどの頭脳の持ち主だ。
成績は勿論、弁舌の才能ははっきり云って、そこらのボンボン首相よりも遥かに卓越している。
そんなルルーシュに口で勝てる者などいない。
まぁ、敢えて云うなれば、この学園内でルルーシュを好きに振り回せるのはアッシュフォード学園高等部生徒会長、ミレイ=アッシュフォードくらいだ。
彼女の場合、口で云い負かせるとか、そう云った事ではない。
無茶ぶりでも無茶ぶりと認めず、強引に話しを推し進める事が彼女のやり口…じゃなくて、ルルーシュへの対処法なのだが、そんな事が出来るのは彼女くらいしかいない。
話しはそれたが、ルルーシュはそれほどの人物であり、教師でも太刀打ちできないのだが、シュナイゼルはそんなルルーシュを『可愛い異母弟と遊びたい!』そんな思いつきだけで拉致して、その翌日にはルルーシュをふらふらの状態にしていると云う、ある意味、学園では伝説になってもおかしくない人物だ。
そんな、ある意味ミスマッチな二人がルルーシュを巡って争う。
それまではルルーシュ親衛隊たちが、身体を張ってルルーシュを守ろうとしてことごとく失敗しているのだが…(それでもルルーシュが無自覚なのは一体どうして?と聞かれれば、『ルルーシュが鈍感で天然だから!』で押し通す!)
スザクは、頭は十人並みだが、軍の重要機密であるKMFの装甲を素手でぶち破れたり、KMFを生身で持ち上げたり出来るだけの怪力の持ち主であると云う噂があるが…
しかし、その辺りは、KMFを持ってきて試した事がないので、真相は解らない。
それでも、そう揶揄されるだけのパワーは持っている事は確かで…
ルルーシュの悪知恵…じゃなくて、策略とスザクの体力バカ…じゃなくて、力強さを持ってすれば世界征服も夢じゃない様な気がしてくる…と云うくらい、スザクの身体能力はずば抜けている。
本当は、海外からもプロのスポーツチームが育成チームに入らないかと云うオファーは来ているのだが…
『だって…そんなところ行っちゃったらルルーシュと離れちゃうじゃん…。そんなの嫌だ…』
の一言で全て蹴っ飛ばしている。
ルルーシュにそんな事がばれたら怒られてしまうので…最後に必ず付け加える。
『出来たら、そっちの眼鏡違いだったって事にしてくれる?もしそうしてくれなかったら…僕悲しくて…暴れちゃうかも…』
最後の『暴れちゃうかも…』と云う所だけ声色が変わる事だけは付け加えておこう…
何せ、ルルーシュに構って貰う為に一生懸命『天然』のフリを演じ続けて来たのだ。
本当はルルーシュの方が『天然』なのだが…本人は肝心なところで自分が『天然』だと云う自覚がないので、仕方なく、スザクが『天然』と云う事で頑張っていたのだ…

 まぁ、そんな二人がルルーシュの目の前で対峙しているのだが…
「異母兄上…何をなさっているんです!と云うか、なんでまた来るんですか…」
ルルーシュはスザクの影に隠れつつ、そんな事を云ってみる。
ここで、シュナイゼルとスザクの表情が正反対になる。
スザクは…それこそ、スザクの後ろで(強がってちょっと、嫌な事を思い出してカタカタいっている)ルルーシュがシュナイゼルから守ってくれと云わんばかりなのだ…
これで優越感を抱かない方がどうかしている。
そんなルルーシュを見て…妙な方向にポジティブなシュナイゼルは…
―――ルルーシュ…君は…その枢木スザクに脅されてそんなに震えているんだね…。大丈夫…すぐに私が助けてあげるよ…
などと、考えている。
「枢木スザク!私のルルーシュを脅して、そんなに震えさせるなど!世界の全てがおまえの悪行を許しても私は断じて許さん!ルルーシュ!安心しなさい!すぐに私が君を枢木スザクの魔の手から救い出してあげるからね!」
そんなシュナイゼルの言葉に…
彼らを取り囲んでいた親衛隊たちまでは目が点になる。
―――ひょっとして…この人は…これまでの我々とのやり取りを忘れ去ってしまっているのか?ルルーシュ様が泣いて嫌がっていたと云うのに…
これは…親衛隊たちメンバー達が共通して抱いた感想である。
流石に…ここまで自分本位にポジティブな異母兄を持ってしまったルルーシュの悲哀を嘆く者が出てもおかしくはあるまい。
この状況を楽しんでいるのは恐らく、シュナイゼル本人とルルーシュをおもちゃにして楽しんでいるミレイくらいのものだろう。
「ルルーシュ…これまでも大変そうだなとは思って来たけれど…本当に大変だったんだね…。大丈夫…ルルーシュ…。君の事は僕が全力で守るからね!」
シュナイゼルの自分本位なポジティブ発言にすっかり同情してしまったスザクがシュナイゼルに背を向けて、ルルーシュをぎゅっと抱きしめている。
ここで、ルルーシュを抱きしめている姿を見て、スザクは自分達を取り巻いているシュナイゼル、ルルーシュ親衛隊たちはスザクの敵となった。
「枢木スザク!我々のルルーシュ様になんて事を!」
親衛隊たちのヤジが飛び始める。
そして…
「スザク…俺にこんな事をしたら…俺…明日から…学校に来られなくなる…」
ルルーシュのその一言に、スザクは勿論、親衛隊もシュナイゼルも固まる。
スザクはルルーシュが何を言い出すのか、なんとなく予想が出来ているだけに…あまり尋ねたくはないのだが…
一応尋ねてみようと…否、尋ねる勇気を持とうと心に決める。
「ねぇ…ルルーシュ…。なんでそんな風に思うんだい?僕が君を守るって云っているのに…」
「あ…でも…スザクのファン達がこうして取り囲んでいる中…俺にこんな事したら…俺…スザクのファン達の嫉妬を全て買わなくちゃいけなくなるし…。あ、でも、俺は、スザクの恋人になったんだから…そのくらいの覚悟を持たなくちゃいけないんだよな…」
「……」

 恐らく、この場で勝ち誇る事が出来たのはシュナイゼルだけだろう。
前回でも書いているが…スザクとルルーシュの親衛隊たちは不本意ながら、『ルルーシュを守る!』と云う、大義名分の下に手を組んでいるのだ。
そして、その為に一応情報交換などもしている。
しかし、お互いにその内容をルルーシュに知られてはならないと云う思いがあるから…ルルーシュに聞かれないようにするのだが…
それが、ルルーシュに変な誤解を抱かせてしまっているのだ。
ルルーシュに云われた事がある…
『お前たち…仲が良くて羨ましいな…』
と…
どこをどう見れば、そう云う事になるのかは…スザクにも、ルルーシュ親衛隊たちにも解らないのだが…
ただ…ルルーシュへの愛がルルーシュのそんな大ボケな勘違いさえも許してしまう。 しかし、どうやってもその誤解…口で説明してもルルーシュは納得してくれる事がないのだ。
「そうだ…。俺は、自信を持っていいんだよな…。スザクにこうして抱きしめて貰えるんだから…。大丈夫…。俺、絶対にスザクのファン達に認めて貰えるように頑張るから…」
最後のこの一言は…ルルーシュ親衛隊たちには最高のトドメを刺した事は…推測に容易い。
と云うか、この場で総崩れにならなかっただけ彼らを褒めてやりたいと思う。
スザクの中でも思う…
―――ルルーシュ親衛隊たちの連中も…報われないんだな…。でも、それでもこうして次から次にメンバーが集まるってのは凄いな…。皆、マゾなのか?
スザクがのんきにそんな事を考えていると、
「ふっ…ルルーシュ…。私ならそんな事を心配せずに済むのだよ?さぁ…そんな、物騒なファンクラブを連れている枢木スザクなどやめて…私の元へおいで…」
シュナイゼルが細いルルーシュなら2〜3人くらい軽く入れる程、両手いっぱい広げて『Come On!』体勢になっている。
しかし…シュナイゼルは気付いているのだろうか?
それは、自分の周りに人が集まって来ないと云っているのに等しい…
ある意味、カッコ悪いとここで吹聴している様なものであると…。
「さっきから云っているじゃないですか…(シュナイゼルが勘違いしている)ファンクラブのメンバーからもあなたからもルルーシュはこの僕が守ると!」
まぁ、云っている事は確かにかっこいいし、恐らく、少女漫画で女主人公がこんな風に言われたらメロメロになるであろう宣言ではある。
ただ…その先の話を全く触れない漫画の世界ならそれでいいのだが…
ここでは…ルルーシュ親衛隊に対しても、シュナイゼルに対しても全力で喧嘩を売っていると云う事になるのだ。
ルルーシュ親衛隊など…スザクを追っ払う算段はしていても、ルルーシュに危害を加えるどころか、ルルーシュに危害を加えるもの全てを許さないと云う集団なのだ…
それを、適当な事を云って、悪役扱いしている…
―――こんなのは云ったもん勝ちなのさ…
そのセリフを聞いたルルーシュは感動しているのだが…
スザクとしてはこれからも、中々大変な生活を強いられる事となるのだ…
そして…スザクの敵はシュナイゼルやルルーシュ親衛隊だけではないのだが…
それは別の話…


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