A field of Sweet Potato(side Lelouch)


 事の発端は…スザクの発した些細な一言だった…
スザクは元々枢木家の嫡男で一人息子…
物理的には大変恵まれた環境ではあるものの、どこか寂しそうであり、また、妙に大人びているところがあるかと思えば、やたらと甘え上手に見える…
それが、ルルーシュのスザクに対する評価だった。
先にルルーシュに話しかけて来たのはスザクの方だった。
ルルーシュは一般ピープルの息子で、取り立てて目立つ存在ではないと…自分では思っていた。
しかし、実際にはその外見と異様に頭の切れる事で相当目立つ人物であった事は間違いない。
未だにその辺りはスザクに『自覚しろ!』と叱責される事もあるのだが…スザクの家柄とスザクの存在感と比べてしまうと自分は平凡だと思い続けても仕方ない…と思いこんでいる。
まぁ、そんな話はともかく、今回、スザクがルルーシュにした無茶ぶりというのは、サツマイモを栽培する…という事だった。
なんでも、スザクの家に出入りしている庭師の人から貰い受けたと云っているが、実際には、スザクが何かのテレビか何かを見て自分もやってみたいと思っただけと思われる。
確かに、都会で暮らしていると土に触れる機会などありはしない。
庭師の人曰く、『サツマイモのなら初めての人でも作り易いよ…』とのことだった。
まぁ、スザクがどこまで面倒をみるかは解らないものの、ルルーシュ自身もそんな事を体験した事がないので、多少の興味を引かれた事は確かだ。
ルルーシュは、元々インドアなのだが…スザクがこんな風に云い始めたとなると…まぁ、止めても聞かない事は明白だし、少しくらい面白そうだと思わないでもない…(←この辺りは素直に『面白そうだ』と思えないのがツンデレクオリティ)
まぁ、きっかけはなんであれ、ルルーシュの生まれて初めての農作業が始まる事になった。
とりあえず、力仕事はルルーシュがやっても足手まといになるので、サツマイモの苗を植える部分の開墾はスザクが担当した。
意外にも、鍬を振りおろしているスザクは中々サマになっていた。
ただ、慣れない鍬で掘り返すくらいならスコップで掘り返した方が楽だと、庭師の人が教えてくれて、鍬からスコップに切り替えた。(←これはホント…。慣れない人が土を掘り起こして耕すのはスコップで掘り返す方が楽だし、効率がいいです)
粗方土が掘り起こしたところで、あまり肥料とかを与えない方がいいと云うサツマイモの場合は、このまま植えてしまっても構わないと云われた。
これが、色々と栄養分の必要な野菜だったりすると、ここに腐葉土などを混ぜて土を作らないといい作物は育たないという。
元々、シラス台地と云うやせた土地で育つような植物なので、基本的にはあまり手を描けない方がいいと云う事になる。
尤も、ブランドになっている様なイモなら知らないが…
それでも、最初はスザクの気紛れの様な一言で始まった、イモ栽培ではあったが…言いだしっぺのスザクはどうなのかは知らないが、ルルーシュは意外にも楽しいと思っており、サツマイモの栽培に関して、インターネットや図書館で調べて、観察日記まで付けていた。(勿論、スザクには内緒だったが)

 元々インドアなルルーシュがここまでサツマイモの栽培に力を入れる事になるとは思ってもいなかった。
いざ、観察日記を付けている時に我に返った時に、苦笑してしまった程だ。
元々、日にあたる事、身体を動かす事に関しては大の苦手だったのだが…
それでも、毎日、自分たちが飢えたサツマイモの苗たちの成長に気づく度に嬉しいと思っている自分がいた。
―――俺にこんな一面があったとは…。というか…こんな事、他の連中に知られたら何を言われるのやら…
と思っていたが…
今のところ、そこまで熱心にサツマイモの栽培に力を注いでいる事は時々様子を見に来ているその苗たちをくれた庭師の人以外は知らない。
ルルーシュが
『この事は…スザクには内緒にして下さい…。なにを云われるか解りませんから…』
と、頼んでいたが…その庭師の人は
『坊っちゃんが知ったら、きっと、ルルーシュ君と一緒に観察日記をつけるようになると思うけれどね…』
と笑っていた。
スザクの場合、こうした細かい事はあまり得意としていない事は解っている。
ただ、梅雨から夏にかけて、大雨が降ったり、台風が直撃したりした時…翌日、慌てて様子を見に行くと、苗たちには雨風をしのぐ為のシートが被せられていた。
夜、そんな事を出来るのはスザクしかいない…
きっと、スザクに云ったら、恥ずかしがって『俺じゃない!』とか云いだしそうだと…ルルーシュは思った。
ルルーシュも、結構スザクには『素直に楽しいって云えばいいのに…』と言われるのだが、こうしたスザクのやっている事を見ていると、スザクの方が素直じゃないと思う。
そんなどっちもどっちな事を繰り返しつつも…スザクの思いつきで始まったサツマイモ栽培も…無事に収穫の時期を迎える事となる。
サツマイモの場合、実りが土の中で…という事なので、トマトやキュウリの様に見れば解ると云うものではなく、いくら、調べた資料や庭師の人から教えて貰って育てたとはいえ、初めてこんな事をしているのだ。
ちゃんと、土の下にイモが出来ているのか…やっぱり不安で…
ルルーシュも、スザクも、このサツマイモたちにはそれ相応の愛情をこめて来ているのだ。
たとえ、きっかけが思いつきだったとしても、最初は、正直、いやいやだったとしても…
実際に、育てている内に情が移ってきて、やはり、結果を求めてしまう…
ルルーシュは収穫の日、正直顔に出すのはプライドが許さなくて、何とか、表向きにはへ以前を保っていたが…
内心、心臓はドキドキしていた。
陰でスザクがこのサツマイモたちを守っていた事も知っているし、ルルーシュも常に心を配っていた。
それこそ、庭師に『そんな、農業試験場よりも雑草がない様な畑にする必要はないから…(苦笑)』と言われる程、細かいところまで気を配っていた。

 そんな事を思い出して…もし、ちゃんとイモがなっていなかったら…などと云う不安に駆られて…
正直、片手にはバケツ…そのバケツの中には小さなスコップを二つ入れてあるのだが…
それを持っている手も少々震える。
まさか、こんな風に思うとは…考えてもいなくて…
スザクの方をちらりと見ると、スザクもなんだか緊張したような表情をしている。
スザクも…大雨の時や台風のときに、このサツマイモにシートをかけていたと云うのだから…
『というか…ここ、母屋から結構あるぞ…。そんなところからわざわざシートをかけに来たのか?』
スザクの家の広さを知っているルルーシュは改めてそんな事を思う。
一旦、苗を植えてからは殆どほったらかしにしているように見えて、やる事はやっているスザクだった。
恐らく、普段の世話に関してはルルーシュがしっかりとやると云うそんな思いがあって、その信頼があったから、普段は、『あんまり構うとよくないんだろ?』などと云っていたのだと思う。
もし、ルルーシュがそこまで細かく面倒を見ていなければ、スザクがこのサツマイモたちの世話をしていたに違いない。
元々、いい加減なように見えて、自分の云いだした事に関しては、最後までしっかりと責任を持つスザクだ。
ただ…他にしっかりとやる人間がいると思うと、変に手を出さないのだが…
そんなスザクを思うと…素直じゃないと思う。
庭師に云わせれば、どっちもどっちだ…などと云うが…
「このサツマイモ…本当にちゃんとイモになっているのかなぁ…」
スザクが恐る恐ると云った感じで庭師に尋ねるように呟いた。
すると、庭師は、にこりと笑った。
「大丈夫ですよ…。坊ちゃんやルルーシュ君が一生懸命育てたんですから…。ちゃんとその気持ちも伝わっていますよ…」
ルルーシュとしては、『気持で何とかなるもんか…。結果が全てだろうに…』と思ってしまうのだが…
でも、庭師のその言葉は…なんとなく、期待させるような…そんな言葉だ…。
―――少なくとも、全くかすりもしない…って事はないだろうけれど…
とは思う。
資料でしっかりと育て方を調べた。
確かに、農家の畑から出て来るようなイモを期待できなくても、二人が焼きイモ出来るくらいのイモはある…と信じている…
というか、こうして、収穫を目の前にすると、色々と『ああしておけばよかったかもしれない…』とか『こうしておかなくちゃいけなかったかもしれない…』などと考えてしまうから不思議なものである。
そう思うと、やっぱり、不安は不安として自分に襲いかかって来るもので…
庭師の顔を見ていると、恐らく、ある程度の予想は付いているように見える…
でも、そこでその予想を云わないのは…多分、このドキドキ感を楽しめと云う事なのか…
と思うが…それはそれで、一生懸命やって来たという思いがある分、少々、子の強い緊張感はしんどいものを感じるが…
―――これはこれで…初心者ゆえの楽しみ方…という事なのか?
確かに…ベテランになれば、予想もつくだろうし、こんな初々しい緊張感はないだろう…
「スザク…掘ってみよう…」

 そうして、先に畑に入っていったのはスザクだった…
「とりあえず、このイモ…早くお目にかかれるようにしようぜ!」
そう云って、イモのツルを力任せに引っ張ると…
―――ブチッ
どう考えてもそれは無理だろうと思うのだが…
そうして、予想を反する事無く、イモが顔を見せる事無く、ツルだけがちぎれてしまった。
「まったく…スザクはそうやってせっかちだから…」
庭師の止める声も聞かず、力任せにイモのツルを引っ張ったスザクにルルーシュはやれやれとため息を吐いた。
ルルーシュの方は…スザクがツルをちぎってしまったその部分を丁寧にスコップで掘り返し始めると…
少しずつ…紫色のサツマイモの表面が見え始める。
「あ…出てきた…」
ルルーシュが少し嬉しそうにそう声を出した。
ルルーシュの性格が出ていて…ルルーシュが丁寧にそのイモの周囲の土をスコップと軍手をはめた手で土を除いて行く。
「力任せに引っ張ったらツルが切れてしまう…。まぁ、掘る時に邪魔になるから…掘る前にツルは切ってしまうんだが…。知っているか?ジャガイモと違って、サツマイモの茎は食べられるんだそうだ…」
そうスザクに説明しながらルルーシュが丁寧に掘って行く。
絶対に傷をつけないぞ…という、そんな気持ちが現れている。
「へぇ…流石ルルーシュ…よく知っているな…」
「一応、サツマイモの栽培に関して調べた時に書いてあったんだ…。俺も食べた事無いけれどな…」
「俺もないよ…。あ、そのイモ…結構太くないか?」
ルルーシュが丁寧に掘っている横でスザクが覗き込んでそんな事を云う。
昔、皆で土遊びをした時の事を思い出す。
良く考えてみれば、こうして土に触れるのはどのくらい振りだろうか…と考えてしまう。
「こう云うのも…結構楽しいんだな…」
ルルーシュがふとそんな感想を口にする。
そんなルルーシュの言葉に、スザクが驚いた顔をする。
「俺が最初にこのイモを育てようって云った時…あんなに嫌そうな顔をしたくせに…」
スザクも言わなければいいのに…と、自分で思ってしまうようなセリフをつい、口にしてしまう。>
それでも、今日のルルーシュは機嫌がいいのか…そこで怒る事はなかった…
「まぁ…元々俺は、外で何かをするのは苦手だし…。正直、出来るとも思ってなかった…。でも、こうして、育てて見ると…面白かったと思うよ…。こうして、実っているのを見れば…嬉しいと思うよ…素直に…」
ルルーシュの表情を見ると…そのセリフの中に嘘はないと…そんな風に思える表情で、一つ目のイモを掘りだそうとしていた。
「ほら…出て来たぞ…。って、最初のは大きいな…。これ…焼きイモのしても日が通るのか?」
そう云って、掘り出したサツマイモをスザクに差し出して見せた。
「うわ…ホントにでかいな…」
形そのものは売り物みたいに整った形をしている訳ではない。
言うなれば、ずんぐらもっくら…と云った感じだ。
でも…初めて目にした…その、二人の収穫は…やはり嬉しいとしか言えない表情だった。

 庭師の好意でそのまま、落ち葉を焼く時の火で焼きイモをしてもいいと云う事になった。
恐らく、こうした農作業の中で、一番の楽しみはこれだ…
おきびの中に入れておいたイモが焼けたと庭師が判断した時、二人に渡してやるが…
スザクが素手でそのイモを掴もうとすると…
「あ、坊っちゃんダメですよ…。こちらの軍手をはめて下さい…。やけどします…」
「というかスザク…こんな小さな火だと云ってもイモに火が通る様な温度ではあるんだぞ?少し頭を働かせて行動しろ…」
「だって…いい匂いするから…」
確かに…スザクのその気持ちは解らない訳ではない。
辺りにはいい匂いがしている。
軍手をはめて二人がアルミホイルで包まれたサツマイモを手に取ると…かなり熱い。
ルルーシュは手にとって持っている事が出来ず、両手でそのイモをキャッチボールしているような状態だ。
「ホントだ…。猫舌なルルーシュじゃ…暫く食べられないぞ…」
スザクのその一言にルルーシュはむっとする。
スザクもそう云いながら熱そうにその焼きイモを両手で掴んでいる。
「猫舌は余計だ!俺は別に猫舌では…。熱いものが好きじゃないだけだ!」
「猫舌だから好きじゃないんだろ?」
こう云う時ばっかり良く頭が働く奴だと…ルルーシュは思う。
しかし心の中で続ける…
『俺は決して猫舌ではない!熱いものが好きじゃないだけだ!』
と…
その辺り、素直に認められないのがルルーシュなのだが…
そんな事を考えている内に、スザクはそそくさとサツマイモのアルミホイルをはがして、イモを半分に割っている。
そして、割った面は黄色のイモの色と、そこから白い湯気が立っている。
「うわっ…うまそ…。ほら…ルルーシュ…多分、こっちの方が空気に晒している時間が長いから表面は少し冷めているぞ…」
そう云ってスザクが半分、ルルーシュに渡すと…ルルーシュはムッとしたようだが…食欲には勝てなかったらしく…その手に持っていた焼きイモを庭石の上に置いて受け取った。
『別に…俺は猫舌ではないぞ!断じて猫舌では!』
スザクの云った事をつい気にしてしまう傾向が昔からあるらしく…受け取ってもまだ、自分の頭の中で言い訳している。
「あっつ…でも…すっげぇ甘い!」
スザクが頬張りながらそんな事を云っているのを見ながらルルーシュも恐る恐るその熱そうなイモを小さく食いちぎった。
「あつ…でも…ホントに…甘いな…」
これが自分たちの育てたイモだと思うと…更に感動してしまう。
まだ湯気の立つイモにふぅふぅと息を吹きかけつつ、少しずつかじって行く…
自然に顔がほころんでしまう…
横目でスザクを見ると…スザクもそのイモを美味しそうに頬張っている。
こうして、スザクと一緒に育てたイモを…二人で収穫して、二人で食べていると…なんだか、嬉しいと思えて来るのは…スザクには内緒だが…素直な気持ちだ。
―――こんな事を云ったら…きっと、スザクにバカにされる…
ルルーシュはそんな風に思えてしまう。
スザクは口が悪い…
ルルーシュの素直じゃないところもある意味、言葉に出来ない理由の一つではあるのだが…
ただ…ルルーシュは今のこの瞬間が凄く幸せだと思った…


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