A field of Sweet Potato (side others)


 ここは…枢木家の無駄に広い庭の目立たない一角…
スザクが何を思ったか知らないが、突然『秋になったら焼きイモしようぜ!』と云う、無茶ぶりを春の段階で幼馴染のルルーシュに提案した。
スザクは平民生活にどっぷり浸かっているルルーシュと違ってお金持ちのお坊ちゃんだ。
どう云う訳か、ルルーシュの事が気に入ったらしく、おぼっちゃま根性を丸出しにしてルルーシュに近付き、そして、ルルーシュと一番の中好のお友達の座を『Get!』した。
そして、その後、ルルーシュの人付き合いの下手さとスザクの完全ガードを駆使して、スザクはすっかりルルーシュの親友の座を射止めて現在に至る。
現在でもそれは健在で…ルルーシュはスザクと一緒にいる事を望み、スザクもルルーシュに近付こうとする生徒達を心の中で『痴れ者』と呼び、顔は笑っているが、どう頑張っても一般人では超える事の出来ない『ルルーシュに近付く者は何人(なんぴと)たりともこの枢木スザクが許さん!』オーラを発揮して追っ払っている状態だ。
そんな環境で生活して、既に7年の月日が経っている。
現在二人は高校2年生…
本当なら、彼女の一人や二人いてもおかしくない年齢なのだが…
相変わらずこの二人は一緒にいる事が当たり前となっており、ルルーシュの隠れ親衛隊やスザクのファンクラブのメンバーたちは今となっては『温かい目で二人を見守り隊』となっている。
逆に、妙な趣味を持つ女生徒からは陰で同人誌のネタにされて、相当の部数を売り上げているとか、居ないとか…
そんな状態の二人が…今度は何を始めたかと云えば…
今年の5月ごろの話…
『ルルーシュ…』
『なんだ?スザク…』
『うちに来ている庭師の人がサツマイモの苗をくれたんだ…。一緒に育てて見ないか?』
『サツマイモ?』
『ああ…俺、そう云うのってやった事無いんだけど…』
『俺だってない…。というか、土を触る事さえほとんどない…』
『だから…ちょっとやってみないか?庭師の人が云ってたけど、サツマイモなら初めてのしろーとでも何とかなるって…』
『でも、どこに植えるんだよ…』
『確か…うちの庭の北東の隅っこなら、その苗をくれた庭師が管理しているから…勝手に開墾しても怒られないよ…』
『勝手にって…(汗)その辺の河川敷を勝手に開墾して川が増水した時迷惑極まりない状況にしている連中じゃあるまいし…』
『大丈夫…うちなら川が増水しても迷惑にならない…』
とまぁ…こんな調子の会話の下、サツマイモを育てる事になった訳なのだが…
確かにサツマイモと云うのは、鹿児島のシラス台地で育つような中々丈夫な植物だ。
下手に水や肥料をやり過ぎてしまうとかえって育たない。
そんな事もあって、その庭師の人もスザクにサツマイモの苗をくれたのだろう…
ルルーシュの予想では、庭師の人が自分から進んで苗をくれたのではなく、スザクに強請られて、半ば強引に共犯者にされたに違いない…という事になっているが…
恐らくその予想は外れていない。

 そうして始まった、サツマイモの栽培だったが…
ここで性格の違いが出て来る。
ルルーシュはやり始めると凝る傾向にあり、その、サツマイモの栽培に関する資料を片っ端から読み漁った。
そして、サツマイモを育てるためのベストな環境を用意しようとするのだが…
スザクの方は…
『あんまり構うとよくないんだろ?』
という事で、植えるところまでは相当一生懸命やっていたのだが…
その後は、庭師とルルーシュに任せきりとなっていた。
しかし、ルルーシュ自身、それほど体力にも腕力にも自信のある方ではない。
それは、自他共に認めている。
庭師の人に色々と教えてくれた。
『ルルーシュ君…坊っちゃんほど構わないと云うのもどうかとは思うけど…そこまで頑張る必要はないよ?そんな、農業試験場よりも雑草がない様な畑にする必要はないから…(苦笑)』
そんな事を云われる程、ルルーシュはその畑に通って、雑草を見つけては引っこ抜いていた。
この辺りはルルーシュの性格と云えるだろう。
何とも、几帳面と云うか、神経質と云うか…
最初の頃は結構嫌そうな顔をしていたが、やり始めたら楽しかったらしい…
毎日通って、観察日記まで付けていたのだ。
確かに、都会で暮らしていると、こうした形で土に触れると云う事はあまりないのだ。
ルルーシュにしてみれば、中々珍しい体験である。
やっている内に楽しくなってきた…という感じだろう…
言いだしっぺのスザクよりも熱心にサツマイモの世話をしているように…いつも、このサツマイモについて教えてくれる庭師は思っていた…
それでも、スザクも放り出しているかと思えば…
大雨が降ったり、台風が来てしまった時には、シートを被せに行っていたと…スザクの家で働いている使用人たちが云っていた。
恐らく、スザクの両親が忙しい事で、スザク自身、寂しいと思っていただろう事は周囲の人間にも解っていたが…
こうした形で、何かに興味を持って、その寂しさが紛れれば…と思えてくる。
ルルーシュを気に入ってこの屋敷に出入りさせるようになったのはスザクだったが、最初の頃は、スザクの両親が色々と口うるさく云っていたものだ。
確かに、枢木家の環境や様々な状況を考えた時に、一般市民であるルルーシュがこの屋敷に気楽に出入りすると云うのは…『枢木』の名前の為にはよくない事だと、考えていたのだろうし、スザクはいずれ、この枢木家を継ぐ事になり、余計なものに興味を持って貰いたくない…という、両親の思いもあった様に思われる。
しかし、それでも、スザクの両親よりもスザクと接する機会の多いこの家の使用人たちが無理矢理スザクからルルーシュを引き離す事をよくない事であると…そう考えた。
この家に古くから仕えている藤堂さえ、両親の意向の下、スザクからルルーシュを引き離したりしたら、いい結果は生まれないと考えたくらいだ。
だから、スザクを我が子の様に思っている使用人たちが主に直談判して、ルルーシュのこの屋敷への出入りを認めさせた経緯がある。

 話しはそれたが…二人で日向になり、陰になり、育てて来たサツマイモが、いよいよ収穫の時期となってきた。
確かに、初心者でも育てやすい農作物である事は確かだが…相手は生き物だ。
人間が考えている様な結果が出るとは限らない。
「このサツマイモ…本当にちゃんとイモになっているのかなぁ…」
土の下の状況が解らない状態で…やはり…不安はあるようだ。
確かに…トマトやキュウリの場合、ちゃんと育っていれば目に見えるのだから…
しかし、土の下で育っているイモの場合は、見えない分、不安はあるだろう。
「大丈夫ですよ…。坊ちゃんやルルーシュ君が一生懸命育てたんですから…。ちゃんとその気持ちも伝わっていますよ…」
庭師がそう云ってやる。
彼はそう云った畑仕事は全くの素人ではないから、ちゃんと実って事は解っているのだが…それでも、敢えてその事を伝えないのは…イジワルでも何でもなく…
こうしたドキドキ感を味わう事もこうした畑仕事の楽しみの一つだ。
「スザク…掘ってみよう…」
ルルーシュがそう云った時…スザクの方は…
力任せにツルを引っ張って、引っこ抜こうとしている。
「あ…坊っちゃん…ダメですよ…」
庭師が慌てて止めようとするが…時は既に遅く…そのツルは無残にも千切れて…土の中のイモは土の中に残ったままだ。
「まったく…スザクはそうやってせっかちだから…」
ルルーシュはそんな風に云いながら…小さなスコップを用意していて…スザクがちぎってしまったツルの根元をそのスコップで掘り返し始めた。
「力任せに引っ張ったらツルが切れてしまう…。まぁ、掘る時に邪魔になるから…掘る前にツルは切ってしまうんだが…。知っているか?ジャガイモと違って、サツマイモの茎は食べられるんだそうだ…」
色々調べた中からのルルーシュの知識…
そんな事まで調べていたのかと…隣で様子を窺っていた庭師が感心する。
「本当か?」
スザクがその話に食いつく。
「まぁ、食糧難の時などは食べていたそうだ。今はどうしているのかよく解らないけれど…」
スザクの短い疑問形の言葉にルルーシュが返した。
そうして、スザクがサツマイモの栽培に関して色々と教えてくれた庭師の方を向いた。
スザクが何を聞きたいのか大体把握した庭師が苦笑する。
「まぁ、私はあまり好んで食べたいとは思いませんがね…。今でも食べる人はいるようですよ?」
庭師のその表情に、スザクが少し複雑な表情を見せた。
「そうなんだ…。確かに…サツマイモの茎ってどこへ行っても食べた事がないな…」
「まぁ、スーパーの野菜のコーナーに置いていないところを見ると、人気の野菜にもなれないんだろうな…。最近では、スプラウトとか云って、野菜の新芽を食べるようになっているが…以前はそんなものはなかったし…」
先ほどから少しずつスコップでイモを掘っているルルーシュがそう答えて、その話題は終わった。
というのも、ルルーシュが几帳面に掘っているイモが顔を見せ始めて、スザクの興味がそちらに行ったからだ。

 ルルーシュがイモを傷付けないように土を掘りながら…口を開いた。
「あ…スザク…結構大きいぞ…」
「ホントだ!かなり太いな…。って、焼きイモにしてこれ、火が通るのか…」
「焼きイモかぁ…って云うか、どこでたき火をするんだよ…」
「あ、そっか…。変なところでたき火…出来ないもんな…」
二人の会話を聞いていて、庭師が口を開いた。
「この後…この大量の落ち葉を燃やしますから…その時にそのイモも焼きますか?」
この枢木家の屋敷の木々を管理しているこの庭師の仕事の一つに落ち葉の片付けもある。
流石に膨大な量になるので、燃やす事になるのだが…
「え?いいの?」
庭師の一言にスザクが目を輝かせた。
やはり、収穫したなら、食べたいだろう…
それは至極当たり前の気持ちだ。
「よろしいですよ…。ちゃんと、そのイモたちを全部、掘り出してやって下さい…」
庭師がにこりと笑って答えてやると…慣れない土の仕事をしながら、顔のところどころに土を付けた二人が顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私は職員休憩室に行って、焼きイモを作る準備をしておきますんで…」
庭師のその言葉に二人の少年たちが『え?』と云う表情を見せた。
その二人の表情に…まさか、このまま放りこむつもりだったのではないかと…考えてしまうが…
「まず、そのイモを洗ってから、濡れた新聞紙で包んで、アルミホイルで包んで、おきびになったところに入れてやるんですよ…。火が点いているところに入れてしまうと、周囲が真っ黒になるだけですからね…。あと、その太いイモこうした焼きイモだと時間がかかりますし…」
庭師の言葉に感心したような表情で聞いている二人を見ていると…どうやらこの二人は先ほど庭師が想像していた事と同じように考えていたようだ。
まぁ、知らないと云う事はそう云う事だし、ここで覚えたのだから…それでいいとする。
「じゃあ、そのイモを全部掘ったら、このかごに入れて持ってきて下さい…。この先に落ち葉を集めてありますから…。そこで焼きイモをやりましょう…」
恐らく彼らにとっては、いつもと違うサツマイモの味がするだろう事は予想が出来る。
最初はスザクの思いつきで始まった訳なのだが…
しかし、その思いつきも最後まで貫き通されればこうして実りとなるのだ。
「さぁ、ルルーシュ…そのスコップを貸せ!俺も掘る!」
「あそこのバケツに入っているから自分で持ってこいよ…。これは俺が使っているんだから…」
庭師がその焼きイモの準備をするべく彼らに背を向けると、子供の喧嘩の様な会話が聞こえてきた。
本当に…高校生の喧嘩には思えないのだが…
実際には、こうした形での云い合いとか、くだらないケンカをして来られなかった付けがここに来ているのだろう。
それが…彼らにとって、その時に出来なかった事を不幸に思うのか、今、こうして取り返しているのだから良しとするのかは…
良く解らない。
ただ…その庭師のまるで自分の息子の様に見て来たスザクと、その友達であるルルーシュのそんな姿に目を細めずには居られなかった。
こうした二人の関係がいつまでも続けばいいのに…と思うのは…使用人の立場では出過ぎたまねなのかもしれないが…
思うだけなら許して欲しいと願ってしまう…

 落ち葉を燃やし、二人が掘り返したイモを洗い、濡れた新聞紙とアルミホイルで包んだ物を、日の状態を見ながら放り込んだ。
「なんだか…温度が低そうに見えるな…」
「でも、イモはちゃんと火を通さないと堅いし…。それに、料理でも中までしっかり火を通すものは弱火でじっくり火を通すぞ…」
スザクのいかにも料理の事は解らないと云う言葉にルルーシュがさらりと答えた。 確かに、ルルーシュの云う通りで…
本当は、こうした焼きイモと云うのは、先ほど、一番最初に掘り返した様な太いイモよりも細めのイモの方が火が通り易い。
それに、中が生焼けと云う事も少ない。 「そろそろこの辺のイモは大丈夫ですよ…」
そう云って、焚き火用の熊手で彼らが放り込んだイモを引きずり出した。
そこにスザクが素手で触ろうとした時…
「あ、坊っちゃんダメですよ…。こちらの軍手をはめて下さい…。やけどします…」
「というかスザク…こんな小さな火だと云ってもイモに火が通る様な温度ではあるんだぞ?少し頭を働かせて行動しろ…」
「だって…いい匂いするから…」
スザクの言葉になんだか気持が解る気がした。
確かに…この甘い匂いはつい手を伸ばしてしまう匂いだ。
「あ、軍手をしていても結構熱いぞ…」
そう云いながら軍手をした両手でルルーシュが焼き上がったばかりのイモをキャッチボールしている。
「ホントだ…。猫舌なルルーシュじゃ…暫く食べられないぞ…」
スザクもそう云いながら熱そうにその焼きイモを両手で掴んでいる。
「猫舌は余計だ!俺は別に猫舌では…。熱いものが好きじゃないだけだ!」
「猫舌だから好きじゃないんだろ?」
そんな云い合いをしながらもその焼きイモのアルミホイルをそそくさと剥がして、二つにサツマイモを割るスザクだったが…
その割った面は、綺麗な黄色のサツマイモの色と、白い湯気が上っている。 「うわっ…うまそ…。ほら…ルルーシュ…多分、こっちの方が空気に晒している時間が長いから表面は少し冷めているぞ…」
そう云ってスザクが半分、ルルーシュに渡すと…ルルーシュはムッとしたようだが…食欲には勝てなかったらしく…その手に持っていた焼きイモを庭石の上に置いて受け取った。 「あっつ…でも…すっげぇ甘い!」
スザクが頬張りながらそんな事を云っているのを見ながらルルーシュも恐る恐るその熱そうなイモを小さく食いちぎった。 「あつ…でも…ホントに…甘いな…」
ルルーシュが笑顔になった時…スザクの表情が変わった事を…その庭師が見逃していなかった事は…
この時、ルルーシュもスザクも気づいていなかった…


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