A field of Sweet Potato(side Suzaku)


 これは…何かのバラエティだったか、ドキュメントだったか…覚えちゃいないが…
農作業を特集していた番組を見た。
そして…
収穫しているアイドルだか女優だか知らないが、その時の顔が中々印象的で…
でも、その時の収穫していた女性のあの表情…ルルーシュがあの表情になったらきれいだろうな…
最初はその程度の気持ちだったのだが…
そして、畑仕事に詳しいと云う、枢木家に出入りしている庭師にちょっと話を持ちかけて見た。
その庭師…スザクとは孫…とまではいかないが、父親との歳の差よりも離れているそろそろ初老に入るか…というような年齢だったのだが…
スザクの事は幼い頃からよく知っている人で、時々、庭の手入れをしているところを見つけるとスザクが声をかけて、色々面白い話を聞いていたのだが…
今回はそのテレビの話をして、自分たちでも何か出来そうな事はないか…と相談を持ちかけたのだ。
すると…庭師は少々驚いた様子であったが、にこりと笑った。
『そうですねぇ…。坊ちゃんはそう云った土いじりをした事はないんでしょう?なら、サツマイモなら、それほど手がかからないし、初心者でも作り易いと思いますよ?』
『へぇ…。どこで種が手に入るんだ?』
『サツマイモは種から…ではないんですよ…。サツマイモの苗を買ってきてそれを植えるんです…。とはいっても、それなりに数を買わなくちゃいけないんで、個人で作っている人は知り合いと共同で購入する事が殆どですよ…。仕方ありません。うちにある苗を少し分けてあげましょう…』
庭師のその言葉にスザクの顔がぱぁぁぁっと明るくなった。
この家では、スザクは枢木家の嫡男として大切に育てられてはいるものの、スザクはいつも、どこか寂しそうな雰囲気を醸し出していた。
子供とも、孫とも感じている庭師は…スザクが明るく笑ってくれる事は嬉しい事なのだが…スザクにルルーシュと云う仲のいい友達が出来るまではスザクは、この広い屋敷で一人で遊んでいる事が殆どで…
ただ…ルルーシュは普通のサラリーマンの子供で、最初はスザクの両親は、ルルーシュがスザクと一緒にいる事に対してあまりいい顔をしなかった。
しかし、スザクの両親は何かと忙しい身で…中々スザクに構ってやる事も出来ない状態で…
それなりに時間はかかったものの、スザクと、スザクの様子を見続けて来た家人達がスザクにとってのルルーシュと云う存在はどんなものであるかを根気強く説明し、実際にスザクとルルーシュがいる時のスザクの様子を見せて…今ではルルーシュはスザクの友人として両親にも認めて貰えて、この屋敷を自由に出入りできるようになっている。
そして、高校生になってもスザクにとってのルルーシュと云う存在はとても大きく…というか、時間が経つにつれて更に大きくなって行っている事が周囲で見ている者たちの目にもはっきりと映っていた。
庭師もそう云った家庭を知っているからスザクが『ルルーシュが野菜を収穫した時の嬉しい顔を見たいんだ!』と言われた時には、何とかそれを実現してやりたいと考えたわけだ。

 スザクがうきうきした様子でルルーシュにサツマイモを育てようと云った時…ルルーシュはあからさまに嫌そうな顔をした。
スザクもその辺りは予想出来ていたようで…
元々、インドアなルルーシュだ。
スザクが強引に巻き込んで行かないと絶対に手を出さないと思ったから、スザクもルルーシュを強引に引っ張って畑とする場所に連れて行って、そこが畑として使えるようにスコップで土を掘り返した。
そんなスザクの様子を見てルルーシュが『やれやれ』と云った表情で目についた石ころを拾い始めたのだ。
そのルルーシュの様子を見て、スザクは心の中で『やった!』とガッツポーズで喜んでいた。
ルルーシュ自身、やりたくない事は絶対に手を出さない。
それこそ、梃子でも動かない。
それでも、スザクが畑にしようと、庭師が確保してくれた場所の土を掘り返している姿を見て、ルルーシュも何となく興味を持ってくれたらしい。
まぁ、細かい部分はルルーシュが色々やってくれるであろう予想は付く。
ああ見えて、ルルーシュは一度やりだすと、とことんのめり込む…
というか、中途半端を許さない。
スザクが土を掘り返していた日の翌日、ルルーシュは学校では図書館で、自宅ではインターネットでサツマイモの栽培について相当調べたらしい。
スザクが粗方掘り返した土を更に塊になっている土を解したり、医師を拾ったりしている時、ルルーシュは一夜漬けで調べたらしいが、そうとは思えない程の知識をスザクに披露していた。
それこそ、減産はどこであるかとか、どんな植物であるか…現在では品種改良されて、どれだけの種類に増えているか…など…
正直、スザクが聞いても恐らくは2割も覚えられない程のうんちくがその時ルルーシュの口から飛び出して来た。
―――最初に俺がやろうって云った時には嫌そうな顔したくせに…それでも、興味を持つとそんな事は完全無視でここまで調べるんだな…
などと考えながら、ルルーシュのうんちくの殆どを右から左に流している状態で聞いていた。
というか、それを一々覚えられる程の頭はスザクにはないし、ルルーシュも最初からスザクが全てを覚えられるとも思っちゃいないだろう。
ただ、サツマイモを育てて行く上で、重要な部分だけは頭の片隅に置いておく努力はしていたが…
どの道、この調子だと普段の世話はルルーシュがするに違いない…という事は予想がついた。
ここまで気合が入っていると、余計な事をすると帰って怒られる気がする…
それはその時の熱弁を聞いていたスザクの素直な感想だった。
―――まぁ、普段は任せてもいいな…。いざという時は俺がちゃんとやるし…
そんな事を考えながら、畑づくりをして、庭師から貰い受けたサツマイモの苗を綺麗に植えて行った。
「収穫が楽しみだな…」
「サツマイモが採れたら…焼きイモにしようぜ!」
「焼きイモかぁ…面白そうだな…」
「面白いってなんだよ…それ…」
そう云って、まだ、小さな苗のサツマイモを見ながらスザクとルルーシュは頷き合った。

 苗を植えてからそれこそ、普段の世話はルルーシュがしていた。
庭師の話によるとルルーシュはとても熱心に畑を見に行っているらしい…
なんでも、
『農業試験場よりも綺麗に整えていますよ…。ああ云う細かい事が好きなんでしょうかね?毎日草むしりに来て、それこそ、雑草なんて全くない状態で…。虫眼鏡で雑草の目を探しそうな勢いですよ…。それに、観察日記を付けているみたいで、デジカメを持ってきていますよ…』
と云っていた。
何ともルルーシュらしい…
昔から、ルルーシュはやり始めた事に対しては、やたらと凝るところがある。
スザクがサツマイモを育てようと云った時には思い切り嫌そうな顔をしていたのを思い出すと笑ってしまう…。
そんな時…屋根に恐らく大粒の雨粒が当たったであろう音が聞こえて来た。
―――あまり水をやり過ぎてはいけないんだ…
それはルルーシュがスザクと畑を作っている時に口にしていたうんちくで云っていた…
それを思い出して、スザクは既に風呂上がりでパジャマ代わりのジャージを着ていた状態だったが…
その格好のまま外に飛び出して行った。
目的の場所は…勿論、普段、ルルーシュが一生懸命観察日記まで付けて大切に育てているサツマイモが植えられている畑だ…。
「坊ちゃん!どちらへ行かれるのです!」
玄関から飛び出して行こうとするスザクにメイドの一人が声をかけて来た。
「大雨になりそうなんだ…。あの畑を守らないと…」
スザク自身、ルルーシュが一生懸命世話している畑の様子が気になって仕方ない状態になっていた。
最初は収穫した時のルルーシュの顔のほころぶところを見たいと考えていただけだったが…
ルルーシュが熱心に畑に通っているところを見ていて…
スザク自身も、普段は知らんぷりをしていても、いざとなれば、守りたいと…そう考えたのだ。
そして、収穫する時には、ルルーシュと一緒に笑いたいと…
庭師たちが道具を置いている納屋に行き、ビニールシートを持ちだした。
それを持って玄関から結構離れているサツマイモの畑へと走り出した。
すっかり暗くなっているし、既に警報が出ていてもおかしくない程の降りになっている雨の中をとにかく、畑へ向かって走っていた。
そして…少し強い雨に打たれていたようだが…それでも、まだ、それほどの被害を受けていないサツマイモに…ばっとシートをかぶせた。
そして、風で飛ばない様に四隅に重しをのせて固定する。
「間に合ったかな…。多分…まだそれほど被害はないと思いたいけれど…」
そう呟いていると…
「スザク坊っちゃん!」
恐らく、飛び出して行ったスザクの後を追いかけて来たのだろう…。
先ほど、玄関で出くわしたメイドが傘を持ってスザクの元へと走り寄ってきた。
「何をなさっておいでですか!風邪をひいてしまいますよ?」
やや怒っている様にも聞こえるが、スザクはそんな事はお構いなしだ。
「ごめん…ちゃんと、この畑のサツマイモたちに雨よけを付けたから…帰るよ…」
スザクがそう云ってメイドから傘を受け取るが…既に今更だと云えるほどにスザクはびしょ濡れになっていた。
「坊ちゃん、帰ったらもう一度お風呂に入って下さいね?」
メイドが『やれやれ』と云った感じにスザクに云うのだった…

 そんな紆余曲折を経て、スザクとルルーシュの手によって育てられたサツマイモたちも収穫の時期を迎えていた。
ただ…
イモの類と云うのは、土の中で実る。
素人なスザクもルルーシュも、見た限りではちゃんと実りがあるのかどうかなんて判断がつかない。
庭師は
『大丈夫ですよ…。坊ちゃんやルルーシュ君が一生懸命育てたんですから…。ちゃんとその気持ちも伝わっていますよ…』
と云ってくれた。
だとするなら…大丈夫だ…と思う部分と、やっぱり、掘り返さないと解らないのは不安だと思う気持ちと…中々複雑な感じだ。
何とも言えないドキドキ感だ。
ルルーシュが一生懸命育てていたのだから…絶対大丈夫だとは思うのだが…
そんなスザクにルルーシュが声をかけて来た。
「スザク…掘ってみよう…」
そのルルーシュの一言に…スザクとしても、自分がドキドキしているなんて勘付かれたくなくて、子供の様に走り出した。
「とりあえず、このイモ…早くお目にかかれるようにしようぜ!」
そう云って、イモのツルを力任せに引っ張ると…
―――ブチッ
スザクが力いっぱい引っ張ると…ツルが千切れた…
スザクとしても、流石にはしゃぎ過ぎか…とも思った。
―――まさか…茎が切れちゃってイモが掘れないなんて事はないよな?
そんな、ちょっとばかり的外れな心配をちょっぴりしてみる。
「まったく…スザクはそうやってせっかちだから…」
庭師の止める声も聞かず、力任せにイモのツルを引っ張ったスザクにルルーシュはやれやれとため息を吐いた。
ルルーシュの方は…スザクがツルをちぎってしまったその部分を丁寧にスコップで掘り返し始めると…
少しずつ…紫色のサツマイモの表面が見え始める。
「あ…出てきた…」
ルルーシュが少し嬉しそうにそう声を出した。
そのルルーシュの嬉しそうな声に…スザクも嬉しくなる。
ルルーシュが観察日記まで付けていたのだ…
恐らく、何か問題らしき事を見つけるたびに、資料を探しだして、その問題点を可決しようとしていたであろう事が予想出来る。
「力任せに引っ張ったらツルが切れてしまう…。まぁ、掘る時に邪魔になるから…掘る前にツルは切ってしまうんだが…。知っているか?ジャガイモと違って、サツマイモの茎は食べられるんだそうだ…」
そうスザクに説明しながらルルーシュが丁寧に掘って行く。
絶対に傷をつけないぞ…という、そんな気持ちが現れている。
「へぇ…流石ルルーシュ…よく知っているな…」
「一応、サツマイモの栽培に関して調べた時に書いてあったんだ…。俺も食べた事無いけれどな…」
「俺もないよ…。あ、そのイモ…結構太くないか?」
ルルーシュの説明を聞きながら…
―――そんな事まで調べていたのか…ルルーシュは…
と思ってしまう。
その後で、
―――ルルーシュらしいけど…
とも付け加えているが…
ルルーシュが丁寧に掘っていた最初のイモは…とにかく、形は不格好で、焼きイモにして火が通るのか心配になる程…大きかった…
そんなイモを見ていて…ルルーシュが嬉しそうにしているのを見て、スザクも嬉しくなった。
そして、一緒に焼きイモにして食べたら…
―――絶対にうまいに決まってる!

 庭師の好意でそのまま、落ち葉を焼く時の火で焼きイモをしてもいいと云う事になった。
恐らく、こうした農作業の中で、一番の楽しみはこれだ…
おきびの中に入れておいたイモが焼けたと庭師が判断した時、二人に渡してやるが…
スザクが素手でそのイモを掴もうとすると…
「あ、坊っちゃんダメですよ…。こちらの軍手をはめて下さい…。やけどします…」
「というかスザク…こんな小さな火だと云ってもイモに火が通る様な温度ではあるんだぞ?少し頭を働かせて行動しろ…」
「だって…いい匂いするから…」
本当に、自分達が育てたとか、そう云う問題を抜きにしてもいい匂いがする。
空腹を誘う匂いだ。
ルルーシュもスザクに説教しながら、その匂いの誘惑と必死に戦っているのがよく解る。
庭師に渡された軍手をはめてアルミホイルに包まれたイモを受け取ると…
「ホントだ…。猫舌なルルーシュじゃ…暫く食べられないぞ…」
スザクとしては、熱いものが苦手なルルーシュに気を使ったつもりだったが…ルルーシュにはそう受け取って貰えなかったらしく、ムッとした表情をしている。
「猫舌は余計だ!俺は別に猫舌では…。熱いものが好きじゃないだけだ!」
「猫舌だから好きじゃないんだろ?」
ルルーシュをこうした感じにからかうのは結構好きだ。
こう云う時のルルーシュの反応は本当に可愛いと思うから…
―――普段は可愛げもないけどな…
でも、あんまりからかい過ぎると後が怖いので、この変にしておく。
熱々の焼きイモのアルミホイルをはがして、半分にイモを割る。
すると、やや焦げた紫色の皮、中の黄色い身、そして、そこから上がる白い湯気…
本当に食欲をそそる姿だと思う。
「うわっ…うまそ…。ほら…ルルーシュ…多分、こっちの方が空気に晒している時間が長いから表面は少し冷めているぞ…」
そう云って半分をルルーシュに渡してやる。
すると、ルルーシュはやはり、食べたいと思う気持ちが強いのか…素直に受け取った。
「あっつ…でも…すっげぇ甘い!」
ルルーシュが半分のイモを受け取った事だけを確認してスザクは手に残っているイモに被り付いた。
そして、自然にこの一言が出て来た。
スザクのそんな様子を窺いながらルルーシュもまだ、熱そうな湯気を立てているイモを恐る恐る小さくかじると…
「あつ…でも…ホントに…甘いな…」
ルルーシュがその一言を口にした時の表情に…スザクは思わず顔が赤くなる…
ルルーシュはそんなスザクには気付いていない様だったが…
はふはふと湯気の立っているイモを頬張っているルルーシュに…さっきとは別の意味で『可愛い』と思ってしまっているスザクがいたが…
それでも、スザクとしては、なんだか気恥ずかしくて、そんな気持ちを否定しようと…自分の持っているイモにかぶりついた。
しかし…そのイモからも湯気が出ている状態で…そんな風に食べたら…
「あっち…」
スザクが声を上げる。
そんなスザクの声にルルーシュも庭師も驚いた表情を見せるが…
その次の瞬間、ルルーシュは『バカが…』と云いながら笑い、庭師は『坊っちゃん、頑張って下さい…』というエールの込められた視線を送られた…
やけどした口の中のひりひり感と、その時抱いてしまったルルーシュへのなんだか妙な気持ちに…暫くの間…スザクは向き合う事になるのだった…


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