Stray Cat 3


 ルルーシュが目を醒ますと…そこは…
「ここは…」
ルルーシュの中で自分の記憶を整理する。
白兜にルルーシュの乗るKMFが破壊された。
あの白兜のパイロットは相変わらず相手をバカにしたようにコックピットを狙わなかった。
ただ…カレンの乗るあの紅蓮がどれほど『ゼロ』の乗る『無頼』からあの白兜を遠ざけようとしても…まるで、何かに取りつかれた様に『無頼』を…と云うよりも『ゼロ』に向かってきていた。
その気迫は…KMFの中からでも解る程…
結局、その気迫の所為もあったのかも知れない…
終始、カレンの方が圧倒されていた…
―――あの白兜…一体何があったと云うんだ…
ルルーシュの中でそこまで考えがまとまって来た時…ルルーシュが寝ていた部屋の扉が開いた…
周囲を見ると…テロリストのリーダーが収容される部屋とは思えない豪華な作りの部屋だ…
まるで…
―――皇族を迎える為の…部屋だな…
ルルーシュがそう思っていると、目に飛び込んできたのは…
「気が付いた?ルルーシュ…」
「スザク!?」
目の前の人物に驚いて身を固くした。
「大丈夫だよ…ルルーシュ…。君に危害を加えられる事はないよ…。勿論、ナナリーにも…。ただ…『ゼロ』の率いていた『黒の騎士団』は殲滅…させて貰ったけれどね…」
スザクのその一言に…ルルーシュの中でさらに緊張が走った。
「スザク…お前…」
「シュナイゼル殿下から伺った時には信じたくなかった…。ずっと…否定し続けてきたのに…現実を吐きつけられるとやっぱり辛い物があるね…。でも…シュナイゼル殿下に君は騙されている…利用されていると云われて…僕はいてもたっても居られなかったんだ…」
スザクの言葉に…ルルーシュ自身、ぐっと奥歯を噛み締める。
しかし…スザクの『黒の騎士団』についての言葉は…
「『黒の騎士団』を殲滅…と云う事は…まさか…」
「うん…今裁判をしているよ…。明日にでも全ての判決が出る…。『キョウト六家』もこれで言い逃れが出来なくなったみたいだし…」
スザクが淡々とルルーシュに報告する。
そしてルルーシュの中では…
―――『黒の騎士団』は殲滅…捕らえられた者は茶番の裁判にかけられていると云うのに…何故俺はここにいる???
そんな思いが渦巻いている。
「なら…何故俺はここにいる!?俺は…」
「君は…騙されていたんだ…。あの『黒の騎士団』に…。僕も幹部の取り調べに同席させて貰って驚いたよ…。あの『扇要』だっけ?あと、『玉城真一郎』…ホント、見苦しいし、『ゼロ』の正体をばらした時になんて云ったと思う?第一声が『騙されていたのか…俺たちは…』だった…。君に、命を救われ、『キョウト六家』を味方につけたのも君だったって云うのにね…」
スザクがその翡翠の瞳に怒りを湛えながら説明している中…ルルーシュは身体を震わせた…
「ルルーシュ…ショックかもしれないけれど…でも、これからは僕が君を守るから…。そして、シュナイゼル殿下も君の事を心配されている…。だから…あの時の事はもう忘れて…」
「黙れ!」

 ルルーシュがスザクの言葉を遮る…
こんなに簡単に…シュナイゼルの手の内に捕らえられてしまうとは…
そんな思いだった…
「色々重なってしまって…大変だったね…。でもこれからは…僕が君の騎士として君を守る…。シュナイゼル殿下から正式に御命令を頂いたんだ…」
「な…!お前…『ゼロ』を憎んでいたじゃないか…。『ゼロ』を許せないと…」
「うん…『ゼロ』は許せない…。でも、『ルルーシュ』はそう云う対象じゃないだろ?まして…騙されていたと云うなら…尚更だ…」
完全にシュナイゼルの都合のいいように言いくるめられているとしか…ルルーシュには思えなかったが…
しかし、捕まった『黒の騎士団』の幹部達の言葉を聞いてみても…確かにそう云われる事は確かだろう…
そんな事の想像はつくし、捕まって、全てをばらされているのであれば、既に『黒の騎士団』はルルーシュにとってのコマではないと判断せざるを得ない。
そして…ナナリーも…既にシュナイゼルの手の内だろう…
ひょっとすると…アッシュフォード家ごと…
シュナイゼルならそれくらいやる…
ルルーシュ自身、シュナイゼルの巧妙さを知っているし、あんな形でルルーシュに宣言してきた直後にこれだけの事をしているのだ。
ルルーシュをこうして保護している事も…本当は…越権行為だ…
下手をすると…シュナイゼルの失脚にもなりかねない程…
そんな危険を冒してまで…何故…と思うのだが…
「ルルーシュ…『ゼロ』の正体を知っているのは、シュナイゼル殿下と、僕の上司の一人、そして、僕だけだよ…。だから…君は安心していい…。君は…シュナイゼル殿下の下で…君の抱える不安などない生活を…」
「お前は…自分の云っている事が解っているのか?それは…俺にシュナイゼルに跪けと云っているのと同じだ!俺は…ブリタニアを憎んでいる…。俺はブリタニアを壊す為に…」
ルルーシュがそこまで云った時…再び部屋の扉が開いた。
「それは違うよ…ルルーシュ…。私はルルーシュに私に跪いて欲しい訳ではない…。私の隣で…幸せになってくれればそれでいいのだよ…。だから、君はしたいようにすればいい…」
怒りにうち震えているルルーシュに対して部屋に入るなりそう言葉をかけて来たのは…今回の黒幕でもあるシュナイゼルだった…
「異母兄上…俺に…憐みをかけるおつもりか…」
ルルーシュのその一言にシュナイゼルが悲しそうな顔をする。
そんなルルーシュの言葉の中に…シュナイゼルはこれまでルルーシュがどんなふうに生きて来たのか…手に取るように解ってしまったから…
「憐み?何故私が君に?君は立派に自分で生きていた…。そんな君に私が憐みを書ける必要があるのかい?」
シュナイゼルの言葉にルルーシュが更に怒りをあらわにする。
「これは私の我儘だ…。枢木スザク君を君の騎士にすれば…君も…少しは心を砕いて話せる相手もできると思ってね…。本当は私がそうありたいと…思うのだがね…」
どこまでも内面を読む事の出来ない相手に…ルルーシュはただ…歯を食いしばり、自分の目の前の現実を何とか理解しようと…自分を抑えつけていた。

 ルルーシュが必死に自分を抑えつけようと…シュナイゼルとスザクを追い出した。
結局…憐みをかけられながら生きねばならないのかと…そんな事しか考える事が出来なかった。
身体に一切の傷がない…
そして…今になって知る…
あの…白兜…『ランスロット』のパイロットが…スザクであったと…
本当に欲しいものは…いつも自分の手には入らない…
ルルーシュはそんな事を思う。
結局、ナナリーもシュナイゼルの手の内にあり、自分で守る事なんて出来なかった…
これまで、アッシュフォード家に匿われ、今度はシュナイゼルに捕らえられてしまって…
これが…力がないと云う事…
それを実感している。
だから…力が欲しかった…
誰にも守られず、誰にも縛られず…自分の足で立って歩きたかった…
『お前は生きた事などない…』
9歳の時に…父に放たれた言葉…
それが今のルルーシュの強さの源となり、そして、トラウマにもなっている。
「結局…俺は『生きる』事が出来ないと云うのか…」
ルルーシュは一人、口の中で呟きながら…ぐっと唇をかみしめる。
ナナリーがシュナイゼルの手の内に捕らわれてしまっているのなら…ルルーシュも下手に動く事が出来ない…
そう思った時…再び、部屋の扉が開いた。
「お兄様…」
扉の方から聞こえてきた声は…ルルーシュが強くあろうとしたその理由となる人物…
「ナナリー?」
扉の方を見ると…確かにナナリーが車椅子にかけて…そして、恐らく、シュナイゼルが手を回して連れて来たであろう…篠崎咲世子が車椅子を押していた…
「お兄様…。アッシュフォード学園に…シュナイゼル異母兄さまが…迎えに来て下さったのです…。お兄様も待っていらっしゃると…」
ナナリーの言葉にルルーシュが驚いた表情を見せた。
そんなルルーシュを見て、咲世子が説明を始めた。
「最初は…私もどう判断していいのか解らず…。ただ、スザク様もご一緒でして…そして、ルルーシュ様がこちらにおられるとのことで…。で、ミレイ様たちにもご相談申し上げて…シュナイゼル殿下と一緒に、こちらに来た方がいいと…」
「お兄様…私たちは…一緒に暮らしていいそうです…。シュナイゼル義兄さまが…」
ナナリーの言葉に驚きを隠せない…
ナナリーは目が見えない分、人の感情には敏感に反応する。
シュナイゼルは、確かに自分の本心を巧妙に隠すが、それでも、ナナリーに対してウそう貫き通すのは至難の技だろう。
ルルーシュだって、ナナリーに対しては、『本当の事を云わない』事は出来ても『嘘を云う』事は出来ない。
確かにルルーシュがナナリーに対してだけは嘘を吐かない…と云うその思いがある事もあるが、実際にナナリーに対して嘘は…難しい…
それなのに…ルルーシュの目の前には幸せそうに微笑むナナリーがいる…
ルルーシュの中で…色々と混乱が生じる。
―――一体…何が目的だ?俺たちを一体どうするつもりだ…
ルルーシュの騎士にスザクを…と云う事は、ルルーシュとナナリーを皇族復帰させると云う事…
そして、自分の配下にあるスザクをルルーシュの騎士にして…ルルーシュを見張る事… その構図だけは解るが…

 ルルーシュの部屋にナナリーを向かわせていた頃…シュナイゼルとスザクは…
「殿下…本当に自分を…ルルーシュの騎士に…?」
「ああ…。今のままでは絶対にルルーシュは逃げ出そうとするからね…。君とナナリーがいてくれればルルーシュは絶対に逃げ出さないだろう?」
ルルーシュではないが…本当に何を考えているのか全く見えないシュナイゼルはスザクにとっても得意な相手ではない。
ただ…スザクとしては、これ以上ルルーシュに危険な真似をして欲しくないと云う部分ではシュナイゼルと思惑が一致している。
あの、プライドの高いルルーシュの事だ…
ちゃんととどめておける枷がなければすぐに逃げ出すに違いないのだ…
それに…
―――ルルーシュの傍にいられるのなら…僕がルルーシュを守る事が出来る…。いずれ…ルルーシュは僕が…
そんな思いもあるのも事実だ。
同じ思いを持つ者だからか、シュナイゼルの思いも…理解できる。
スザクとしては、正直、非常に厄介な相手ではあるのだが…
しかし、こんな形でルルーシュを手に入れていては、ルルーシュがシュナイゼルに心を開くのはなかなかあり得ない…
そう考えれば…今のこの状況はスザクにとっても悪い状況ではない。
「自分に…ルルーシュを見張れ…と?」
「あと、出来るだけ早く、騎士叙任をして欲しいものだ。お披露目に関してはいつでもいいが、どうやら…コーネリアの妹姫が君をいたくお気に召したようでね…。あの子は我儘だから…早いうちに君をルルーシュの騎士にしてしまわないと…ユフィに横取りされては困るからね…」
その言葉を聞いて、スザクは数える程しか会った事のない皇女の名前に驚く。
そもそも、スザクが彼女に気に入られる様な事をしている覚えもない。
「ふふ…大丈夫だよ…。君がルルーシュの騎士になってしまえば…彼女も手を出せないからね…。今でも既に心は騎士…と云った感じだね…。君は…。よろしく頼むよ…私のルルーシュを…」
まるで釘を刺す様なシュナイゼルの言葉だが…
それは、スザクとしても予想出来ていた事だから…大して驚く事はない。
「イエス、ユア・ハイネス…」
表面上は本当に、共にルルーシュを守ろうと云う同士の会話だが…
しかし…中を覗いてみれば…様々な思惑が入り混じっている。
「君には感謝しているのだよ…。死んでいると思っていたルルーシュが…生きていると教えてくれたのだから…」
「いえ…自分は…ルルーシュをあんな風に隠れて暮らさなければならない状態を…何とかして下さると信じて、お話ししただけですので…」
スザクのその姿に…シュナイゼルはくすりと笑った。
スザクの気持ちを利用しての今回の策…
どちらも…狐と狸のばかし合い…と云う意識は当然のようにある。
そして…どちらも引かないと云う思いも…
「その事は感謝しているよ…。ただ…これから先は君の立場を考えてくれたまえ…。私は何も、君にルルーシュを譲るつもりでこんな策を施した訳ではないのだから…」
「別に…それは自分が決める事ではありません…。ルルーシュの幸せを求めるのなら…ルルーシュが決めるべき事であるかと…」
そんな会話を繰り広げている時に…二人の前に一人のシュナイゼルの部下が跪いた。
「申し上げます…。お部屋にいらっしゃったルルーシュ=ヴィ=ブリタニア殿下、ナナリー=ヴィ=ブリタニア殿下、姿を消しました…」

 ルルーシュは巻き込んでしまった咲世子に申し訳ないと思いつつも、ナナリーを連れて部屋を出た。
このまま、シュナイゼルの掌の上で踊らされるのはごめんだと…云わんばかりに…
しかし…ここはシュナイゼルの影響下にある建物だ。
車椅子でなければ動けないナナリーを連れて逃げだすのは骨が折れる…。
まだ、その部屋のあったフロアから出る事さえできていない。
「お兄様…私がいては…」
ナナリーが気にしてルルーシュにそう云うが…
「ナナリーさま…ナナリーさまがここに残られては…ルルーシュ様は結局枷にはめられてしまいます…。ですから…ナナリーさまは余計な事をお考えにならず…ルルーシュ様と一緒に…」
咲世子がそう答えた時、咲世子の目が鋭く光った。
「ルルーシュ様!どうかお下がりください…」
咲世子の様子に…ルルーシュも前後に人が立っている事に気がついた。
咲世子が二人を守るべく、構える。
目の前に現れたのは…
「ルルーシュ…どうしてそんな風に逃げようとするのかな?」
「僕たちは…君を守りたいだけなのに…」
前と後ろから声をかけられる。
シュナイゼルの方も一度くらいはルルーシュがこうしたじゃじゃ馬をする事を予想でもしていたかのようだ…
「くっ…」
ルルーシュ自身、無策で飛び出した訳ではないが…
しかし、まさか、シュナイゼル自らとスザクがこんな形で姿を現す事までは想定していなかった。
ナナリーを連れている以上、ここで『ギアス』を使うわけにもいかない…
スザクが素早く咲世子の前に立ちはだかり、彼女の鳩尾に拳を叩きこんだ。
咲世子はその場で崩れ落ち、スザクに支えられる形となる。
「さぁ、ルルーシュ…部屋に戻って…。僕も、シュナイゼル殿下も、君の敵じゃないよ…。本当に…ルルーシュとナナリーを守りたいだけなんだ…。君たちの笑える場所を…守りたいんだ…」
そう云いながら咲世子を肩に担ぎ、ナナリーの車椅子の押し手をルルーシュから奪って、ナナリーを連れて行く…。
ナナリーの方は涙ぐみながら咲世子の名前を呼んでいる。
「ナナリー…大丈夫だよ…。ルルーシュは…ちょっと色々あって、混乱状態なだけなんだ…。シュナイゼル殿下も僕も、ルルーシュにもナナリーにも笑っていて欲しいんだよ…」
その一言をおいて、シュナイゼルに頭を下げながらスザクがシュナイゼルの横を通り過ぎて行く。
「さて…ルルーシュ…。こんな真似…二度として欲しくはないんだけれどね…。少し、お仕置きが必要なのかな?君には…」
まるで子供を諭すようなシュナイゼルの言葉に…ルルーシュはぐっと拳を握りしめる。
目の前のシュナイゼルは…獲物を追い詰める時の猛獣の目をしている。
そしてルルーシュは…成す術もなく…追い詰められるが…それでも鎧を脱ごうとしない…野生の黒猫の様な表情だ…
「あんまり言う事を聞かないと…私にとってはルルーシュを手に入れる為の道具でしかないナナリーが…どうなるか…」
シュナイゼルがそこまで云った時、ルルーシュの表情が変わる。
「ま…待て!ナナリーには…」
「なら…もうこんな真似をしないと約束して欲しいのだけれどね…。とりあえず、私の部屋へ行こうか…」
ルルーシュはその言葉に…ただ従う事しか出来なかった…


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