17歳のスザクと33歳のスザクが対面して…数日が経った…
『黒の騎士団』の中でも、イレヴンでありながら、『ランスロット』のパイロットで、『神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア=リ=ブリタニア』の騎士になった事に関して、話し合われている。
中では相当揉めている。
あの、『ランスロット』の威力や、故枢木ゲンブの息子がブリタニアの皇女の騎士となった事を含めて、日本国内では大きな脅威となる事は明らかだ。
スザクは表向きには『ゼロ』の護衛役の一人としてその場に居合わせていたが…
『ゼロ』の仮面の下の顔を知っているスザクとしては…非常に複雑な思いだったし、『枢木スザクの暗殺』という提案に対して…リーダーとして力ずくで抑える事も出来ない状態で…
しかし、『黒の騎士団』の中に藤堂鏡志郎が居た事は幸いしたのかもしれない…
結果的に、『式根島』で行われる神聖ブリタニア帝国第二皇子、宰相であるシュナイゼル=エル=ブリタニアを出迎える式典があると云う。
その時に…出迎えるのはユーフェミアである事は明白で…その際に騎士である『枢木スザク』が同行するのは火を見るよりも明らかだ。
そこで…『ゼロ』自らが『枢木スザク』をこちらに取り込む作戦となった…
失敗したら…その時には『枢木スザク』をその場で抹殺…と云う事で話しが落ち着いた。
あの…式根島での『黒の騎士団』の作戦は…スザクの命ではなく、スザクを仲間に引き入れる事を目的としていた事を…今更思い知る。
あれ程、ルルーシュに対して『ゼロ』を否定するような事ばかり云い続けていたと云うのに…それでも…ルルーシュは…
それを思うと胸が苦しくなるが…それでも今はそんな事を考えている場合ではない。
その日の帰り道…スザクは相変わらず、ルルーシュの暮らすクラブハウスに居候している状態で…ルルーシュを守ると云う大義名分もあり、ルルーシュと一緒に帰路を歩いている。
「ねぇ…式根島の件…僕が…『ゼロ』として出てはダメ?一応、ナイトメアも操縦できるし、君が直接行くよりは…」
「ダメだ…。俺がスザクに直接説得しなければならないんだ…。心配なら…今、ラクシャータが開発してお前でテストをしている『月下』で待機してくれ…。俺なら…大丈夫だから…」
この数日で随分信用を得たと思うが…
それでも、これも性格なのか…この辺りは頑なだ…
「ねぇ…じゃあ、もし、あの作戦で、君が彼に囚われてしまったら?『ゲフィオンディスターバー』の中では君の『無頼』だって動けないと云う事になる…。相手は、皇女殿下の騎士だ…。どう考えても腕っ節勝負になったら『彼ら』の方が確実に不利だよ?」
「だから…あいつの事は…俺がよく知っている…。ダメなら…俺の手で…」
ルルーシュの言葉に…流石に溜息を吐かざるを得ない。
「彼の性格を知っているなら…『ゼロ』の云う事は聞かないと思うよ?君の言葉ならともかく…」
スザクの言葉にルルーシュがぐっと言葉を飲み込む。
流石は本人の言葉だ…とスザクが思ってしまう。
ルルーシュ自身、その辺りの事は理解していたようだし…どうしても…『スザク』への執着が経ち切れないようだ…
式根島での作戦…結局、スザクが殆ど力技と云った感じでルルーシュを言いくるめ、中身が入れ替わった。
少なくとも、あの時点で、ルルーシュが『スザク』に対して『ギアス』を使う事はなくなる。
これで…『スザク』のあの時点での暴走はなくなる。
とすると、ブリタニア軍基地からのミサイルに対しての対処だが…
―――月下があるなら…多少は食い止められる…。カレンが妙な事をしてくれなければ…なおいいんだけれど…
そう考えながらも時間だけは過ぎて行き…その作戦当日となった。
「本当に…お前が…?」
『大丈夫だよ…。君は、ちゃんと『月下』の中で大人しくしていてね?』
仮面を被ったスザクに少し怒ったような表情のルルーシュが声をかけて来た。
今日、入れ替わっている事を知っているのは…彼らとC.C.だけだ。
式根島では作戦通り『ランスロット』をゲフィオンディスターバーの効果範囲内に引きこむ事に成功する。
『ランスロット』のパイロットの方は、いつもの『無頼』の動きと少し違う事に戸惑っていたようだが、それでも、ここに引き込めてしまえば問題はない…
そして…自体は…スザクの中の記憶と同じように…基地本部からミサイルが飛んできた。
『ゼロ』の仮面を被ったスザクは白いパイロットスーツを身に纏ったスザクに喉元に銃を突き付けられている状態だった。
そこに割り込んできたのは…ユーフェミアと…そして…
―――ルルーシュ!?
スザクが搭乗する筈だった『月下』のコックピットが開いたのだ。
「やめろ!スザク!『ゼロ』を放せ!」
中から顔を半分隠すサングラスと黒の騎士団の衣装を身に纏ったルルーシュが飛び出してきたのだ。
『黒の騎士団』の方は基地から発射されたミサイルの対処に精一杯の様で、飛び出してきたルルーシュに気づいている者もいない。
そして…頭上には…
―――アヴァロン…
スザクは仮面越しにアヴァロンのKMF射出口からの紅い光に気がついた…
スザクは自分を拘束している17歳のスザクを振り払って自分に駆け寄ってくるルルーシュの方へと走り出した…
『ゼロ』のこれまでに見た事のない動きに…17歳のスザクが驚いた表情を見せるが…
しかし、スザクとしてはそんな事を構っている余裕はない…
ここで…こんなところでルルーシュが殺される訳にはいかないのだ…
こんな危険な場所に立たせない為に…ルルーシュと入れ替わった筈なのに…
周囲ではきっと、アヴァロンに対してなすすべもない状態となっている事だろう…
アヴァロンから発射されたのは…開発されたばかりのハドロン砲…
あの時…あの爆発に巻き込まれて…
でも…ルルーシュの『ギアス』にかかっていない『ユーフェミアの騎士であるスザク』は処罰対象にはならないだろう…
そして…そのルルーシュの手が届くか…届かないか…と云うところでその赤い光は…爆発を起こし…
―――くっそ…今度こそ守ると…決めたのに…何をやっているんだ…僕は…
そんな事を頭を過るが…その光の中でその身体はどこかに吹っ飛ばされる感覚に陥り…そして…そこから暫くの間の記憶がすっぽりと抜けた…
気がつくと…そこは森の中…
―――結局…また『ここ』に来たのか…
スザクはむくりと起き上がり、周囲を見渡す。
見覚えのある風景だ…
そして…暫く歩いて行くと…やはり、あの時と同じところに吹っ飛ばされたと確信する。
ただ…そこで出会ったのは…カレンではなく…
『枢木スザク…』
過去の自分の姿…
まだ、目を醒ましていないようだ。
ただ…暫くは仮面を外す事はできそうにない…
とりあえず、目の前にいる『枢木スザク』を少しの時間でも動けないようにしておくべきだろう…
パイロットスーツの中に隠されている筈の…テロリスト捕獲用の軍仕様のロープがあった筈だ。
あの時にもそれでカレンを拘束していたのだから…
『あった…』
見つけて、まだ気を失っている目の前の白いパイロットスーツを身に纏った少年を拘束した。
16年前にも…こんな事をした…そんな事を思い出すが…しかし、すぐに目に届くところにルルーシュがいない事に気が付き…
探しに行こうと踵を返そうとした時…
「ん…」
どうやら、先ほど拘束した『スザク』が目を醒ましたようだった。
『気が付いたようだな…』
スザクが目の前に拘束された状態で転がっている『スザク』に対して声をかける。
自分の『ゼロ』になり切るスピードに…苦笑してしまうが…
「『ゼロ』…否…違う…。お前は何者だ…」
何を持ってそんな質問をするのかは知らないが…それでも、この場は『ゼロ』でいなくてはならないのだ。
『私は…『ゼロ』だ…。他の何者でもない…』
その一言に目の前の『スザク』はいらついたような表情を見せるが…
しかし、こんなところであっさりばらしてしまう訳にはいかない…。
確かに『スザク』にルルーシュの『ギアス』をかける事は阻止できたが…まだ、問題も残っている…
ユーフェミアの事だ…
あの時、ルルーシュの『ギアス』は暴走していたと云う…
なら、あの式典が終わるまでは…油断できないのだ。
―――しかし…僕がここに来た事によって…だいぶ歴史が変わってきている…。恐らく、ルルーシュは『ゼロ』としてではなく、ただのルルーシュとしてユフィと出会っている筈だ…この島で…
様々な状況を考えて、スザクは現在の状況を分析する。
『とりあえず、君は拘束させて貰う…。変に暴れられても困るのでね…』
スザクはそう云いながら拘束され、自由に動く事の出来ない『スザク』の身体を起こして、気に寄り掛からせてやった。
簡易とはいえ軍仕様の拘束用のロープだ…
きちんと縛っておけば人の力で切る事は出来ない…
「お前…」
『スザク』がぎりりと歯を食い縛りながら目の前の『ゼロ』の姿を睨みつけるが…睨まれている方のスザクはそれを何とも思っていない様子だ。
『彼が…君に御執心なのでね…。本当は私としては複雑だけれど…とりあえず、大人しくしていてくれれば何もしない…』
過去の自分に対して自嘲したくなるようなセリフだが…
それでも…もし、ここにいる『スザク』の存在が今、自分の守りたい者を危険に晒す存在となり得るのであれば…抹殺する事も厭わない覚悟だ…
―――出来れば…そんな事はしたくないけれど…
「お前…どこかで…会った事がある様な気がする…」
『スザク』のその一言に…スザクはふっと笑って受け流す事しか出来なかった…
一方、ルルーシュの方はと云えば…
「くっそ…ここは…」
ところどころ痛む身体を無理矢理起こし、周囲を見回す。
海岸線らしく…砂浜にいるようだった。
「ルルーシュ…?」
後ろから声をかけられる…
振りかえると…
「ユフィ!?」
目の前には…幼馴染との決別を決めなくてはならなくなった最大の要因が立っていた…
異母妹で…ナナリーの次に愛した…異母妹…
「私…あなたが『ゼロ』だと思っていたのに…あなたじゃなかったのね…。良かった…」
ユーフェミアの言葉に…ルルーシュは驚いた表情を見せる。
確かに、今は『ゼロ』の姿をしていないだけで…『ゼロ』はルルーシュなのだが…でも…驚いた事はそこではない…
「『良かった』?」
「ええ…だって…ルルーシュがクロヴィス異母兄さまを殺したのではないのでしょう?あなたが…」
「否…違うよ…。ユフィ…。君の思っていた通りだよ…。君のお陰で随分、計画変更を余儀なくされている事は多いが…」
「ルルーシュ…」
ユーフェミアの言葉を遮り、自分が『ゼロ』である事を告げる。
流石に、あの『ゼロ』と名乗った男に全てを押し付ける事は出来ない…そう思ったから…
「だから…俺は…君の…」
「違う!ルルーシュは私たちの敵じゃないわ…。私ね…私ね…考えている事があるの…。それがうまく行ったら…あなたに…スザクを…返そうと思って…」
ユーフェミアの言葉に…ルルーシュが驚いた表情を見せる。
目の前の異母妹皇女は一体何を云っているのか…その場で理解できなかったからだ…
「スザクを…返すって…。一体何を…」
「スザクにね…云われてしまったの…。もし、私の考えている事、望んでいる事が…達成できたら…自分をルルーシュの元へ…返して下さい…と…。その時に私…思い出したの…。ルルーシュが預けられていたのが…枢木家…スザクの家だった事を…」
ルルーシュの驚愕の顔に…ユーフェミアが嬉しそうに笑う。
「いつも私より勉強もゲームも出来て…すまし顔だったルルーシュのポーカーフェイスを崩したわ…。ルルーシュ…きっとね…私の考えている事…私とスザクだけでは無理なの…。だから…ルルーシュ…あなたの力も貸して欲しいの…」
ユーフェミアが表情を変えてルルーシュに頼んだ。
何を考えているかは解らないが…
でも…ユーフェミアが…真剣に悩み、そして、考え、結果を出そうとしている事だけは解る…
「何を…考えているんだ…?」
「あのエリア11そのものを…特区にしてしまおうと思って…」
ユーフェミアの突拍子もない発言は…いつもの事だが…しかし…下手をするとこれは反逆罪にも問われかねない発言だ。
「何を云っている!そんな事…」
「出来るわ…。たった一つだけ…方法がある…」
「まさか…」
「流石ルルーシュね…。そう…私が…エリア11の総督になればいいのよ…。そして、『黒の騎士団』の参政権を認める…。勿論、これだけの我儘を云うのだから…私もそれ相応の代償を支払わないと行けないんだけど…。でも、そんなもの…ルルーシュとナナリーが私と一緒にいられるなら…安い物だわ…」
「コーネリアはどうするつもりだ?コーネリアは絶対に許さないぞ!」
「お姉さまの事は…多分、ルルーシュとナナリーを見たら…絶対に態度を変えるわ…。だって…お姉さまの一番の憧れだった、マリアンヌ様の…忘れ形見ですもの…」
こんなイレギュラーは想定していなかった…
「本気…なのか…?」
「勿論…。こんな事…冗談で云える事じゃないでしょう?」
至って本気の様子のユーフェミアに…ルルーシュは大きく息を吐いた…
「ホントに…君と云う人は…」
「その代わり…ちゃんと私の力になってね?ルルーシュ…」
「ああ…出来る事をしよう…」
ルルーシュは右手を差し出し、ユーフェミアに握手を求めた。
ユーフェミアもルルーシュのその手を握った。
「でも…いいのか?君は…スザクを…」
「確かに…彼を騎士としたのは私の意思だし、嘘はないわ…。でも、正式なお返事を頂くときに云われてしまったの…。『どうしても守りたい人がいる…。今のユーフェミア皇女殿下の望んでいる先には…きっと、自分の守りたい人たちを守れる場所が出来る…。だから…その場所の構築のお手伝いをする物として、あなたに仕えましょう…。でも、その場所が出来上がったら…自分を…その人たちの元へ…返して下さい…』と…」
ルルーシュの驚いた表情に気をよくしたのか…ユーフェミアがルルーシュに抱きついてきた。
「ね、ルルーシュ…私…嬉しかったの…。たった一度だけであったとしても…お手紙を貰ったの…。そして、生きていた事を知った時には…涙が出そうなくらい嬉しかった…。大丈夫!出来るだけ早く返してあげるから…」
ユーフェミアの言葉に…ルルーシュは目を閉じ下を向いて横に首を振った。
「否…ユフィ…。スザクは君の騎士だ…。俺を守ろうとしてくれる人が…出来たんだ…。だから…スザクは…ユフィの騎士だ…」
ルルーシュがきっぱりと言い切った。
それは…ルルーシュの中での決別…だった…
そして、新しい道を歩もうとする…意思表示でもある。
その言葉を口にした時…カサリと云う音がした…
人の気配…
『ルルーシュ…』
「『ゼロ』…」
ルルーシュは自分の背後の岩に立つその人物の名を呼んだ。
そして…
「ユフィ…彼が…俺の騎士だ…」
その一言に…この場にいるルルーシュ以外の人物たちが驚きの表情を見せる。
「ルルーシュ!」
『ゼロ』に拘束されたままの『スザク』が声を荒げてルルーシュの名前を呼んだ…
「スザク…ごめん…。ユフィの気持ちを知って…決めたんだ…。俺の為に色々考えてくれて…有難う…。スザクは…ユフィの騎士だ…」
ルルーシュの言葉に…『スザク』は項垂れる事しか出来ず…スザクは…自分の出現によって、変わって行く歴史に…躊躇いを覚えていた…
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