神根島での…あのルルーシュの言葉…
一体何を意味しているのだろうか…
あれ以来、スザクはそんな事ばかりを考えている。
この世界の『スザク』に対しての…決別宣言…と捉えていいのだろうか…
しかし…スザクがこの世界のルルーシュと出会った時には…ルルーシュ自身、酷く傷つき、弱っていた状態だ…
スザクも…『黒の騎士団』の中で『ゼロ』として存在しているルルーシュを見ながら…それはひしひし感じていた。
そして、その事に対して誰も気づかない事に対しても腹が立った…。
あの時、カレンは神根島でスザクに対して『ゼロ』の親衛隊長である事を胸を張って話していたと云うのに…カレン自身、ルルーシュの苦しみを解っている様には思えないのだ。
そして…あの時…スザクが神根島で『ゼロ』を追い詰めて…正体を知って…彼女は逃げ出したのだ…
あの時、ルルーシュを追い詰めたのは自分自身で、ルルーシュを捕らえたのも自分自身である事は百も承知であるのに…スザクは…そんな自分自身の矛盾を感じながらも…憤りを抑える事が出来なかった。
「どうした?ゼロ…」
考え事をしているスザクに対して、ルルーシュが目の前に紅茶のカップを置きながら声をかけて来た。
今ではこの部屋…ルルーシュの部屋で二人で作戦会議を開いている事が酷く自然になっている状態だった。
歴史が…変わった…
この先、スザクの知らない未来が待っているのだが…
「ユーフェミア皇女殿下の云っている事は…確かに理想に近いかもしれないけれど…ただ…それは、確かに日本人には受け入れられるかもしれないけれど…ブリタニア人にとってはどうなんだろう…。彼女の話だと、それは『皇位継承権』と引き換え…なんだろう?」
「確かに…その通りだ…。このエリア11全てを特区にしてしまうなど…絶対に本国が黙っていない…。もし、それを承諾するとしたら…確実に『対シュナイゼル』の一派の陰謀が絡んで来る事になる…」
流石に…ルルーシュは皇族として、そして、隠れ暮らさねばならなかった者として…物事を冷静に分析する。
この時、確かにブリタニアではシュナイゼルが大きな力を持ち、影響力を持っていたが、それでも、確実に彼を排除しようとする一派はいるのだ。
そして、ユーフェミアの姉、コーネリアはシュナイゼルの軍の将として前線に出ている。
こうなると、可能性を考えた時に構図は簡単なものとなる。
「ねぇ…本当は…ユーフェミア皇女殿下は…ルルーシュとナナリーの皇族復帰を…望んでいるんじゃないの?なんだか…とっても御執心の様だったし…」
スザクが複雑だと云う感情を隠しきれない状態でルルーシュに告げる。
このスザクがこの世界に現れた事で、スザクの知らないところでも、様々な形で何かが変わってきている。
そもそも、17歳のスザクと出会った時…彼はまだユーフェミアの騎士の指名に対する返事をしておらず、あの時聞いた話の内容からすると、ルルーシュの『決別宣言』が発端となってユーフェミアの騎士になるに際して条件づけをしたように見えるのだ…
そして…それに触発されてユーフェミアも…
スザクのなんだか複雑だと云わんばかりの表情にルルーシュがやや驚いたような顔を見せた。
「ゼロ…俺よりもずっと年上なのに…なんだか…子供っぽいところがあるんだな…。スザクと初めて会った時もそうだけれど…。ゼロは…俺に対して何も云わないし、云いたくないなら俺も聞かないけれど…。でも、何故…俺を守りたいだなんて…思うんだ…?俺は…」
その先に続くであろう言葉が予想出来て、スザクはルルーシュの言葉を遮った。
「君は…確かに『神聖ブリタニア帝国から廃てられた皇子』殿下かもしれないけれど…。でも…だから…誰もいらないって云うなら…僕が欲しいと思っただけだ…。それだけじゃ…ダメかな…?」
「……お前は…軍の関係者…なのか?俺たちの事を覚えている連中など…そうはいない筈なんだが…」
「『元』…ね…」
スザクがルルーシュから顔を背けて短く答えた。
そのスザクの表情に…ルルーシュも何も尋ねる事が出来なくなった…
年齢からして…多分、母の事も良く知るのではないかと思うのだが…でも、それを尋ねる事も出来ない…
「ゼロ…俺は…これまで…こんな風に…他人と…話した事って…日本では…スザク以外には…お前だけだ…。なんで…だろうな…。お前といると…安心できるし…式根島の時も…お前が『大人しくしていろ』と云った言葉を…ギリギリまでは頭の中に置いていたのに…。でも…ミサイルが飛んでくると解って…でも…スザクがお前を放さなくて…それで…」
ルルーシュがこんな事を云うなんて…
スザクの正直な思いだ…
これまで…誰にも寄り掛からずに生きて来て…33歳のスザクと出会った事で…彼の存在に安心する事を覚え、自分の中でも戸惑っている様にも見えるが…
でも、スザクとしては、こんな風に寄り掛かられるのが…心地いい気がした。
それに…
「あんまり可愛い事…云わないでよ…ルルーシュ…。君は…本当に…無自覚なんだから…」
複雑なスザクの笑顔に…ルルーシュはきょとんとした表情を見せる。
そんなルルーシュを見ていて…理性が吹っ飛びそうになるのだが…
それでも…
「ゼロ?」
スザクの記憶では…この頃…既にルルーシュとその身体を繋いでいるのだが…
それは、スザクが17歳のスザクであって…今のスザクはルルーシュにとっては『ゼロ』と云う存在…
そんな思いを抱えているスザクの頬に…ルルーシュの手が触れた…
「なんて顔をしているんだ…。俺…何か…悪い事を云ってしまったか?」
ルルーシュが悪いわけではないが…それでも…
「君は…どこまでも残酷だね…」
スザクがぼそりとそんな事を呟く。
「え?」
ルルーシュにその一言が聞こえたのか…ルルーシュが表情を曇らせる。
「僕が…なんで君を守りたいと思うのか…。解らないの?あの時はカッコつけて…見返りなんていらないって云ったけど…やっぱり、僕は…」
そう云いながら…目の前の…自分よりも目線の低いルルーシュを…抱きしめた…
「ゼロ…?」
「ルルーシュ…僕はやっぱり…仮面を被り通せない…みたいだ…」
スザクはギュッとルルーシュを抱きしめながら…そんな一言を絞り出した…
突然の事で、ルルーシュは…身動ぎすらしない。
ただ…スザクの力強い腕の中に収まっている状態だ…
「今の僕にとって…日本よりも…ブリタニアよりも…君が大切なんだ…。君だけいればいいんだ…。最初に云っただろう?僕は…君を守る為だけに…君の元へ来たと…」
「お…お前の云っている事…良く解らない…。でも…お前が…俺を守ろうとしてくれている事は…解る…。だから…俺は…スザクがユフィの騎士になると決まった時も…否、スザクがあの、『ランスロット』のパイロットがスザクだって解ったばかりの時…お前が現れた…。その時から…俺の中で…何かが変わった気がする…」
どんどん、声が小さくなっていくルルーシュの言葉に…スザクの中で何かが吹っ飛んだ気がした…
「ごめん…ルルーシュ…」
スザクがそう云ったかと思うと…ルルーシュが『え?』と顔を上げると同時にルルーシュの唇にスザクの唇が当たっていた…
キス…と云うには…あまりに荒っぽいと云うか、強引と云うか…
それを施されているルルーシュ自身、目を見開いた状態であったが…
「っ…っふ…んん…」
息苦しいと身動ぎするが、スザクの腕ががっちりとルルーシュの細い身体を抑え込んでいた。
ルルーシュの中で半ばパニック状態になっているが…
それでも…不思議な事に…
―――嫌悪感は…ない…。これまで…スザク以外の他人に…触れられる事が…掃きそうなほど気持ち悪かったのに…
強引なスザクのキスに対しての嫌悪感がまるでなかった事に、驚いている自分がいる事に気がつく。
漸く離れた顔を見ると…そこには…普段のやさしげな翡翠の瞳ではなく…情欲を隠しきれない深い色の瞳があった…
「ゼ…ロ…?」
「好きだよ…ルルーシュ…愛している…。ずっと…伝えたかったんだ…」
「え?」
「それに…僕は…ゼロじゃない…。僕は…」
ルルーシュと一緒にいて…ルルーシュに『ゼロ』と呼ばれるのが辛くなっていたのか…そこまで言葉を紡いではっとする。
そして、自分でギリギリのところで抑え込む…
「お前は…あいつに似ている…。ごめん…C.C.から…聞いた…」
今度はスザクの方が『え?』と云う顔をする。
そして…ルルーシュを突き放そうとしたが…ルルーシュがスザクの右腕にしがみついた…
「ごめん…どうしても気になって…。お前は…俺の所為で…」
ルルーシュがそこまで云うと…下を向いてしまった…
―――あのお喋り女…
スザクは心の中で舌打ちするが…ルルーシュがそれを見透かしたように言葉を続けた。
「俺が…無理矢理聞いたんだ…。時々お前が…俺を凄く辛そうな目で見るから…それで…。どこまで信じていいのか解らないけれど…。でも…C.C.の話を聞いて…お前の言葉を信じる事が…出来たんだ…」
ルルーシュの『無理矢理』と云うのも、恐らくピザで交渉成立した事だろう…
「でも…本当に…俺でいいのか?お前は…俺じゃない俺を…」
「ルルーシュ…僕は…君を愛していると云った言葉に…嘘はないよ…。守りたいと思っているのも本当だ…。だから…君も…僕の愛している君なんだ…。多分…C.C.の話した君よりも…ずっと僕の望んでいた…君の姿だ…。未来が変わっている…だから…僕は…もう…手放したくないんだ…」
そう云って…スザクはルルーシュを再び抱きしめて…黙って涙を流していた…
それから…どれほどの時間が経っているだろうか…
お互い…一糸纏わぬ姿で抱き合っている。
「っふ…んぁ…」
33歳になっても、相変わらず筋肉質なスザクの身体に…ルルーシュは少しムッとしたようだが…
そんなルルーシュにスザクがクスッと笑うと…ぷいっと顔を背ける。
「大丈夫だよ…ルルーシュ…。優しくするから…」
ルルーシュはそう云われて更に顔を赤くする。
「こ…子供扱いするな!」
相手は16歳も年上だと云う…
それでも、スザクであると云うのだから…やっぱり、ここで負けず嫌いな性分が出てきてしまい…その態度が更にスザクを煽る事になる。
「なら…遠慮する必要はないね?」
スザクが意地の悪い笑みを見せて今も記憶するルルーシュの弱い部分を僅かに避ける形で触れて来る…
「あ…ん…」
触れられる度にピクリと反応するが…本当に触れて欲しい部分に触れて貰えないもどかしさに…ルルーシュが身体を捩る。
プライドが高く、こう云う行為の時にはやたらと恥ずかしがるルルーシュをつい、苛めたくなるのは…スザクの悪い癖だ…
本人は悪い癖だとは微塵も思っていないのだが…
「ね、ルルーシュ…どこを触って欲しいの…?」
「どこ…って…んぁ…や…」
既に余裕がないのに、相変わらずそのプライドが邪魔するらしい…
「君も知っているだろ?僕はバカだから…云って貰わないと…解らないよ…」
自分でも底意地が悪いと思ってしまうが…
それでも、こうした時の恥ずかしがるルルーシュの姿を見るのが好きなのは変わらない。
「も…我慢…出来…いやぁ…ゼロ…」
余程辛いのか…涙が流れているルルーシュに対して…そっと耳打ちした…
「じゃあ…一度でいい…『スザク』って…呼んでくれる?一度でいいから…」
こんな時に云うのは…卑怯だと思うが…。
それでも…もう一度だけ…ルルーシュに『スザク』と呼ばれたかった…
「ス…ザク…」
既に思考など働いていない状態のルルーシュが…そう呼んだ…
その呼ばれたと同時に…居た堪れなくなって、既に余裕など消し飛んで、ルルーシュの中に挿入り込み…そして…ルルーシュの半ば絶叫に近い様な叫び声も気にする事が出来ない程…自分の欲望を叩きつけた…
心の中では
―――ごめん…ルルーシュ…。無茶してごめん…
そう思っている部分もあるのだが…
既に、その心があっても…自分の感情と欲望に抑止力とはならず…
ひょっとしたらルルーシュにとっては拷問に近いかもしれない程、ルルーシュに全てを注ぎこむようにスザクは自分の欲望を叩きつけていた。
そして…我に返った時…既にルルーシュはぼろぼろになって、気を失っていた…
「ごめん…ルルーシュ…。守るって云ったのに…ごめん…」
我に返って自分の行為の愚かさを自覚する…
しかし、一瞬だけ目を醒ましたルルーシュが一言…
「だい…じょうぶ…。すざくに…とって…おまえ…にとって…おれ…でも…ひつようと…してくれているって…おもえたから…」
その一言を口にして、ルルーシュは再び深い眠りについた。
そして…そんなルルーシュをスザクはただ…ぎゅっと抱きしめていた…
ねぇ…『ルルーシュ』…
僕は…『君』を一番傷つけていた時間に…世界に来ている…
そして…僕の出現によって…少しずつ…歴史が変わっている…
こんな僕を見て…『君』は…なんて云うのかな…
僕は…『君』との約束を…破ってしまった事に…なるのかな…
でも…いくら『君』に怒られても…やっぱり…あの歴史を知っていると…今目の前にいる存在を…守りたいと思ってしまう…
これは多分、僕の自分勝手なエゴだ…
解っている…
でも…『君』との約束を破っている事になっても…
それでも…見たいと思ったんだ…
違う…未来を…
僕は…『君』を殺したくなんてなかった…
『君』と一緒にいたかったんだ…
僕が…『君』の傍に逝く日って…来るのかな…
良く解らないけれど…
でも…その時にたくさん謝るから…
『君』にたくさん謝るから…
だから…今だけは…見逃してくれる?
こんな幸せを望んではいけない筈なのに…
僕は…『君』が望んだ世界を見て…どうしたらいいか解らなくなって…『ここ』に来てしまった…
でも…僕が『ここ』に来た事によって…きっと、あんなに悲しい嘘を…ルルーシュに吐かせずに済むかもしれない…
『君』が世界をその嘘で引っ張って行ったけれど…あの嘘によって傷ついた人が多過ぎる…
だから…僕はルルーシュに…あんな嘘を吐かせたりしない…
これは誓うよ…
僕と『君』のいた世界の歴史は変わらないと云うけれど…
でも、この『世界』は…今はあの悲しい結末に進んではいないよ…
ユフィも…17歳の僕も…ルルーシュも…精一杯出来る事をやろうとして…
そして、僕が少しだけ捻じ曲げた歴史を歩んでいる…
後は…僕の知らない歴史だから…どう動いて行くかは解らない…
でも、この『世界』では…17歳の僕が17歳のルルーシュをあんな形で裏切る事はない…
僕が裏切らせない…
そして、僕が…ルルーシュを守る…
二度と…間違えない為に…
問題はまだ山積みだけれど…でも、彼らは失敗を恐れたりしていない。
それが…多分、彼らの強みだ…
そして、僕の出現によって、変わった、彼らの目指すもの…
その先に見えるのは多分…僕と『君』が創った『優しい世界』とは違う『優しい世界』がある…
僕は…それを見てみたい…
『君』が世界に施した魔法の結果を見届けて…充分だと思っていた筈なのに…
僕は欲張りになったのかな…
ねぇ…『ルルーシュ』…
僕は…『幸せ』を望んではいけない筈だったのに…
なのに…僕は今…凄く『幸せ』なんだ…
こんな僕を見て『このバカが…』って云っているのかな…
僕は…誰よりも…君が好きだよ…
それは本当だ…
だから…目の前にいる『君』を守りたいと思うんだ…
悲しい顔を見たくないと思うんだ…
きっと、これから僕たちの進む先にはたくさんの重い扉があるよ…
でも…不思議だね…『君』と一緒なら…軽く開いてしまいそうな気がする…
かつて…云った…
『俺たち二人が力を合わせたら…出来ない事なんてないんじゃないか…』
その言葉が…本当の様な気がするんだ…
約束するよ…
僕はこの『世界』で、あの世界とは違う『優しい世界』…ルルーシュにとっても『優しい世界』を創って見せる…
だから…もう少しだけ…僕の我儘を許して…
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