光が収まり…周囲を見渡すと…先ほど立っていた場所ではない事は解る。
「うわぁ…凄いなぁ…。僕、ここまで来て初めて『勇者』っぽい体験したかも…。って云うか、僕、何しにここまで来ているのか解らないけどさ…」
などと、ちょっと喜んでは見るが…しかし、見取り図ではどのへんなのかを確かめたいが…
「現在地が解らないなぁ…」
とにかく、城の周囲の地図に関しては結構詳細で正確な地図なのだが…
流石に地図の制作者もこの中の身とりまではよく覚えていなかったようだし、ひょっとすると、あんなSFチックな体験が出来るとは思ってもみなかった。
周囲をきょろきょろ見回すと…3方が壁に囲まれ、1か所だけ扉らしきものがある。
「とりあえず、進んでみるか…。と云うか、『魔王』の城にこんなに簡単に不法侵入出来ちゃうってどうなんだろう…。ひょっとして、『ヒーローもの』としては掟破りの『しょっぱなからラスボスを相手』にするのか?」
と独り言を呟いてみるが、実際にはスザクは『ミレイさんのお店♪』でバカ高い『元気100倍ドリンク』とやらを買わされただけ…見た目は可愛いが、何か知らないが、この城に近づけたがらない女魔術師に、ここの入り口を教えてくれた踊り子…
持っているアイテムと云えば、標準装備の『伝説の剣』と『地図』と『ミレイさんのお店♪』で結構散在させられた軍資金と散在の原因となった『元気100倍ドリンク』6本セット+(おまけの)1本とカレンに云われて買ったピザ10枚…
これが本当に『魔王』を捕まえに行く為のアイテムとしては…いかがなものかと思う。
おまけに、一人で乗り込んじゃっている…
これだけだ…
扉を開くと…黄緑色の長い髪の少女らしき存在があった。
「おや…また、ルルーシュをとっ捕まえに来たやつか…」
随分不遜な態度だ。
どうやら、『魔王』に囚われてしまった…と云う訳ではなさそうだし、どう見ても、協力してくれそうには見えない。
「えっと…僕、『魔王ルルーシュ』を捕まえに来た『雇われ勇者』なんですけど…つかぬ事をお聞きしたいのですが…」
スザクはダメもとで尋ねてみる事にした。
確かめもせずに決めつけて、もし、『聞いてくれれば教えてやったのに…』と云うパターンでは泣いてしまう。
仮に、攻撃を加えられたとしても、多分、体力は目の前の少女寄りはある筈だし、魔術でも使われたら、どっち道であったこと自体が命取りだし、何より和泉稜ワールドで敵陣に乗り込んだ主人公がいきなり八つ裂きにされる事はないだろうと云う、最後のは理由としてはミもフタもない理由なのだが…そんな事を総合的に考えて、多少、攻撃は加えられるかもしれないが、死ぬような事にはならないだろうと判断する。
「なんだ?お前…見たところ、『ミレイさんのお店♪』の箱を開けて3分で焼き立て熱々のピザを食べられると云う、『マジック・ピザ』を持っているな…。それを私のよこせば何でも教えてやるぞ…。私の知っている事ならな…」
結構あっさりした返答が来た。
内心ホッとしつつ、スザクは持っていたピザを全部くれてやった。
正直、荷物がかさばってしまっていて邪魔だったのだ。
「どうぞ…。話によると『魔王ルルーシュ』ってピザがお嫌いとかで…。『魔王ルルーシュ』に会うまでには全部消費しておけとアドバイス下さった方がいたんで、よろしければ全部引き取って頂けますか?」
スザクがそう言うと、目の前の少女の目が光り輝きだした。
「おお…10枚もあるじゃないか…。そうなんだ…ルルーシュはどうもケチで味の解らん奴でな…このピザの素晴らしさを未だに解らない奴なんだよ…」
と、ピザトークが始まってしまった。
そして、一つ目の箱を開けて、食べごろになった頃合いになって切れ目の入っているピザを一切れ口にはこぶ。
「おお…これぞまさしく、『ミレイさんのお店♪』の『マジック・ピザ』…。最近は魔がいものが出ていてな…。あっと、自己紹介が遅れたな…。私はこの城でルルーシュと暮らしている魔女のC.C.だ…。お前、運がいいぞ…。私を味方にしておけばいい事があるぞ…」
ピザトークを繰り広げ、自己紹介をする。
どうやら、ピザを与えられると機嫌が良くなるらしい…。
『魔王』の城に…『魔女』…まぁ、確かにいてもおかしくはないが…
この『魔女』も変わっているような気がする。
「えっと…とりあえず、どうすれば『魔王ルルーシュ』にお会いできるんでしょうか…」
さっさと仕事を片付けてしまいたいスザクがC.C.と名乗った魔女に尋ねる。
「この扉の向こう側は廊下になっている…。左側の二つ目の扉がルルーシュの私室に繋がっている…。今頃は多分、寝ている頃だろう…。最近、夜更かしばかりしているからな…」
魔女の話を聞いていて…一体何の話なのかさっぱり分からない。
しかし…どうやら、この魔女、『魔王』を守る為に何かをしようと云う気もないらしい。
と云うか、スザクの本能が云っている。
―――こいつ…居候だろ…。しかも、『魔王』を捕まえに来た『勇者』たちからピザをせしめている…。
と…
とりあえず、情報は得たし、この魔女も役には立っていないが、邪魔もしていないので、その辺は助かる。
―――ピザの分の荷物が減ったし…
とまぁ、こっちはこっちでお気楽と云うか、のんきな『勇者』をやっている訳なのだが…
「そう言えば、お前にルルーシュを捕まえて来いって行った村には…ピザはあるか?」
C.C.が部屋を出て行こうとするスザクに尋ねた。
「あ…あると思いますよ…。僕が『勇者』を頼まれた時の御夕飯に出てきましたから…」
スザクがそう告げた時…C.C.がにやりと笑った。
「もうひとつ、いい事を教えてやる…。お前は多分、ルルーシュ好みだからな…。多分、『ミレイさんのお店♪』で『元気100倍ドリンク』を買わされただろう?」
魔女は何でもお見通し…と云った感じでスザクにもう一度訪ねてきた。
「あ…ハイ…」
これも邪魔なアイテムだと思っていたのだが…
「それをお前とルルーシュで1本ずつ飲んでみろ…。きっと、忘れられない夜を体験できるぞ…」
なんだか意味深な笑みと意味深な言葉…
それでも、とりあえず、何かの知っていてお得な情報なのだろう…
廊下を歩いて行くと…両側にたくさんの扉がある。
まるでホテルのような感じに…
「凄いなぁ…こんなに部屋があるんだぁ…」
4LDK庭付き一戸建て…なんて…小さな夢が…本当にちっぽけな夢に見えてきた。
でも、今のスザクにとっては壮大な夢なのだから仕方がない。
しかし…この城には庭がない…
空中に浮いているのだから…
と、素人考えて思ってしまうが…
そして、C.C.に云われた、左側の2つ目の扉…
「ここかぁ…」
『魔王』と云えば、ゲームのラスボス…
本当はこんな風にホテルの廊下みたいに扉が連なっている中に『魔王』の部屋があって、そこにいると考えるのは…
―――想像しにくいなぁ…
と考えてしまうが…それは、ゲーマーが勝手に抱いている想像だと解釈して行かなくてはならない。
―――コンコン…
これまた、『勇者』にはあまり見られないであろう…ラスボスの部屋の扉をノックする…
元々、この執筆者が書いているので、あまり常識にとらわれていると色々とインパクトの強いショックを受ける事になる。
中から返事はない…
恐る恐る扉を開いてみると…なんだか…普通の高校生の様な部屋だ。
必要最低限の物しか置いていない。
ベッドと、机と、パソコン、クローゼットの扉…
「失礼しまぁす…」
そう云って、中に入って行くと…本当にあの魔女が云った通り、誰かが寝ていた。
多分、これが『魔王ルルーシュ』だろう…
ベッドに近づいて行くと…
―――うわっ…すっごい美形…。それにもろ好み…
一瞬、『魔王』の性別ってなんだろうと思いっきり考えてしまった。
この『魔王』さまと一緒に4LDK庭付き一戸建て、男の子一人、女の子一人…なんて、子供の数に関してケチくさい事は云わない…
いっぱいこの『魔王』さま似の子供に囲まれて、仕事から帰ってきたら、『パパ…お帰りなさい…』と子供たちが抱きついて来て、この『魔王』さまが、ピンクのフリフリエプロンを付けて『お帰りなさい、あなた…。今日もお疲れさまでした…』と、調理の手を止めてにこりと笑いながら云って貰えたら…
―――僕、すっごく幸せになれる…。と云うか、幸せにならなければバチが当たる…
などと考えてしまった。
そりゃ、この『魔王』さまを捕まえに来た『勇者』が『奴隷志願者』になってしまうのは…なんとなく頷ける。
スザクとしては…この『魔王』さまに『ご主人さま』と呼んで貰った方が嬉しいが…
妙な妄想に耽る事約5分…
ベッドで眠っていた『魔王』さまがどうやら、お目覚めのようだ。
「…ん……」
どうも、眠っている時でも人の気配には疎い様だ。
と云うか、ゆっくりと起き上がる『魔王』さま…だが…なんだか、非常に寝起きの悪そうな雰囲気だ。
目はあけているものの、スザクの存在にはまだ、気づいていないご様子だ…
「おはようございます…」
なんとなく敬語を使ってしまう辺りは…なんでだろうか…
一応考えて見ても解らない事は今はスルーしておく。
「ん…おはよう…。今、何時だ…?」
どうやら、『魔王』さまはとことん寝起きが悪いらしい。
時間を訊かれてスザクは手首の腕時計を見る。
「えっと…16時52分32秒です…」
ここで、『秒』まで云う必要があったかどうかは疑問だが…
それにしても、一人で寝ていた筈の部屋に誰かがいて、自分が寝ぼけて質問して、その誰かが答えている事に…まだ気づいていないらしい…
「そうか…」
『魔王』さまはそこまで答えると…再びぱたんと横になって寝ようとしている…
「ちょ…ちょっと待って!起きてよ!あなたを捕まえに来たんだけど…そんなんでいいの???」
と、スザクは『勇者』にあるまじき…と云うか余りにあり得ない状況で頭の中が結構混乱状態になっている模様…
『魔王』さまの胸ぐら掴んでぐらぐらと頭を揺らして、叩き起こそうとする。
「ん…俺…昼の2時までパソコンを弄っていたんだよ…。もう少し寝かせてくれ…」
「Σ…」
何とも緊張感のない…『魔王』さまだ。
そして…再び、ぐっすりと眠り始めてしまった…
本当はこのまま縛り上げて連れて帰ってしまえばいいのだが…
でも…
―――流石に…それは『勇者』っぽくないよね…
と、こんな時ばっかり『勇者』になっている。
さっきまでは4LDK庭付き一戸建てと、この『魔王』さまが奥さんになってくれればいいと考えていたくせに…
それでも、このお姫様みたいな『魔王』さまとはちゃんと手順を追って、4LDK庭付き一戸建てまだたどり着きたい…
妙なこだわりがあるのだ。
しかし…ある意味、人々がこの『魔王ルルーシュ』を恐れる意味が解った気がする。
こんなに綺麗な顔をして、こんなに可愛い顔で眠っていて…そりゃ…男でなくても傍の置いておきたいと思うし、その御尊顔を拝すべく、行列もできそうだ。
それに、『魔王の城』があれば、観光資源にもなる。
今回、この村では妙な買い物をさせられている…
しかも、法外な値段を吹っ掛けられて…
こんなにぼろい商売が出来るともなれば、そりゃ、村長たちが頑張って手に入れたいと考えるのはある意味仕方ない…
世の『勇者』とか『冒険者』とか、こうしたネタに弱いものだ。
そして、中には名声を上げて、美しい『魔王』もGet!なんて考えるのも解る気がする。
いつもルルーシュは、どの『勇者』も気に入らなくて追い返しているようだが…
きっと、ルルーシュの『奴隷志願者』は、妙な魔術によるものではないと考える。
多分、この、『魔王』本人の醸し出している、『萌え♪』オーラとか、『襲いたくなるぞ!』オーラとか、でも『そのおみ足に踏まれてみたい』オーラもあったりして…だから、『奴隷志願者』が絶えないのだろう…
スザクもうっかり『気持が理解』出来てしまっているのだから…彼らとは同じ穴のムジナだ。
そして、こうして、眠っている姿は…確かに、『捕まえて拉致』するよりも『抱きしめて守りたい』と云う衝動に駆られる。
「どうしよ…。失敗した事にして、捕まえない方がいいのかなぁ…」
多分、この寝顔を見ていて庇護欲を掻き立てられない人間は少ないだろう。
ここまで来る事は結構簡単だったが…スザクの場合、もしかしたら、最初に入った店が『ビンゴ!』だったのだろう。
多分、店によっては、金儲けの為に結構いい加減な情報を教える輩もいるのかもしれない。
だから、数多くの罠が待ち構えているなどと云われているのだろう。
確かに、『勇者』たちがこぞって集まって来るのだとしたら、この村で商売しようと考える輩は多いだろう。
便乗商売が成り立つ代物だ。
それから…窓から見える空はどんどん暗くなって行き、この部屋で眠っている『魔王』の眠りを妨げたくなかったので、電気のスイッチはあるのは解っていたが、灯りを点けずに見守った。
元々、旅人をやっていて野宿もざらな事だったから、夜目は利く方だ。
窓の外に見える満月がちょうど、正面に見える頃…
「ふぁぁぁぁぁ…」
大きなあくびをしながら『魔王』が目を覚まして、身体を起こした。
「あ、起きたみたいだね…」
さっきと違ってしっかり目は醒めているようだ。
「だ…誰だ!!」
意識がちゃんとしていれば、やはり警戒するものは警戒するらしい…
「あ、実は、とある村で、『魔王ルルーシュ』であるあなたを生け捕りにして来いと云われて、『雇われ勇者』となった、枢木スザクと云います。えっと…」
『誰だ!』と聞かれて、素直に答えてしまった…
しかも、『雇われ勇者』になっている事まで…
しかし、この『魔王』ちっとも怖くないし、この細い身体では、スザクが押さえつけるのは簡単だ。
「はぁ…またか…。と云うか、お前、いつからここで待っていたんだ?」
ルルーシュが呆れ顔で尋ねながら部屋の灯りを点けた。
「えっと…さっき、あなたが起きて、時間を尋ねられた時には、16時52分32秒でしたけど…その直前からお邪魔しています…」
これまた、こんな会話していていいのかどうかも怪しいのだが…
ただ、なんだか、考えていたものとは相当違っているので…この際『KY』と呼ばれようが、マイペースに行った方がいいと判断出来る。
「お前…5時間近くもここで待っていたのか?」
『魔王』でも、驚く時は驚くらしい…。
「まぁ…でも、あなたの寝顔を堪能させて頂いていたので…退屈しませんでした。そんな事よりも、大人しく連行されてくれますか?」
スザクがにこりと笑いながら目の前の可愛すぎる『魔王』に尋ねる。
「お前を雇ったと云う『村』へか?」
相当嫌そうな顔をしてルルーシュが尋ねて来るが…そんなルルーシュに対して、スザクはフルフルと首を振った。
「いえ…僕のお嫁さんとして、4LDKの庭付き一戸建てが建てられるくらい貯金がたまるまで、一緒に旅して下さい!」
スザクの方は大まじめに云っているのだが…ルルーシュの方はと云えば…きょとんとスザクを見ている。
恐らく、こんな事を云ってきた『勇者』は、初めてだったのだろう。
「お前…本気で云っているのか?」
「うん、勿論♪」
「俺は魔王だぞ?」
「そうらしいね…」
「お前は人間だろ?雇われているとはいえ、『勇者』だろう?」
「うん…そうだけど…そんな、君を一人占め出来なくなっちゃう仕事なら別にいいや…。あの村、結構お金持ちそうだったし…」
「ホントにそんなんでいいのか?」
「いいんじゃない?どうせ、彼らは僕についてこられなかっただろうし…。近道しようとして、その村からけもの道とか一直線で来たし…僕…」
目の前の…ルルーシュを捕まえようとしている『勇者』は…これまでルルーシュが見た事ない『勇者』だった…。
しかし、ルルーシュ自身、この『勇者』と行く気は毛頭ない…
「あ、そうそう…暫く置いてくれる?あの村のマーケットで、村の人に渡された軍資金、随分使っちゃったんだ…。僕…お腹すいちゃった…」
完全にマイペースなルルーシュを捕まえに来た『勇者』スザク…
ルルーシュとしては…これまでにないパターンで、どうしたらいいのか、とにかく必死に頭をひねらせていた…
copyright:2008-2010
All rights reserved.和泉綾