枢木スザク…17歳。
属性…(多分)人間…
職業…雇われ勇者(まだ新人なので安月給)
元々旅をしていたのだが…とりあえず目的もないままふらふらしていると云った感じだったので、時には当然、空腹に倒れる事があった。
今回はたまたま行き倒れた村で、たまたま『恐ろしい魔王がいる!』との噂を耳にして、『出来る事なら関わりたくねぇなぁ…』とか考えていたのだが…泊めて貰ったおばあさんのおうちで力仕事をお手伝いしていたところを、たまたま『恐ろしい魔王を捕まえてくれる勇者募集!』のポスターをこの家にも貼って欲しいと云ってきた村長さんに見られてしまい、『是非ともわが村の『勇者様』になって下され!』と、別に食べたくもない御馳走を用意され、本音を云いだす事も出来ず、結局流されるまま『雇われ勇者』となって、現在、魔王とやらの住まう城に向かって歩いている。
とにかく、村で渡された軍資金と地図と伝説の剣とやらを手にして…地図を見ているのだが…
「なんで、こんな詳細な地図があるんだ?誰か行った事あるのかな…」
と、考えてしまう。
村人の話では
『それはもう恐ろしい魔王で、城に近づくだけでその者は…様々な罠にかかり…そして…その魔王はとても恐ろしい魔術を使い、どんな勇者も立ちどころに手下にして行っているのです!』
との事だったが…
しかし、地図には『ここが入り口!』とか『ここが魔王のいるところ』とか、懇切丁寧に城の見取り図まで付いている。
「ホントに恐ろしい魔王なのかなぁ…。否、でも、村人たちみんながお金を出し合って、あんな豪華な御馳走まで用意してくれて…。とりあえず、正社員待遇だし、ちゃんと失業保険もあるし、成功したら昇給もありって云ってたし……」
なんとなく胡散臭い話ではあるけれど、少し旅の生活にも疲れてきていたし、昨今、旅人が給金もらえる様な仕事など…中々ないのだ。
日雇労働も…最近の不景気でなかなか見つからない…
多少、胡散臭いとは思ったが…
―――いざとなれば、この軍資金で1ヶ月くらいは食うに困らないし、この伝説の剣も二束三文くらいにはなるだろ……
と、どうにもならない時にはトンズラしてしまえ…と考えているのだが…
そもそも、その相手が『魔王』とか云っても、あの村に来るまでは何の噂も聞いた事がない。
そんな恐ろしい『魔王』であるなら結構離れた土地でも、噂好きな女たちが色々話しているだろうし、一攫千金を狙ったハンターたちがこぞってあのポスターに飛びつくだろう。
それに…募集のポスターには…
『恐ろしい魔王を捕まえてくれる勇者募集!』
と書かれていた。
普通、そんなに恐ろしい魔王なら、『捕まえる』のではなく、『退治する』とか『倒す』と云った表現をするだろう…
しかも、村を出るときに村長から、しつこく言われたのは…
『必ず、生きた状態で…。でもって、とりあえず、危ないんで、目隠しだけはお忘れなく…』
と云う事だった…。
―――魔王を生け捕りなんて…普通のRPGなら考えられないと思うんだけど…と云うか、これ、RPGにもならないかもしれないなぁ…。『雇われ勇者』だけじゃ…
とか何とか考えている内に、魔王の住まう空に浮かんでいる城に一番近い村へと辿り着く。
「こうして見てみると…ホントに魔王なんて住んでいるのかなぁ…って云うようなお城なんだけど…」
確かに空に浮いているって事で、妙な魔術を使っている事は解るが…しかし、最近のアニメでは…
―――フロートシステムとか云って…空中要塞が出来る時代だしなぁ…
魔術も現代科学ももはや違いが解らないので、この際、この空に浮いているこの城がどうやって飛んでいるのかはスルーする事にする。
とりあえず、村に入って情報集めしない事には始まらないのだ。
てくてくと歩いて行くと…この村で一番賑やかであろう広場に出た。
マーケットが開かれている時間らしくて、人がたくさんいる。
そして、広場の真ん中では何か催し物をしている。
「ねぇねぇ…そこのお兄さん!剣と地図を持っているって事は、ひょっとして、あのお城の『魔王ルルーシュ』に会いに行くのね?」
マーケットの一角で自分の店を持つ女が声をかけてきた。
目に飛び込んできた幟には『ミレイさんのお店♪』と書かれている。
「あ、そうですけど…。なんで解ったんですか?」
殆ど魔王退治…じゃなくて、魔王の捕獲に関してはやる気なしなので、自分が何を死に来ているのかとかあっさりばらしてしまう。
「そんないかにも『伝説の剣』なんて持っているからよ…。いつも、近隣の村も大変よね…。貴重な観光資源…じゃなくて、いつ、自分たちの村を『魔王ルルーシュ』の支配下にして貰えるか…権利の争奪戦を繰り広げているんだから…」
「へ?なんですか?それ…」
その店の店主と思わしき女性に対してスザクが尋ねる。
「教えてあげてもいいけど…ここに『元気100倍ドリンク』あるんだけど…買って行かない?今なら初めて購入の方には6本セットで1本おまけしちゃう!」
「それって…情報を教えてやるから、店の売り上げに貢献しろ…って事ですか?」
やや呆れた顔をして、尋ねるが…
その女店主はにこりと笑って更に答えた。
「最近、ちょっとお金足りなくって…大きなイベントが出来ないのよねぇ…。お願い…人助けだと思って買ってくれない?勿論、ちゃんと『魔王ルルーシュ』の事も教えるから…」
ホントに『人助け』になるかどうかはともかく、どうやら、今の段階で解る。
―――『魔王ルルーシュ』とは…別に、人類の滅亡とか考えているようなRPGのラスボスではなさそうだ…>
と…
とりあえず、昇給目指して情報を手に入れる事にした。
「じゃあ、金貨6枚ね…」
「ゲッ…ぼったくりじゃないですか…。どう見たって、自販機で1本120円で売っている缶コーヒーサイズですよ?それにこの金貨を1本当たり1枚も払うんですか?」
残ったら生活費に充てようなどと姑息な事を考えていただけに…スザクはその店主に文句を言うが…
「ならいいのよぉ…別に…。他の人に情報売るから…♪」
何と無茶振りな…と思うが…一応『雇われ勇者』だから…勇者らしい事を少しくらいはしないと考え、しぶしぶ、懐の袋から6枚の金貨を出して、その女店主に渡す。
「毎度あり♪とりあえず、私の名前を教えておくわね…。私はミレイ=アッシュフォード…。この村で生まれてからずっと商人の娘をやっているの…。で、『魔王ルルーシュ』に関してなんだけどね…まぁ、目を見ちゃいけないわ…。絶対に心を操られちゃうの…。その瞳の魔力に囚われ、『魔王ルルーシュ』に対して『奴隷』志願した勇者は数知れず…。それでも『魔王ルルーシュ』のお眼鏡にかかった『奴隷』志願者は未だ誰もいなくてね…。いつも、あのお城から追い出されちゃうのよねぇ…」
ここまでのミレイの言葉に…スザクの目は点になった。
「へ?『奴隷』志願者?お眼鏡にかなわなくて…お城を追い出された?」
普通、『魔王』に対しては生贄として、泣く泣くその村で一番美しい娘を差し出し、嘆く村人を見た勇者がその娘を助け出し、『魔王』はその勇者に倒されて、めでたし、めでたし…と云う事だと思っていたのだが…
色々と考え込むスザクに、ミレイが二コリと 笑って助言する。
「いい事?この世界は(リクエスト企画の設定とは云え)和泉綾の作り出している世界なのよ?常識で物事を測っていけないわ…」
意味はよく解らないが…云われている事についうっかり納得してしまう…
「でも…なんでまた、『奴隷』志願?それも…『魔王ルルーシュ』の魔術かないかですか?」
「ごめんなさい…あなたが払ってくれたお金ではここまでなのよぉ…。でも、ま、少しだけサービスしておくわ…。この先の広場で今、踊り子が躍っているわ…。そろそろ、交代の時間だから…今行けば、話が出来るわ…。『カレン』って云う踊り子…探してみなさいな…。きっと力になってくれるわ…」
多少、RPGっぽくなったような気がするが、それでも、あんまり近づいていない気もする…
「解りました…。で、この『元気100倍ドリンク』って…この先何か役に立つんですか?」
それは素朴な疑問…
大枚はたいて購入させられているのだから…
「まぁ、『魔王ルルーシュ』のお気に入りの座につけたら…役に立つかもね…」
ミレイの言葉に『なんじゃそりゃ…』と思うが…とりあえず、ここではこれ以上情報とかアイテムは貰えそうにないので、先を急ぐ事にした。
「有難うございました…。あんまり可能性がないと思いますけど…又何か、必要になったら来ますね…」
「うん♪待ってるわね…。で、『魔王ルルーシュ』のお気に入りの座をゲットできたら、一度くらい遊びに来てね…♪」
「否…『魔王』のお気に入りなんて…なりたくないですし…」
まぁ、何も知らないからそんな事を云っていられるのよ…と云う顔でミレイが見送っているが…
そして、イベント会場となっている広場へと歩いて行くのだが…
「あ、あなたも…『魔王ルルーシュ』を捕らえに来た…他の村の『勇者』さま…ですね…?」
ふと後ろから声をかけられる。
振りかえると…フワフワの栗毛の…薄い紫色の瞳をした少女が立っていた。
その少女…白基調の衣装をまとい、ブルーの宝石のついた杖を持っていた。
「ひょっとして…あのお城の主の関係者さんですか?」
可愛らしい雰囲気を持ち、二コリを笑いながら話しかけてきたその少女に対して笑顔を返す。
「ええ…ですから…勇者様に…ご忠告を申し上げに来ましたの…」
急に真剣な表情に変わり、スザクの手をぎゅっと握った。
杖をもったまま、スザクの手を握るものだから、杖についている無数の飾りが手に当たり、結構痛い…
心配そうに行っている表情とは裏腹に…その手の力の込め方は…『絶対に逆らうなよ!』的な何かを感じた。
「忠告…?」
少し顔をしかめながらも…尋ねる。
相手の少女は表情は相変わらず可愛らしい笑顔だが…スザクの手を握っている両手からは…殺気にも似たようなものを感じる。
「はい…。私はナナリー…あの、『魔王ルルーシュ』の事をよく知る魔術師です…」
自己紹介されて、スザクも慌ててナナリーと名乗った魔術師に自己紹介する。
「えっと…枢木スザクです…。とある村で…『恐ろしい魔王を捕まえてくれる勇者募集!』って云うのをやっていて、何故かスカウトされて…で、現在、『雇われ勇者』をやっているんですけど…」
正直に経緯まで話してしまった後…目の前の少女は大げさに驚いた表情を見せた。
「まぁ…そんな理由で…ここまでいらしたのですか?」
一生懸命心配そうな表情を作っているが…『そんな理由でいらしたのですか?その程度の覚悟で『魔王ルルーシュ』に会おうだなんて…なんて身の程知らず…』と云う表情も垣間見える。
「あ…それに、『魔王ルルーシュ』を連れて帰れば…僕、賞与と昇給が約束されていて…。僕…今でこそ、旅人をやっているんですけど…やっぱり将来は、幸せな結婚して、子供は男の子と女の子一人ずつ…4KDK庭付き一戸建て…なんて…。でも、結婚する川には自分が甲斐性のある男になって、頼れる男にならないといけないなって…」
とまぁ、『勇者』らしからぬ発言に…目の前の少女から殺気に似たオーラが消えた。
そのオーラは…『呆れモード』となっていた。
「あなたは…そんな事の為に…?」
ナナリーが呆れ口調で尋ねると…今度はスザクの方が拳を握って力説を始めた。
「何を云っているんですか!大好きな人と結婚して、幸せな家庭を作る!平凡な幸せかもしれないけれど…今のご時世…とっても難しく、遠い夢なんですよ?その夢の為になら、僕は…勇者にだってなります!英雄にだってなります!これから見つけるであろう…僕の大好きな人との幸せな将来の為に!」
そこまで云い終えると、握っていた拳は…フルフルと震えていた…
この『雇われ勇者』…どうにも、幸せな結婚と4LDK庭付き一戸建てが彼にとってとても重要なキーワードらしい…
そんなに平凡な幸せが欲しいなら…何故旅人なんぞをやっていたのか…などと聞いたら…きっと彼は力いっぱいこう答えるに違いない…
『僕の運命の人を探す為に!』
と…
『勇者』のくせに、やる気のかけらも見えない訳である。
まぁ、賞与や昇給に関してはとても執着を持っているようなので、全くやる気がないとは云わないのだが…
それに、こうして聞いていると、『魔王ルルーシュ』の予備知識が何一つないよに見える。
「えっと…スザクさん…でしたね?一つご忠告しておきますわ…。もし、『魔王ルルーシュ』を目の前にしたら…きっと、あなたは運命の相手を探す事が出来なくなります…。悪い事は云いません…。幸せな結婚と家庭、4LDK庭付き一戸建てを望むのでしたら…今の内に引き返しなさい…。なんでしたら、ちょっときつい仕事かもしれませんけれど…時給のいいお仕事を紹介して差し上げますから…」
ナナリーの言葉に…
「あ、でも、僕を雇った村長さんには軍資金だって…お金も貰っちゃいましたし、『魔王ルルーシュ』を生け捕りにして、村に連れて帰った時に、この地図と剣もお返ししなくちゃいけないので…」
一応、雇い主に対する義理を見せるが…さっきまで『うまくいかなけりゃ持ち逃げしてやる』つもりだった事は完全にスルーである。
「ま…そんな事でしたら…私がお返ししておきますし…。と云うか、なんてやる気のない『勇者』様なのでしょうか…」
殆ど呆れているような口調で言うのだが…スザクにしてみれば、ホントの事なので、完全にスルーしている。
「あ、すみません、ご忠告頂いたんですけれど…とりあえず、行くだけ行ってみます…。まず、あの広場に行って、『カレン』さんと云う踊り子を探さないと…」
そう言って、ナナリーが『待ちなさい!』とスザクを止めようとしたのだが…スザクの方はマイペースに進んで行く。
そして、広場でミレイから教えられた『カレン』と云う踊り子を探した。
すると、意外にもすぐに見つかった。
というのも、どうやら、彼女は人気の踊り子の様で、現在サイン会をしていた…
―――別に欲しくないけど…この最後尾に並べば、あの踊り子に直接話が出来るんだな…
と、見ていて微妙にうんざりする行列の最後尾に並んだ。
なんだか、自分が浮いているように見える様な行列に並ぶ。
そして、サインを書いて渡しているカレンと云う踊り子…どんな相手に対してもニコニコと笑っているのだが…結構引き攣っている笑顔だと云うのが解る。
―――こう言う職業も大変なんだろうなぁ…
スザクの中ではそんな感想くらいしか思いつかないが…
とりあえず、自分の順番を待つ。
そして、どのくらい待ったのか…やっと自分の順番となった訳だが…
「えっと…」
「なんでしょう?サインをお渡しする時に握手はしますよ?」
にこりと…張り付けたような笑顔を見せた彼女に対して…既に待ちくたびれていて、空気を読むとか、そんな事に気を回していられず…
「あ…あの…このマーケットの『ミレイさんのお店♪』と云うところで、カレンさんに力を貸して貰える…って聞いてきたんですけど…」
「え?何それ…。また、ミレイさん、『魔王ルルーシュ』をとっ捕まえに来た『勇者』様で遊んでいるのね…」
「え?遊んでいるって…?」
カレンの言葉に、スザクがまたも驚きの声を上げる。
今日…何回目の驚きだろうか…
とにかく、色々と驚かされる忙しい日だ。
「まぁ…いいわ…。とりあえず、入口までは案内してあげるわ…。えっと…とりあえず、『ピザ』、Lサイズを10枚、用意して行ってね…」
「ピザ???」
「うん…『魔王ルルーシュ』に会う前には…それなりの試練があるからね…。それを突破するのに必要なアイテムなの…」
一体、何がどうなっているのか…よく解らない状態で…
『ミレイさんのお店♪』でピザを10枚調達し、カレンについて行く事になる…
「さ、ここが入り口よ…。まぁ、あんたがどこまで頑張れるかは知らないけど…。『魔王ルルーシュ』は、ピザがあんまり好きじゃないから…彼に会う前にはちゃんと消費しておくのよ?でないと、色々大変だから…」
その言葉だけ残され、手には、ピザと地図、腰には金貨の入った小さな袋と胡散臭い伝説の剣…そんな装備で…空飛ぶ城の入り口と云う、召喚円の様なサークルに入ると…不思議な光が放たれ…スザクの身体は城の中へと吸い込まれて行った…
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