現在、『魔王ルルーシュ』の生活は…その時から激変している。
と云うのも…『素敵なお嫁さんを貰って、4LDK庭付き一戸建て男の子一人、女の子一人に囲まれた幸せな生活を築きたい』と云う、立派な夢を持った『雇われ勇者』スザクが居座っているからだ。
「美味しいねぇ…ルルーシュの作ったご飯…。ルルーシュなら絶対にいいお嫁さんになれるよ!僕が保証しちゃう♪」
と云いながら、この城の主であるルルーシュお手製のご飯を堪能している『雇われ勇者』のスザクである。
「お前…ここに一体何をしに来たんだ…」
「一応、君を捕まえて村に帰らなくちゃいけないんだけど…もういいや…。ここで暮らす…」
いかにも能天気な返事に…今では既に怒る気すら失せている。
いつもなら、
『あなた様の奴隷にして下さい!』
と、自分を捕まえに来た筈の『勇者』に土下座されて…
『お前の○○が好みじゃないから帰れ…』
その一言で大抵一蹴できるのだが…
今回はどうも、ルルーシュの中にある経験とか、計算とか通用しない相手らしい…
ちなみに、『○○』と云うのは、その時の状況に応じて適当に変えているのだが…
ルルーシュの目の前にいるスザクは…そんなやり取りを一切なくて…
「おい!ルルーシュ…」
不機嫌そうにスザクが『ミレイさんのお店♪』の『マジック・ピザ』10枚渡した、C.C.がルルーシュを呼んだ。
スザクは…ここには二人しか住んでいない事に気づいて…
「あ、ひょっとして、君たち…夫婦?」
などと尋ねてみると…
「ああ…そうだ…。いい加減お前は帰ってくれないか?こうしてお前に居座られると私とルルーシュが二人きりになれないじゃないか…」
C.C.がそう答えると…今度はルルーシュの表情に『このアマ!』と云う感情が出て来る。
「C.C.!お前…何嘘言っているんだ!」
「あっさりばらすな…ルルーシュ…。少し、遊びたかっただけじゃないか…」
この二人のやり取りを見ながらスザクはすくっと立ち上がる。
「大丈夫!C.C.…あなた程度なら…僕、ルルーシュの心を僕に向けて見せますから!勿論、『奴隷志願者』としてじゃなくて、僕を『ルルーシュのお婿さん』として!」
力いっぱい…しかも、完全にルルーシュとC.C.がデキているという誤解のお陰で異様なやる気満々オーラを出している。
「スザク…頼むから…その誤解は取っ払ってくれないか?ついでに、俺はお前を俺の『婿』と認める気もない!お前が来てから、この『魔女』がお前をおもちゃに俺で遊ぶ事が増えた!とっとと帰ってくれないか!」
ルルーシュが疲れたようにスザクに訴えるが…スザクの方は完全にルルーシュの意思を無視したような口調は変わらない。
「じゃあ、ルルーシュ…僕が4LDK庭付き一戸建てを手に入れるまで、一緒に旅してくれる?僕の実家…僕が度に出てから3年も帰っていないから、廃墟になってるだろうし…」
ルルーシュは完全に『人の話を聞け!』と云うオーラを全開にし、C.C.は楽しそうにこの二人のやり取りを見ている。
いつも、ルルーシュが冷たい眼差しで『帰れ!』の一言で帰って行く『勇者』たちとは違っているようだ。
正確にいえば、ここに乗り込んできた『勇者』がルルーシュ好みの人間になろうと(殆ど無駄な)努力を積み重ねにこの城を出て行くのだが…
何人かは、たまに忘れた頃、戻って来るのだが…
それでもパターンは同じ…
スザクが来てから、こんなやり取りばかりだ。
「おい!スザク…また、『ミレイさんのお店♪』の『マジック・ピザ』を買って来てくれないか?代金はルルーシュのカードでいいからな…」
C.C.がスザクに云っているが…
スザクの方とは云えば…
「また?僕…そろそろ、あの村ですっごい有名人で、『ミレイさんのお店♪』まで行くの…大変なんだけど…。それに、なんで僕?ルルーシュに作って貰えばいいじゃない…」
ルルーシュは確かに『ピザ』はあまり好きではないようだが…C.C.を放っておくとロクな事をしないので、たまに、世界で一番美味しいのではないかと思うような『ピザ』を焼いている。
「しかも…なんで、ルルーシュのカード?『魔王』と一緒にいる『魔女』権限で強奪してこられないの?」
『勇者』のくせになんだか凄い事を云っている。
「お前…本当に『勇者』らしくないな…」
ルルーシュの一言にスザクがぱぁぁぁっと表情を明るくする。
何せ、ルルーシュは中々会話をしてくれないし…口を開けば『帰れ!』の一点張り…
そうじゃない言葉を貰うとスザクとしては凄く嬉しくなってしまうのだ。
「だって…所詮は『雇われ勇者』だし…。元々旅に出たのだって、『理想のお嫁さん』を探す為だったし…。そうしたら、こんなところで『理想のお嫁さん』に出会えたし…」
スザクが幸せいっぱいな顔で語り始める。
「だから!俺は男だ!『嫁』にはなれん!」
ルルーシュがスザクのこのふざけた言葉に対して力いっぱい返す。
「おい…スザク喜べ…。ルルーシュがルルーシュを捕まえに来た『勇者』の中でお前ほどこいつの表情を崩した奴はおらんぞ…。まだ、あの、『元気100倍ドリンク』を使っていないんだろう?そろそろ使ってみたらどうだ?」
二人のやり取りに更に火に油を注ごうとC.C.がスザクに助言(?)する。
「でも、あれって、催淫作用があるんでしょ?それって…なんだか『合意』の上っぽくないからさぁ…。どうせなら僕、ルルーシュがその気になってそれこそ、僕の寝込みにベッドにもぐりこんで来てくれるくらいになってからの方がいいなぁ…」
二人とも、スザクがC.C.の言葉に悪乗りしているのか、それとも本気でそんな事を云っているのか…解らなくなる。
「しかし…ルルーシュがそんなに素直に行動に移せるとは思えんぞ?『魔王』の名を継ぎながら…未だに人間を攫った事すらなくて…ただ、こいつを捕らえに来る連中が片っ端から『奴隷志願者』になってしまうものだから…妙な伝説だけが出来てしまっているがな…」
確かに…実際のルルーシュを見ていると、C.C.の云う通りである。
ここに入り込んで、居座って、約1週間…。
ルルーシュにどんな恐ろしい魔術があるのかと思えば…
人間の目を見ながらでないとかけられないと云う、『絶対遵守のギアス』とか云う特殊能力…。
ちなみにスザクはルルーシュに追い出されそうになった時、
『僕…君と一緒にいられないなら…ここから飛び降りてやる…。僕、(一応)人間だから…この高さから飛び降りれば確実に地面に叩き付けられてこの下で僕の身体…ぺしゃんこになっちゃうよね…。さっき食べたものとか…全部吐き出す事になりそうだし…。飛び降り自殺ってすっごい後始末大変だっていうよね…』
などと云ってのけて…その時ルルーシュはうっかりスザクに対して『絶対遵守のギアス』を使ってしまった。
『ダメだ!生きろ!』
と…
この『絶対遵守のギアス』とは…一度かけた人間にはかからないらしく…
このやり取りを知ったC.C.が腹を抱えて笑っていた。
結局そんなやり取りもあってスザクは居座ったままなのだ。
ルルーシュ自身、
―――俺はなんであの時…こいつにあんな『ギアス』をかけてしまったのだろうか…
と未だに悩んでいるところだ。
しかし…最近の食卓はたいへんにぎやかになったと思う。
無愛想な魔女と二人きりで暮らしていると…何とも退屈な日々を送る事になる。
なんと云っても、この魔女、居候のくせしてやたらと態度はでかいし、色々と注文が多い。
時々、うっかり、このへんてこな自称『雇われ勇者』のやっている事を見ていると楽しくなっているが…
それでも…
―――俺は…『魔王』だ…。『人間』如きにうつつを抜かしている場合じゃない!と云うか、俺は、世界を手に入れる為に手の込んだ事をしてきたのに…最近では、俺の行く先々で俺の『城』が観光名所となって、商売に使われ…『魔王ルルーシュ』関連のお土産まで出来やがる!こんな事ではダメだ…何とかしなければ…
とは思っている。
思ってはいるが、今のところ、やることなす事裏目に出ている。
と云うか、『奴隷志願者』な『勇者』が続々と集まってきて…いい加減にして欲しいと思っている中、とにかく自分の計算外の事ばかりをしでかす居候が二人に増えた。
C.C.の考えている事も元々よく解らなかったが、とりあえず、たまにピザを与えておけば大人しいし、手伝いもしないが、邪魔も(あんまり)しない。
しかし、スザクの場合…云っている事が『本気』なのか、『冗談』なのか、判断しにくい。
あの時…飛び降りると云ったときだって、目は真剣だった。
ルルーシュはあの時思わず、スザクの『4LDK庭付き一戸建て』の夢はそこまでしてつかみたい夢だったのか…と、自分の言動をちょっぴり反省したくらいだ。
しかし…『ギアス』をかけちゃった後のスザクは…とにかくマイペースでルルーシュに対して『僕のお嫁さんになってくれなくちゃいやだ!』な発言を繰り返しているのだ。
ルルーシュは今になって、『世界の大部分で勢力をふるっている人間とは…ここまでめんどくさいものなのか…。世界を手に入れるの…やめちゃおうかなぁ…』などと考え始めている。
そうして、今日も3人で夕食のテーブルを囲んで団欒しているのだ。
そう言えば、C.C.と二人きりの時には、同時に食事のテーブルに着いた事など…多分数えるほどしかなかった事に気がついた。
「スザク…お前…いつまでここにいるつもりだ?」
いつものようにルルーシュがスザクに尋ねてみる。
いつもの会話だからいつものように『ルルーシュが僕のお嫁さんになってくれるまで…』と云う答えが返って来るものとばかり思っていたのだが…
しかし…今日は…ちょっと違ったらしい…
「う〜ん…どうしようかなぁ…。いつまでも居候ってる訳にも行かないし…。このままじゃ僕、無職だもんね…」
ルルーシュの予想もしない答えが返ってきた。
ルルーシュが一瞬表情を変えた。
スザクは気付かなかったのか、ルルーシュの作った夕食を堪能している。
しかし、C.C.はそんなルルーシュに気づいたのか…くすりと笑った。
C.C.の気持ちとしては、
―――この可愛くない魔王さまも…実は可愛いところがあるじゃないか…
そんな感じだ。
そんな気持ちを抱いているC.C.に気づいたのか、ルルーシュはキッとC.C.を睨みつけた。
この辺りは長い事共に生活している者ゆえ…なのか…
どの道、今のスザクの言葉はルルーシュに対して大きな衝撃を与えたらしい。
「無職でお嫁さん欲しいなんて…云っている事が矛盾しているよね…。僕、考え方が古いのか…『亭主が稼いで、妻が家庭を守る!』って云う家庭がいいんだよね…」
続く言葉は…確かに…尤もな事を云っている。
スザクの云っている事は多分、正しいのだろうと思う…
しかし…スザクがここに来てからの生活は…イレギュラーは多いが、退屈しなかった。
村で多少、この城に入って帰ってこない『勇者』が一人いると云う噂になっているのか…
スザクが来てからルルーシュを捕まえに来る『勇者』がいなくなった。
これまで、鬱陶しいくらい押し掛けてきたのだが…
ルルーシュはそれまで、自分のところまで来た『勇者』はこの城に入り込んで1時間以内には追い帰していたのだ。
それが…1週間以上帰ってこないとなれば、それなりに話のネタにはなるだろう。
「そうか…。解った…」
ルルーシュは俯いた状態でスザクに言葉を返した。
スザクの方をちらっと見ると…スザクの方は別に何も変わらない様子で、食事をしていた。
「はぁ…お腹いっぱい…。御馳走様でした。じゃあ、僕、荷物の整理するから…とはいっても、あんまりないんだけどね…」
そんな事を云いながら、スザクはダイニングを出て行き、C.C.も表情の変わったルルーシュにくすりと笑ってスザクの後に続いた。
一人残されたルルーシュは…閉められた扉を…ただ見ているだけだった…
で、一方、廊下の方では…
「ねぇ…ホントにこんな事云っちゃっていいのかなぁ…。僕、このままこのお城…追い出されるのやだよ…。まだ、ルルーシュに『お嫁さん』になって貰う約束していないし…」
「大丈夫だ…。あいつは、根っからのツンデレでな…。少しこうした刺激がないと自分の欲しいものを『欲しい』と、誰かに訴える事がプライドを傷つけると思っているカン違いくんだからな…」
スザクの言葉に、C.C.がやれやれと云った表情を見せながら笑っていた。
勿論、ルルーシュは二人のこのやり取りを知る由もない。
翌日の朝…
ルルーシュは珍しく朝早く目が覚めた…
と云うか、ごちゃごちゃ考えていて、殆ど眠る事が出来なかった。
「あいつは…俺を捕まえに来た『勇者』で…俺は…『魔王』…。一緒にいられる筈は…ない…」
そう一言呟き、ベッドから起き出した。
自分の中で…少しずつ気づき始めている…初めての気持ち…
これまで、数多くの『勇者』をその一言で追い帰していたのがウソのようだ…
でも…
「あいつは…出て行くと決めたんだ…。最後の朝だし…朝食はあいつの好物を作ってやろう…。後、弁当も…」
そうブツブツ言いながら着替えて、キッチンへと向かった。
キッチンへ行くと…いつもの光景が目に入って来るのに…なんだか…自分の知らない場所の様な…自分の居場所の筈なのに…何かが足りないように思える。
冷蔵庫を開いて…材料を物色する。
『魔王さまがお料理するんだね…。しかも、凄い絶品…』
そう言ってくれたのは何日前だっただろうか…
何を口にしてもニコニコ笑いながら『美味しい』と云ってくれた。
確かに、ずっと旅をしていたのでは、ろくなものを食べる事は出来ないだろう…
それでも…そう云って貰える事は嬉しかった。
いつも、C.C.と食事をしていたって、『お前、何さまだ?』と云いたくなるような態度ばかりを取られるし、笑えば、高飛車で斜め上な嘲笑か高笑いばかりだし、口を開けば『ピザよこせ!』だし…
これまでの『勇者』とは違うスザクに…驚かされてばかりだったが…
時には、変なイライラスイッチが入るし、けっ飛ばしたくなった事も何回あった事か…
『俺は泣く子も黙る『魔王』だぞ!』
と叫びたくなった事がどれほどあった事か…
でも…そんなイレギュラーは…ルルーシュにとって…なんだったのだろうか…と、今になって考えてみる…。
「楽しかったんだろう?お前にとって…」
後ろから声をかけてきたのは…C.C.だった…
「!」
振りかえってその声の主を睨みつけるが…上から目線な笑みを返されるだけだった。
「いいのか?このままだと、あいつ…本当に出て行くぞ?お前の他の『理想のお嫁さん』を探しにな…。あと、『4LDK庭付き一戸建て』…だったか…?」
C.C.の言葉にルルーシュの身体が震え始める。
そう…認めたくなかった…
楽しかったのだと…
でも…それを認めたりしたら…
「何か勘違いしているようだが…別に私がここにいれば、この城は維持される…。それはお前との契約だった筈だ…。行きたいなら、一緒に行けばいい…。ここにあいつにいて欲しいなら、引きとめればいい…」
「出来る訳…ないだろう…」
「なら…『喜んで』『見送って』やる事だな…」
その一言を置いてC.C.はキッチンを出て行った。
そして…ルルーシュが一人残される。
自分は『魔王』でスザクは(一応)『人間』…
しかも男同士…
「それでも…いいと云うのか…あいつは…」
ルルーシュはぐっと拳を握りしめて…意を決したようにキッチンを出た。
そして…向かった場所は…スザクの寝泊まりしていた部屋…
―――バン!
ルルーシュが乱暴にその部屋の扉を開いた。
「おい!スザク…お前は『勇者』なんてやめろ!やるなら、俺もついて行く…。『魔王』の俺が一緒にいたらお前は『勇者』にはなれないからな!」
その一言に…スザクは目を覚まし、ルルーシュを見ていた…
「あ…おはよう…ルルーシュ…」
どこか、会話が噛み合っていない状態だが…ただ…これからの二人の生活は…『4LDK庭付き一戸建て』ではないかもしれないが…それなりに楽しい事になりそうな気配である…
END
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