君を一人にさせない(後編)


「ん…」
 ふと目を覚ますと…また…知らない光景が目に飛び込んできた。
場所は後宮だ。
しかし…普通、スザクがこの後宮に招いた女たちが使うであろう部屋の様に見える不思議…
ある意味、当然と云えば当然だが…それでも、自分の地位を危ぶむ相手をこんな部屋に連れ込む事はあり得ないし、誰かに見咎められでもしたら、首謀者とされる女の立場の方が危うくなる。
―――あの男の寵妃の誰か…か…
皇子だった頃からの癖で、状況の把握は早い。
王室であればこのくらいの事はよくある話だ。
まして、あのスザクと云う王は…踊り子をやっていた時にも噂は耳に入ってくるくらい評判の少年王だった。
そんな王の寵妃の座を危うくする存在が現れたともなれば、こうした動きが出てきて当然だし、まして、王が見初めたのが、彼女たちからしてみたら、下賤と呼ぶべき旅芸人の踊り子と来れば…
―――拉致監禁はまぁ、至極当然だ…。あの場で殺さなかったのは…恐らく、露見を防ぐ為…
大した薬を使われた訳じゃないらしく…すぐにその程度の思考は働いた。
しかし、頭が働いたところで、身体が動かない。
手足が縛られた状態になっているのだ…
「俺が男だと…確実にばれているな…」
今更隠す気もなかったが…と云うか、隠し通せるとも思っていなかったが…
しかし…これから拷問でもして尋問します…と云わんばかりの体勢にさせられている。
尋問したところでルルーシュから何の情報も得られないのだから…基本的に憂さ晴らしでもされるのだろうと考えるが…
ここまで第三者的に自分の状況把握が出来てしまう事に、自分の過去を思い知らされる。
「あら…お目覚めですのね…」
そう云いながら部屋に入ってきたのは…美しく着飾った女だ。
恐らく、スザクに見初められて、この後宮に入った女の一人…
「……」
「ホント…陛下ったら…こんな踊り子など…どこがいいと云うのでしょう…。ただ細いだけで面白みのない身体…。それに…男だなんて…」
確かに見る限り、目の前の女はふくよかな胸を持ち、女性が持つ身体のラインのはっきりしている身体をしている。
いかにも男が喜びそうな容姿だ…
しかし…自分が皇子であったとしてもこんな女は、飽きるまで抱いて後はお払い箱だ…
客観的にそんな風に分析する。
正直、天井からつるされ、ギリギリのところで床に足を付けている状態なので、結構身体が痛い。
踊り子として舞を舞っていたのだから、普通よりも体はやわらかいのだが…眠っている間もこうした状態でいさせられているのだから、当然、身体中が痛んで来る。
「さて、かの者たちにこの者を引き渡す前に…少々私からお仕置きをして差し上げますわ…。下賤の身でありながら…私にこのような屈辱を味わわせて下さった事に対する…」
女の言葉になんだか余りに陳腐な小説を読んでいるような気分になるが…しかし…最初に出てきた『かの者たち』とは…
「かの者?」
「ええ…お前がいた、あの…『オウギ一座』とか云う…。お前は大層見事な舞を舞うそうだけれど…私はあの席にはいませんでしたの…。だから、私にはお前の価値など解りませんし…」
女がそこまで云った時…女の後ろにあった扉から出てきたのは…
「座長?」
ルルーシュを売り払った筈の男がそこに立っていた。
「悪く思わないでくれ…ルルーシュ…。今のあの一座を守る為には…」
目の前に立つ男の言葉も表情も…まるで信じられない…
ルルーシュのその表情を見て女がころころと笑いだす。
「まぁまぁ…これも私から陛下を奪おうとした罰ですわ…」
そう云いながら女が鞭を持ち、ルルーシュへと向けて振り下ろそうと構えた。
ルルーシュがその衝撃が来る事を覚悟して、ギュッと目を瞑った時…

 その痛みがルルーシュに伝わってこなかった…
代わりにルルーシュの足元にドサッと誰かが倒れる音がして…目を開くと…
「ろ…ロロ!」
ルルーシュが驚いてその、少年の名を呼んだ。
「まぁ…下働きのくせに…私の邪魔をすると云うのですか…。おどきなさい!」
「いえ…どきません…!この方のお世話をするよう僕は国王陛下から御命令を受けています…。この方に傷一つつける事は…僕が陛下の御命令に背く事になります!」
そう云って、ロロが立ち上がってつるされている状態のルルーシュの前に立ちはだかった。
「ロロ…どけ!君が俺をそこまでして守る義務はない!」
「いえ…これは、ルルーシュ様のお世話役を仰せつかった僕とナナリーの責任です…。大丈夫…もうすぐ…ナナリーが国王陛下を呼んでここに来ますから…」
「そんなに痛い目に遭いたいのなら…望みどおり、お前から『お仕置き』して差し上げますわ…」
そう云いながら女がこれまでのうっ憤を晴らすかのようにロロに鞭を振りあげる。
その姿を見ながら…ルルーシュが『やめろ!』と叫び続けているが…
ナナリーが呼びに行った筈のスザクがなかなか来ない。
一体どれほど叫び続けただろうか…
自分に無理矢理関わらされた事で…目の前の少年が…
もう…叫び過ぎて声もかすれている…
「もう…やめてくれ…。そんなに俺が憎いなら…俺に鞭を振るえばいい…。罪のない者に…こんな真似…」
「踊り子ごときが…随分と偉そうに仰るのね…。それに…その首のチェーン…。まぁ、いいですわ…。ならそろそろその者の代わりにお前を…」
女がそこまで云った時…この部屋の入口が開く音がする。
この後宮でノックもせずに女の部屋に入って許されるのは…ただ一人…
「私のいないところで…随分勝手な真似をしてくれているな…」
その声は…国王であるスザクのものであった…
そして、その女の前まで歩いて行くスザクの腕には…長いスカートが血に濡れて、ぐったりとしたナナリーがいた。
「ナナリー!」
ルルーシュがその姿を見てかすれた声でナナリーの名を呼ぶが…ナナリーは目を閉じたまま動く事はなかった…
ルルーシュが怖くなってガタガタ震え始めるが…スザクはそんなルルーシュを見て優しく微笑んだ。
「大丈夫…。何か、薬を使われたみたいで…それでも、頑張って僕のところに報告しに来ようとして…薬で眠ってしまわないように…足にナイフを刺してきたんだよ…。で、報告したら力が抜けちゃったみたいで…。命に別状はないし、怪我も大したことはないから…安心して…」
「どうして…この二人は…」
「君、彼らの不始末を庇っただろう?彼らにとって、それは…衝撃的な事だったんだよ…。元々下働きで…上の者の失敗を全て押し付けられてもおかしくない立場だったからね…」
スザクがトウドウに指示してルルーシュの拘束を解いた。
身体が痺れている状態で動きがぎこちないが…そんな事にも構わず、ルルーシュは傷だらけで倒れているロロの元へと行き、抱きしめた。
「ごめん…俺の所為で…」
傷だらけになっているロロを抱きしめてぼろぼろと涙を零している。
そんなルルーシュの姿を見て、腕に抱いていたナナリーをトウドウに預ける。
「さて、お前たちの処遇だが…」
スザクが鋭い目つきで女と…『オウギ一座』の座長を睨みつけている。
二人とも自分よりも年下の少年王の一言に身体を震わせ始める。
「お前はとりあえず、この後宮から追放する…。お前の家については追って沙汰する。そして、『オウギ一座』座長…お前は私との契約違反だな…。私はお前の云い値を払った筈だが?」

 スザクの王としての顔で…怒りを隠そうとせずに二人に視線を向けている。
スザクに睨まれてガタガタ震えている二人がルルーシュの視界に入ってきた。
自分を痛めつける為に…ロロに鞭を振るい、スザクを呼びに行ったナナリーに対して薬を使い、そして…金を受け取りながら、更にルルーシュを取り戻して金儲けを企んだ…
そんな…大人たちの姿が…目に入ってきて…ルルーシュ自身…ただ、目を伏せるしかなかった。
「座長…一つ、聞いてもいいですか?」
ルルーシュがふとそう口をついた。
「な…何だ…」
怯えきっている座長の姿に…ルルーシュ自身、何を思うのか…
「座長は…俺の事…決して好意的に見ていなかった…。先代の座長が俺を拾って、俺を可愛がってくれた…。だから、俺は…それに恩を感じていた…。その恩があったから…あなたにどれだけ理不尽な事を云われても…頑張ってきた…。けれど…あなたにとって…俺の価値とは…『100万$』だったのですか?」
ルルーシュはロロを抱きしめて、目を伏せたまま座長に尋ねる。
座長の方は震えたまま、何も言えない状況のようだ。
彼が答えられない状態であると把握して、ルルーシュは大きく息を吐いた。
「じゃあ…俺、一座に戻ります。国王に…その『100万$』を返して頂けますか?俺は…ここにいてはいけないから…。もうあなたの目障りにならないように、一度一座に戻って、すぐに出て行きますから…」
ルルーシュは、座長の答えを聞く気もない様子で、ルルーシュはロロの身体をそっと床に置いて、ルルーシュが立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
それを見たスザクがすっと、ルルーシュの前に立つ。
「ルルーシュ?そんな事は許さないよ?それに、僕は払った金を…不良品の返品以外で受け取る気はさらさらないからね…。君は僕のものだ…」
そう云いながらルルーシュの手を引いて部屋を出て行き…出たところにトウドウの姿を見つけて、
「あの二人を確保しておいて…。あと、ロロの手当てを…」
簡単に命じてルルーシュの手を引いてルルーシュに用意した部屋へと歩いて行く。
ルルーシュの部屋に入ると…ルルーシュをソファに腰かけさせる。
そして、茫然となっているルルーシュの身体を探り始める。
何をされても…既にどうでもいいと云った感じでルルーシュ自身、特に抵抗する様子を見せない。
しかし、一通り、チェックだけして大きく安堵の息を吐いた。
「よかった…とりあえず、拘束されていただけみたいだ…」
「よかった…だと…?俺の所為で…なんで俺の為に…ロロやナナリーが…」
ルルーシュが押し殺したような声でスザクに訴える。
「何も持たないのに…俺に肩入れしたって…何もいい事なんて…」
「ルルーシュ…」
膝の上で拳を震わせているルルーシュをスザクがそっと抱き寄せる。
「ごめん…ルルーシュ…。こんな目に遭わせて…。でも、僕は君を手放して上げられない…ごめんね…。その代わり…僕は君を絶対に手放さない…。君を一人になんて…させないから…」
耳元でそんな風に囁かれて…ルルーシュの瞳から涙がとめどなく流れて来る。
そんなルルーシュに…スザクはルルーシュの過去を垣間見た気がした。
スザクがこうして『王』として存在できるのは…時間の偶然…
一つ間違えば、スザクだって、ルルーシュになっていたかもしれない…
「ね、ルルーシュ…君の…本当の名前…教えてくれる?」
スザクの言葉に…目に涙をためたままルルーシュがスザクの顔を見る。
そして、すぐに顔を伏せて…小さく…本当に小さく…その名前を紡いだ。
「ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…」

 その名前は知っている。
8年前に滅んだ帝国の唯一行方知れずとなっている皇子の名前…
後の皇族は、処刑された者、侵略者の慰み者として売られた者…様々だが…
そんな状況の中…一人、生きてきた…孤立無援の皇子…
恐らく、初めて彼の舞を見た時…普通の踊り子とは違う何かを感じたのだろう。
だから…欲しいと思ったのかもしれない…
これまでだって、綺麗な女ならいくらでも見てきた…
それでも、一目見ただけで欲しいと思ってしまった…不思議なものがあったから…
普段は決してあんな形で我儘を通した事などなかったのに…
「ルルーシュ…顔をあげて…」
そう云いながらルルーシュの顔をその両手で包み込んで上向かせる。
そして、その唇にそっとキスを贈る。
「…ん……」
次第に深くなっていくキスにルルーシュは抵抗も見せず…ただ、スザクにされるがままになっていた。
ルルーシュの身体から力が抜けて…スザクの背中に腕を回して、スザクの着ている衣をギュッと掴む。
スザクはそれに少々驚いたようだったが…
そんなルルーシュの身体を更に強く抱きしめた。
スザクの唇は…ゆっくりとボタンを外すスピードに合わせて、首筋、肩、胸へと降りて行く。
昨夜の様な…力でねじ伏せる様な愛撫ではなく、優しく…壊れものを扱うような…
「あ…あ…」
スザクのそんなルルーシュに対する愛撫に何が起きているのか解らないと云った表情で途切れ途切れに声を漏らす。
「ホント…君…強くて…綺麗で…。君が…好きだよ…僕は…」
スザク自身、『王』の立場となってから、これ程自然に『王の仮面』を外している事は珍しい。
既に、『王』としての立場でいる時間の方が長くなっていたから…
「お…俺…は…」
慣れない感覚に戸惑いながらルルーシュが何かを云おうとするが…
それでも、スザクの与える刺激に阻まれる。
スザクがルルーシュの胸の飾りを強く吸い上げると…強い刺激に身体を弓なりに反らせる。 「ひ…ぁ…ああ…」
今は…ルルーシュに拒まれるのが怖くて…スザクはルルーシュが云おうとしていた事を封じ込める。
正直、ルルーシュを手に入れる為に手段を選ばなかったし、実際にルルーシュには怖い思いも、イヤな思いもさせているから…
確かに、ルルーシュは『金』で買ったが…正直、スザクの中でそんなつもりはなかったのだから…
ただ…あの一座の座長が気に入らなくて…そして、ルルーシュが欲しかったから…そして、あの座長から引き離したかったから…『金』と云う手段を使っただけだ。
他に方法があればそちらの方法でもよかった。
「ルルーシュ…今日は…僕が君をイカせてあげるから…」
そう言うと、ルルーシュのスラックスを下着ごと脱がして、完全に萎えているルルーシュのソレを口に含む。
やわやわと口の中で刺激を加えてやると…少しずつ熱が帯びて来る。
「ひ…イヤだ…やめ…国王!」
スザクはルルーシュの『国王』と云う呼び方に…少し苦笑を洩らすものの、ルルーシュの訴えは完全却下する。
「はっ…やぁ…はな…せ…」

 部屋の中には淫猥な水音と、ルルーシュの喘ぎ声だけが聞こえる。
「ルルーシュ…好きだよ…だから…怖がらないで…」
子供をあやすような言葉を繰り返してくるスザクに抱きついているルルーシュだったが…
すっかりスザクの行為に飲み込まれ、既に思考があやふやとなっている。
もう…スザクのする事に抵抗する事も出来なくなっていた。
「ふ…ふぁ…ああ…」
大切に…大切に触れて来るスザクの指や舌に翻弄されながら、抵抗らしい抵抗もなくなり…今は、喘ぎ声を上げる事しか出来なくなっている。
「ルルーシュ…」
スザクに耳元で名前を呼ばれるだけでピクリと反応する身体が…自分でも信じられないが…
それでも…ルルーシュは自分自身がスザクを受け入れている事を知る。
「国王…最後…まで…」
やっとの思いでルルーシュがスザクに訴える。
痛みを伴う事は恐らく解っている筈なのだが…
「ダメだよ…まだ…。君のここでは…君自身は痛いだけになる…」
「かま…わない…。ロロは…ナナリーは…もっと…いたか…った…はず…」
ルルーシュの一言にスザクは大きくため息を吐いた。
「ダメだ…。ルルーシュに傷を付けるのは…僕自身でも許さない…。だから…君のおねだりでも、それは聞いてあげられない…。それに…彼らが命がけで守ろうとした君を…君自身が傷つけたら…二人の頑張りが…無駄になる…」
そう云って、スザクはルルーシュの身体に更なる快楽を与えるべく刺激を与える。
「!!」
「だから…今は…僕だけを見ていればいい…。大丈夫…この快楽に身を任せていれば…きっと、イヤな事を思い出す余裕もなくなって…眠ってしまうから…」
そう云いながら、ルルーシュの屹立を握っている手に力を込めて上下に動かし、放出を促す…
「や…やぁ…ひぁ…ああああっ…」
いっそう大きな喘ぎと共に、ルルーシュの白濁は放出され…そのまま…スザクの腕の中に倒れ込んで行った。
そんなルルーシュを…スザクはただ…黙って抱きとめ、汗に濡れた髪を撫でていた…

―――俺は…もう皇子じゃない…
でも…皇子と云う枷は…今も俺を縛り付けている…
この男は…俺の正体を知って…それでも、俺自身を見ている…
そんな気がした… それが気の所為であるのか、そうでないのか…まだ解らないけれど… でも…これだけは解る…
この男の腕の中は…とても…温かい…


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