スザクは…『ゼロ』としてでなく、スザクとして…C.C.から話を聞く事にした。
これから…ルルーシュがたどるであろう運命を…
「なんだ…あれ程あのルルーシュと接触する事を拒んでいたのに…」
相変わらず高飛車な態度と不遜な口ぶりは健在だった。
スザク自身、別にそんな事を気にするでもない。
彼女自身、スザクが何を考えてルルーシュを避けていたのかを知っていたから…
「僕は…ルルーシュと約束したんだ…。この世界の為にすべてを捧げると…その約束を違えるんだ…。あの、生まれ変わったと云うルルーシュの事、『コード』の説明を受ける義務があるし、権利もある…」
スザクにしては論理的に訴えてきていると…C.C.はふっと笑うが、すぐにその笑みは消え、深刻そうな表情を見せる。
「正直、あの不完全な『コード』をあのような形で継承させてしまっているからな…。私自身、どう変化していくかは…よく解らない…。このまま、普通の人間として生き、死んでいけるのか…それとも、不完全な『コード』が修復され、ルルーシュを不老不死にするのかは…」
C.C.の言葉にスザク自身怒りを覚えるが…それでも…そうしなければ、不完全な『コード』が世界に与える影響も解らないとなると…確かに、今ある現実を最善として受け止めるしかない。
「じゃあ、僕にかけられている『生きろ!』という『ギアス』はどうなる?」
「それは…ルルーシュの『コード』継承と関係があるのか?」
「僕にとってはある…。もし、ルルーシュが本当に『コード』を継承した時…今度こそ…僕は…」
スザクは自分自身でも笑ってしまう…
あれだけの覚悟を持って、ルルーシュの胸を刺し貫いたと云うのに…今になってルルーシュが目の前に現れると…その存在をどうしても守りたいと…今度こそ…すべてをかけて守りたいと…あの時の覚悟は何だったのかと思う程あっさりと気持ちが揺らいでいる。
「まぁ、その『ギアス』は今でも有効だ。今、私がお前を殺そうと知れば、お前はお前の持てるすべての力を持ってお前の身を守るだろうな…。しかし、それは、ルルーシュを守ろうとした時にも発動される…。それに、お前の肉体に限界が来れば…お前は…。ルルーシュのあの『ギアス』は『コード』とは違う…」
C.C.の言葉に…スザクは肩を落とす。
「今のところ、ルルーシュに継承させられている『コード』は存在している…。ルルーシュの中で…。あいつをあの姿にしたのは、お前がルルーシュを貫いた翌日だ。そのあと…私と二人だったからな…。普通の赤子なら死んでいてもおかしくない環境もあった。それはそうだろう…世界は大混乱のさなかだ…。だから…私はここに連れてきたんだ…」
「なら…C.C.…」
スザクは何かを決したように口を開いた。
C.C.自身、スザクが何を考えているのか…解っていたのか…そのスザクの言葉にふっと笑った。
それから…5年が経ち…周囲の心配をよそに、ルルーシュは健やかに育っていった。
問題があるとすれば、周囲の人間の溺愛ぶりだろう。
ナナリーは勿論、シュナイゼル、コーネリアまでが暇さえあればルルーシュを構う。
スザクも、『ゼロ』の正体を彼に話し、そして、時々仮面を外した状態でルルーシュの傍にいる事も増えてきた。
「シュナさま…こんなにたくさんのようふく…ルルひとりではぜんぶきられません…」
シュナイゼルはルルーシュに与えられている離宮に訪れるたびに、
『ルルに似合いそうだからね…』
と、子供服を持ちこんでくる。
それも、シュナイゼルが外交で訪問した国で見つける度に大量に持ち込んでくるものだから…使用人たちは、ルルーシュの離宮を『衣裳部屋』と揶揄するようになっていた。
実際に、ルルーシュの離宮の客間は既に2部屋ほどルルーシュ用の衣装でつぶされているのだ。
「ネリさま…こんなけん…ルルはまだもてません…」
と、ルルーシュに云われるのは、武人であるコーネリアだった。
まだ、5歳の子供に一流の剣職人に作らせた実戦用の剣を最近では持ちこむようになっていた。
ルルーシュも皇子として、剣の腕を磨かなくてはならないと、コーネリアに指示を仰ぐようになり、確かにルルーシュの生まれ変わりと云うだけあって、飲み込みはあまりいいとは言えないが、それでも、力いっぱい向かってくるルルーシュに目を細めているコーネリアの姿を目撃されるようになっている。
とどめは…ナナリーである。
流石にブリタニアの皇帝と云う立場もあって、中々忙しい彼女はルルーシュに会いに来る事が出来ない。
しかし、ルルーシュの生まれ変わりと云う事もあり、ナナリーはある事に気がついた。
―――お兄様はコンピュータ関連にとてもお詳しかったから…ルルにも教えればきちんと覚えて、ちゃんとコミュニケーションをとる事が出来るわ…
そう考えて、世界有数のコンピュータ会社に依頼して、ルルーシュ仕様のパソコンを開発させた。
そして、ナナリーが世界のどこにいてもルルーシュと顔を見て話せるように、パソコン知識を覚えさせた。
流石はルルーシュの生まれ変わりと云おうか…すぐにマスターし、今では毎日ルルーシュを溺愛するナナリーの顔を見ながらコミュニケーションをとっていると云う形だ。
しかし…結局はルルーシュの生まれ変わりと云うべきなのか…
最終的に一番懐いた相手は…
特に、彼らのように必死になってルルーシュとの接触を試みている訳でもなく、ご機嫌取りをしてプレゼント攻撃をするでもないのだが…
この時、ナナリーは思った…
―――あの時…あのまま、お兄様との約束を守らせておけばよかったのかしら…
そんな、ルルーシュを中心にお祭り騒ぎとなっているブリタニアの王宮に…ある国の首相が訪ねてきた。
随分以前から再三の面会の希望を出されていたのだが…
ナナリーの個人的な感情も交じっていないとは言わないが、現在のその国に対する信用ははっきり言って、皆無に等しい。
シュナイゼルやコーネリアに相談したとしても、彼らと会う事を賛成はしなかった。
彼らの目的は解っていたし、現在の彼らの要請を受け入れられる程、ブリタニアも余裕がある訳ではない。
必要なところには援助の手を差し伸べるし、相手が裏切る事のない相手であればその言葉も信じる。
問題は…『ゼロ』…否、枢木スザクの祖国の代表である…と云う事だ。
ある時、ルルーシュにそんな話をしているのを聞かれてしまった。
5歳の子供とはいえ、相手はルルーシュだ。
シュナイゼルが色々かまっているうちに様々な知識を吸収していた事もある。
そして、ルルーシュは大人たちの中で一番…『ゼロ』を気に入っている。
悔しいが、そればかりは認めざるを得ない…
『かあさま…すざくの…くに…なんでしょう?ニッポンって…』
その一言で、ナナリーも困ってしまった。
それに、シュナイゼルから様々な知識を与えられているがために、ルルーシュ自身、子供ながらに色々考えているようだった。
確かに、このまま放置しておけば、日本からの再三の要求はさらにエスカレートするだろう。
そして、あの国の首相は…自分の非を認めない男だ。
その妻も…ブリタニアを裏切った…元ブリタニアの軍人…そして…
「ナナリー…ルルの言葉ではなく…一度会っておかないと…あの扇と云う男は面倒な相手だ…。確かに政治力がないのは私も認めるところだ。しかし…私の言葉一つですべての責任を『ゼロ』…否、ルルーシュに押し付けた男だ…」
シュナイゼルがナナリーにそう進言する。
「そうだな…更に厄介なのは、元『黒の騎士団』の副指令と云う肩書がある事だ…。現在の世界は『ゼロ』を英雄視している。当然、『黒の騎士団』と云う名前も大きい…。あの男が変に騒ぎ立てると、色々と厄介な事が起きてくるな…」
二人の言葉にナナリーは目を瞑って考える…。
相手がどんな話を持ってくるのかは解っている。
しかし、国の代表として、ただ、慈善活動をする訳にはいかない。
「解りました…その代わり、会談には『ゼロ』とシュナイゼル異母兄さまに同席頂きます。多少の…威圧にはなるでしょうから…」
ナナリーは静かに決断を下した。
ナナリーからの正式な返答を貰って、現日本国首相扇要はほっと胸をなでおろしたという報道がされている。
あまりに滑稽すぎて、笑う気にもならない。
「かあさま…すざくのくにのえらいひとと…おはなしになるんですね…」
ナナリーの傍らでテレビを見ていたルルーシュが尋ねる。
「ええ…ルル…あなたは本当に彼の事が好きなのですね…」
「はい…ルルは…すざくがだいすきです!」
目をキラキラさせながらそう告げるルルーシュにナナリーは複雑な思いを抱きながらも…こんなに無邪気に笑ってくれるルルーシュの姿を見て、幸せだと思った。
―――本当は…あのような時代でなければ…あんなに苦しまれる事はなかったのに…。ルル…あなたは絶対に私が幸せにして見せます…。お兄様が私を幸せにしてくれたように…
こうして、たまにある、ルルーシュと二人の時間…
つい甘やかしてしまう自分を叱責する事も多いナナリーだったが…ルルーシュもそういう意味ではナナリーを甘やかし過ぎていたと…今になって思う。
今目の前にいるのは…あの、ナナリーの兄であるルルーシュであって、そうではない。
本質的な者は同じかもしれないが…確実にあの時とは違うルルーシュになっている。
それでも…
―――優しい心は…変わらないんですね…。なんだか…ただ、素直になられただけみたい…
兄の事を忘れる事は出来ないが…それでも、ルルーシュが5歳になって、目の前にいるルルーシュが愛おしいと思う。
あの時…自分の手元に置いてよかったと…
そして、これまでにも、ブリタニアの皇帝として、辛い思いをする事もあったし、悲しい場面にも遭遇してきた。
逃げ出しそうになった時…いつもルルーシュの事を思い出した。
それは…兄ではなく…目の前のルルーシュ…
この子の笑顔を守る為なら…何でも出来る…そう思うようになったのはいつごろだっただろうか…
そう考えた時…出てくる答えは…
C.C.がナナリーの元へこのルルーシュを連れてきた時からだ…
「ルル…こっちに来てくれる?」
目は見えるようになっても、相変わらず足は不自由なままで…
「はい…かあさま…」
ルルーシュは立ち上がり、ナナリーの座っているところまで歩いて行く。
そして…ルルーシュの身体をぎゅっと抱きしめた。
「ルル…かあさまのところへ来てくれて…有難う…」
ナナリーの言っている言葉…多分、今のルルーシュには解らないだろう…
でも…きっとどこかで見ている兄には…届いている…そんな思いだった…
そして、それから1週間後…
日本の政府専用機がネオペンドラゴンの空港へと降り立った。
呆れた事に、子供連れだ…
ここは、わざわざ皇帝であるナナリーが出向くまでもないと…シュナイゼルが出迎えた。
本当なら、宰相が出て行く事すら、現在の国力を考えた時にはバランスがとれていない。
しかし、仮にも元『黒の騎士団』の副指令相手に、次官クラスの人間ではブリタニアの方が体裁が悪い。
しかし、シュナイゼルの出迎えにも扇は眉をひそめる。
―――やれやれ…『黒の騎士団』の副指令だった…と云う肩書は…君の能力ではなく、ルルーシュが与えたものだと云うのに…厚かましい限りだ…
シュナイゼルは内心そう思いながらも、一国の首相として、最大限の礼を払い、扇一家を出迎えた。
王宮にいたナナリーはその態度に対して怒りをあらわにした。
親戚の内に遊びに行く訳ではないのだ。
国家と国家の話をしに来ると云うのに…ファーストレディはともかく、子供を連れてくるなどとは…と云うのは、世界各国の評価だ。
ブリタニアから招待したのではなく、日本側から話をしたいと…そう申し出ていると云うのに…何とも緊迫感のない話ではあるが…
ブリタニア側としても、その子供をどうするか扱いに困るが…ナナリーが
『仕方ありませんから…ご両親と一緒に王宮に来て頂いて下さい…。会談の邪魔にならないようにはして下さいね…』
と、周囲の者に告げた。
こればかりは、コーネリアも『ゼロ』であるスザクも…呆れてものが言えなかったが…
相手は一国の首相だ…
こちらがきちんと必要な礼を払っていれば、墓穴を掘るのは無効である。
「申し訳ありません…こんな事でしたら…絶対に会談なんて了承しなかったのですが…」
ナナリーはシュナイゼル達に頭を下げた。
「否…私もあそこまで厚顔無恥だとは思っていなくて…。とりあえず、ルルには会わせないように気をつけないといけないね…」
流石のシュナイゼルも計算外の事で…彼らの頭の中であの、扇夫妻に育てられた子供がどんな躾をされているか解らないが…ルルーシュにとって余りいい影響を与えないだろうと云う意見は一致していた。
「では…私がルルと一緒にいよう…。異母兄上も『ゼロ』も会談に同席するのだから…。それに、ジェレミアやアーニャではあの扇の事だ…。こちらが手を出せないと解れば何をするか解らんからな…」
コーネリアの言葉に流石に背筋が寒くなるが…
世界から英雄視されている人間の息子だ…
周囲からはちやほやされて育っているのは目に見えている。
「とにかく…ルルの事は、みんなで全力で守ります…。日本側の要求もなんであるのか解っている会談ですから…恐らく、そちらの方が重要事項です。コーネリア異母姉様…ルルを…お願いします…」
ナナリーの一言に全員が頷き、それぞれの役割を果たすべく、その場を解散した。
copyright:2008-2009
All rights reserved.和泉綾