束の間に過ぎる夢…15


 カレンをはじめとする、元『黒の騎士団』全員が、トリブバーナディティ国王の晩餐に呼ばれた。
確かに…現在では過去の事実であるとはいえ、『黒の騎士団』もナナリーと共に『ルルーシュ皇帝』に対して刃を向け、この世界を守った事になっているのだ。
現在のところ、様々な思いを抱く者がいるとは云え、カンボジアの国民はその、彼らの功績を称えている者が多い。
否、国民の大半はそう思っている。
これと言うのも、先代の国王である故チェイバルマン国王が『トロモ機関』建設を正当化するためでもあった。
彼自身、シュナイゼルとは古くから懇意にしていた事もある。
恐らく、その事をもシュナイゼルに利用されていたのだろう。
カンボジアはブリタニアの支配を受ける事にはなったが、シュナイゼルのお陰で日本ほどの過酷な支配を受ける事もなかったし、王家の存続も許されていた。
それ故に、故チェイバルマン国王の治世の中でも、一部、その事に反対する勢力があり、その中で、現在の国王トリブバーナディティ国王の母は暗殺されている。
第一王子であったトリブバーナディティも、寸でのところで、彼の腹心であるプリヤ・トンの手によって助け出されている。
あの頃、シュナイゼルを見て、この男のいいなりになる事は危険と感じた者の中に当時王弟であった、スールヤヴァルマンも、当時、故チェイバルマン国王の王妃暗殺に関しての嫌疑がかけられていた。
しかし、あの時、本当に何の証拠も残らず、結局事件は迷宮入りした。
その後、紆余曲折を経てスールヤヴァルマンは兄の手によって将軍職を更迭されている。
しかし、世代が代わり、トリブバーナディティが国王に即位した時、彼は将軍職に復帰している。
周囲の目から見れば色々と何かの謀略を疑うのは当たり前だ。
トリブバーナディティは『カンボジア国民にはまだ、民主主義は早い』として、これからも絶対君主制を継続しようと唱えている。
逆に、スールヤヴァルマンは『現在の世界の国家元首たちは全ての責任を『ルルーシュ皇帝』に押し付け、自らの責任を放棄し、前に進めずにいる』として、現在のあらゆる国の国家元首たちに対しての憤りを覚えている。
確かに…双方の言い分は正しくもあるし、間違ってもいると思う…。
しかし…これを話し合いで解決するにしても…現在の『ルルーシュ皇帝の呪いと亡霊』と言う状況では…解決はなかなか難しいようにも思える。
ルルーシュは双方の話を聞いて、そんな風に考える。
先ほど、いきなり使いが来て、今日の晩餐にまた、舞を待って欲しいと言われた。
勿論、アーニャも一緒なのだが…
とりあえず、彼女が色々動き回っているようで、なかなか彼女が捕まらないと愚痴られたが…彼女に関しては、必要最低限の外出は許可されているし、本来、旅芸人風情が寝起き出来るような場所ではないのだ。

 ルルーシュは不本意ながらまたも、あの踊り子の衣装を身にまとう。 本人はそれを見ると苦笑してしまうのだが…
それでも、客観的に自分を見ている自分は…『まぁ、見れない事はない…』という程度の評価を下しているのだ。
本当なら、本物の女性が身に着けるべき衣装だ…。
「では…アラン=スペンサー…控えの間にお願いします…。アーニャ=アールストレイムもそこで準備を整えて待っておりますゆえ…」
ルルーシュに与えられた部屋に使いの者が来た。
大体、この間、ブリタニアの代表たちの前で舞っているというのに…またも、VIPな来賓でも来たというのか…この非常時に…と、ルルーシュは心の中でごちている。
大体、現在のルルーシュは恐らく、『ルルーシュ皇帝の呪いと亡霊』を排除のためにここに滞在させられている事くらいは簡単に予想がついている。
そして…それに便乗し、己の考える理想の国へと導くのだろう…。
国王にしても、先王弟にしても…確実に、この人為的呪いに関して何かを知っている。
話してみて良く解った。 そして…お互いがばらばらに動いているという事も…
使いの者がアーニャのいる控えの間にルルーシュを連れてくると…
「また…時間になったら…お迎えにあがります…」
そう云って立ち去ろうとする使いに対してルルーシュは声をかけた。
「私が王の前で舞を舞うのはあの日以来です。今日はまた…何故突然のお召しなのでしょう?」
そう尋ねて素直に答えてくれるかは解らないが…
それでも一応、『旅芸人』として尋ねてみる。
「何でも…カンボジアに訪問されていた…日本からの客人をお招きしたそうです…。彼らは公人としてカンボジアに来たわけではないようですが…それでも、あの、『ルルーシュ皇帝』と戦った方々ですから…王もいろいろとお話を伺いたいのでしょう…」
その一言で…ルルーシュは察しがつく。
「そうですか…。では…私も精一杯のおもてなしをせねばなりませんね…」
適当に返しつつ、案内してきた使いにそう述べて、控えの間へと入っていく。
すると…中にはアーニャがソファに腰掛けて何かを考え事をしているようだった。
「アーニャ…済まなかった…」
ルルーシュはまず、黙って彼女の前から姿を見せられなくなった事を謝った。

 すると、アーニャはまるでそんな事を気にしていないかのように、ルルーシュに近づいてきた。
「アラン…話を聞いて…」
「?」
アーニャの真剣な表情にルルーシュは表情を変えた。
「何があった?」
アーニャに近づいて、周囲に注意を払いながらアーニャに問いかける。
「この王宮の廊下で…トロモ機関でしか使われていなかったデータチップ…拾った…」
アーニャの言葉にルルーシュの表情が変わる。
「で、今日、ライのところに行ってきた…。そしたら…ライは、ルルーシュから命令を受けたジェレミアの命令で、あの施設は完全に破壊した筈だって…。でも…きっと、誰かがシステムを作り直して…あのデータチップを利用しているって…」
「データチップ?」
「シュナイゼル殿下が…機密漏えいを防ぐ為に、トロモ機関でしか使えないように開発した…データチップ…」
「ああ…あのチップか…」
ルルーシュはトロモ機関で捕らえた者達の持っていたデータチップを思い出した。
ルルーシュの持っている知識を駆使して、やっと、読める様にしたはいいが、中のデータは相当細分化されていて…回収したものに入れられたデータを読んだところで、とてもではないが『フレイヤ』開発が出来るような代物ではなかった事を思い出す。
「それで…ライが破壊した筈のトロモ機関の施設の跡地…その地下に入って行く人…目撃されてる…」
「!?」
流石にその一言にはルルーシュも驚きを隠せない。
「あの施設が…生きている…?」
「うん…。あの、変な病気の原因…あそこで作ってるのかも知れない…」
確かに、王宮内でこのチップが見つかった事で…この王宮に出入りの出来る誰かが、その廃墟と化した筈のトロモ機関で何かをしている者であるか、それに関わっている者であると考えられる。
「しかし…あれだけの未知の疫病だぞ?一体誰が…?」
「それは…今ライが調べている…でも…この情報…ルルーシュの役に…立つ?」
アーニャが首をかしげて尋ねてくる。
その部分はルルーシュがジェレミアの元へ身を寄せた時からあまり変わらぬしぐさだ。
「ああ…ありがとう…。でも、あまり危険な真似はするな…」
「一番危険に近いの…ルルーシュ…。捕まってるし…」
そう言われてしまうと何も返せないが…
「ごめん…。通信機も発信機も取り上げられていてな…。アーニャ…スザクと連絡はとれたか?」
「一応…。あと、カレンとも…」
アーニャの動きの速さにこの時はルルーシュも感謝した。
「そうか…なら、この晩餐会が終わったら…二人に伝えてくれ…。王宮内では気をつけろと…」
「解った…。後…アランの無事も…」
「とりあえず、時が来たら俺も動く…。あと一つ、情報が引き出せればいいのだが…」
ルルーシュは得た情報をもとに、これまでの様々な出来事の整理を始めた。

 そして…晩さん会の会場では…急に招かれた『黒の騎士団』だった者達が戸惑いを見せたり、豪華な晩餐会会場に浮かれていたり、この状況に何とか手を打たなければと考えたり…と、様々に分かれている。
ナナリーとシュナイゼルも、『ゼロ』と共に出席している。
「この状況で…なんであいつら、あんなに浮かれていられるのかしら…」
「多分…状況が理解できていないのでは…?流石に私でも、詳しい事は解りませんが…何となく、おかしな事になっている事くらいは解ります…」
「あれが、『黒の騎士団』の幹部だったとはな…」
「私たち…生きて日本に帰れるんですか?だって今のカンボジアって…」
女性陣4人の会話だ。
流石に黙って大人しく殺される訳にはいかないし、ここで、変な騒ぎが起きてもそうでなくても、国際社会の中で日本の立場は足元から完全に崩れている現在…変に問題を起こすのは得策ではない。
ここは…カンボジアの王宮なのだ。
とりあえず、犯罪行為は起こさなくても、あの浮かれっぷりと品性のなさは…恐らく日本に対しては大打撃だろう…。
国王が開いている晩餐会だ。
流石に国賓はナナリーたち以外はいないが、カンボジア国内の貴族や大臣たちが集まっている席である。
いくらなんでも、考えなしの彼らの行動に関しては、これから先の日本に対していい影響があるとは思えない。
「ある意味幸せかも知れんな…。この、危機的状況が解っていないというのも…」
「と…藤堂さん…」
彼らの様子を見て、女ばかりのこのグループに入り込んでくるのは少々、気が引けたのだが…流石に目の前で浮かれ騒いでいる連中と一緒になるなら、こっちに来ていた方がはるかにマシであると考えたのだろう…。
「でも…ここって…カンボジアの王宮ですよね?大丈夫ですか?」
「その辺りは、我々を招き入れた人物が巧妙だ…。『黒の騎士団』と『ルルーシュ皇帝』を対比させて招き入れているからな…」
確かに…こんなに簡単な手に引っ掛かる様な連中を纏め上げていたルルーシュをいっそ尊敬してしまう程に…日本からカンボジアに渡ってきた自分たちの仲間を見ていると、大きくため息をついてしまう…。
「あれは…あれで、長所なんだと思いますけれど…。TPOさえ弁えていれば…」
「つまり…ここでは最悪ってことでしょ?」
双葉とカレンのやり取りに…日向、千葉、藤堂は大きくため息をついた。

 そんなところへ、国王が近寄って来た。
「この度は…私のわがままを聞いて、この王宮にご訪問頂き、ありがとうございます…」
国王としての品のある挨拶を向けられると…まるで、格の違いを見せつけられているようだ。
実際に、見せつけられているのだが…
カレンはそんな国王を見ていて、ルルーシュが『ゼロ』の仮面をかぶって『ゼロ』を演じていた頃を思い出す。
確かに…洗練された…皇族の動きであった事は、認めざるを得ない。
「いえ…我々こそ…このような場にお招き頂き、ありがとうございます…」
藤堂が代表として挨拶を返す。
トリブバーナディティ国王は…玉城よりも藤堂がこのグループの代表であると判断したのだろう。
見た目で行けば至極当然だ…。
「どうぞ…ゆるりとお寛ぎ下さい…。ここは無礼講で行こうではありませんか…。私も…『黒の騎士団』のお話をぜひとも聞いてみたい…」
そう話を振られると…流石に玉城達と違って藤堂は戸惑いの表情を隠す事が出来ない。
しかし…彼らは元『黒の騎士団』の団員であったからこそここに招かれているのだ…。
非公式であるとはいえ、相手は、カンボジアの代表たる国王だ。
その辺の礼を弁えられなければ、向こうで大騒ぎしている連中と同じ事になる。
また、ここできちんとした受け答えが出来なければ、さらに日本の国際的立場は危ういものになるのだ。
しかし、藤堂はつい考えてしまう…
―――扇はともかく…神楽耶様をお連れ出来れば良かった…
しかし…それは、現在のカンボジアを情勢を鑑みた時、それは叶わぬ事である事は理解できている。
こんな状況のカンボジアに…キョウト六家の最後の生き残りであり、日本の象徴ともいえる神楽耶を…こんな危険な場所に連れて来る訳にはいかない。
藤堂もこの騒ぎに関しては、色々と思うところがある。
そして、こうして、目の前にいるメンツを見たとき…嫌な予感しか浮かばない。
そんな事を考えていると…
「ああ…そろそろ準備ができたようです…」
「準備?」
「ええ、先ほどお話しした、この王宮に滞在させている『旅芸人』達の舞を…どうか…お楽しみください…」
最後の方だけ…何か含みのある笑みを見せて、国王が自分の席である玉座へと向かっていく。
そして…晩さん会を開いているホールの玉座から見て正面の扉が開かれた…
そこに立っている…二人の『旅芸人』の姿を見て…これまで浮かれて騒いでいた玉城達さえも声が出なくなった…
しかし…カンボジアの情勢を考えたとき…その名を口にする訳にはいかない…
カレンはその姿に目を見開いた。
―――ル…ルルーシュ…!?


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