王宮にルルーシュもアーニャもいる事が解っているのに…何故か、見つからない…
スザクは『ゼロ』と言う立場を使いながら、王宮内を探し回っていたのだが…
彼らが、この時期にカンボジアまで来て、王宮に乗り込んでくる理由は一つしか思いつかないからだ。
いくら、『コード』を継承して死なない身となったからと言って、この時期に、この国にルルーシュが入り込むのは無茶にもほどがある…
スザクとしてはそんな思いだ。
今のところ…ナナリーにもシュナイゼルにも危害を加えられそうな様子はない。
尤も、理由もなしにこの二人に危害を加えるような事をしたら、首を絞めるのはカンボジアの方だ。
―――この国は…絶対君主制…。ルルーシュが望んだ世界とは…違う…
『独裁』と言う言葉に惑わされ、あの時世界は大混乱に陥った。
ルルーシュが勝つにしろ、シュナイゼルが勝つにしろ…どの道、一度は『独裁』となっていた世界…。
しかし、ルルーシュは『人の意志』を尊重した世界を望んだ。
そして、ルルーシュが作り上げたのは…『独裁』ではなく、『民主主義』と言う形をとったものだ。
結果として…そうなった。
それは、『黒の騎士団』をはじめとする『反ルルーシュ皇帝』を掲げる者達が望んだ世界だったからだ。
しかし…世界には多くの思いと、多くの願い、多くの価値観、多くの希望が混在していた。
当然、『黒の騎士団』には『黒の騎士団』の…『シュナイゼル』には『シュナイゼル』の望む世界があり、彼らはそれらを同じとして集まった訳ではなかった。
ルルーシュが望んだのは、『世界』が『武力』を使わずに『話し合い』と言う一つのテーブルで物事を決め、解決する世界だった…
実際には、そんなものは、ユーフェミアの掲げた『行政特区日本』よりも遥かに現実離れした話である事は…今の世界を見ればよく解る。
そして、その中から、何としても、自国を守ろうとしている者達がいて…それぞれの想いを抱きながら…それでも、『ゼロ』が『ルルーシュ皇帝』を討って礎を作ったこの世界を何とかしようと足掻いている状態とも言える。
それは…恐らくどこの国も一緒で…
ただ…やはり…理想と現実は…遠いと思い知らされる。
現に、今、スザクの滞在しているカンボジア…この国は『絶対君主制』を守り続けている。
そして、国民自身、『民主主義』を受け入れられる状態にはないと…判断できる。
確かに政治に関して決して明るいとは云えないスザクでも、仮にも旧日本最後の首相、枢木ゲンブの息子である。
国民が国のトップに望む者が何であるのか…多少なりとも解ってはいた。
そして…今のカンボジアは…国王を中心とした政治を…望んでいる…。
国王も、それに応えるべく…できる限りの尽力をしている事はよく解る…。
一方、アーニャは王宮内を歩き回り、ルルーシュの痕跡を探していたが…
中々それらしきものが見つからないし、人に尋ねても結果は同じ…
「……」
流石に疲れを見せて、立ち止まる。
すると…何かのチップの様なものを見つけた。
「これ…何…?」
拾い上げると…どこかで見た様な…特殊なデータチップだった。
多分、アーニャがシュナイゼルの元へ来た時に…何度か見た事のあるデータチップの形とそっくりだった。
「これ…トロモ機関…で使ってた???」
アーニャ自身は、コンピュータ関係の事は詳しくないし、トロモ機関で使われていたものは、情報漏えいを防ぐ為に特殊なデータチップを使っていた。
だから、形も特徴のあるものだ。
それに、あれほどコンピュータに精通しているルルーシュでも、このデータチップを使っているのを見た事がなかった。
「なんで…こんなものが…?」
アーニャは周囲を見回し、誰もいないことを確認して、そのチップを自分の上着のポケットにそっと忍ばせた。
大体、いまだにトロモ機関の施設が稼働しているという事の証拠になりそうな代物だ。
あの周到なシュナイゼルが、こんな形で彼がトロモ機関に関わっていた頃のデータを残しておくわけがないし、残してあったとしても、王宮内に落ちているなんて事は考えられない。
恐らく…『フレイヤ』のデータではない事は簡単に予想がつく。
『ルルーシュ皇帝の呪いと亡霊』
トロモ機関に深く関わった者達の謎の死、『呪い』と呼ばれるような病気の蔓延、その病気は自然発生とは云えないような状況、ルルーシュの行方不明、そして…トロモ機関で使われていたデータチップの存在…
少しずつ、パズルのピースが見つかってきた気がしたが…
「これがあっても…中身が解らない…」
とにかく、アーニャは自室へ戻り、カンボジアでの協力者であるライと連絡を取ることにする。
ひょっとしたら、何かの手立てがあるかもしれないし、ライにはなくてもジェレミアに相談すれば時間はかかるかもしれないが、何かが解るかもしれない…
そう考えて、アーニャは王宮での滞在の為の部屋へと向かい、歩き始めた。
実際に、このデータチップの中身を読みだす事は不可能に近いかも知れない。
シュナイゼルが『フレイヤ』開発用に特別に作ったシステムだからだ。
このデータチップを読めるところは…恐らく、トロモ機関の研究所か、シュナイゼルの下くらいだろう…。
このチップの存在だけで…様々な絡み合った糸が少しずつほぐれていくような…そんな気がしていた…
そして…トリブバーナディティとその従者プリヤ・トンの手により、この王宮の東の離宮に監禁されていたルルーシュは…
「通信機も全て取り上げられているな…」
目が覚めてからした事と言えば、自分の持ち物のチェックだった。
尤も、旅芸人として入り込んでいる為、それほどたいそうな荷物を持っていた訳じゃない。
ただ、いつでも、ジェレミアやアーニャと連絡が取れるように、ルルーシュの作った特殊な通信機、発信機を持っていたが…
流石にトロモ機関があった国だけはある。
普通なら見つからない筈の通信機や発信機も見つけ出されて、ルルーシュの身体から外され、回収されていた。
「これからは…発信機だけでも、体内埋め込み式にするか…」
ルルーシュ自身は、自分がどこに連れてこられたのかはよく解らない。
ただ…王宮の広い敷地の中から出されてはいない事くらいは解る。
恐らくは…この王宮の中にある離宮の一つ…
大層立派な離宮に招かれているようである。
服も…踊り子の衣装ではなく、恐らくは、カンボジアの民族衣装だ。
「しかし…このままここにい続けると云うのも…」
現在のカンボジアがかなり複雑な状況である事は解った。
恐らく、国のトップクラスでも、国民レベルでも…世界的な『独裁=悪』と言う風潮に戸惑っている部分もあるし、ならば、『民主化』しようと考えても、どうしたらいいか解らない。
最終的に望んでいるのは…『立憲君主制』…
しかし、それをやる為には、国民がそう望まなければならない。
これまで、『民主主義』と言うのは、人々が望み、自らの血を流して勝ちとってきた者が殆どだ。
『絶対君主制』でこれまで国を支えてきたこのカンボジアで、世界の流れは『独裁=悪』となり、『絶対君主制=現代に会ってはならない』と言った風潮であり、恐らく、国際会議に出席している国王や代表者たちも頭を痛めているところであろう。
それに…『民主主義』とは、与えられるものであってはならない。
自らが欲し、自らの力で手にするものである。
恐らく、今の世界の中には『ルルーシュ皇帝』の施した『独裁=悪』と言う構図に戸惑いを隠せない国もあるだろう。
そして、『ゼロ・レクイエム』の後、よく解らないまま、『民主化』した国々での混乱状態は…確かに良く解っている。
その為に、スザクは『ゼロ』の仮面を被り、その混乱地域へ出向いている状態だ。
そう考えると…『ルルーシュ皇帝』の存在していた時の方が…世界は一つにまとまっていたとさえ思えて来てしまう…。
そう、『妥当ルルーシュ皇帝』のスローガンの下、世界は一つになっていたと言えよう。
それが…いい意味であれ、悪い意味であれ…
話し合いで物事を決め、問題を解決する…
そう云った世界を望んだ筈なのに…
結局、全ては、『ナナリーにとっての優しい世界』ばかりを考えていた結果、結局は、ナナリー自身も苦労を抱えている状態だ。
現在の国際会議の代表はブリタニアの代表であるナナリーだ。
最初のうちは、『悪逆皇帝ルルーシュ』に立ち向かった勇敢な姫として持て囃されもした。
しかし、時間が流れるにつれて、世界の価値観は次々に変化していく。
そして、その国際会議の中で思い知らされる…人々の価値観の違い…。
それらを一つにまとめ上げるなど…とてもできない事だ。>
民族も、宗教も、価値観も全て…全く違った人々が集まっての話し合いだ。
いくら話し合っても平行線のまま、話がまとまらないことだってある。
最終的には、『ゼロ』が決断を下す事になるのだが…しかし、その決断とは違う思いを持った国、願いを持った国、価値観を持った国が不満を抱かない筈はない。
確かに、『ゼロ・レクイエム』の時、『ゼロ』は世界の英雄となった。
そして、今もそれは継続しており、『ゼロ』の存在は絶対だ。
その、絶対の存在は…やがて、世界に感情のゆがみを生み始めている。
正しい事は…一つではないと云う事だ…。
同じ国の人間だって、人によって好きなものは違うし、大切なものも違う。
国の中で意見を一つにまとめる事なんてできない。
だから、国の代表たちが、その国にとって一番有益な選択をする。
国際会議の中でも、そう云った時刻にとって一番有益な選択を取ろうとするのは当たり前で…。
それを無理矢理…一つにまとめようと云うのがそもそも無理のある話だ…
「だとすると…世界から軍事力をなくし、戦争と言う悲劇を消す事は出来ないのか…?」
窓の外…広く、美しく作り上げられた庭園を見つめながらルルーシュは呟いた。
何かを求めるとき…どうしても手に入らないものを欲するとき…人は、誰かを傷つけてでも戦って手に入れようとする。
その欲するものの価値が大きければ大きいほど…人は我を忘れて欲しい何かを手に入れる為に戦う。
戦争はおろかな事だとは思うが…何かを欲するとき…人は何かと戦う。
その相手が…何であるのかは、その時々によって違ってくるが…
ルルーシュ自身、『ゼロ・レクイエム』の為に…多くの犠牲を払う戦争と言う手段を執っているのだ。
その中で…何の罪もない人々の命が消えて行った事も解っている。
「トリブバーナディティ国王は…世界と…戦っているのか…。自分の守りたいものの為に…」
ルルーシュがふっとそんな事を呟いた時…
―――………なのだ…?
どこからか解らない…と言うより…直接脳に語りかけてくるような…
以前…こんな感覚を経験した事がある。
「誰だ?」
ルルーシュは辺りを見回しその声に対して怒鳴る。
周囲には誰もいないし、何の気配もない。
―――お前の守りたいものは…一体何なのだ…?
声は違うが…これは…
「C.C.と契約した時の…」
ルルーシュがそう口の中で呟く。
あの時も…脳の中に直接流れ込んできた声と会話をしていた。
しかし、今のルルーシュは『コード』を継承し、C.C.と同じ立場だ。
それに、C.C.は自分の『コード』をスザクに託してもう、この世にはいないのだ。
―――ふっ…お前は面白い…。不老不死の身体を手に入れても…まだ…この世界に対して執着を持っているとは…
「何の話だ?それに…お前は何者だ?」
ルルーシュは警戒しながらその声に尋ねる。
しかし、その声は楽しそうに笑うばかりでルルーシュの尋ねている事になど答えようとしない。
―――普通…その存在を継承した者は…自らの不老不死を思い知らされると…この世界に対して執着を持たなくなるのだが…お前は…その執着が消えない…
脳に直接語りかけてくるその声に対して…ルルーシュは怒りとも、恐怖とも思えるような感情を抱いている。
そんな事を認めたくなくて…ルルーシュは必死にその怒りと恐怖を受け流そうとして、毅然と背筋を伸ばした。
―――恐れる事はない…。私はお前の敵ではない…。味方でも…ないが…。私はお前を見ているだけの傍観者だ…。本当なら、こんな形で声をかける事はなかったのだが…
「なら、何故俺に話しかけてきた?ただ見ているだけなら黙って見ていればいいだろう!?」
―――なに…大した意味はない…。それに、お前と私が話したところで、何が変わる訳でもない…。今の私は…その存在を継承した者たちを見守ることが務め…
「貴様…一体何者だ!?」
―――まだ教えられぬ…。時がきたら…いずれ解るだろう…。それまではまた黙ってお前を見ている事にするよ…。全ての神に愛され、全ての神から試練を与えられた…R.R.よ…
その言葉を最後に…その声が消えた。
ルルーシュはその声が消えたとたんに…緊張の糸が切れたのか…その場に膝をついた。
「一体…あれは何なんだ…!?」
ルルーシュはただ…床に手をついて、恐怖と悔しさを打ち払うかのように、その拳で床を叩き続けていた…
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