ルルーシュの目の前で…格闘ゲームさながらのバトルが繰り広げられている。
こんな近くで…しっかり拘束されている状態で眺めている自分が不思議に思う。
逃げ道もない。
しかし、ルルーシュの1.5m先でその…格闘ゲームさながらのバトルが繰り広げられているが、ルルーシュには傷一つついていない。
そう…かすり傷一つ…
スザクにしてみれば、ミレイの無茶振りルールがなくともルルーシュに傷を負わせるなど…考えられなかった。
こんな…ミレイの横暴なイベントの為に…ルルーシュは傷を負わせてはならないのだ。
「流石スザク様…『白き死神』という二つ名に違わぬお強さ…」
咲世子が感心したように言い放つ。
「咲世子さんこそ…僕はその天然キャラに騙されていたみたいだ…」
スザクも負けじと咲世子に返してやる。
そんな会話をしながら、ドラゴン■ールの世界の戦いを繰り広げていた。
「こ…これは…現実なのか…?」
『ギアス』なんて言う、オカルト能力持っている奴が云うな!と突っ込みたくなるようなセリフをルルーシュが呟いた。
スザクの場合、ミレイの作った無茶振りルールがあるからルルーシュを傷つける可能性は低い。
咲世子もナナリーと結託しているのなら、ルルーシュを傷つける訳にはいかないだろう。
しかし…今のところ、ツッコミどころはそこではないのだ。
現在…ルルーシュが動かなければギリギリかすり傷一つ負わない場所でち密に計算された攻防が繰り広げられている。(この二人の場合は野生の勘と云うべきか)
しかし、あと、数センチずれていたら…などと云うニアミスが何度もある。
つまり、この場を動いたらルルーシュは、かすり傷ではなく、全治1ヶ月以上の怪我をさせられると悟る。
そのくらい激しいバトルが繰り広げられているのだ。
つまり…
―――俺は…こいつらのバトルの決着がつくまで…ここを動けないのか!?
いつも無茶振りなイベント企画を立てるが…ここまで来ると、(ルルーシュにとって)モラトリアムとか、イベントとか、そんな言葉で片付けてもいいのだろうか…そんな風に思えてくる。
大体、ルルーシュを賞品にするにしたって、身の安全が保証されていなければ意味がないだろう…。
確かに…こいつらの戦い方は、本当に絶妙だ。
スザクがクロヴィスの暗殺の濡れ衣を着せられて処刑されそうになった時、きちんとスカウト出来なかった事が悔やまれる。
しかし、今はそんな事は問題ではない!
何とかして、この場を離れたい…ただそれだけだ。
確かに彼らはルルーシュの身の安全は保証して戦っているが、精神的安全はまったくもって考慮されていない。
―――こんな極限状態の中…いつ決着がつくかも解らないバトルをこんな手の届きそうな距離で繰り広げられている中に身を置くのか…俺は…
一方、放送室の中で監視カメラの映像を見ているミレイは…
「あらあら…ルルちゃん…大変ねぇ…」
「あ…あの…会長?このままじゃ、ルルーシュ…明日から胃潰瘍ですよ?もしかしたら明日の朝になったら頭が真っ白になっていたりして…」
リヴァルが不憫な親友を思ってミレイに進言してみるが…
そんなところで、一方的にミレイに懸想している男の云う事など…この、誰よりもルルーシュに悪逆行為を施すミレイ=アッシュフォードが聞く訳がない。
モニタ越しでも解る…顔面蒼白なルルーシュの心中…
「だぁいじょうぶよぉ…♪きっと優勝するのはスザクかナナリーでしょ?だったら、一晩中スザクかナナリーの膝枕で泣いていれば元気になるって…」
どこまでも…(ルルーシュにとっては迷惑でしかない)ポジティブさと(これまたルルーシュにとって大迷惑な)愛情表現でどこまでもあの鉄仮面の生徒会副会長を振り回す。
「ねぇ…ミレイちゃん…ミレイちゃんが『悪逆皇帝』をやっていれば、絶対に続編フラグが立って、スザクをおもちゃにルルーシュで遊べたと思うけれど…」
モニタでルルーシュの反応と、映画でも見た事ないようなバトルを繰り広げているスザクと咲世子を眺めているミレイにニーナは『ゼロ』が憎いとは云え…ここまでされているのを見ると、ちょっぴりルルーシュに同情してしまう。
「その辺りは制作スタッフに言ってよ…。私も『悪逆皇帝』になって、ルルーシュに無理難題押し付けて、世界規模のお祭り騒ぎ…やりたかったぁぁぁ…」
このミレイの発言…
―――絶対本気だ…
―――説得して成功していたら…凄い事になってたかも…
二人はミレイ=アッシュフォードと云う女性の本質を見抜いていた。
「あ…カレンとアーニャ…バトル始めた…」
「ヴァインベルグ卿相手なら…カレンの脅しも通用したけれど…」
「お互いに色仕掛けや脅しに屈する様なキャラじゃないものねぇ…」
一人の男(ルルーシュの場合は姫君か?)を巡って…こちらは女戦士同士の戦いが始まっていた。
本編でも『黒の騎士団』のエースと『ブリタニア軍』のナイトオブシックス…
二人の生身の戦いは見た事がないが…
「まさか…キュービッドの日みたいにナイトメアなんて持ち出さないだろうなぁ…」
そう…ミレイの企画したイベントでナイトメアを持ち出し、政庁に駐屯しているブリタニア軍を出動させたナイトオブシックスが…この学園にはいるのだ…
「それはそれで…面白そうだけど…カレンまでナイトメアを持ちだしたら…この学園、木端微塵になっちゃうからね…。今回はアーニャにちゃんと言っておいたし、政庁にも連絡しておいた…」
何事もないような口調でサラッととんでもない事を云う…
「ミレイちゃん…もしかして…このイベントの為に…トウキョウ租界の政庁にまで色々手回ししたの?」
「私はルルーシュにお願いしただけ…。実際に申請に行ってくれたのはルルーシュで、政庁に話を通してくれたのは総督のナナリーとナイトオブセブンのスザクよ…」
この人は…自分の言っている事が解っているのか…ここにいる生徒会メンバーは…心底このミレイ=アッシュフォードの凄さを思い知った。
そこは…アッシュフォード学園のだだっ広いグラウンド…
周囲にはスザクとジノとアーニャにバッタバッタ倒された生徒達が無数に横たわっているが…今の彼女らにそんな事を気にしている余裕などありはしない…
そう…これはたった一人の男(ルルーシュだから姫君だって)を巡っての…女同士の争い…。
どちらが…ルルーシュを貸切できる権利を得るか…
「ルルーシュに…膝枕して貰うの…。それで…『アーニャ…よく頑張ったな…』って言って貰う…」
据わった目でアーニャはカレンを睨みつけながら呟く。
「何言ってるのよ!あんたたちにとってはルルーシュは敵じゃないの!そんな敵の手に渡す訳にはいかないわ!」
アーニャの言葉が気に入らないとばかりにカレンは怒鳴り散らす。
「アーニャの敵は『黒の騎士団』とアーニャからルルーシュを盗む奴全員…。ルルーシュはアーニャの皇子様だから…」
たまにしか見せない…アーニャの本音を…敵ながらカレンはその耳で聞いた。
「何言ってるの!ルルーシュは皇子様って言うより、お姫さまでしょ!」
カレンのどなり声に…アーニャも一瞬考えて頷いた。
「うん…ルルーシュはお姫様…。アーニャが間違ってた…」
どうやら、この意見に関してはこの二人の意見は一致したらしい。
「さて…とりあえず、スザクがルルーシュをここまで連れてくる前に私たちも決着つけましょうよ…」
「アーニャに喧嘩売る…いい度胸…」
アーニャの低い声が戦闘開始の合図となった。
こっちはこっちで、リアルではあり得ないような戦いが始まった。
グラウンドの土を蹴りあげ、土埃が立つ。
周囲に倒れていた生徒たちの姿がほとんど見えなくなるほどに…
そう、彼女たちのリングはアッシュフォード学園の広大なグラウンド…
そこらに倒れている失格者生徒たちの事などお構いなしだ。
こちらはこちらで凄い争いとなっている。
余談ではあるが…この土埃で隠れてしまっているバトルに…ミレイが放った一言…
「これじゃあ、見えないじゃない!来年は土煙が立たない様にグラウンドには水をまいておくわよ!」
そして、その場にいた生徒会役員は…
―――また…留年する気ですか?
そして…目の前のバトルにすっかり硬直しきっているルルーシュの姿が…そこにはあった。
確かに…確かに彼らの攻撃は絶妙で、決してルルーシュの身体には当たらない。
しかし…その攻撃が空を切る時には、ルルーシュの身体にその風圧を感じるし、髪の毛が舞うのだ。
肉体的な傷は負っていないが…恐らく、この先…格闘技や格闘ゲーム…バトルアニメを見るたびにルルーシュはこの時の恐怖を思い出す事だろう。
「はぁはぁ…この僕が…女性相手に息が切れるなんて…」
流石にスザクも女が相手だからと余裕をかましていられなかったらしい。
本気で戦っていた。
「はぁはぁ…私も…ここまで手こずったのは…ロロ様の『ギアス』が通用しなかったジェレミア卿以来…初めてですよ…」
大体…ジェレミアとの戦いのときは咲世子は負けている。
負けている勝負の場合…手こずったとは云わないのではないか…ルルーシュは思うのだが…ここまで来ると、咲世子が自分の命令に従うかも怪しい。
下手な事を云って妙な事をされても困る。
「そろそろ…僕の出番だね…兄さん…」
そう一言告げて来たのは…ルルーシュの監視役として1年間、ルルーシュと生活を共にしていたロロだった。
「ロロ!」
ルルーシュにとっては、ある意味救いの神だ。
こんな…数センチ動けば大けがする様なバトル会場になどいたくはない。
「兄さん…遅くなってごめんね…」
そう云うとロロは『ギアス』を発動した。
そのバトル会場の時間は…止められた。
そして、その隙に動かなくなっているルルーシュを連れてその場を後にした。
『ギアス』の効力が切れる頃には、ロロは校舎の屋上に来ていた。
「あ…ありがとう…ロロ…」
この偽物の弟を本編で餌付けしておいて本当に良かったと思う。
「ううん…兄さん…凄く顔色が悪いね…」
「あんな…身動きとれない場所で数センチ動いたら確実に大けがする様なバトル会場で…平常心でいられるか!俺は平凡な『ゼロ』でしかないんだぞ!」
「あ…否…『ゼロ』やっている時点で非凡だと思うけど…」
さりげなくツッコミを入れてみるが…今のルルーシュの状態ではとてもじゃないが、そんなところに構っていられるだけの余裕はない。
まぁ、あれだけの人間離れしたバトルを目の前にして…平常心でいられる方がどうかしている…。
「あーーー…ルルーシュ先輩!」
後ろから…いかにもわんこ属性な声が聞こえてきた。
「ジノ…」
ルルーシュはまた厄介な相手が来たと…つい思ってしまった。
『ギアス』の効力が消えてしまったバトル会場…。
当然そこにはロロの姿もルルーシュの姿もなくなっていた。
「くっそ…ロロの奴…」
「ロロ様も…こんなところで『ギアス』をお使いになるなんて…」
地団太を踏んでいるが…時は既に遅し…
まぁ、スザクの場合、放送でゲーム終了の合図が連絡されるまでは見つけ出す自信はあった。
その辺りはダテにわんこ属性はしていない。(ただし、温室栽培のジノはわんこ属性でも野生動物の様な嗅覚は持ち合わせていない)
「まだまだ…ゲームは終わりじゃないって事だな…」
スザクの言葉はロロへの怒りとルルーシュへの(ストーカーに近いような)執着心に満ちていた。
「じゃ、僕、まだやることあるので…この勝負の続きはまたの機会…って事で…」
スザクの変わり身の早さに咲世子は驚いた表情を見せるが…ルルーシュがここにいない以上、咲世子がここにいても仕方ないし、ナナリーへの報告をして、最後の最後にナナリーが勝利を掴めるようにしなくてはならない。
「そうですね…では…私はこれで…」
「うん…またね…」
いかにも爽やかな別れ際だが…
お互いの心の中には共通の思いがある。
―――この決着…この次に絶対に着ける!
こうして、(和泉綾ワールド内での)宿命のライバル同士がここに誕生した。
咲世子は
―――ナナリー様の笑顔の為に…
スザクは
―――僕とルルーシュの幸せな新婚生活の為に…
と…殆どルルーシュの意思を無視した願望によって動いている。
咲世子の場合、ナナリーの為と云っても、天然であるが故に、言われた事は真面目に遂行するのだが…目的第一で計算も何もなく、普通に『目的』の為に突っ走るので始末に負えない。
そして、二人はそれぞれの願望(煩悩?)を胸に…まだまだ続く戦いへと身を投じる。
この、ミレイが考えた無茶振りイベント…一体いつまで続くのか!
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