心の在処3


 スザクとC.C.がルルーシュとは別々に案内され、現在、コーネリアの前にいる。
「そうか…それで、父上は…」
コーネリアは、『ギアス』の秘密を知っている。
ルルーシュの話によれば、ユーフェミアに『ギアス』をかけた事も知っているとの事だった。
「はい…二度と我々の前に姿を現す事はないと思われます…」
「で、あの、V.V.とか言う子供の持っていた不老不死の力が父上に渡った後、その力はどこへ消えたというのだ?不老不死であるのなら、命が消えたという事ではないだろう?」
流石はあのルルーシュの異母姉だと思う。
普通ならスルーしてしまいそうな話にまで言及してくる。
「さぁ…その辺りはこいつは勿論、私にも解らない…。ただ、シャルルが二度とこちらの世界へ姿を現す事はない…。次期皇帝を決め、世界に向けて発表する事を私は提案するな…」
ルルーシュの計画を知っている彼女がそんな事を言い放っている。
スザクはコーネリアの前でその計画の話をする訳にも行かず、C.C.の方を睨みつける。
そんなスザクに気がついたのか、C.C.が含みのある笑みを見せた。
「では、『ギアス』を持つ者はルルーシュだけとなり、その『ギアス』を与える存在は、C.C.…お前だけだという事か…」
「まぁ、そう云う事になるな…。どうする?ルルーシュを殺すのか?私は私の知る限りの事を放してやったが?」
C.C.の言葉にコーネリアも言葉がつまる。
情に流されてはならない…そうは思うが…それでも、ルルーシュはコーネリア最愛の妹の仇であり、ルルーシュによって『虐殺皇女』の汚名を着せられているユーフェミアの事を思うと、そのまま放っておくわけにもいかない。
「殿下…」
スザクは今のコーネリアに何を言っても無駄かも知れないという懸念を持ちながら…一歩前に進み出た。
「ユーフェミア皇女殿下は…『ゼロ』の正体をご存知でした…」
その言葉にコーネリアは『まさか』と云う表情を見せる。
そして、スザクはそんなコーネリアを見ながらさらに言葉を続けた。
「自分も…薄々気が付いておりました…。もし、もっと早く、自分が彼を逮捕していれば…あの悲劇はなかったかも知れない…。そして、ルルーシュは一切言い訳をしませんでした。ユーフェミア皇女殿下の死に関しても、そして、自分たちの学友の死に関しても全て、自分の責任であると…誰にも言い訳しないと…。だから、自分も彼から何一つそれに関する言い訳を聞いた事はありません…」
確かにスザクの言葉は正しくルルーシュの事を語っていると思う。
確かにその通りではあるが、この怒りをどこにぶつけていいのか…ユーフェミアの仇を討つ…それだけを考えてここまで来たのだ。
「それに…ユーフェミア皇女殿下も…最後の最後まで『ゼロ』の正体を自分には話してはくれませんでした…」
スザクのその一言にコーネリアはただ言葉を失ったままスザクとC.C.を見ていた。

 ルルーシュがシュナイゼルに拘束されてから、随分時間が経っている。
少し前あたりから、隣の部屋にいるシュナイゼルの耳にはルルーシュの声が小さくなって来ていた。
シュナイゼルはソファから立ち上がり、ルルーシュを閉じ込めた部屋へと入っていく。 「ルルーシュ…」
ルルーシュの方へと目を向けると…
全身が汗びっしょりになっており、シーツの一部分だけひどくぬれた状態になっている事が解る。
声を掛けられ、声の主の方を見て、ルルーシュは相変わらずシュナイゼルに反抗的な視線を向けているが…それでも、相当体力も気力も消耗している所為か、先ほどの様な強い光はなくなっている。
「シュ…シュナイゼル…」
肩で息をしながら、目の前にいる男の名を呼ぶ。
シュナイゼルはそんなルルーシュに満足そうな顔を見せ、近づいていく。
「流石はルルーシュだね…。これだけの目に遭っても君の瞳は素晴らしい輝きがある…」
陶酔しているかのようにシュナイゼルはその言葉を口にして、ルルーシュの肌に手を這わせていく。
「ん…く…や…やめろ…」
肌に這いまわるシュナイゼルの手に…ルルーシュの心を裏切って身体が反応していく。
「ふっ…そんな風に…何かに耐えている君の顔は美しいね…。もっと早くに攫ってしまえばよかった…。君が…神根島の洞窟で…舞い降りてきた時にでも…」
白磁の様なルルーシュの肌を楽しみながらシュナイゼルが語る。
「っふ…ああ…やぁ…」
これまで、あの時の飲まされた薬に翻弄され続け、身体がすっかり敏感になっている状態だ。
そして、そんな中、シュナイゼルの手が縦横無尽にルルーシュの身体を這いまわっている。
「いい声だね…ルルーシュ…」
ルルーシュの声を楽しみ…その声とは裏腹のルルーシュの瞳を見ているとこの場の空気に酔ってしまいそうな…そんな錯覚に陥って行く。
「ルルーシュ…君は素晴らしいね…。唯一私と肩を並べるだけの知略があり、そして、これほど素晴らしいもう一つの顔を持つ…」
シュナイゼルの言葉が耳に届くたびにルルーシュの意思とは裏腹に身体の奥が熱くなっていくことにも嫌悪を感じながらも…ルルーシュは今のこの状態から逃れる事も、自分の身体の反応にも逆らう事が出来ない。
「あ…異母兄上…もう…離して下さい…」

 ルルーシュの瞳に生理的な涙が浮かんできている。
今のこの状況に相当な嫌悪を感じている。
本能的な湧き上がってくるこの感覚から一刻も早く逃れたかった。
「何故?君はこんなに気持よさそうなのに…」
意地の悪い笑みを見せながら、シュナイゼルの手の動きはさらにエスカレートしていく。
その手は…先ほどの薬によって、何度も無理やり欲望を吐き出さされたそこを触れ始めている。
「はっ…ああ…さわら…ないで…」
あのプライドの高いルルーシュがシュナイゼルに対して懇願している…
シュナイゼルの心は既に、『男の子が自分の好きな女の子をいじめている』ような感覚に陥っていた。
「ルルーシュ…いいんだよ…我慢せず…イキなさい…」
シュナイゼルがルルーシュの耳元でそっとそう囁くと…それでもルルーシュのその強い意志が残っていたのか…頭を左右に強く振る。
「や…やだ…」
シュナイゼルに言っているのか、ルルーシュ自身に言い聞かせているのか…そんなルルーシュの姿にシュナイゼルはその手の動きをさらに激しくする。
すると…普段、殆ど自分でする事のなかったルルーシュがこの激しい感覚に耐えられる訳もなく、あれから何度目か解らない頂点に達した。
「も…やだ…。ゆるして…」
今ので完全に落ちたようだった。
「ルルーシュ…本当に君は可愛いね…。私の自慢の異母弟だよ…」
そう云いながら、汗でしっとりと濡れているルルーシュの前髪をかきあげ、その額にそっとキスを落としてやる。
本当に…肉食動物に捕らえられた、小さな草食動物の様だ…
そんなルルーシュにうっとり見とれてしまう…
これまで、あれだけひどい事をしておきながら…今のシュナイゼルは本当に優しい顔でルルーシュを見ている。
うっすら目を開けて、そんなシュナイゼルの顔を見ると…ルルーシュはこれまでの事が信じられないような…そんな表情でシュナイゼルを見る。
「愛しているよ…ルルーシュ…」
ルルーシュの耳元まで顔を寄せて、シュナイゼルはそう囁く。
その声は…どこまでも優しくて…
ルルーシュの中では何を信じていいのか…解らず、先ほどまでの混乱とも相まってただ…その美しく輝くアメジストから…輝く滴が零れ落ちて行った…

 翌朝…目を覚ますと、昨夜の事がまるで夢だったかのように綺麗にベッドメイクされ、しっかりと夜着を着せられた状態だった。
ただ…夢ではなかったと証明させるものも残されている。
手首に残された赤い痕、体の隅々の残る痛み、そして、鏡を使わなくても目に届く場所に残された…シュナイゼルの所有であると云う印…
「……」
あれから…何度もシュナイゼルに抱かれた。
そして、そのシュナイゼルの前で自分で自分を許せなくなるほどの醜態を曝した。 ぐっと両手を握り締める。
「お…俺は…」
思い出すとただ…自己嫌悪に陥って行く。
思い出すと…身体が震えてくる。
そう云った堂々巡りが始まろうとした時…部屋の扉がノックされる。
―――コンコン…
ベッドサイドのインターフォン用の通信機を取りだす。
「誰だ…」
その一言だけ返してやると、ドアの向こうの人物はすぐに答えが返してきた。
『僕だよ…ルルーシュ…』
「!」
こんな状態の自分を…誰にも見られたくない…今のルルーシュの素直な気持ちだった。
「な…何の用だ…?」
『君を迎えに来たんだよ…陛下の命令で…』
―――昨日の今日で…スザクを迎えに寄越すなど…
ぎりっと奥歯を噛み締める。
「悪い…まだ起きたばかりだ…それに…着替えがないから…この恰好では…出ていけない…」
そう云って、インターフォンの電源を落とそうとするが…ドアの向こうから鍵を開く音が聞こえてくる。
「!!」
―――シュッ…
あっけなく扉が開かれる。
恐らく、プライベートルームを通り抜けてこの寝室に入って来るのはたやすい事だろう。
恐らく、スザクがシュナイゼルを『陛下』と呼んでいるところを見ると、『斑鳩』での交渉が終わった後、そのまま本国で即位の発表をするのだろうと考えた。
―――カチャリ…
案の定、寝室の扉はいとも簡単に開かれる。
「ルルーシュ…おはよう…。君の着替え…ここに置いておくね…。後…今日の『斑鳩』での『黒の騎士団』との交渉では…君も、シュナイゼル陛下の宰相として出席して欲しいそうだ…」
ルルーシュの顔を殆ど見ずに必要最低限の言葉を発しているらしい。
ルルーシュ自身、上半身だけを起こしながら、何とか、隠そうとしている。
「解った…着替えはそこに置いておいてくれ…。着替えたら、異母兄上の執務室へ行くと…」
そこまで云った時、スザクの様子がおかしい事に気づいた。
「……ルルーシュ…それ…」
ルルーシュの首筋部分を指差して、スザクが驚愕した声を出している。
「!」
スザク相手に隠し通す事は…出来なかったらしい…
「君!シュナイゼル様に何をされた!?」

 不敬罪に問われても文句を言えない所業…
ルルーシュの夜着の襟元を左右に力いっぱい開いて、その本来真っ白な筈の肌を曝け出さされる。
スザクの剣幕にのまれそうになるが、ルルーシュは一度、大きく息を吐いた。
「何でもない…。お前に関係ないだろう?大体、お前が心配すべきはお前の主であるシュナイゼルだろ?俺の心配している場合じゃないだろう…。その為に、あの男を…」
「何を言っている!この手首の後…無理やり…」
「黙れ!お前に関係ないと云っている!それに…俺はこれから俺を裏切った『黒の騎士団』に対して復讐できるチャンスを貰ったんだ…」
ルルーシュは出来る限り醜悪な表情を見せているつもりだった。
ただ…スザクには…枢木神社で全ては自分の所為だと…そう云って何もかも抱え込んでいた時の…あの時のルルーシュの姿と重なっていた。
「君が…何も言いたくないなら…何も言わなくてもいい…。ただ…『ゼロ・レクイエム』…どうするつもり?このままじゃ…」
「大丈夫だ…。お前との約束は守る…。少なくとも、ユフィの汚名は…ちゃんと雪ぐ…。その後は殺すなり、なんなり好きにすればいい…」
シュナイゼルがルルーシュに対しての執着は…知らない訳ではなかったが…
「ルルーシュ…僕は…別に、僕の手に日本が入って来なくたっていいよ…。日本がそれで幸せになれるなら…」
スザクの言葉にルルーシュはかっとなってスザクに掴みかかる。
「『黒の騎士団』の連中では…100万人の難民を抱えて日本を治められる訳がない!そんな事…お前の方がよく解っているだろう!」
「うん…でも…君が彼らを…あの蓬莱島に連れて行ったんだ…。そして、彼らは君を排除した…。その価値を知る事もなく…。だから…彼らの責任は彼らが取るべきだ…」
「しかし…あの連中が日本を動かしたら…」
「そこまで君が責任を取る必要はないんじゃないの?君は、『ゼロ』だったけれど、それは過去の話…。そして、今は、シュナイゼル皇帝陛下の皇弟殿下で、宰相閣下だ…」
多分…かつての『ゼロ』だったらスザクの様に割り切って考えていた筈…
それでも…そう思いきれない自分がいる事に戸惑いを感じる。
「ルルーシュ…必要なら僕が『黒の騎士団』を討つよ…。今の『ゼロ』のいなくなった『黒の騎士団』…見ていられないよ…」
「誰かに話を…聞いたのか…?」
「うん…コーネリア殿下が話してくれたよ…。あのまま放っておいたら…ただの無法集団になるだけだって…言っていた…」
「『黒の騎士団』は…俺が…『ゼロ』である…俺の手で…」
ルルーシュの言葉にスザクは小さくため息をついた。
確かに、戦略的に考えるならルルーシュに指揮を取らせるべきだという事は解る。
ただ…今のルルーシュは感情の方が先に立っている気がする。
「そう…じゃあ、早く着替えて…僕も『斑鳩』に同行する事になっているから…。君が着替えるまで待っているよ…。一緒にシュナイゼル陛下のところへ行こう…」
スザクはルルーシュに着替えを手渡して、ひとまず隣の部屋へと移動した。
そして、10分ほど経って、ルルーシュが宰相閣下の姿となってスザクの前に姿を現した。
「行こうか…スザク…。俺の事より…お前は覚悟はあるのか?あれほど可愛がっていた従妹の神楽耶を討つ…」
「愚問だね…僕が名誉ブリタニア人になった時点で…彼女たちとの縁は切れているよ…」 「そうか…」
それだけの会話が終わると、二人は並んで廊下を歩いて行った…
その先にあるのは…『黒の騎士団』との戦い…それを見据えながら…


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