Be Reversed(前編)


―――そう…君の事なら…解る…
君が…私に何を施そうとするのか…
そして…君が…どこへ歩いて行くのか…
でも…それを私は…決して許しはしない…
皆は私が執着を持たぬと云うが…私にも…人並みに執着を持つ心はあるのだよ…
ただ…私の執着は…ルルーシュ…君に対してのみ抱いているものなのだが…
ただ…それだけだ…
決して…君の思い通りになんてさせない…
何を犠牲にしても…

 ダモクレスにルルーシュ達が突入してきた事を知り…シュナイゼルは誰にも気づかれないようにふっと笑った。
あのような、『おもちゃ』まで準備していたルルーシュに対しては…少々甘く見ていた自分に対する自嘲の笑いだ…
確かに…幼い頃から頭のいい子供だった事は覚えているが…
だからこそ…シュナイゼルは彼を愛した…
彼を欲しいと願った…
しかし…当時のシュナイゼルには…彼を自分の手元に置いておけるだけの権力がなかった。
確かに有望な皇子として扱われていた事は事実だったが…
あんな、凡庸な異母兄よりも自分の方が大きな働きが出来る事は自覚していた…
しかし…一番守りたいと…一番自分の欲しいものが手に入らないのであれば…そんなものは無力に等しいのだ。
だからこそ…シュナイゼルは何にも執着を見せず…ただ、我武者羅に自分の影響力を及ぼす為だけに…自分の実力と努力を注いできた。
やがて…ルルーシュを見殺しにした『エリア11』で『黒の騎士団』…否、『ゼロ』が現れた。
シュナイゼルは…その報を聞いて…なんだか…落ち着かなかった。
無論、そんな姿を誰にも見せる訳にはいかない。
気付かれる訳にもいかない…
ただ…何か…これまで漠然と倒してきた敵とは…全く違う存在だと云う事は…自分の中の何かが訴えていた。
あの、大胆且つ、用意周到で…明確に相手に攻撃の姿勢を見せる…
その時には…確かに確信が持てなかった。
異母妹であるコーネリアが総督となり、直接対決もしているが…どうやら彼女はその事に気づいてはいないようだった。
それはそれで好都合だが…何も知らなければ彼女は…確実に『ゼロ』を殺すに違いなかった…。
殺さないように手加減をして…などと、甘い事を云っていられるような相手ではない事は…シュナイゼルは解っていた…。
そして…神根島で…直接『ゼロ』と対峙した時…『ゼロ』が自分の方を向いた時に動きが止まったのを見て…確信した…
―――彼が…彼が…ルルーシュだ…
その時に表には出さずとも胸が躍った事は覚えている。
そして…再び、シュナイゼルが確信した。
―――今度こそ…君を取り戻せる…
そう思ったのも束の間だった…
異母妹であるユーフェミアが『行政特区日本』の式典で…
もし…あの式典があんな形で失敗しなければ…
そう思った…
でも…もう、そんな事はいい…
―――ルルーシュ…君の考えている事は…解る…。だから…早く帰っておいで…私の元に…
「カノン…準備は出来ているかい?」
「はっ…御心のままに…」
カノンの言葉にシュナイゼルは心の底から笑顔を見せた…
恐らく…長年仕えているカノンでさえ…見た事のない笑顔だった…
そして…カノンはその時初めて知った…
自分の主は…決して何に対しても執着を持たない人間ではなかった…
これまで…執着を見せなかったのは…その対象が…遠くにいすぎて…そして、多くの者を犠牲にしながらでないと手に入らない者だったから…
―――私の殿下の見方は…どうやら間違っていたようね…

 プレイズルミナスを破り、ルルーシュの蜃気楼とスザクのランスロットがダモクレスの中枢部に近づいてきた。
ルルーシュの蜃気楼はジノのトリスタンに破壊された。
なおも…ルルーシュは奥へと進み…そして…
脱出艇のモニタにルルーシュの姿が現れた。
シュナイゼルはその姿を見て…
―――やはりね…。ルルーシュは…まだ姿を現わしてはくれない…
今はまだ、ルルーシュの目論見に乗ってやらなくてはならない…
ルルーシュ自身がこの場に来なくては何にもならない。
付いて来てしまったディートハルトは邪魔ではあったが…それでも、この男などルルーシュが来てからでも、ルルーシュを手に入れてからでも、なんとでも始末できる。
そして…
ポンとシュナイゼルの肩を叩かれる。
―――来たね…ルルーシュ…
そして、ルルーシュの顔を見る前に…シュナイゼルはカノンに対して命じる。
「カノン…頼むよ…」
シュナイゼルがそう云ったと同時に…カノンは黙ってカノンを拘束しているルルーシュの『ギアス』にかかった衛兵の懐に隠し持っていた短刀を突き刺し、取り囲んでいる衛兵たちに対して銃を放った。
「!」
ルルーシュが驚いて一瞬怯んだ隙にシュナイゼルは肩に乗せられているルルーシュの手を取り、ルルーシュの背後に回り、その両腕を自身の手で拘束する。
「残念だったね…ルルーシュ…」
「シュナイゼル!」
「申し訳ないね…。君の事をずっと求めていた私は…ずっと見てきたのだよ…。『ゼロ』として…エリア11に現れた時から…」
そう云いながら、空いている方の手でルルーシュの両目を塞ぐ。
「君の望みは…叶えてあげられないよ?私の為に…」
そう云いながら、これ以上抵抗されないよう…カノンに指示してルルーシュの両手を拘束し、両目を塞いだ。
そして…ルルーシュの口に布を当てると…
「…っな…」
「おやすみ…ルルーシュ…。次に目を醒ました時には…君は…」
ルルーシュはそのまま気を失った。
シュナイゼルの笑みが凄くイヤなものに見えたが…
だが…客観的にみると…
とても優しい瞳をしていた…
「ご苦労だったね…カノン…」
「いえ…このくらいは…」
ルルーシュを愛おしそうに胸に抱きながら…カノンの働きを労っていると…
「シュナイゼル!あなたは…」
その行動に驚愕したディートハルトがシュナイゼルに半ば怒鳴りつけるように何かを云おうとしている。
シュナイゼルはそんなディートハルトを『やれやれ』と云った表情で見ている。
「私の言葉を君も聞いていた筈だよ?ディートハルト…。この子は…私が最も愛する異母弟だと…」
「しかし…それは…『黒の騎士団』の連中を…」
まるでアテが外れたとばかりにディートハルトがシュナイゼルを見ている。
「やれやれ…仕方ないね…。カノン…」
「イエス、ユア・ハイネス…」
シュナイゼルの言葉にカノンが一言答え…
そして…ディートハルトに対して銃口を向け…何を躊躇う事もなくその引き金を引いた…
その銃声と共に…ディートハルトは何も言う事も出来ず、絶命し…この場に生きている人間は…シュナイゼルと、カノンと、自由と意識を奪われたルルーシュだけとなった…

 シュナイゼルはカノンにルルーシュを預け、全世界に向けて勝利宣言をしようと準備を始める。
今なら『超合衆国』も『黒の騎士団』も…『神聖ブリタニア帝国』自体も疲弊しきっている。
ここで何としても発言力、影響力を充分に確保しておかなくてはならない。
反発が大きかったとはいえ、ルルーシュは正式に『神聖ブリタニア帝国第99代唯一皇帝』として認識されていた。
実際に、『超合衆国』の議長であった皇神楽耶も『悪逆皇帝』と呼んだとはいえ、彼女のその呼び名は確実にルルーシュを『皇帝』として認めていたと云う事になる。
「さて…どうしたものかな…」
わざとらしい独り言を零し、ナナリーの元へと向かう。
これが済んでしまえば、彼女にも利用価値はなくなる。
ただ…ルルーシュから必要以上の反発を抱かない為にも…丁重に扱う必要はあるが…
しかし、シュナイゼルとしては二度とルルーシュにナナリーと会わせるつもりはなかった。
シュナイゼル自身、ルルーシュが何故、『ゼロ』にならなくてはならなかったか…『黒の騎士団』を創設せねばならなかったのか…よく解っていたから…
ナナリーが車いすに腰掛け、ダモクレスのカギのボタンを押していた、庭園を模したその場所へと入って行く。
―――こんな綺麗な場所で…どれ程の犠牲が出ているかも知らないまま…『罪だけでも背負いたい…』?笑わせてくれるね…。これだから…守られるしか能のない皇女殿下は困る…
そんな事を思いながら、ナナリーの元へと歩を進める。
「ナナリー…ルルーシュは…私の手に落ちたよ…」
思っている事とは裏腹に優しい異母兄の『顔』でナナリーにそう告げる。
ナナリーはその一言に…『え?』と云う顔をするが…
そんな、辛そうな彼女の顔にさえ、冷笑を浮かべてしまう。
「そう…ですか…。後は…どうなりますか?お兄様は…」
ナナリーがシュナイゼルに対してあの時の『罪だけでも背負いたい』と云う言葉はどこへ行ったのかと…尋ねたくなる気持ちを抑えながら…ナナリーの頭を優しく撫でる。
「ルルーシュには…これから、壊れてしまった世界の再生の為に…尽力して貰うよ…。これは…ルルーシュにとって『罰』にはならないかもしれないが…ルルーシュの手によって散らされた命に対しての『償い』になると思う…。ルルーシュには…それだけの力がある…」
シュナイゼルの言葉に…ナナリーは更に驚いた表情を見せる。
「で…では…私の『罪』の…」
「ルルーシュの『償い』の為に…君は…ルルーシュの邪魔をしなければいい…。これから…ルルーシュはきっと、忙しくなるから…」
シュナイゼルは優しくそう告げるが…この言葉の裏にあるものは…
云っている本人が失笑してしまいそうになる。
「解りました…私は…お兄様の邪魔にはなりません…。ですから…私を…」
ナナリーが涙声になりながらシュナイゼルにそう申し出る。
「済まないね…こんな形でしか…彼を止める事が出来なくて…」
シュナイゼルは自身のウソを悟られぬよう…それでもわざとらしくならないよう…そう、ナナリーに告げながら…心の中で自分の勝利に陶酔していた…

 そして、その直後、シュナイゼルは世界に向けて、世界は『悪逆皇帝』からの解放を宣言した。
喜びに湧いたのは…実は…『超合衆国』を構成している国々の一部の代表と、『黒の騎士団』だけで…世界そのものは…これから起きる…世界の変革に恐怖を感じていた。
その様を見て…シュナイゼルは自分の思い通りと…心の中で高笑いをしていた。
彼を古くから知る者でも…シュナイゼルの高笑いをしている姿を見た事のある者などいない。
ダモクレスの周辺では未だ…ナイトメア同士が戦っていたが…
「さて…枢木スザクにはまだ役に立って貰わなくてはならないからね…」
そんな事を呟きながら…ダモクレス周辺で戦っていたナイトメアに対して即刻停戦するように命じた。
枢木スザク…ルルーシュが最も執着したルルーシュにとっての他人…
ルルーシュを傍に置いておくために…シュナイゼルは決して準備を怠らない…。
ルルーシュは大切な者の為にはその命など簡単に投げ出す。
誰よりも『生きたい』と願っている筈なのに…それでも、彼の場合、自分の為に生きると云うよりも、他人の為にその命を守ろうとしている。
ナナリーに二度と会わせるつもりがないので…ルルーシュの傍でルルーシュが勝手な事をしないようにする為の見張りが必要だ。
「枢木スザクは確か…一度、『ギアス』をかけられていた筈だからね…」
そうして、紅蓮に対して、停戦命令を出し、ランスロットの確保を命じた。
紅蓮は『黒の騎士団』の機体ではあるが…
それでも、現在、『黒の騎士団』がこのダモクレスには向かうだけの力はない…と云うか、意見できるだけの力ももはや残ってはいない。
その命令を出して間もなく、スザク自身、敗北を悟ったのか…潔く捕虜として囚われた。
恐らく…ルルーシュは作戦に失敗していたとしても、殺されてはいない…そう云う判断が働いたのだろう…。
彼らがどんな約束をしているかは知らないが…それでも…その約束を果たさせてしまったら…シュナイゼルはもう一度…守りたいものを…大切な者を手放す事になる事を解っていた…
だから…
「紅月カレン…別に枢木スザクを拘束する必要はない…。ただ…二人で私のところへ来てくれないか?少し話をしたいのでね…。『ルルーシュ皇帝』のナイトオブゼロ殿と…」
シュナイゼルの言葉に、マイクの向こう側の二人が息をのんだ事が解る。
紅月カレン自身、『黒の騎士団』に所属をしているだけで、シュナイゼルの配下ではないのだ。
ある意味、当たり前のなのかもしれない。
そして…暫くして…パイロットスーツのままの二人が…シュナイゼルの目の前に姿を現した。
「やぁ…枢木卿…。久しぶり…と云っていいのかな…」
機嫌良さそうにシュナイゼルがスザクに話しかけた。
スザクの方は…シャルル皇帝の暗殺を命じろと進言してきた時よりも暗い目をして…そして、もし、視線で人を殺せるのだとしたら…その視線でシュナイゼルの心臓を射抜いていそうな目をしていた…
「そんなに心配しなくても…君の契約者は生きているよ…。ただ…君たちのやろうとしている事は…私が阻止させて貰うけれどね…」
シュナイゼルはにやりと笑いながら…スザクを見ていた…

 一方、ルルーシュの方は…
「……ん…」
「お目覚めのようですね…ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア様…」
目を覚まして…目を開けたつもりだったが…
「目隠し…か…。『ギアス』防止の為の…」
かけられた声を暫く無視した後…ルルーシュが状況把握をして…そう口にする。
「申し訳ありません…。我が主も私も…あなた様の『ギアス』をかけられた事が一度もありませんので…」
「そこまで解っていたのか…。カノン=マルディーニ…」
あまり驚いた様子もなくルルーシュがカノンの言葉に対してそう答えた。
カノンは少し驚いた様な顔をしているらしい事は解った。
一体何に対して驚いたのかは…よく解らないが…
「私の事も…ご存知でしたか…」
「中華連邦で…一度、顔を見ているだろう…お前は…。シュナイゼルの傍に控えている人間の事を調べておかない程…俺が愚鈍な人間だと思っていたのか?」
「いえ…声だけで私だと解るとは…。光栄の極みです…」
カノン自身、声だけでルルーシュがカノンだと解るとは思わなかった。
実際に、ルルーシュにカノンの声をきかせた覚えはないのだから…
「別に…声で解ったと云うよりも、こうした異母兄上にとって重要な事を…その辺の人間に任せる様な異母兄上ではないだろう…。大体…敵のトップであった俺を捕獲して…公開処刑して、異母兄上の権威を世界に知らしめなくてはならないからな…。逃げられても、勝手に自殺されても困るだろう?」
ルルーシュの言葉に…カノン自身、苦笑して、自分の主の悲哀に少し同情してしまう。
「頭がいいのか…悪いのか…。鋭いのか、鈍いのか…本当によく解らない方ですね…あなたは…」
主の悲哀も何となく笑えてしまって、少し笑いながらカノンがルルーシュに対してそう告げる。
実際に、シュナイゼルの想いはルルーシュには全く届いていないのだから…哀れと云うしかないが…それでもこれまでのシュナイゼルの所業を考えれば同情していいものかどうかは解らない。
「何が云いたい?」
ルルーシュがカノンの云い方にむっとして返すが…
「あ、いえ、失礼いたしました…。ルルーシュ様…シュナイゼル殿下は…別にあなた様の事を殺すおつもりはありませんよ…。ただ…シュナイゼル殿下の御傍に置く為には…手段を選ぶおつもりはないようですが…」
カノンが面白そうにそう言うと…ルルーシュの頭の中では…少々混乱状態になる。
今、この時点でシュナイゼルに『ギアス』をかける事に失敗した事は解る。
しかし…シュナイゼルのやろうとしている事が良く解らない…
目隠しをされた状態でも色々と可能性を考えている事が解る。
「ルルーシュ様…あなた様は…シュナイゼル殿下の治世の下に…新しい世界を築く為のお力になって頂きたいのですよ…」
「バカな!俺は…」
「大丈夫ですよ…。あなた様を『悪逆皇帝』と云う名で呼んだかの姫は…シュナイゼル殿下に反旗を翻せる程の力はありませんし…。それに、あなた様が思っていらっしゃるほど…世界はあなた様を『悪』とは思っていませんよ…」
カノンの言葉に…失敗の大きさを実感する…。
このままでは…『ゼロ・レクイエム』は…
そう思った時、カノンが更に言葉をつづけた…。 「今はまだ…フレイヤでペンドラゴンを破壊してしまったのでブリタニア宮殿はありませんが…ブリタニアにお戻りになったら…あなた様にはアリエス宮に入って頂く事になるかと…」
カノンの言葉に…ルルーシュはさらに驚愕するしかなかった…



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