It's Destiny

It's Destiny

揺れる気持ち

 周囲を見回すと…相変わらずのメンツが揃っている。
「ルル…下がっていて…ちゃんと…僕が追っ払うから…」
マオがルルーシュを自分の背中に庇うようにしながら告げる。
ルルーシュとしても、こうして囲まれてしまった時、下手にルルーシュが動くとマオが危機に陥る事も知っている。
と云うか、こうした時、マオは人が変わる…
普段、大人しくて、ルルーシュ以外には懐かないし、誰かと喋るとか、接点を持つ事は極端と云えるほどない。
しかし、ルルーシュに対する執着が強い分、どうしても目立つ存在であるルルーシュがこうした輩に囲まれた時は…何としてもルルーシュを守ろうとする。
それは…自分の居場所を失う事が怖い…その思いが強く出ているのだが…
「玉城…なんでルルばっかりこうして狙ってくるのさ…。ルルは別にお前たちのグループのライバルでも何でもないだろ?」
いい加減鬱陶しいから付きまとうのをやめて欲しいと考えているのはマオも同じだったようだ。
「うるせぇ!良く解らねぇけど…そいつの存在自体…なんか許せねぇんだよ!」
玉城の幼稚な返事に…ルルーシュとしても、どう答えていいか解らない。
ルルーシュがここに住んでいるのもルルーシュの所為じゃないし、ここが生活圏であるのもルルーシュの所為じゃない。
しかし、いい加減今の生活もうんざりしている。
自分勝手な両親に、下心見え見えの学校教師たち、ルルーシュの家の名前で対等に見ようとしないクラスメイトに、こうして鬱陶しく付きまとって来る訳の解らない連中…
―――いい加減にしろよ…。不可抗力でこんなに恨まれる覚えはないぞ…
頭の中で叫んでいると…ふと、『本当に…?』と云う疑問が過って行った…
自分でも驚くが…
何故そんな風に思うのか…
ここまで、確かに人に好かれる生き方をしていたとは思わない。
マオは特別だ…
でも…こんなあからさまに恨みをぶつけられる覚えはない。
『ランペルージ家』に対して恨みを持つ者なら掃いて捨てる程いるだろうが…それでも、同年代の玉城にここまで云われてしまう程恨まれる覚えはない。
「なら…俺が死ねば…満足なのか?」
ルルーシュは静かに口にした…
自分で驚くほど自然に出てきた言葉…
その場の空気が固まる。
これまで何度もこうした状況に陥った事はあったが…
ただ…ルルーシュがここまでのセリフを吐いたのは初めてだった。
マオは当然の事…玉城たちまでがそのルルーシュのその表情から…決してふざけて云っているわけではないと云う雰囲気は醸し出していた。
ルルーシュの中では、
―――考えてみれば…俺がいるから、父さんも母さんも余計な事で云い争いになるんだ…。そう云えば…昔誰かに何かを云われた…そして…俺は…その時…『      』だった…
そんな事を考えていた。
「玉城…どうせ…護身用と称して、脅し用のナイフを持っているんだろう?そんなに邪魔なら俺を消せばいい…。大丈夫だよ…お前は未成年だから…人を殺したって将来に傷は付かないよ…」

 その時、マオが玉城達に背を見せてルルーシュの方を向いた。
「ルル!なんでそんな事云うんだよ!なんで…」
これまでルルーシュに向けて来た甘ったれた表情ではないマオ…
初めて見たのかもしれない…
マオがルルーシュの胸倉を掴んでルルーシュの身体を激しく揺さぶっている。
「ルル!答えてよ!なんでそんな事を云うんだよ!」
二人を取り囲んでいる連中もぽかんとその様子を見ている。
ただ…玉城だけは…酷く驚いた顔をしていた。
「俺は…『ノイズ』…だから…」
ルルーシュがただ、ぼそりとそんな事を呟いた。
これも自分で意識して吐いたセリフではない。
自然に出てきた。
自分でもなんでそんなセリフを吐いたのか…解らない…
でも自然に出て来たこのセリフ…
違和感すらない…
「なんで…ルルは…ルルはそんな事を考えていたの?僕が…なんでルルとしか一緒にいないのか…知っているのに!」
マオの云っている事は…確かにその通りだ。
マオは決してルルーシュの傍から離れる事をしていない。
そして、ルルーシュの家の事も、マオの家の事も関係なく…マオはルルーシュをルルーシュとして必要としている…
それを知っているからこそ…『どうしてマオにもっと優しく接してやれないのか…』と思う事もあるのだ。
涙ぐんでルルーシュに掴み掛っているマオに対して…ルルーシュは何も答えられない…
何故そう思うのか…
尋ねられても、どうしてそんな事を云ったのかは解らない…
「ごめん…マオ…」
ルルーシュは…ただ下を向いて…マオにその一言を告げた。
こんな風に考えること自体…どうかしていると…思うのだが…
しかし…我に返ったルルーシュの目に映ったのは…自分達を取り囲んでいる…玉城たちのグループだった…
「マオ…こんな時に悪かった…。玉城達に…囲まれていたんだったな…」
ルルーシュが真剣な目になってマオに告げた。
「大丈夫…。ルルが二度とそんな風に云わないなら…すぐに追っ払えるし…」
「ああ…ごめんな…マオ…」
ルルーシュのその一言にほっとしたようにマオがにこりと笑った…
そして、ルルーシュを背にして、自分達を取り囲んでいる連中を睨みつけた…
その時…
「おや…ルルーシュ…」
誰かに声をかけられる。
声の方を見た時…再びルルーシュの顔が強張った。
「と…父さん…」
ルルーシュが小さく呟くと…マオも、ルルーシュを囲んでいた玉城を除いた少年たちが一瞬身を引いた。
「こんな時間にコンビニで買い物なんて…感心できないね…。ここにいるのは…ルルーシュの友達かい?」
長身で、権力者でなくとも、金がなくとも、その外見だけで女が寄ってきそうな…そして、中学生の子供がいるようにはとても思えない男が…そこに立っている。
「すみません…。僕は…父さんと違って…努力しないと…今の成績を維持できなくて…。で、シャーペンの芯を切らせてしまいまして…」
周囲にいる少年たちも…この男の持つ雰囲気にのまれている。
そして、マオと玉城以外は、ルルーシュが自分たちを『友達である』と示してくれる事を心から願っていた。

 ルルーシュとしてはそんな彼らの都合などどうでもよかったが、これ以上の面倒はごめんだった。
「珍しいですね…父さん…。まだ、本会議中ではありませんでしたか?」
出来る事なら、玉城たちのグループよりも先にここから立ち去って欲しいと思う相手…
尊敬はしていても、個人的には非常に取っ付き難い相手だ。
「少し時間が出来てね…。良かったら食事でも…」
「今、何時だと思っているんです?僕はもう済ませましたから…」
本当は…嘘だ…
でも…出来る事なら…回避したい…
そう思っている。
父も母も…尊敬している…
多分、ルルーシュの中で、親として好きだと思う…
だからこそ、二人がルルーシュを挟んで云い争いをしているのが見ていて辛かった…
あの時…マオを怒らせたあのセリフ…
自分がいなければ…自分の身の周りにある、自分に関わるトラブルが全て消える気がしたのは…多分事実だ…
「それに…まだ、彼らと話の途中なんです…。申し訳ありませんが…」
ルルーシュがそう云いながら、マオを見て、自分達を取り囲んでいる少年達を見た。
既に、玉城以外の少年たちは、その場から逃げ出したいと云った様な表情をしている。
それはそうだ…
シュナイゼルは国会議員…
周囲には黒服のSPが付いているのだ。
シュナイゼルは今のところ、肩書のない国会議員をしているが、その能力の高さはマスコミでも取り上げられている。
そして、妻であるギネヴィアの持つ会社の経済力や世界的な影響力を考えた時…
「そうなのかい?残念だね…ルルーシュ…。しかし…君は成長期だと云うのに、痩せたままなんだね…。このままでは私は心配だよ…」
シュナイゼルの言葉に…このままルルーシュを連れて行って欲しいと願っている少年たち…
ただ、この様子を見守り続ける少年たち…
様々だが…この父子の会話に割って入って行ける勇気のある者はいない。
今、ルルーシュとマオを取り囲んでいる少年の中で、この父子のやり取りを見た事があるのは玉城だけだし、ルルーシュがこのシュナイゼルの息子である事を知っていたのも…多分、玉城だけだろう。
恐らく知っていたら…こんな形でルルーシュに対してちょっかい出す事はしなかったに違いない。
シュナイゼルとギネヴィアの息子と云う事は…ルルーシュが一言、両親に『こいつは気に入らない』と云った時点で、どうなるか解ったものではない。
「おい…玉城…ルルーシュって、そんな凄い家の息子だったのかよ…」
下手なやくざを敵に回すよりもタチが悪い…
「ランペルージって名前を聞いた時点で気づくと思っていたけれどな…」
「ランペルージを名乗っている奴、他にもたくさんいるじゃないか!」
「俺…もう、ルルーシュを構うのやめるよ…」
「俺もだ…」
そう云って、玉城と一緒にいた少年たちが逃げ出して行く。
ルルーシュはそんな状況を見て大きなため息を吐いた。
シュナイゼルは『おやおや』と苦笑して見ている。
「父さん…お願いですから…余計な事はしないで下さいね…」
「余計な事?余計な事ってなんだい?」
「今、父さんが考えている事ですよ…」
「まぁ、出来るだけ努力はしよう…」

 父であるシュナイゼルの言葉に…ルルーシュがため息を吐いた。
どうせ、考えている事は…
「解りましたよ…父さんの夕食にお付き合いしますよ…。それで、いいですか?」
「私は何も云っていないよ?」
「云っていなくても、考えているでしょう?」
ルルーシュの返事にシュナイゼルはにこりと笑った。
マオも、玉城も、この父子の会話のシーンを見るのは初めてではないが…
いつ見ても、背筋が寒くなる。
そして、二人が共通して思うのは…
―――あいつら…ルルーシュに救われたな…
だった…
玉城はマオと違った意味でルルーシュに対して付きまとっているのだが、こいつもマオと違った意味で、ルルーシュに対して対等の立場でいるのだ。
ルルーシュの家の事を知っても、
『だからなんだ!気に入らねぇもんは気に入らねぇんだよ!』
と云う態度だった。
「良かったら君たちもどうだい?君たちの食べたいものを御馳走しよう…」
シュナイゼルは綺麗な笑顔で二人に話しかける。
しかし、その綺麗な笑顔は酷く怖いものにも見えるのだが…
「俺はいらねぇよ…。なんか白けたし…帰るよ…」
玉城はそう云って踵を返した。
「マオ君はどうする?」
シュナイゼルはマオに尋ねるが…ルルーシュを見ていて…一人にしたくないと思うし、恐らく、シュナイゼルのこの誘いは、シュナイゼルの本意ではない事は解っている。
でも…
「本当は…今日、僕、ルルーシュにご飯を作って貰う約束だったんですけど…色々あって、それが出来なくなっちゃって…」
「だから…マオも一緒に行っていいでしょう?マオには好き嫌いないですし…父さんに見せは任せますから…」
マオの言葉を途中遮って、ルルーシュがシュナイゼルに告げた。
流石に…今日のバタバタ状態はルルーシュにとってしんどいものだったのだろうと思う。
本当は好きな相手である筈なのに…でも、自分の存在が…と云う思いからルルーシュを苦しめている状態だ。
マオも母子家庭で父親を知らない…
今更知りたいとも思わないのだが…
でも、こうしてルルーシュを見ていると…なんだか…切ないものを感じている。
「解った…。カノン…どこか、静かな店を頼めるかな?出来れば、中学生の男の子達が美味しく食べられて、お腹一杯になれる場所を…」
ずっと黙ってシュナイゼルの2歩ほど後ろに控えていたシュナイゼルの秘書命じると、カノンはすぐさま、一礼して携帯電話で心当たりの店に電話を入れた。
ものの1分も経たない内にカノンは電話を切った。
「先生…シンジュクにある『Ried』をお取りしました…。到着次第、個室へ案内頂けるそうです…」
「そうかい…ルルーシュも行った事がある店なら安心だ…」
シュナイゼルはそう云うと、ルルーシュとマオを乗っていた車に促す様に歩き出す。
少し離れたところには…シュナイゼルが普段使っているあからさまに金持ちだと云わんばかりの黒塗りの高級車が運転手を外で待たせた状態で待っていた。
「ご無沙汰しております…ルルーシュ様、マオ様…どうぞお乗り下さい…」
そう云って、良く訓練されているとルルーシュが思ってしまう運転手が後部座席の扉を開いた。

 冷めかけの中華まんをあっという間に平らげたスザクは…
現在、帰宅電車の中にいた。
少しずつ、街の光が減って行く様を…窓から見ていた。
「あの光の中に…ルルーシュは暮らしているのか…」
ぼそっと呟いた。
住む世界の違う少年…
でも、酷く寂しそうな瞳をしていたのが印象的で…
元々筋肉量の多いスザクの身体…
社会人になってから運動らしい運動をしていないと云っても、元々身体を動かす事が好き…と云うか、身体が鈍って行くのを見ていて、自分でもダメだなと思い、最近では、出来る限り文明の利器を使わない生活を心がけているが…
ただ、流石に電車でも片道2時間もかかるところをランニングで通えないので、ジノにも呆れられているが、オフィスビルの13Fにある自分の職場まで階段の上り下りをしたり、駅では人がいなければ階段を駆け上がったりする生活をしている。
それ故に、学生時代と同じ…と云う訳にはいかないが、それなりに筋肉量を維持している。
だからと云う訳なのか…今でも燃費の悪い身体をしている。
先ほどお腹に入れた中華まんでは…当然だが足りる訳もなく…
「お腹空いたなぁ…」
さっきのルルーシュの言葉…
なんで、断ってしまったのだろうかと思う…
この際、野宿したっていいんじゃないかと思うくらいだ…
―――この大都会で野宿したら段ボールハウスの住人と間違われちゃうか…
一応、これでも、一流企業の社員だ…
かと云って、ホテルに一泊して…と云うのもなんだか、勿体ないと思ってしまう。
その辺りは、苦学生をしていた頃の意識が抜けないらしい…
ドンドン、車窓から見える風景は…光の数が減って行く…
そして、再び、違った種類の光の数が増えて行く…
なんだか、本当にせわしない街だ…そんな風に思う。
でも…今の自分はここで生きている…
人の創る光の中で…暮らしている…
―――あんな…爆発の閃光は…ここにはない…
またも不思議な言葉が頭を過った…
一体いつからか…
こんな風に妙な言葉が頭を過るようになったのは…
それまでは決してそんな事を考える事などなかったのに…
色々…記憶を辿ってみる…
子供の頃にはそんなこと考える事もなく、友達と駆けまわっていたような思いでしかない。
で、中学から高校、高校から大学…進学の為に受験勉強を視野に入れた生活を送っていたが…
大学に入学して間もなく…息子の手が離れた…と、旅行に出かけていった両親が…旅行先で事故に遭って亡くなった知らせを受けた。
その後は…親の生命保険と奨学金で大学を卒業して現在の会社に入社して…
―――そうだ…あの子に会ってからだ…。そう云えば…あの子に会った時…僕は…『やっと…見つけた…』って…
そう思った時…スザクの中で…何かが変わって云っている事を自覚し始める…
解る事は…変な言葉が頭を過るようになった時期だけだが…
でも…あの、ルルーシュと云う少年が…何か関係している事は…直感で察した。
そして…それに気づいて残ったのは…不安なのか、期待なのか…
―――僕は…あの子は…一体何者…?

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