<link rel="stylesheet" href="./css/css1.css" type="text/css">  It's Destiny

It's Destiny

不思議な…存在?

 あの日から…ぼぉ…とした日が続いている。
流石に社会人だから仕事にさし障らないように…と思うのだが…それでも…
出勤の時、降りる駅を間違えるし、帰りの時も…ぼんやりしていて終点の駅まで行ってしまった。
パソコン画面でエラー画面を出す事が、以前の3倍増しになっている。
「はぁ…」
思い切り、溜息を吐いた。
あの日以来、あの少年には会っていない。
「おい、スザク…お前…恋煩いでもしているのか?」
ジノに話しかけられる。
時計を見たら…既に12時を回っている。
「飯…今日はどうする?」
「あ、僕…ミスが多くて、まだ今日の分…終わっていないんだ…。ジノは外?なら、食べに行って来てよ…。僕、これ済ませないと…」
そう云って、パソコン画面に向き直る。
正直、スザクはパソコンの作業が苦手だ…
―――『彼』なら…こんなのあっと云う間だろうに…
ふと、そんな事を思ってしまう。
しかし、そのすぐ後に…
―――『彼』って…誰だっけ???
そんな、自分でもなんだか訳解らない事を考える。
実際にそんな事を考えて、その後に、そんな疑問符がつけば自分でも何かおかしいと考えてしまう…
「スザク…ホントに恋煩いか?お前がそこまでミスするのって…珍しくない?」
「僕…元々パソコンってあんまり得意じゃないし…」
「否…それにしたって…普通、仕事で使っていない人間でもこんなミスしないだろ…」
ジノがパソコン画面を見ながら少し呆れたようにスザクに云った。
『恋煩い』と云われてしまうと…微妙に違う気もするが…ただ…あの日の夜以来…頭から離れなくなった人物がいる事は確かで…
凄く冷めた目をして…何もかも諦めたような…雰囲気を持っていた…
黒髪に紫の目をした…とても綺麗な少年…
あの日から…何度か、残業の後にはあのコンビニに立ち寄っているのだが…あれから彼を見かける事はない。
あの日から…2週間程が経っている。
―――お金…返したいのに…
100円が足りなくて…その少年が黙って支払って…そして、自分の名前を教えた後に…彼は表情一つ変える事無く…『ルルーシュ?ランペルージ』とだけ…答えた。
その少年の容貌、雰囲気…何もかもが気になって仕方ない…
あの辺りは…高級マンションが立ち並んでいる。
駅から会社までの道のり…
都心の高層ビルの企業に通う、ビジネスマンたちが使うであろうマンションだ…
住宅街とも、少し趣の違った雰囲気を醸し出しているその場所は…スザクがあるいていても正直、『住む世界が違う…』と思ってしまう。
あんな少年が生活しているなんて…と思うのだが…中にはそう云った人もいるのだろうと勝手に解釈している。
「ねぇ…ジノ…」
まだ、ランチに行っていないジノにスザクが声をかけた…
「何だ?」
「ジノってさ…僕が使っている駅とこのビルの途中にある、あの、高級マンションが建ち並ぶところのマンションに住んでいるんだよね?」
スザクがぼんやりしながらそんな事を尋ねてみる。
「?ああ、そうだけど…」

 ジノのその返答に…スザクは『ひょっとして…』と思う…
「あのさ…ジノは…あそこに暮らしている人の中で、黒髪で色白で紫の目をした…多分、中学生くらいなんだけど…その子…知らない?」
スザクの言葉にジノが敏感に反応する…
「やっぱり恋煩いかよ…。って、中学生???」
その言葉の後にジノがぼそぼそと『こいつ…ロリータ趣味だったのか…』などと呟いている。
「あの…別に…そう云う意味じゃないんだけど…。それに、彼、男の子だし…」
その言葉にジノが更に食いついてくる…
「え?スザクって…男色なの?」
「だから!そんなんじゃないって云ってるだろうが!」
云わなきゃよかったと後悔しつつ、パソコンのキーボードをたたき始めた。
なんだか…ジノの言葉に…あの時、ルルーシュと名乗った綺麗な少年を汚されたような気分になる。
そもそも、近所づきあいの乏しい都会で、そんなご近所に住んでいる人間の顔を覚えているとも思えない。
そうして、ムッとしながらパソコンに向かっていると…
「あ、ひょっとして…最上階に住んでいる…あいつかなぁ…」
ジノがふっと、そんな一言を口にして、スザクは光速の反応を見せた。
「ホント?」
まるで掴みかかって来るようなスザクの反応に、ジノは驚きを隠せず…その怖いくらいの勢いにこくこくと頷いた。
「多分…スザクの云っている奴って…あいつだよ…。名前知ってんの?」
「あ、うん…。教えて貰った…。『ルルーシュ?ランペルージ』って云ってた…」
「ああ、そいつはランペルージグループの御曹司…。父親は国会議員のシュナイゼル?ランペルージ、母親は女社長のギネヴィア?ランペルージ…。すっげぇ金持ちだし、確かに育ちがいい感じがするし、勉強もめちゃくちゃ出来るみたいだけどな…」
ジノの説明に…ただ、呆然とするしかない。
まず思い浮かんだのは…
―――なんでそんな坊ちゃんがあんなコンビニで買い物しているんだ?おまけに、現金で小銭持ってたぞ…
金持ちに対する印象は…常にカード払い、スーパーやコンビニで買い物なんてした事無く、当然電車も乗った事無い…そんなイメージだったから…
「なぁ…スザク…今、お前が考えているのは…多分、いわゆる『金持ち』と呼ばれている人間に対する偏見だ…」
普段、カード払いしかしないジノにそんな事を云われても説得力がない…
こいつだって、毎月、カードでいくら使っているかなんて知らないだろう…
「そう?ジノを見ていると説得力ないけど…」
社会人にはなったものの、ジノの実家は結構有名な企業だ。
社会勉強の為に…と云うことで現在、この会社に就職しているが、いずれはスザクにとっては雲の上の存在となる相手だ…
会社の給料であれ程のマンションに暮らせるわけがないし、どう考えても、丘陵の手取りよりも、実家からの補助の方が絶対に多いと考えてしまう。
「まぁ、俺だけを見て判断するなよ…。あいつの家に遊びに来ている友達とやらの会話を聞いた事があるんだけど…あいつの作った食事って…凄くうまいらしいぞ…。金持ち皆、朝起きてから寝るまでお手伝いさんにやって貰っている訳じゃないって…。俺だって、基本的には自分で洗濯しているぜ?」
色々とツッコミどころは満載だが…それでも、ジノの話を聞いて…多分、ジノの云っている人物とスザクの云っている『ルルーシュ?ランペルージ』は同一人物だと確信した。

 学校が終わり、帰宅しようとした時…
「ねぇ…ルル…。彼女が…呼んでる…」
マオがルルーシュの元へ来て、ルルーシュを呼んで欲しいと頼まれたらしく、そう伝える。
「誰?あれ…」
ルルーシュはマオに尋ねると、マオは少し困った顔をして答える。
「否…僕も知らない人…。僕、今ちょうど廊下側の一番後ろの席だからさ…ちょうど、声かけ易かったみたい…」 マオがそう伝えると、ルルーシュは、今日、何度目か最早数える気もなくしているため息を吐いた。
「マオも知らない奴なら…俺は関係ない…。俺に話があるならマオに声をかけて呼びだすんじゃなくて、俺に直接言うべきだろ?俺、確実に廊下に出て、帰るんだし…」
云っている事は尤もなのだが…
ただ…マオとしては、ルルーシュのこの態度もいかがなものかと思うのだが…
でも、これまでいくら指摘してもルルーシュはそこに聞く耳は持たずに来ていた。
だから、今回も一応伝えて、マオに声をかけた女生徒への義理だけ果たす。
「解った…一応、そう伝えておくよ…。ルルももう、帰るでしょ?」
「ああ…。いつも御苦労だな…マオ…。帰りに夕食の買い物して帰るから…好きなもの作ってやるよ…」
ルルーシュのその一言でマオの表情は花が咲いたように明るくなる。
「うん…じゃあ、今日は秋刀魚の塩焼きがいい…」
マオが嬉しそうに云うと、ルルーシュは少し複雑そうな顔をする。
「そんなのでいいのか?」
「うん…。だって、僕のママ、生の魚に触れないから…そう云うの、夕食に出ないもん…。今日はちょうど、夜勤だって云ってたから…僕、コンビニ弁当の予定だったし…」
「解った…。でも、その歳で『ママ』はないだろ…」
ルルーシュが呆れたようにマオに云うが、これまた、ルルーシュがいくら指摘してもマオは直す気もないらしい。
マオが、マオにルルーシュを呼びだすように云った女生徒に事情を話し、その女生徒に背を向けて、ルルーシュの方へと駆け寄って来た。
「ルル…お待たせ…。じゃあ、僕も一緒にスーパー行っていい?」
「荷物持ちするならな…」
マオの甘えた態度は…いつもルルーシュと、母親に向けられている事を知っている。
ルルーシュ同様、マオの家庭も色々と複雑なようで…保育園の頃に知りあって、仲良くなった…。
と云うか、マオがルルーシュに懐いた…
ルルーシュもマオを嫌いではなかったし、いつも無愛想にしているルルーシュに対して、笑顔で接して、甘えてくれる事を嬉しいと感じていた。
だから…いつの間にか一緒にいる事が多くなった。
マオ自身、人見知りをする方だし、最近では、とりあえず、どうでもいい相手に対しては、愛想を振りまいて適当に遠ざける術を覚えたようで…
以前と比べて、かなり、社交的になったように見えるのだが…本質的な部分は変わらない。
元々、ルルーシュと一緒にいない時には、クラスメイトに色々苛められていた事を知っている。
ルルーシュと一緒にいると…ルルーシュは何もしていなくても、ルルーシュの家の大きさによって誰もルルーシュに対してはルルーシュが『嫌だ』と思う事を云わない。
まるで腫れ物に触るような態度で接する…
クラスメイトはおろか…学校の教師でさえ…

 そんな中でもマオだけはルルーシュとの接し方が変わらなかった。
だから、ルルーシュもマオと一緒にいるのだ。
マオは誰かに甘える事を求め、ルルーシュはそんなマオと一緒にいることで『一人ではない』と思えるようになった。
家に帰っても…いつでも一人で…
たまに親に会えた時には…偽りの『温かい家庭』を演じてマスコミの前に出て、品行方正の優等生を演じて…
結局…両親は体面ばかりを気にしている…ルルーシュはそう思っている。
確かに…普段、ルルーシュが何をしていようと、完全に黙認状態…
お節介…と云うよりも、何を考えているのかよく解らない担任が両親に報告したところで、担任の云う事など基本的に右の耳から入って、左の耳から出て行っているような気がする…
現在の担任に関しては…正直、ルルーシュとしても妙な市場が入っている気もしないでもないのだが…
それでも、何を報告されても心配している様子もない…
確かに、体面を気にする両親が心配するような事は基本的にはない。
見た目的に問題がありそうに見えてしまう連中が集まってくるが、特にルルーシュ自身、何をするでもない。
その容貌から目立つから…変に絡まれる事は多いが…その度にその頭脳で切り抜けてきた…。
それと…なんだかんだと決してルルーシュから離れないマオが、ルルーシュを守っていた。
甘え癖があるように見えても…ルルーシュが本当に危機の時には、身体を張ってルルーシュを守っている。
ルルーシュは、マオがどうしてそこまでするのか…正直よく解らなかったけれど…
普段は、マオがじゃれてきても、邪険に扱っているようにしか見えないような態度で接しているし、気が向いた時には構ってやるけれど…そうでないときは完全に放置だ…
マオがどれだけ話しかけて来ても、じゃれて来ても、完全にシカトしている事もある。
だから…いつも思う…
―――マオは…何故俺の隣にいる事を選んだんだろう…
と…
ルルーシュの周囲にはあまり人が来ない。
ルルーシュ自身、それはそれでいいと思っている。
たまに、先ほどの女子の様に、声をかけてこようとする者もいるが…自分からルルーシュに声をかけてこようとする者がいない。
相手の方から声をかけてきたのは…多分、現在ルルーシュの周囲にいる人間ではマオだけ…だと思った…
―――否…あの時の変なサラリーマンも…俺に声をかけてきたな…
珍しく、何日も前に一度だけあった人間の事を思い出した。
なんだか…疲れているサラリーマンっぽかったような気がする…
自分から声をかけて来る人間はレアだ…
そして、マオの様に、ルルーシュが邪険にしていてもニコニコとついて来て、ピンチの時には身体を張って助けに来るのは…恐らく今のところたった一人だ…
―――もう少し…マオの事…大事にしてやれればいいのにな…
心の中ではそう思っているのだが…
ルルーシュを取り巻く複雑な環境を考えると…余りマオを巻き込みたくないとも思う…
ルルーシュの中では…表面上、うまく表現できてはいないけれど…マオの事は大切な存在だと思っている。
人は…ルルーシュを器用な人間だと感心するが…
―――肝心な時に発揮できなければ…意味はない…

 ルルーシュがマオを引き連れてマンションからほど近いショッピングセンターに来た。
「マオ…秋刀魚以外に食べたいものは?流石にそれだけ…と云う訳にはいかないだろう?」
学生服を着た男子二人…
流石にショッピングセンターの食料品売り場では目立つ。
しかし、ルルーシュは毎日のようにここで買い物をしているからそれほど気にはしないし、マオの方も、その忠犬ぶりを発揮して、周囲の人間を見回している様子もない。
「そうだなぁ…ルルは何を作っても美味しいからなぁ…。おみそ汁は欲しいよね…。豆腐となめこ入った奴…。後は…そうだなぁ…」
マオがそんな事を云いながら、辺りをきょろきょろと見回す。
ルルーシュの買い物に付き合っている内に、材料を見て、何を食べたいか…を考える事を覚えたらしい…
会計を終えてマンションまでの道のりを歩いている。
マオが食べたいと云ったメニューの材料がマオの持っている袋の中に詰め込まれている。
そして…あの時、あのサラリーマンに会ったコンビニの前を通った時、足が止まった…
何故か…解らない…
でも…なんとなく気になって…
―――なんだか…俺と正反対…な感じがしたな…。
ふっとそんな風に思って、再び歩き始めた。
マオの方は…これからルルーシュの作る夕食にうきうきした様子で前を歩いて行く。
そんなマオを見ていて…ルルーシュは『自分もあんな風に素直に感情を表せれば…少しは違うのか?今の…何かが足りない…満たされないままの自分が…少しは違ったのか?』と思う事があるが…
それでも、マオはマオで色々な物を抱えている。
ルルーシュがこう云う風にしか生きられない様に…マオも、ああいう風にしか生きられないのだ…
家庭の事情で…色々と複雑な事になっているのはお互い様で…
だからこそ、仲良くなれたのかもしれないと思う…
そんな風に考えて歩き出した時…コンビニの方から声をかけられた…
「あ…あの…」
声のした方を見ると…多分、あの時の…
「何か?確か…枢木スザクさん…でしたよね?」
ルルーシュが相変わらず表情を変える事無く、声をかけて来た人物に尋ねる。
ルルーシュのこの切り返しに流石に驚いたのか、一瞬、面くらったような表情を見せた…スザクだが…
「あ、えっと…ちょうど良かった…あの時の100円…返そうと思って…」
そう云いながら自分のスーツの中の胸ポケットに入っている財布を取り出した。
「返さなくていい…俺はそう云った筈ですが?それに…そんな事の為に…俺を呼びとめたんですか?」
ルルーシュの警戒心が…恐らくマックスに達している状態…
目の前の人間を警戒していると云うよりも…自分自身の気持ちが変であると云う…そんな思いへの警戒…
「否…僕だって、一応、社会人だし…。その辺りはけじめ、付けたいんだ…。有難う…あの時は…」
そう云って、スザクが殆ど無理矢理ルルーシュに100円玉と何かを握らせて、踵を返して(恐らく、会社に帰るのだろう)走って行った。
ルルーシュはそんな彼を…呆然と見ている事しか出来なかった…

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