幼馴染シリーズ 〜第3部〜


Third Story 05


 変な男に絡まれて…スザクに助けて貰って…スザクの些細な一言で、ナナリーのルルーシュへの気遣いを気づかされ、涙が出て来て…
今は…スザクと一緒にファーストフードに入ってあまりおいしいとは云えないカフェオレを飲んでいる。
―――スザク…いつの間に…私より頭半分も背が高くなっていたんだ…?
中等部に入る時には…まだ、それほど身長差はなかった筈だ。
元々、女子の平均的身長よりも高い身長のルルーシュだ…
大学部に入った時…周囲の女子学生達はハイヒールを履いていたが…ルルーシュがそんな高いヒールの靴を履いていたら…そうでなくても自分で気にしている身長が更に高くなってしまうので…
さっき、スザクが隣に立った時…スザクの変化に驚いた。
肩幅が広くなって、全体的にがっちりしているし、身長も伸びている。
恐らく、高等部でも色んな運動部の助っ人などをやっていたのだろう…
中等部の時よりもしっかりした筋肉がついているように見えた。
それでも…ナナリーの事で色々考えていて、ノネットにまで当たっていたルルーシュに対しての言葉は…なんだか懐かしかった…
小学生の頃、大人の居ない家で…ナナリーが突然具合悪くなって…泣いていた時…
あの時のスザクも子供だった…
それでも、ルルーシュよりも遥かに冷静に自分の親を連れて来て、どうしたらいいかを尋ねて…そして…
―――あの時の状況に…少し似ていた…
ルルーシュは心の中で思う。
何も持たずに出てきてしまっていたので…ここはスザクのおごりだ…
なんとなく…人におごられる事は好きじゃないが…でも、スザクの場合は、付き合いも長い所為か、こう云う時は特に気にする事はない。
「少しは…落ち着いたか…?」
カフェオレの入った少し大きめのカップを両手で包みこむように持ちながら…ルルーシュがカフェオレを口にしているのを見てスザクが、少し安心したように声をかけて来た。
なんとなく、恥ずかしくて…スザクの方を見る事が出来ない…
「ああ…ごめん…」
冷静になってみると、本当に今は顔から火が出てきそうだった。
なんとなく、スザクで良かったと思ってしまうのは…なぜだろうか…
確かに、幼馴染で…他の友人たちの知らないルルーシュの事を知っている相手だからだろうか…
仕事の忙しい母親が…中々ルルーシュ達のところへ帰って来ないものだから…
家の中の事、ナナリーの世話は全てルルーシュがしていた。
全て…とはいっても、ルルーシュだって、親の手の必要な年は当然あった。
その時にも…ルルーシュは自分の家庭事情を把握し、決して文句を云う事無く、家の中の事をこなし、ナナリーの世話も続けていた。
ナナリーにとっても…ルルーシュが母親だった筈だった…
ナナリーの身体が弱い分、ルルーシュはとにかく、ナナリーに何かあってはいけないと考えていた…
それはまでは…そう思っていた…

 しかし、実際にナナリーが元気になり、多少の制限は残るとは云っても、普通に街を出歩けるようになったし、友達と一緒に遊びに行く事も出来るようになり、自分の事も自分でするようになると…
ルルーシュの方は…ぽっかりと穴があいてしまった様で…
「ごめん…スザク…。迷惑をかけた…」
スザクの顔を見ない様に、ルルーシュは下を向いた状態でカップを両手で持ったまま口を開いた。
スザクの方は心の中で『さっきから謝ってばかりだな…』と心の中で苦笑する。
確かに…ルルーシュがブリタニアに渡る前の状況を知っていれば…解る気がする。
そして、ブリタニアでのルルーシュの様子も…時々シャーリーに届くルルーシュからのメールをシャーリーなりに解釈した報告をされていて…
あながち間違っているように思えないシャーリーのルルーシュに関する報告を聞いていて、なんとなく今のルルーシュは予想がついた。
ルルーシュは…とにかく、これまでナナリーの為に強くあろうとした。
必要以上に大人になろうとした。
そんな姿を…スザクはずっと見て来たから…
「別に…。まぁ、ずっとルルーシュは…ナナリーが第一で…ナナリーと一緒にいる事が、ナナリーの世話を焼く事が、お前にとっても支えだったんだろう?俺は、ずっとそう云うお前を見て来ていたから…あまり、驚きはしないよ…」
スザクは謝るルルーシュに対して、あっさりとそんな風に返す。
スザクの言葉と…ノネットの言葉…
二人はルルーシュを心配してくれている事は解る。
でも…ノネットに対して…なんであんな風に怒鳴ってしまったのだろうかと…その時になって思ってしまう。
ノネットはいつもルルーシュに対して気を配っていてくれた事は知っている。
ルルーシュと一緒にいたいからと…日本までルルーシュについて来たくらいだ…
そんなノネットに対して感謝の念を抱いているのに…
―――私…ノネットに八つ当たりを…
それに…怒鳴りつけて、手ぶらで出てきてしまい…ノネットからは連絡もとる事が出来ない状態に…今になって気がついた…
「ごめん…スザク…。携帯…貸してくれないか?」
ルルーシュが慌ててカップをテーブルに置いて、スザクの方を見て頼んだ。
そんなルルーシュを見てスザクが少しほっとしたような表情を見せた。
「やっと…そう云った事に気が回るくらいにはなったみたいだな…」
そう云ってスザクは自分の携帯電話を手渡した。
「でも…携帯だと…俺の携帯じゃ、彼女の携帯番号…解らないだろうし、登録してある番号しかつながらないようになっているんじゃないのか?」
「番号は…覚えているけど…そうだな…。携帯の設定の問題があったな…。あ、でも、うちの回線の方にかけて、もし、部屋にいてくれれば…留守電を聞いてくれれば…」
「お前…片っ端から携帯の番号を覚えているのか?」
「そうしないと…ナナリーが具合悪くなった時に病院じゃ、携帯は使えないから…公衆電話だろ?連絡の手段が…。だとしたら、覚えている方が手っ取り早い…」
さらっとそんな風に答えるルルーシュに…スザクは苦笑を洩らす。

 ルルーシュは手際よく自宅の電話番号を打ち込んで留守番電話が出るのを待った。
流石に、ルルーシュの家に来て日の浅いノネットがいきなり出るとも思わなかったのだが…
―――Pululululu、Pululululu…
『はい!もしもし!』
出たのは…留守番電話ではなく…ノネットだった…
「もしもし…ノネット…。ルルーシュだ…」
ルルーシュは驚きを隠せない様子で受話器の向こうの人間に返事した。
『良かった…ごめん…ルルーシュ…。私が云い過ぎた…。何も持って行っていないから…って、今、どこから電話をかけているんだ?』
凄い勢いで誤って来たかと思ったら、ルルーシュが今どう云う状況にいるのかを尋ねて来た。
「あ、スザクに会って…それで、今、スザクの携帯を借りているんだ…。心配掛けてしまったか?ごめん…」
『ホントだよ…。あと10分、連絡来るのが遅かったら…カレンたちに連絡して一緒に探しに行こうと思っていたんだ…』
「ホント…ごめん…。それと…さっきは怒鳴ったりして…悪かった…。私自身、ちょっと、つまらない事を考え過ぎていたみたいだ…」
『すぐに帰って来い!まったく…心配させやがって!』
本当に心配していたらしく、少し涙声になっているのが解った。
「ああ…解った…午前中には帰るから…」
ルルーシュはそこまで云うと、電話を切ってスザクに返した。
「なんだか…凄い勢いだったな…。こっちまで彼女の声が聞こえてきた…。何を云っていたのかまでは…解らなかったけれど…」
スザクがノネットの勢いに押された様な表情を見せながらルルーシュから携帯を受け取る。
「ノネットは…私がブリタニアへ行って…一人だった私に最初に声をかけて来てくれたんだ…。彼女は私と違って、たくさん友達がいたよ…。それなのに…私をいつも気遣ってくれて…」
ルルーシュの話に…嘘はないと思うが…
多分、スザクが気づいていて、ルルーシュが気づいていないノネットの心の底にある気持ちがある…
スザクの中ではそう考える。
「そうか…。まぁ、ルルーシュの場合、お前に憧れる奴はたくさんいるけれど…気軽に話せる奴はあまりいないからな…。カレンやシャーリーもその部分を心配していたしな…」
「私に憧れる?なんだそれは…」
スザクの一言にルルーシュが呆れて返す。
ルルーシュのそんなところも変わっていないと…スザク自身は思わず笑ってしまった。
自分に無頓着なのも程がある…
「自覚がないのも問題だと思うぞ…。まぁ、あんまり自覚して、ふんぞり返られたらそれはそれで嫌な奴に見えるけれどな…」
「だから…なんだそれは…」
スザクだけが納得しているようなその態度が気に入らないらしい。
ただ、スザクとしてもルルーシュに解る様に説明するのは恐らく困難であろう。
「なぁ…ルルーシュ…。だから、そう云った自分の周囲の事にも目を向けろ…。自分の事も含めて…。これまで、自分の事に関心がなかっただろ?ルルーシュは…」
「自分に関心なんてある筈がないだろ…。それでも、ナナリーの為には自分自身を維持しなければならないとは思ってはいたぞ…。そもそも、私はナルシストじゃないし…」

 あまりにルルーシュらしい返事に…
スザクも苦笑を返す事しか出来ない。
これでは、自分を含めて、ルルーシュに対して特別な感情を持っている者たちが報われない。
確かに…これまでのルルーシュは自分の事よりもナナリーが最優先だった。
少しだけ…そのぎちぎちのルルーシュの心の中に入る隙間を作られたスザクも…当時はユーフェミアの彼氏だった訳で…
「ナルシストになれと云っている訳じゃないんだ…。ただ、ルルーシュは何か自分の為にしたい事とか…ないのか?好きな奴…とか…いないのか…?」
正直、今のスザクにとってはあまり聞きたくない事かも知れないが…
それでも、話の成り行き上仕方ないと思う。
それに…これでルルーシュが少しでもナナリーにばかり縛られる事のない状態になれば…と思うのはスザクの正直な気持ちだ。
カレンが云った通り、スザクは過去にルルーシュを何度も泣かせて来たし、酷い事もして来た自覚はあるのだ。
今はただ…
―――ルルーシュが自分自身を見失って行く姿は見たくない…
それだけの思いがスザクにこうしてルルーシュと話をさせているのかもしれない。
「やりたい事…好きな人…。そう云えば…考えた事もなかったな…。大学に入って、これからは、恐らく勉強に追われる事になるだろうし…」
「お前な…いくら医学部だって、そこまで頑張らなけりゃならない程大変な訳じゃないだろう…。確かに勉強しに行くところだけれど、他にも学ぶ事はあるんじゃないのか?いいにつけ、悪いにつけ…」
「そうかも知れないけれど…」
ルルーシュが医学部に入って理由はなんとなく予想はつく。
恐らく、今みたいにルルーシュと話せる状況であったなら、ルルーシュが進路を決める時にスザクはルルーシュの進路を反対していたかもしれない。
結局、ルルーシュはナナリーが元気になっても、ナナリーに縛られていると云う事だから…。
もし、スザクが考えている理由以外にルルーシュの中に目的があると云うのなら、そんな事は思わないのだが…
ライから少しだけ聞いた事があった…
ナナリーに施される手術は…理論上では、動物実験では、完成されたものであるのだが…
実際に人に対して施すのはナナリーが初めてだと云う。
そして、世界中の医療関係者が今でもナナリーの状態を見守っている。
ナナリーが手術して2年以上経っていて…その手術は少しずつ技術が進歩していて、より負担の少ないものとなっていると云うのだが…
これは…初めての患者となる上では避けられないことでもある。
そして、その技術の進歩は当然ながら、ナナリーのデータをもとにされているのだ。
ルルーシュ自身、完成したとは云っても、まだ、ナナリーの手術が終わってから浮かび上がる問題などを目にして来て…そして、医療の道へ進みたいと考えたのだろう。
ルルーシュなら…ナナリーの為となれば確かに、その道のスペシャリストになれるかもしれないが…
しかし、結局、ナナリーに縛られた人生であると云う事実が残る。
それは…きっと、ルルーシュを幸せにしないし、ナナリーも喜ばない。
ナナリーだって、いつも自分の所為でルルーシュが…と云う思いがあった筈なのだから…

 今のルルーシュのままでは、恐らくルルーシュはいずれ、本当にナナリーがいなければ…ナナリーに干渉し続けなくては生きていけなくなる…
スザクはそれを危惧した。
多分、ルルーシュほど、自分に課した何かに対して完璧にこなせないから…考えられる事だ。
そう思うと…優秀すぎると云うのも困ったものだと思う。
一図の思いと云うのも、耳には心地いい言葉かもしれないが…その思いを抱いた者は、その一途に思う何かがなくなった時…支えを失うと云う事だ。
「なぁ…最初は一般教養な訳だし…ルルーシュなら多分それほど頑張らなくたって単位は取れるだろ?今度、皆で遊びに行こうぜ?元気になったナナリーやロロ達とさ…」
「え?でも…」
ルルーシュの中では未だにスザクとユーフェミアが別れた事がちゃんと理解できない状態にいるのだ。
それに、中等部の時にもルルーシュの存在が邪魔になっていた事は、今でも鮮明に覚えている。
「大丈夫だよ…。俺と彼女は何でもない…。と云うか、俺と彼女と今でも何かあるとか云う事になったら、俺、今度こそライ先輩に殺されるし…」
スザクが更なるルルーシュの勘違い…誤解…と云うか、自分の中でうまく整理できていない部分に苦笑して返した。
「そう…なのか…?」
ルルーシュが少し心配げに聞き返す。
「大丈夫だよ…。俺、ユフィに振られたんだ…」
結構明るい感じに報告するスザク…
ユーフェミアからその話をされた時にも…ユーフェミアは何のわだかまりもないと云った感じで…
二人とも過去の笑い話だと云う感じになっている。
―――私だけ…取り残されているのかな…
そう思った時にルルーシュから少し自嘲が零れた。
確かに…3年以上、ルルーシュは日本から離れていたのだから…仕方ないと云えば仕方ないのだが…
「なんて顔をしてるんだ…。云っただろ?ルルーシュがいなかった分のこちらの話は俺が教えてやるって…」
「そ…そうだったな…。色々…ごめん…」
ルルーシュはまた下を向いた…
スザクとしては、これまでナナリーの事ばかりを考えて来たルルーシュを思うと、溜息をつきたくなるが…
ただ、そんなルルーシュの中でもスザクは心を動かした相手だ…
今でもそうであると云う自信はないが…
それでも、こうして、『幼馴染』としてなら、こうして本音を吐露してくれている。
今は、多分、ルルーシュの頭の中でも色々考え込んでしまって…整理が出来ていない状態だ。
「そこは謝るところじゃなくて…礼を云うところだろ?」
スザクが『やれやれ』と云った表情でルルーシュに指摘する。
「そ…そうか…ごめん…」
ルルーシュのこの反応にまたも『やれやれ』と思ってしまう。
本当に、『1』から教え直さないと直らないのかもしれないが…
でも、ルルーシュが涙を流せる場所があって…
そして…少なくとも、スザクの前でそれを隠さなかった事に…スザクは素直に喜んだ。

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