幼馴染シリーズ 〜第3部〜


Third Story 06


 これまで、ナナリーの事が第一で…
自分の事を顧みる事をしてこなかった…
いい意味でも、悪い意味でも…
今は悪い意味でのひずみが出てきてしまっていると云える。
ルルーシュ自身解っている事だ。
ナナリーが元気になって、一人で色々な事が出来るようになるのを…誰よりも望んでいたのはルルーシュであると…
でも、実際にそうなった時…一番その事で寂しいと感じて、一人になってしまったと感じているのはルルーシュだ。
「なぁ…ルルーシュ…これからは…お前もナナリーを見習った方がいい…」
ルルーシュの頭の中が完全にスクランブル状態になっているのは、傍から見ていても解る。
ルルーシュの中では一人で寂しがって、一人で孤独になっている状態だったから…
でも、ルルーシュ自身が、そんな風に殻に閉じこもってしまっていた為に、本当なら見えていたものも見えなくなっていた事が解る…
「ナナリーを…見習う…?」
スザクの言葉にオウム返しで聞き返す。
確かに…今のルルーシュは…ナナリーが少しずつルルーシュから離れて、自分の世界を作り始めている。
そんな中、ルルーシュもルルーシュの世界を作って行かなくてはならない。
「そうだよ…。ナナリーは、身体が元気になって、これまで見た事がなかった事、した事がなかった事をチャレンジし始めて、自分の中で楽しい事を見つけているんだろう?ルルーシュだって、自分の本当にやりたい事を…考えてみろよ…。ナナリーの事を一切考えないで…自分のやりたい事を…さ…」
スザクがゆっくりとそう告げる。
ルルーシュは困ったような顔をする。
突然そんな事を云われたって、これまでナナリーの事だけで一喜一憂して来たルルーシュだ…
突然考えてみろと云われても…どうしたって難しい…
そんなルルーシュの顔を見て、スザクは更に続ける。
「じゃあ、今、これから何かしたい事とか、行きたいところとか…ないか?」
続いたスザクの言葉にルルーシュが少し…考える…。
ノネットにはお昼までには帰ると云ってしまっている。
時計を見れば…既に11時を回っているのだ。
「あ、でも、ノネットには昼前には帰るって云っちゃったし…」
「なら、もう一度電話しておけばいいだろ?時間がかかる事なのか?」
中々前向きなスザクの返答に…ルルーシュは困ったような顔をする。
正直、朝、理不尽にノネットに怒鳴りつけた事が、少し気になっている。
電話で、あんな風に話をしてくれたものの、怒鳴りつけてしまって、冷静になったルルーシュとしては、なんて謝るべきかを考えるのが先だ…
ノネットの性格を考えれば、どうせ、
『そんなこと全然気にしてないって…』
と、返って来てしまいそうだが…
本当にそれでいいのかどうかは…ルルーシュの中では悩むところだ。
ルルーシュ自身、人との付き合い方が下手だと云う事は解って入る。
そんなルルーシュといつも一緒にいてくれているノネットに対して八つ当たりをしたのだ。
―――やっぱり…私って最低だ…
そんな風に考えていると、更に落ち込んでしまう。

 そんなルルーシュの様子を見ていたスザクがまた、声をかけた。
「どうしたんだ?さっき、電話で『怒鳴った』とか云ってたよな…。お前でも怒鳴る事があるんだな…」
スザクが面白そうにそんな事を云う。
正直、あんまり感情をむき出しにして人と喋る事はあまりないのだ。
と云うか、人と接すると云う事も基本的には必要最低限だった。
ルルーシュはそんな風に思っている。
だから、中等部の時、ミレイがどうしてルルーシュに生徒会長を任せたのか…正直よく解らなかった。
人の上に立つ…それが、中学生の生徒会とはいえ、小さな集団の中での代表と云う事だ。
ミレイの様にどんな相手でも受け入れられるような性格でもないし、誰にでも好かれる様な性格だとも思えない。 そんなルルーシュに対して、ノネットはいつも笑って一緒にいてくれたのだ。
「スザクは私の事をなんだと思っているんだ…。私だって、怒鳴る事だって…ある…。ノネットが私に…『ナナリー離れした方がいい…』って云ったんだ…。その時…私…」
ルルーシュはそこまで云うと、またも下を向いた。
本当に情緒が不安定になっているらしい…
確かに…最近、ロロが出かけて行くのをよく見る。
恐らく、ナナリーと一緒に出かけているのだろうと予想はしていたが…
二人で…と云う事なのかどうかは解らないが…
それでも、ロロ自身はナナリーの事を大切に思っているのは解る。
ルルーシュもロロであれば…と思ってくれているのは事実だろうと思うが…
「まぁ、確かに…ルルーシュはしっかり者の様に見えて、変なところでずっこけるからな…。俺なんかはいつもの事だから誰も驚かないけれど、ルルーシュの場合は珍しい事だからな…。どうしても驚くよ…。こう云う時は普段しっかりしていると大変だな…」
くすっと笑いながらスザクが云うと、ルルーシュはむっとする。
「別に…私はしっかり者なんかじゃ…」
―――寂しいと云うだけでいつも優しくしてくれているノネットに八つ当たりして、ナナリーの私への思いやりも忘れていて…それで…今はスザクに迷惑をかけて…
ルルーシュとしては何故自分がそんな風に見えてしまうのかがよく解らない。
「まぁ、確かに…人は見た目で判断できないよな…。お前って、外見が凄く綺麗だし、実際に成績はいいし、人に頼まれれば120%こなしているし、そう思われるのはある意味仕方ないよな…。普通、携帯電話のメモリーに入っているデータ、全部覚えるなんて事しないぞ…」
少しふざけたような口調でスザクがそう云うと、落ち込んでいたのに、またも、ムッとして口をとがらせた。
「それは必要だから…」
「それが出来ない奴がお前に憧れるし、妬ましく思うし、特別視もする…。こうして話していれば、こんなに抜けているところばっかりなのにな…」
スザクのこの一言に…ルルーシュ自身、かなりカチンとくる。
自分で思っていて、云える事でも、他人に云われるとムカつくのは何故だろう…
それが…自分の近しい人間であればある程ムカつく…

 こうして話していると、普段は童顔で、人当たりが良くて、子供みたいに笑うスザクが…妙に大人に見える。
と云うか、中学の頃からませガキだったような気もするが…
「なんだよ…。自分に彼女が出来た事があるからって…」
誰も、そんな話をしていた訳じゃないのだが…
なんとなく出てくる言葉がなくて…そんな事を云ってしまう。
「今はそれ…関係ないだろ…。それにお前だって、自分に作る気がなかっただけじゃないか…。それに、ジノさんは一応ルルーシュの彼氏だったんだろ?」
「ジノは…別に…。あ、でも、スザクと違ってジノは優しかったな…。あの頃…ナナリーは身体の無理が利かなくて、中々遊びに行く事も出来なかったから…。一度だけ…動物園に行った事があったっけ…」
ブリタニアに渡ったばかりの頃には、あまり思い出したくない思い出だったが…
今ではこうして、懐かしい昔話として話す事が出来ている…
時間と云うのは不思議な力を持っていると思う。
こんな風に懐かしい思い出として話せる日が来るとは思わなかった。
「動物園かぁ…。今日は無理かもしれないけれど…今度…一緒に行くか?」
「え?」
スザクが何でもない事の様に話しているから…ルルーシュとしてはどう返していいか解らない。
と云うか、スザクのこの言葉の真意はどこにあるのか…
そもそも、なんでこんな話になっているのか…
「今日は、午前中に帰るんだろ?もうすぐ昼だし…。だから、お互い学校が休みの時にでも…」
「そうじゃなくて!」
スザクの言葉の真意が解らないルルーシュが聞き返す。
ルルーシュ自身、この展開には着いて行けないのだ。
いくらスザクがユーフェミアと別れたと云われていても…
「別に、難しく考える事無いじゃないか…。昔は良く遊びに行って訳だし…。それが、近所の公園から、動物園になっただけだろ?」
スザクはさらっと云うが…
ルルーシュとしてはどう答えるべきなのか…困ってしまうが…
ジノに対してなら、街の案内は軽く頼む事も出来るのに…
傍から見ていると思春期が始まったばかりの少女の初恋話の様だ。
「なぁ…ルルーシュ…。俺さ、今日、こうしてルルーシュと会って、話してみるまで…ルルーシュが変わったみたいで…怖かった…。と云うか、ルルーシュが俺の随分先を歩いているみたいに見えて…俺自身がちゃんと成長できていないんじゃないかと思っていたんだ…」
そんな事を苦笑しながら、冷めたコーヒーを一口口に流し込みながら話す。
スザクのそんな言葉にルルーシュは『一体何の事だ?』と云う顔をする。
ルルーシュから見れば、スザクはルルーシュの事なんて何も気にしていない…とまでは云わないが、それでも、それほど気にしている様に見えなかったし…スザクのセリフはルルーシュのセリフだと云いたくなる。
「でも…こうしてちゃんと話してみれば…やっぱり、ルルーシュだった…。時間の分しか成長していない…。と云うよりも、ナナリーをロロに盗られたと勝手に思い込んで一人で落ち込んで…昔と変わらないな…。そうやって、思い込みだけで落ち込むところは…」

 笑いながらそんな事を云うスザクにやっぱり、ムカついている自分がいる事に気が付く。
「何が云いたい?」
ルルーシュが少し低めの声で尋ねる。
そんなルルーシュを見ても、子供に睨まれている程度にしか思っていない様なスザクの顔がそこにある。
「何が云いたい訳でもないけれど…まぁ、ちったぁ大人になったのかと勘違いしていた自分にその早とちりを反省しているんだよ…」
この憎まれ口の叩き方に更にルルーシュは不機嫌な顔を見せる。
「お前だって…そこまで解っていて私の事を誤解しているじゃないか…。空港にはお前だけ来ないし、ユーフェミアからはお前と別れたとか云われるし、お前は私を見て無視し続けるし…」
次から次へと出て来るルルーシュのスザクへの不満の数々…
ルルーシュにしてみれば、日本を発つ時に幼馴染に戻れたと喜んでいたのに…帰国した途端に肝心のスザクはルルーシュを避けているし…
「無視していた…って事になるのかな…。俺は声をかけられなかったんだよ…。お前、俺とユフィの事で随分苦しんでいたし、色々してくれたのに…。結局俺たちは…」
スザクとしては、ルルーシュのお陰でユーフェミアと付き合っていられたと云う思いが強い。
しかも、スザクの知らないところで色々な話が進んでいたのだ…
そして、スザクだけ何も知らなかった…
ルルーシュの性格なら…『スザクが気にすると行けないから…』とか云いかねないが…
その辺りはルルーシュの大いなる誤解であると声を大にして云いたい気分だ。
「待て…。お前…何の事を云っている?」
ルルーシュが驚いた声で尋ねて来た。
この後に及んで、すっ呆ける気ではあるまいな…と云う思いに駆られるが…
「お前…ジノさんとの時もそうだし…それに、ヴァインベルグ家の件があったときだって…」
スザクがそこまで云った時、ルルーシュが、『ああ…』と云う顔をする。
どこまで人を小バカにしたようなボケ方をするのか…
「ヴァインベルグ家のあの騒ぎの時…ユーフェミアをアッシュフォード学園でかくまうように手配したのは、シュナイゼル義兄さまだ。私は関与していない…。と云うか、私自身、確かにニュースを見て気にはしていたけれど…ナナリーの事で私がシュナイゼル義兄さまにそこまでお願いできる状態じゃなかったし…」
どこまでも鈍感なルルーシュを見ていると、シュナイゼルもジノも報われないとスザクは心の底から思う。
多分、この調子だとスザクも報われる自信がなくなってしまう。
今のところ、頼みの綱と云うか、小さな希望としては、ユーフェミアの働いている喫茶店で二人の同級生に発破をかけられた時の言葉くらいだ…
「お前…シュナイゼルさんにも大切にされているんだな…」
確かにそんな話を聞いた事はあったが…ルルーシュの口から真実が語られて、やっと、スザクの中で真実が本当の意味で真実となった感じだ。
血の繋がらない義兄妹…
―――これもまた…なんだか複雑そうな…
と、つい、他人事の様に考えてしまう。
ここに自分が当事者として名乗り出ていいのかどうかは別にしても…スザクの中の気持ちは…
多分、誰が出て来ても、変わらない様な気がする…

 なんだか、訳の解らない云い合いをしていても始まらない…
ルルーシュはそんな事を思いながら、口を開いた。
「そろそろ…帰らないか?もうすぐ、昼になるし…又ノネットが心配するし…」
ルルーシュの一言でリアルな状況に頭が動いて行く。
「そうだな…。お前、どうせ朝飯食べていないんだろう?どうするんだ?昼は…」
「まぁ、冷蔵庫の中身で何とかするさ…。ノネットはだいぶ家電製品の使い方を覚えたけれど、まだ、時々そう時期に遊ばれていたり、電子レンジのボタンを間違えたりするからな…」
面白い同居人が出来たと笑うルルーシュだが…
スザクとしては、面白話として笑う部分と…そうでない部部がある事に気づいていない訳ではない。
あの、ノネットのルルーシュに対しての心配や、スザクに対する視線が物語っている。
―――本当に男女問わずに好かれる奴だよな…。なんで、女に睨まれながら…なんだか…
カレンもノネットほどストレートではないが、ルルーシュに対して随分入れ込んでいるフシがあるし…
そんな事に気が付くスザクも性別が違うと云うだけで、彼女達とあんまり変わらない気持ちを抱いている訳だが…
否…単純にこれを認めてはいけない様な気がしているだけで、自分の中でその気持ちの正体が何であるのかは解っている…
―――ルルーシュに対する…独占欲…
今日、こうして話していて…様々なルルーシュを見て、そして、知って、それに対してきっと、スザクは優越感を抱いているのだ。
あれだけルルーシュを苦しめていた筈の存在が…と思ってしまうが…
でも、こうして解き放たれてしまった気持ちをどうにか出来るものなら、とっくにどうにかしていると云うものである。
「そうか…。じゃあ、送って行くよ…。俺も家に帰るからさ…」
「と云うか…なんで今日はあんなところにいたんだ?」
ルルーシュの直球ストレートな質問…
スザクの中では『偶然と云えば偶然…必然と云えば必然…。但し、そこに故意的な計算があるけれど…』と云う事なのだが…
「ちょっと用事があったからさ…。で、その用事の帰り道に、あの現場に遭遇したんだよ…」
少しだけ怪しく聞こえる答えだが…
それを確認するだけの術をルルーシュは持たない。
「そうか…。でも、確かに助かった…。有難う…」
「まぁ、泣きたいときはあんなところで泣くなよ?下心のある男に付け込まれるだけだしな…」
年下の世間知らずの女の子に話すような口調がまたもルルーシュの中でムカつく。
「わ…悪かったな!ナナリーには…云わないでくれ…」
「ああ…解っているよ…」
―――ナナリーが知ったら…また、ルルーシュはナナリーに傾倒してしまうしな…。やっと、少しは離れる気持ちを持ってくれたのに…。
スザクの本心はルルーシュの知るところではないので、そのスザクの返事にルルーシュはほっとする。
こんな風にナナリーの存在がスザクの中で不安になると云うのは…それは…スザクの中で未だに自信が持てずにいると云う事なのだろうか…
そんな自分に苦笑して…スザクは伝票を手に、立ち上がり、ルルーシュと共に店を出て行った…

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