幼馴染シリーズ 〜第3部〜


Third Story 02


 もうじき、大学生活が始まる…
ルルーシュは流石にブリタニアにいた頃のように寮での生活ではないので家事を全てこなしている状態に慣れるまでには…それなりに時間が必要で…
「ホント…身体は怠ける事にはすぐ慣れるけれど、こうして色々やろうと思う事に対してはなかなか慣れるまでに時間がかかるな…」
ルルーシュが帰ってきて、現在このマンションに暮らす3人分の家事をしながら呟いた。
一人、住人が増えたところで、家事の負担が一気に増える訳じゃない。
基本的にはそうは変わらないのだ。
それでも…
「ルルーシュ…お前…大丈夫か?」
ノネットが掃除をしているルルーシュの後ろから声をかけて来た。
ノネットもだいぶ家事について覚えてくれてはいるが…
まだ要領を得ないし、まだまだルルーシュとは比べ物にならない。
ただ、ノネットの好奇心の強さとか、ルルーシュを手伝おうと云う思いはひしひしと伝わってくる。
「お姉さま…私も何か…」
ルルーシュが一人で身体を動かし、ノネットが見かねて声をかけていたのを見て、ナナリーも声をかけて来るが…
「あ、大丈夫だ…心配ない…。これまで寮生活で色々と怠け過ぎたツケだよ…。それに、ナナリー…これからロロと出かけるんだろう?遅れたらロロに悪いぞ…」
既に出かける準備が整っているナナリーにルルーシュはにこりと笑いかける。
ルルーシュもノネットもナナリーも、今は入学式を控えている…春休みと云う奴で…ルルーシュとしては、入学式を終えてバタバタする前に家の中を何とか暮らしやすいようにしたい…と云う事だった…
力仕事の場合にはノネットに手伝って貰うのだが、こまごまとした家事に関してはルルーシュがやった方が速い…
と云うか、ルルーシュ自身、誰かを上手に使うと云う事が得意ではないのだ。
アッシュフォード学園の中等部の時も生徒会長を押し付けられ、結局、ルルーシュ一人が頑張っていたような気がする。
「ルルーシュ…私も…モップがけくらいなら出来るぞ?それに、洗濯物をたたむくらい…」
ノネットはそうやって云ってみるし、実際にやらせれば出来る事しかノネットも口出ししないのだが…
そうもルルーシュは自分のペースで仕事をしたいタイプらしく、人に何かを頼むと云う事が苦手らしい…
そんな事をやっている内に…
―――ピンポーン
玄関のチャイムボタンが押されたようだ。
「ナナリー…多分、ロロだろ?ナナリーが出ればいいよ…。で、そのまま出かければいい…。後、遅くならないようにな?どうしてもと云う時は必ず連絡を入れる事!」
ルルーシュがナナリーに色々と指示しているのを見てノネットは…
―――なんか…ルルーシュって姉と云うよりも母親だな…ナナリーに対しては…
と思っていた。
「お姉さま…そんなに心配しなくても…。ロロ君とはちょっとお買い物に行くだけですよ?」
ナナリーもノネット同様、ルルーシュの心配の仕方に呆れていたらしい…

 ナナリーが出て行くのを見送り、ルルーシュもほっと息を吐いた。
「ルルーシュ…一段落したら…少し出かけないか?この間の…あの喫茶店もちょっと気に入ったんだけれど…もう少し待ちの中を知りたい…」
ノネットの言葉でルルーシュがはっとした。
「そう云えば…ノネット、まだ、ちゃんと街を歩いていなかったな…。私も、久しぶりで…ちょっと買い物で出かけて見て、店とか変わってしまっているから…完璧なナビにはなれないけれど…」
ここまでそれなりに出かけていたのだが…色々と店が変わっていたり、建物そのものが変わっていたりと…ルルーシュとしても案内する自信がなくなってしまっていた。
「そうか…なら、カレンやシャーリーが暇なら一緒に出かけないか?」
ノネットの提案にルルーシュは少し考える。
「彼女たちも色々予定があるみたいだったからなぁ…どうしたらいいか…」
ルルーシュがそんな風に考えている時に…
―――PiPiPiPiPiPi…
ルルーシュの携帯が鳴った。
携帯のディスプレイの発信元を見た時…
「ジノ…」
ルルーシュがその名前を口にした。
ルルーシュが帰ってきたら必ず連絡するようにと云っておきながら、ここまで一度も連絡を入れて来なかった…(一応)ルルーシュの元彼氏…
ルルーシュがブリタニアに渡る前に会って以来だ…
「もしもし…」
ルルーシュがすぐに携帯を手に取った。
そして…その携帯電話をかけて来た人物と話している。
ノネットの中ではこれまでに見て来たルルーシュの中で初めて見る、ルルーシュの表情だった。
スザクと顔を合わせた時の様な切ない表情でもなく、シュナイゼルと一緒にいる時の様な少し緊張はしているが、その存在に何の憂いも感じていない表情でもなく…
何と表現していいのか解らないが…少し、何か負い目がある様で、でも、その人物を話が出来る今の状態を、安心している様な…
ルルーシュは基本的にあまり長電話をする方ではない。
ブリタニアにいた時も、時々、ナナリーが病院からかけて来たものの、その電話を取ってすぐに病院へ向かうと云う事をしていたし、ノネットが里帰りしていた時に実家からルルーシュに電話をした時も特に何の用もない時だと殆ど話もせずに切られてしまったし、基本的にルルーシュは電話を好んでいなかった事はなんとなく知っていた。
それなのに…今のルルーシュは…
―――電話が来ただけで…なんだか…嬉しそうだった…
ルルーシュが携帯電話のディスプレイを見て…『ジノ』と云う人物からだと知って、少しだけ表情が柔らかくなった…
その時のルルーシュの顔が…ノネットの中では忘れられないのだが…
ノネットとしては…中々複雑な気分ではある…
自分でも…なんでこんな風に思うのか…今のところは不明なのだが…
でも、日本に来た時に『ルルーシュのナイト』と云われた時には…自分の気持ちが高揚した事は今でも覚えている…
それの正体が何であるのか…自覚する事になるのはまだ先の話…と云う事なのだが…
ルルーシュの電話をしている姿を横目に…なんとなく複雑な思いを抱えながらノネットは自分の洗濯物を洗濯機へと運ぶのだった…

 ルルーシュが電話を切った後…
「ノネット…もし良かったらこの後、一緒に出かけないか?」
ルルーシュの突然の申し出に…ノネットが驚く。
「あ…いいけど…。何の電話だったんだ?」
「今、ユーフェミアのお兄さんのジノから電話がかかって来たんだ…。で、やっと少し時間が取れたとかで…。で、一緒に出かけようって言われたんだけれど…ノネットも一緒に街を案内してくれるって云うから…。シュナイゼル義兄さまと違って、車じゃないけれどな…」
その名前…どこかで聞いたことあると思ったら、ヴァインベルグ家の長男の名前だ…
そして、ルルーシュが時々ネットニュースでヴァインベルグ家の記事が掲載される度に口にしていた名前…
その時の名前は3人分…
『ユーフェミア』と『スザク』と『ジノ』だった事を思い出す。
「いいのか?私もついて行ったりして…」
「ジノには話してある…。大丈夫だ…。ホントに王子様みたいだから…ノネットは一目惚れしちゃうかもな…」
くすくす笑いながらルルーシュが話すが…
あまりに自分の外見に無頓着なルルーシュを見ていると、本当に嫌みに思えて来るのは女心だろう…
「そんなにいい男なのか?って云うか、ルルーシュの周囲ってホントにいい男しかいないよな…」
ノネットがぼそりとそんな事を呟く。
ブリタニアにいた時もルルーシュの周囲には(ルルーシュが望んでいた状況ではないにしても)やたらとルルーシュに惚れてしまった男どもが集まっていた。
それに…認めたくはないが…ルルーシュの心の大きな部分を占めている『枢木スザク』と云う男も…正直癪に障るが、恐らく、普通にしていればもてる部類に入るだろう…
一度だけ会った、あのユーフェミアが執着していたと云うくらいだ…
「ホント、私の周囲には凄い人間しかいなくて…。私も正直、周囲を見ているとつい、卑屈になるんだよな…」
ははは…と笑うルルーシュに対して…ノネットとしては普通に白けた視線を送るしか出来なかった。
―――無自覚ってのは…ホントに罪だよなぁ…。と云うか、ブリタニアでルルーシュの追っかけしていた連中が…少し哀れに思えて来たよ…
しっかりしているかと思えば、恐ろしく無自覚で天然なルルーシュを見ていると、つい、溜息を吐きたくなる。
このマンションに来て、何度か顔を見ている『枢木スザク』もこんなルルーシュを見ていて、自分は蚊帳の外…とか考えて他の女に走ってしまったのではないかと…思えてしまう程だ…
ルルーシュの話からして、そんな事はないと思うのだが…
それでも、そんな冗談話に真実味が生まれて来るのだから不思議である。
「まぁ、ルルーシュが卑屈になるとかはどうでもいいとして…私もついて行くぞ…。その時に街を案内して貰えるんだろう?」
「ああ…ジノは紳士だからな…シュナイゼル義兄さまと同じくらい…。だから、ノネット、本気で惚れちゃうかもなぁ…。そうなると、ユーフェミアがノネットの義妹になるのかぁ…」
ルルーシュの一言に…やはりノネットはあきれ顔になるしかない。
―――相手にも選ぶ権利はあるぞ…。それに、話が飛び過ぎだ…ルルーシュ…

 ノネットのそんな複雑な気持ちをよそに…ルルーシュはなんだか楽しそうだ。
その、ユーフェミアの兄であるジノに惚れている…と云う感じもしないのだが…
それでも、ルルーシュが誰かと出かけると云う事で、これほど楽しそうにしている事は見た事がない。
「準備が出来たか?」
「ああ…って云うか、そんな王子様みたいな人と出かけるのに…ルルーシュはGパンにワイシャツかよ…」
「別に…デートって訳じゃないし…いいだろ?それで…。ノネットは何を着ていてもサマになるけれど、私は…そんなに色々服を持っている訳じゃないからな…」
色々ツッコミどころ満載なルルーシュの発言が続いていて…ノネットとしてもどこをどう突っ込んでいいのかが解らなくなってきている。
そもそも、何を着てもサマになっているのはルルーシュの方である。
こんなラフな格好でも男女問わずに声をかけてきそうだ。
と云うか、完全に世の女性に喧嘩を売っている発言である。
「とりあえず、準備はできているから…どこで待ち合わせなんだ?」
「マンションの入り口だ…。そこにジノが迎えに来る…」
ユーフェミアの兄と云う事はルルーシュよりも年上と云う事だ。
ルルーシュはそう云ったところで年齢とか立場を非常に重視して、その相手の名前を呼ぶ。
それなのに、今、ルルーシュはその『ジノ』に対して呼び捨てだ…
「じゃあ、行こうか…。ルルーシュがそんな風に楽しそうに話す相手を…私も見てみたい…。まぁ、楽しそうって云うよりも、なんだか凄く安心している相手…って感じだけれどな…」
ノネットにそんな風に云われて、ルルーシュが『え?』と云う顔をした。
ノネットはそんなルルーシュを見て『無自覚だったのか…』と思うが…
色々聞いてみると、色々複雑な状況だったらしいが、ルルーシュはその相手を非常に信用しているらしい。
実際に複雑な状態になっているヴァインベルグ家を出て、自分で身を立てているという。
何れ、ヴァインベルグ家がどうなるか、発表されると云う事だが、その発表次第では折角その『ジノ』が築いてきたものが崩壊するなり、彼が手放さなくてはならない者となるのかもしれないが…
「安心…か…。そうかも…知れないな…。こんな私でも…ジノは私を好きだと云ってくれた人だから…かも知れないな…。私はそんな彼に凄く最低な事をしたのに…ブリタニアに渡る時には…笑ってくれたから…」
過去に何があったのかは知らないが…ルルーシュの表情は…安心している部分と、そして、自分自身を卑下している…そんな姿が見えた。
「でも、卑怯だよな…私も…。ジノの好意に甘え続けているって…」
ルルーシュの少し、自嘲したようなその表情に、ノネットはまたも複雑な気分になる。
と云うか、日本に来てから、ルルーシュを見ていると複雑な気分にさせられてばかりだ…
ブリタニアにいた時も、ルルーシュに義兄であるシュナイゼルのルルーシュに対する態度は『絶対に兄貴としてじゃないぞ!』と思っていたくらいだ…
「そんな事無いって…。それはルルーシュの持っている…なんて云うかな…『徳』ってやつか?」
ノネットの言葉に対して…ルルーシュが驚いた表情を見せて、笑い出した…
「ノネット…一体どこでそんな言葉を覚えて来たんだよ…」

 やがて、時間となり、待ち合わせ場所へと向かう。
日本に来て、初めて見るもの、初めて聞くこと、色々あって楽しいと思う…
そこで不安にならないところはノネットの長所だ。
「ルルーシュ…」
二人で待っているところに、長身の金髪の青年…ではなく、男性と云っていい程の人物が声をかけてきた…
「お久しぶりです…ジノ…」
ルルーシュがその人物にそう、挨拶する。
そして、ジノがノネットの方を見る。
「君か…ルルーシュの云っていた…。ユフィからも聞いた…。『ルルーシュのナイト』なんだって?」
気軽に声をかけて来るジノに対してノネットも緊張が解ける。
「はい…ノネット=エニアグラム…。職業は学生兼ルルーシュのナイトやってまぁす♪」
相変わらずなノネットの言葉にルルーシュがギョッとした表情を見せる。
「おい!ノネット…」
こう云う風にルルーシュを困らせるのはある意味ノネットの趣味と云ってもいい…
実際に、ブリタニアにいた頃からこんな感じだった。
「私はジノ=ヴァインベルグ…。ルルーシュがこんな風に困った顔をするのって、多分、私は見た事がないよ…」
くすくす笑いながらジノが自己紹介をして、感想を口にする。
この二人の会話に…ルルーシュとしては…やめて欲しいと思っているのだが…
ただ、ジノはともかく、ノネットがこうした勢いに乗ってしまうと、ルルーシュでは止められない事をよく知っている。
逆に下手な事を云って墓穴を掘る事にもなりかねない。
「あ…あの…今日は街の案内をして下さるのでしょう?ジノ…。ノネットとそんなに話しを盛り上げている時間はあるんですか?私が帰国の報告をしても中々お返事を下さらなかったのに…」
流石にマンションの前でこの二人が話に花を咲かせてしまっている状況が長く続くのはあまりよろしくないとルルーシュが判断して声をかける。
「あ、ああ…ごめん…ルルーシュ…。このジノさんって、面白い人だなぁ…」
「ノネット君…だっけ?君こそ私の事なんて云えないだろう…」
ルルーシュは妙な謙遜をしている二人に対してツッコミを入れる。
「どっちも同じくらい面白いと思いますよ…多分…」
ルルーシュとしてはこの二人がこんなに気が会うとは思わなかった。
ジノも3年会わない間に…色々変わったのだろうかと思う…
確かに…他のメンバーも随分状況が変わっているし、変わったと思うのだから、ジノだって変っていて当然だ。
「ごめん、ルルーシュ…。じゃあ、ジノさん、とりあえず、街中…案内してもらえますか?ルルーシュも知らないビルが出来ているとか云っているし、私の場合、全く予備知識がないんで…」
ノネットの切り替えの早さは多分、称賛に値する。
「ああ、いいよ…。確かにビルの建て替えとかで色々変わってしまっているしな…。ルルーシュの気に入っていた店とかも多分、移転してるところもあると思う…」
ジノの言葉に…やはり時間の流れを感じるルルーシュだが…
「そうですか…。まぁ、マンションの中の住人も随分変わっていたし、早く覚えるように努力します…」
少しだけルルーシュは複雑な表情を見せるが…そこで色々考え込んでいても仕方がない。
ルルーシュがブリタニアに渡る前…多分、幼い頃からあまり変わっていなかった街並みだったから…色々思うところもあるのだろう…
「でも、この3年でこんなに街が変わるとは思いませんでした…」
「まぁ、仕方ないね…。この街は再開発される事になっているんだ…。本当はヴァインベルグが色々手を回していたみたいだけれど…大本があんな事になってしまったからね…。他の企業が色々縄張り争いしながらの開発になっているんだ…」
ジノの一言で…ルルーシュは…少しだけ…表情が変わった…
それは…ルルーシュの知る、企業同士の事情である事であると察しはつくが…それでも、それ以上踏み込めない事は…なんとなくノネットも察していた…

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