幼馴染シリーズ 〜第3部〜


Third Story 01


 二人の合格が決まってから二人の生活はてんやわんやとなった。
ノネットが完全にブリタニアから日本へ(一時的にとは云え)移り住む事になったので、まず、住居探し…と云う事になった訳なのだが…
ノネット自身、殆ど『ルルーシュの傍にいる為!』と云う理由で日本に渡ってきているのだ。
そんな中で日本の不動産とか、生活する上で必要なものとか、全く調べていなかったと云うオチを聞いた時にルルーシュとしては…
―――こいつを放り出したら…世界で一番安全な日本でも、東京は非常に物騒だ…。確実に1週間くらいで変死体になっていそうだ…
と、物騒だが、余りシャレにならない考えに辿り着き…まずは、
『ノネット…どうせ私たちのマンション、ナナリーと私だけでは広過ぎるんだ…。母様もあんまり帰ってこないし…。だから、うちに来ればいい…。大丈夫だ…。ちゃんと下宿代は請求するから…』
の一言で、住居の問題は片付いたのだ…
しかし、その後、ノネットの両親がわざわざ日本まで挨拶に来て、シュナイゼルも何を考えたのかは知らないが、ルルーシュの『下宿代は請求する』との一言を聞きつけて、弁護士を連れて来て、何故かは知らないが、いつの間にか空き室となっていた隣の部屋に(十中八九シュナイゼルの差し金で)カノンが引っ越してきて…ルルーシュの大学進学とナナリーの高校合格の祝いに両親が張り切って日本に帰ってきて…
とまぁ、中々大変な事となった訳なのだが…
毎日が、ミレイの突発イベントよりも体力を使うような毎日でルルーシュは夜になるとぐったり状態でベッドに突っ伏している生活となった。
「大丈夫か?ルルーシュ…」
心配そうにノネットがルルーシュの部屋に入ってくるが…
「ノネット…私…入学式まで生きていられる自信がないぞ…」
と云う、ルルーシュの体力のなさを考慮しても、普通の人間の体力で考慮しても、ノネットとしては、あんまり否定できない一言が返って来た。
この時、ルルーシュ達の暮らすマンションにノネットがいてくれてよかったとルルーシュは心底思った。
ナナリーも回復したとはいえ、やはり、経過を見て行く事は必要で…もし何かあった時にはすぐに病院に連れて行かなければならない状況にあるのだ。
そう考えると、ナナリーにあのお祭り騒ぎのただ中に放り込む訳にはいかないと考えるルルーシュはとにかく…入学式前の慌ただしさに自分の体力のない身体に鞭打ち続けるしかなかった訳なのだが…
「そ…そんな事…云うなよ…ルルーシュ…。とりあえず、家の中の事は…私で出来る事はやるから…」
とは云ってみるのだが…
ノネットはこれまで家事の一切を殆どした事がないという、現代ではあまり珍しくない女で…全自動洗濯機すら触った事のないという筋金入りだった…
「ま…最初の頃に比べればだいぶマシになったな…ノネットも…。とりあえず、どうしても解らない事はナナリーに聞いてから機械に触ってくれ…」
ノネットがこの家に来て3日経った頃にルルーシュの手伝いをしようとして、掃除機に遊ばれていた事、オーブンレンジで電子レンジ機能を使おうとして発酵機能ボタンを押していてちっとも温まらなかった事…炊飯器でそのまま『炊飯』ボタンを押してくれればいいものを、メニューボタンで『おかゆ』炊きにして、ご飯にならなかった事…などを考えると、本当にそう云った家電製品に触った事がないのだと思い知らされたのであるが…

 それでもノネットはそう云った事に常に好奇心旺盛に触れて来る… 確かに見ている方はハラハラするのだが…
でも、新しいものに触れる時のノネットの楽しそうな顔を見ていると見ている方もなんだか楽しくなってくる。
「とりあえず、風呂、沸いたから…。入ってくればいいよ…。それで後は寝ちゃえ…。明日はまた、色々あるんだろ?」
「それはノネットも一緒だろ?まだ引っ越しの荷物の整理が出来ていないんだし、私は明日、完全に一日中出かけてしまうから…手伝ってやれないし…」
「いいって…。うちの両親も送るならちゃんといつ送ったかくらい、連絡よこしてから送ってくれればいいのにな…」
「流石ノネットの両親だとは思ったけどな…私は…」
ルルーシュはそう云いながらノネットから着替えを受け取り、部屋を出て行く…
そんなルルーシュの後ろ姿を見ながらノネットは苦笑する…
「要するに…ルルーシュにとって私は手のかかる妹みたいなものなのか?」
ノネットは自分の両親のヌケサク加減をよく知っている。
さっきのルルーシュのセリフは…『あの親にしてこの子あり…』と云っているように聞こえる…
と云うか、そう云っていた…
ノネットはあの両親を見て、手がかかる…と思う事がよくある。
しかし、ルルーシュから見ると、特に、この家で何か手伝いをしようと思うとルルーシュから見ると、ノネットは非常に手がかかる…と思っているらしい…
ノネットとしては、ルルーシュに頼られたいと思う部分がある訳で…
合格発表の日に、ルルーシュが日本でアッシュフォード学園に通っていた頃の友人たちと合格祝いをしたのだが…
その時…ノネットは、あの騒がしい連中の輪に入りながら、ルルーシュの様子を窺っていた…
その時…ルルーシュが話していた相手と云うのは…
決してルルーシュの口からはその名前が出てきた時に、詳しい話が出た事はなかったが…どうしても気になって、ブリタニアにいた時…ナナリーの見舞いに行った時につい、ナナリーに尋ねてしまった事があった…
ルルーシュがブリタニアに来たばかりの頃…ルルーシュはネットニュースでやたらと『ヴァインベルグ家』の動向を気にしていた。
それについて…ホントは聞いてはいけない事なのかもしれないと思いつつ…本当に強引にナナリーから聞き出した事があった。
そして…ルルーシュが日本に帰って来た日、ノネットも時間差で日本に到着して、ルルーシュのマンションに行ったときに…ルルーシュを見ていた男がいた…
それが枢木スザク…
今のノネットにとって、一番気に入らない相手…と云って過言ではないが…
それでも、あの時の二人の雰囲気を思い出すと…なんとなくやるせない気持ちになる。
「私…なんで男じゃなかったんだろうなぁ…」
現在、ルルーシュのマンションに居候出来るのはノネットが女だからという現実は完全にスルーしているような発言だが…
でも、これはノネットのこの上ない本音だった。
そして…認めたくはないが…そう云う意味でルルーシュを守れる立場になりえるスザクに対しての…嫉妬を抱えていたのも…又事実であった…

 翌日、ルルーシュはシュナイゼルの所用と云う事で1日出かける事になっていたので、早くから起き出して準備をしていた。
そんな気配に気づいたノネットも起きだしてきた。
「おはよう…ルルーシュ…。もう準備しているのか?」
「あ、おはよう…。起こしちゃったか?ごめん…」
ルルーシュは朝食の準備でもしているのか、キッチンに立っていた。
「あ、ううん…。ちょうどトイレに行きたかったし…」
そう云った事をやたらと気にするルルーシュに対してこうした形で返すのは…いつの間にかノネットの癖になっていた。
ルルーシュの方も既に、3年もノネットのルームメイトをやっていたのだから、その辺りの事は解っているのだが…それでも二人の暗黙の了解でそれ以上の事を突っ込む事はないのだが…
「あ、今日の朝御飯は和食なのか?」
「ああ…ノネットが和朝食を気に入るとは思っていなかったけれど…でも助かるよ…。ナナリーは朝はさっぱりした和朝食を好むから…」
「じゃあ、ブリタニアの病院では大変だったんだろうなぁ…」
「その辺りはシュナイゼル義兄さまが色々手を回してくれたらしいけれど…。まったく、私たちをそんな風に甘やかしてどうするんだか…」
ルルーシュが自分たちに甘い義兄に対して困った顔を見せる。
「え?そんなことできるの?」
「一応、あの病院、ランペルージグループの管轄病院だし…。それに最近、健康志向とかで、和食が流行っているらしいし…。日本の病院でも希望すれば朝はパン食に出来るようになっているしな…」
自分が入院している訳でもないのに…ナナリーの為に色々と病院について詳しくなっているルルーシュに対して、なんとなく複雑な気持ちになる。
ルルーシュの場合、誰かを好きになっても、確実にナナリーを最優先するに決まっている気がしている。
これはノネットが男でも前途多難な気がしていた。
「で、何時頃出かけるんだ?」
「そうだな…。義兄さまが8時半に迎えに来るって云っていたから…それまでには準備しないとな…」
「でも、今日は大学の手続きとかじゃないんだろ?シュナイゼルさん…何をするつもりなんだ?」
「さぁ…私もその辺は聞いていないんだけれど…。それに、なんでスーツなんて着なくちゃいけないのかも解らないし…」
「スーツ?」
ルルーシュもノネットもシュナイゼルの注文に対して疑問符を隠せないようだが…
「まぁ、ここまで私がバタバタしていて詳細を聞く余裕もなかったし…。一応、会社の件らしいんだけれど…。私はとりあえず、義兄さまを飾る花をやっていればいいって云われているだけだから…」
こう云う話を聞いていると…ノネットの中で『ルルーシュは住む世界が違う…』と思ってしまう。
確かに、ルルーシュはランペルージグループの当主の後妻の娘ではあるのだが…
必要な時には、ちゃんとランペルージ家の令嬢となれるところが凄いと思ってしまうところだ。
ブリタニアにいた頃にもときどきそういった事があった…
ルルーシュは
『こう云うのは場違いなんだけれどな…。私は母様の娘であって、ランペルージ家の御令嬢じゃないんだから…』
と苦笑していたが…
でも、実際にそう云った時のルルーシュの姿は…ノネットが見惚れてしまう程綺麗だったし、自分と同じ歳の高校生には見えなかった事を思い出す。
「大変そうだけど…頑張れ…。私もルルーシュが帰ってくるまでに何とか荷物を一通り何とかしちゃうから…」
「まぁ、期待はしないでおくよ…。もし、必要ならナナリーにも手伝って貰えばいい…。ナナリーは重たい物を持ったりするのは無理だけれど、細かいものの整理は得意だから…」
ルルーシュがノネットににこりと笑って云った。
そんなルルーシュにノネットは、苦笑いを返した。

 ルルーシュが準備を終えた頃…シュナイゼルが訪れる。
「おはようございます…シュナイゼル義兄さま…」
ルルーシュがしっかりとスーツを着込んでシュナイゼルを出迎える。
「朝から済まないね…。ただ…父さんがどうしてもルルーシュを連れて来いと云うものだから…」
「今日は一体何が…?」
「なんだか、重要な発表があるとか云っていたけれど…なんだろうね…。ただ、ナナリーはまだ、無理は出来ないと云う事もあるから…と云う事なんだが…」
「?ただ、お話しを伺うだけなのでしょう?資料を見せて頂きましたけれど…何人か、私は会った事のない御親戚もいるようですけれど…」
そんな会話を…ノネットの前で繰り広げられている。
確かに…『住む世界が違う』と思ってしまうのだが…
しかし、ルルーシュ自身はそう云った争いには遠ざけられていた事は解る。
流石に…大学に進学して、日本に帰って来たとなって、シュナイゼルと婚姻を結ぶ予定だった『ヴァインベルグ家』も色々とある様で、タイミング的に、シュナイゼルとユーフェミアの婚約が解消された事に(公表はされていないが)ルルーシュが関わっていた事もあり、色々と問題が生じている事は解るのだが…
「まぁ、行ってみるさ…。僕も最近では東京支社の方で仕事をしているのだし、ヴァインベルグ家の事も色々あるからね…」
ノネットとしては、この部屋を出てからそんな話をして欲しいと思うのだが…
「じゃあ、ノネット…。昼食はナナリーと食べてくれ…。冷蔵庫の中に解るようにしてあるから…電子レンジで温めればいいようになっているから…」
「ああ…。やっと、最低限、あのレンジを使えるようになったから…任せておけ!」
最初の頃、ボタンの意味がよく解らない状態で、色々間違えていたようだが…
「日本語にも慣れて来たのか?」
「まぁ…この家の中にあるものに書いてある日本語は解るよ…。結局、受験で必要な日本語しか勉強していなかったからな…」
ノネットがはははと笑いながら答えた。
「じゃあ、ナナリーの薬の時間とか、気をつけてやってくれ…。やっぱり、生活が変わって少し体調が悪そうだから…。もし、具合悪そうなら、すぐにタクシーを呼んで病院に連れて行ってくれ…」
「ああ…それは任せろ!それだけは絶対に間違えないから…。ほら、ルルーシュ…あんまり心配ばかりしているから…シュナイゼルさんがさっきから時計ばかり気にしているぞ…」
「あ…」
ノネットの指摘でルルーシュは慌ててシュナイゼルを見る。
「すみません…シュナイゼル義兄さま…」
「いいよ…。まだ、少しくらいなら時間に余裕はあるから…。でも、そう云った指示は、前日にちゃんとしておいて貰えると有難いね…」
シュナイゼルがルルーシュの顔を見てにこりと笑った。
「す…すみません…シュナイゼル義兄さま…」
ルルーシュは慌てて上着をはおり、バッグを持って玄関へと向かっていく。
「では、ノネット君…ナナリーを頼むね…」
「はい、お任せ下さい…」

 マンションの廊下に出ると…引っ越しをしている部屋が何件かあり、出て行く人、入居する人…様々だ。
「やはり…引越しの時期だね…」
「カノンにうちの隣に引っ越しさせているシュナイゼル義兄さまが云いますか?そう云う事…」
シュナイゼルの言葉に少し呆れたようにルルーシュが返した。
「確かに…引越しの時期ですね…。このマンション…いつの間にか定住者よりも転勤族の方が多くなったようです…。帰ってきて、知っているおうちが減っていた事にびっくりしました…」
「そうだね…僕もたまに来ていただけなんだけれど…。どうやら、どこかの企業が一部、会社で借りているようだね…社員用に…」
久しぶりにシュナイゼルと二人で話しをしている…
ずっと、受験だとか、帰国だとかでルルーシュの方も時間を取る事が出来なかったし、シュナイゼルも、大学卒業後、東京の支社で色々と忙しい状況にあるらしい…
ルルーシュとしても大学進学と云う事で、これから先の進路を真剣に考えなくてはならないのだが…
尤も、ルルーシュの場合、医学部に進学が決まった事で、ある程度の意思表示はできている…
「でも、ルルーシュ…本当に医師になりたいのかい?」
「医師…と云うよりも…ナナリーの手術…開発されたばかりですから、問題もたくさんありますし、ナナリーは確かに元気になっていますけれど…これからもたくさんの薬を服用しなくてはなりませんし…。だから、その技術をもっと研究して…もっとナナリーを…」
ルルーシュの必死な言葉に…シュナイゼルがクスッと笑った。
「相変わらず…君はナナリーが一番なんだね…。なんだか…妬けてしまうよ…。本当に仲がいいんだな…」
「あ…」
ルルーシュはシュナイゼルの兄妹関係を思い出し、下を向いた。
シュナイゼルには同腹の兄妹はいない。
ただ、異母兄弟はいると云う…
シュナイゼルは正妻の子であるから父であるシャルルの後継者として存在で来ている…と云うのだが…
ルルーシュも正確な数は知らないものの、結構たくさんいると云う…
完全に女の自己申告で認知している部分もあるのでDNA鑑定をすれば数は減ると云うが…
「気にしなくていい…ルルーシュ…。君たちの仲睦まじい姉妹の姿を見ていると僕もほっとするんだ…。近い将来…きっと、今以上に会えなくなってしまうかもしれないしね…。そう云う君たちの姿を…見ていられるのは今の僕の幸せな特権だ…」
「義兄さま…」
シュナイゼルは正妻の子であろうが無かろうが、その実力は誰もが認めるところだ。
それ故にその、異母兄弟たちもシュナイゼルに対しての懼れなどで様々な態度を示してくる。
最初から当主となる事を諦め、シュナイゼルに対して媚を売ろうとする者、何としてもシュナイゼルを廃してのし上がろうとする者…
「さ、父さんたちが待っている…。早く行こう…。それに…ルルーシュがそんな風に僕の心配をしてくれるのは嬉しい事だ…。気分のいい内に面倒な事を終わらせてしまおう…」
ルルーシュにとってはどこまで本当で、どこまでが冗談なのか解らないのだが…
それでも、こんな柔らかいシュナイゼルの笑顔は会ったばかりの頃から見ていると安心する事に気づいている。
「義兄さま…そうやって、女性を口説いていらっしゃるんですね?」
クスッと笑ってルルーシュが返すと…シュナイゼルは『なかなか伝わらないものだね…』と内心考えながらふっと笑い、車を出した。

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