幼馴染シリーズ 〜第3部〜


Third Story 00


 約3年… 私が物心ついて以来…あいつとこんなに長い時間離れていたのは…多分、初めてだ…
見た目は勿論、彼を取り巻くものも、私を取り巻くものもすっかり変わっていた…
久しぶりに見たあいつの姿…私の全く知らないと云ってもいいくらい…変わっていた…
思えば当たり前だ…
3年…一度も顔を見る事もなかった…
声を聞く事もなかった…
それどころか…あいつに対して一切の連絡をしていなかったから…
時々…シャーリーから入って来たメールの中に…あいつの事が書かれていたけれど…敢えて…見ないふりをしていた…
気にならない筈はない…
でも…知りたくなかった…
いつまでも引きずっていたって仕方ないのは解っている…
解っているけれど…
でも…自分の中できちんとけじめをつけ切れていなかったのか…
本当に…みっともないと思う…
私がブリタニアにいる間…あいつの好きな相手の家が大変な事になっていた…
そして、義兄さまが…色々と手を回してくれていた…
私が…何も云わない内に…
あいつが…彼女の事を好きであるなら…きっと、彼女の事を心配している…
本当は…あの恋は…色々と大変だと思っていたし、平坦な道を進むと云う訳にはいかないと思っていたから…
勿論、義兄さまは何も話してくれなかった…
シャーリーからのメールの情報しか…私は知らない…
でも、最終的には…彼女はお兄さんと一緒に暮らせる事になったと云う…
それはそれで幸せなのだろうと思う。
久しぶりに会った彼女の表情は…とても穏やかだった…
そんな穏やかな表情で…聞かされた衝撃の真実…
あいつと彼女が…別れた…と云う事実…
確かに…中学生や高校生の恋愛ならよくある話…
それはそうなのだけれど…
でも…私の気持ちの中では…色々な思いが渦巻いていた…
しかも彼女は…私に云った…
『ルルーシュ…あなたも…幸せになっていいのですよ?あなたが…今、自分の心の中に一番大きく存在する人の為に…笑っても…』
そんな事を云われても…突然云われても…
『自分の心の中に一番大きく存在する人』…
でて来る名前は…
でも…彼女があいつと別れたからと云って、あいつは…きっと、私の事などなんとも思ってない…
だから…彼女の云う…『ルルーシュ…あなたも…幸せになっていいのですよ?あなたが…今、自分の心の中に一番大きく存在する人の為に…笑っても…』と云うのは…少し難しい気がする…
彼女とあいつが…別れた理由は良く解らないけれど…
でも、険悪な形で別れたのではないと云う…
彼女もその話をした時…あいつの名前を自然に呼んでいた…
恋人同士が別れたと云うのに…そんな風に出来るのだろうか…
正直不思議と云うか…私としては、うまく納得できていない部分がある。
でも、彼女も新たな幸せを得たと云っていたし…
あいつも…幸せであればいいのに…
そう思いながら…私は…あの二人が別れてしまった事に複雑な感情を抱きながらも…『嬉しい』と思っている自分に気づいた…
なんて…浅ましい人間なんだろう…私は…

 約3年…
俺が知る限り…あいつとこんなに離れていた時間は…初めてだ…
本当に…生まれたばかりの頃から…一緒だった気がする…。
俺の両親の暮らすマンションと、あいつの母親の暮らすマンションが同じで…同じフロアで…
同じフロアに同じ歳の子供がいなかった所為か…何となく仲良くなっていた…
母親同士も仲が良かった事も影響しているのか…俺とあいつは母親に連れられて互いの家を行き来していた…
そして、二人で遊ぶ事も多かった…
あいつは…あいつが思っている以上に立っているだけで注目を浴びる…
それは…ずっとあいつの隣に立っていたから解る事だ。
一緒にいると…いつも周囲からは羨望の眼差しを向けられた。
あいつは…そう云うやつなのに…自分では全く気付いていなくて…
小学校のときだって、あいつと仲良くなりたい男子がたくさんいた…
俺がいるからと…遠巻きにしていたのを知っている。
だから…中学に入って、俺に彼女が出来た時…これで、あいつは俺の所為で遠巻きに見られる事はなくなった…そんな風に思っていた。
俺があいつの隣から居なくなれば…あいつを好きだと思う男子があいつに告白して…その中であいつの気に入った相手があいつの隣に立つ…そんな風に思っていた…
でも、結果的にはそんな事にならず…
あいつは…自分の苦しむ方向へと歩みを進めていた。
俺はその時…どうしていいか解らなかった…
俺にはその時、好きな相手がいて…付き合っていて…
俺たちの周囲で何が起きているのかも知らず、俺は、ずっと、その時付き合っていた子と笑っていた…
そして…知った…
何も知らなかったのは俺だけだったと…
あいつは黙って…俺たちを守るために…
あいつにあんな顔をさせた事…正直それが俺であった事が…なんだか許せなかった…
俺が…あいつの隣からいなくなれば…あいつはきっと、自分の選んだ男の隣に立てると思っていたのに…
でも…あいつの選んだ相手が隣に来る事はなかった…
ただ…俺たちを守るために…その相手を傷つけ、自分を傷つけ…
最後には…俺の記憶さえ消し去った…
その時…俺の中で色々なものが…混乱し始めた。
その時に付き合っていた子の事を好きであったのは事実だ…
それにウソ偽りはない…
でも…どうしてもあいつが気になって…
そして…心のどこかでいつも…あいつを気にしていた…
そんな俺に敏感に気付いた…俺の隣に立っていた…彼女…
いつも、あいつの事を気にして、あいつに当たっていた…
俺はそんな彼女を止める事も出来ず、安心させる事も出来ず…
結局、最低、最悪な形で彼女を傷付けた…
俺は…彼女の涙を見て、不安を知って…自分の気持ちが解らなくなった…
あいつに告白されたときだって…俺はあいつを受け入れられない…そう思っていた…
結局、返事をする事がなく時間だけが過ぎ去り、そんな中で、あいつの中から俺の存在が消えた…
正直…ショックだった…
そして…その時から…『あまりに遅いな…』と思いながらも…気づき始めた…自分の心の変化…
最低だと思った…
俺の気持ちがふらふらしている状態で…俺自身は置いてけぼりになった…

―――大学合格発表の日…
 ルルーシュとノネットが揃って、アッシュフォード学園大学部の合格発表を見に来ていた。
「ノネット…大丈夫か?」
ルルーシュが緊張状態のノネットに声をかける。
見た目的に姐御肌な彼女が…これほどまでに緊張するとは…ルルーシュも思っておらず…正直驚いていた。
「だ…大丈夫だ…」
そんな事を云いながら、右腕と右足が両方同時に出ている状態だ…
こうした時、いつも、逆に見られる事が多いのだが、ルルーシュの方は至って落ち着いている。
「ノネット…一応、模試とかでもちゃんと合格ラインには入っていたんだろ?」
「ルルーシュほど…余裕じゃない…」
そんな風に普段のノネットとは別人のような彼女を見て、ルルーシュが大きく息を吐いた。
大体、入試なんて、満点だろうが、合格ラインぎりぎりだろうが…合格は合格だ…
アッシュフォード学園は偏差値の高い学校として有名だし、その高等部から大学部に進学するとなれば、徹底して対策を施されている。
その事が解っていて、何故にこれほどまでに緊張状態に陥るのか…ルルーシュにとっては不思議でならなかった。
「やるだけ…やったんだろ?それに、私が落ちて、ノネットが合格…って云う事もあるかもしれないじゃないか…。私はその時の覚悟はできているし…ちゃんと浪人する心の準備も出来ているぞ…」
「ルルーシュが云うと…ただの嫌味だよぉ…」
今のノネットに何を云ってもダメだ…ルルーシュがそう判断して、とりあえず次の策へと移す。
「なら…私が見てこようか?受験票…あるんだろ?」
ルルーシュがそう提案すると…ノネットは激しく横に首を振った…
「いいや!ルルーシュはこんな私に気を使って、ダメだったとしても『合格してた』って云うかもしれない…」
云っている事がめちゃくちゃだ…とルルーシュは思う。
大体、そんなすぐにばれる嘘をついてなんになるのだか…
確かに…ノネットは突然進路変更して、アッシュフォード学園大学部の医学部に入ることを決めているので、準備期間は他の、最初からここと決めていた生徒たちよりも短いが…
でも、ノネット自身、アッシュフォード学園ペンドラゴン校ではトップクラスの成績だ。
「なら…しゃんとしろ…一緒に見に行こう…」
ルルーシュがそう促すと…ノネットは、半分涙目になりながらこくっと頷いた。
「大丈夫だって…ノネットは元々理数系が強いんだから…。二人で合格しているよ…」
そんな風にルルーシュが云っている後ろから…声をかけられた。
「あれ?ルル?それに…ノネット?」
「そっか…あんたたちも今日は合格発表だっけ?」
そう声をかけてきたのはシャーリーとカレンだった。
「ああ…おはよう…カレン、シャーリー…。二人はもう、見て来たのか?」
ルルーシュが二人に尋ねる。
「うん…見て来たよ…。私は英文科見事合格!これで、晴れて4月から大学生だよ♪」
「私も、物理学科…合格してた…」
二人の答えにルルーシュがほっとした様子で答えた。
「良かったな…おめでとう…」
「ルル達はまだ?」
「ノネットが…こうも緊張しちゃっていると…なかなか前に進まなくて…。私はちゃんと浪人する覚悟はできているのに…ノネットは、もう不安がってしまっていて…」

 ルルーシュのこの言葉に…シャーリーもカレンも同じことを考える…
―――あんたが落ちたら…ここの医学部合格できる人間いないでしょ…。テストで緊張した事のない奴が…そんな事云ったって説得力ないって…
「そうか…シャーリーもカレンも…もう、結果が解ってハッピーなんだな…。私だけ落ちてたら…」
「だから…そうやって、見もしない内から勝手に結果を決めるな!さっさと行くぞ!」
いい加減ルルーシュも焦れて来たのか…ノネットを引っ張って、合格発表の掲示板の方へと歩いて行く…
そして、この二人を見送るシャーリーとカレンは…
「ルルはともかく…ノネット…大変そうだね…」
「まぁ、ルルーシュは落ちている事はないと思うけど…。ノネットがあんな状態で試験を受けていたんだとしたら…ホントに彼女だけ残念会かもね…」
聞こえないからできる会話である。
「カレン…それって…」
「冗談よ…。ま、彼女だって、目的があって受験している訳だし…それがどんな目的であったとしても…。だとしたら…大丈夫よ…。彼女、ルルーシュがペンドラゴン校に入るまで、トップをキープしていたらしいから…」
カレンの言葉に…シャーリーは『頭いい人って…なんでこんなに嫌みなんだろう…』とこの上ない本音で頭の中で考える。
そして、遠くからぎゃあぎゃあ聞こえるノネットの声に…普通に『少し落ち着かないとダメだと思うけどなぁ…』と考える。
「とりあえず、この辺りで待っていれば、あの二人、戻ってくるから…4人でお祝いしに行きましょ…」
「え?でもあの二人…まだ発表見ていないんじゃ…」
「二人の受験番号…こっそり見ちゃったの…。大丈夫…あの二人合格しているわ…」
カレンの言葉に…シャーリーはまたも目を丸くする。
そして、そんな会話を繰り広げて10分程経って…
先ほどのノネットとは別人のノネットがルルーシュと共に戻って来た。
「ほら…」
カレンが彼女の姿を見て、シャーリーに目くばせする。
シャーリーの方は…やはり…この自分の友人がタダものではないと思った。
「と云うか…いつの間に?」
「ルルーシュの家に遊びに行った時…ちょうど、受験票のチェックをしていたみたいで…その時にちょこっと見たの…」
「そっか…。じゃあ…ユーフェミアさんのあのお店に行こうよ…。あそこでお祝いしよ…」
「解った…電話してみるわ…。あと、リヴァル達も…。きっとカノンたちも呼べば来るわよ…」
最初の頃は、ほとほと困っていた生徒会活動ではあったが…
それでも、これだけ慣らされると楽しむ事を覚えたらしい…
「じゃあ、みんな呼んでお祝いしようか…。これで全員合格が解った訳だし…」
シャーリーがそう云って、こちらに歩いてくるルルーシュとノネットの方へと駆け出して行く…
「おめでと!ルル!ノネット!」
シャーリーが駆けだして、二人に声をかけると、ノネットはシャーリーに抱きついてワンワン泣き出し、ルルーシュはにこりと笑った。
そして、後方で携帯電話でどこかに連絡を入れているカレンに少し、苦笑する。
そのルルーシュの表情に…カレンも視線で『おめでとう』と送った。

 そして…カレンの放った連絡により…
例によってお祭り騒ぎになりそうな気配のメンツが揃った。
「で?なんでミレイ会長まで?ユーフェミアの彼氏のライさんがいる事は100歩譲って納得するにしても…」
ルルーシュの第一声はそれだ。
「まぁ…ルルーシュったら…少し離れている間に更に冷たい…氷の女王様になっちゃったのね…。私は悲しいわ…」
おどけて見せるミレイに…最早声も出ない。
どの道、ミレイに逆らえる者などいないのだ…
すっかりこの輪の中に溶け込んでいるノネットを見て、少しだけ羨ましく思うルルーシュだが…
それをまね出来ると思わないので、無駄な努力はしない事にした。
そして…輪の中に入っていない人物が…もう一人…
「スザク…」
ルルーシュがグラスを片手にスザクに声をかけた。
「ルルーシュ…」
「私が…日本に戻って来た日…以来だな…。お前も進学決まっているんだろ?」
「ああ…俺もアッシュフォード学園の大学部で…お前とキャンパスの敷地は同じだ…。リヴァルと咲世子さんとアーニャは違う校舎らしいけれど…」
以前と変わらないつもりでいるのだけれど…
何となくぎこちない…
唯の幼馴染に…あの時…戻った筈だったのに…
どうして…こんな風になってしまっているのだろうかと…考えてしまう…
あれから…一度も連絡を入れなかったから?
二人を取り巻く状況が変わってしまったから?
きっと、尋ねられても解らない…
「ユーフェミアから…一通り…話しは聞いた…。お前も…逃がした魚は大きいんじゃないのか?」
くすりと笑いながらルルーシュはスザクに云った。
スザクの方は…苦笑を返す。
「そうかも…知れないな…。でも…あの頃よりもずっと…自然体で俺たち…話しているよ…。俺も良く、この喫茶店に来るんだ…。ジノさんも…時々来ている…」
スザクの言葉に…本当に不思議な感覚が生まれる。
あれだけ、ルルーシュを間に挟んで色々揉めていたのに…
でも、これほどまでに穏やかな関係となる物なのだろうか…
しかも…別れてから…とは…
「あ、ジノに連絡したのに…返事が来ないな…。必ず…連絡しろって言われていたから…したのに…」
「ああ…ジノさんも最近では仕事が軌道に乗って、かなり忙しいらしい…。ヴァインベルグ家に関しては、まだ、中途半端な状態らしいけれど、4月の半ばには正式発表があるらしいから…」
「そう…か…」
知らない事が…増えたと思う…
そりゃ、日本を離れていたし、ずっと、ここにいるメンバーたちと会っていなかった。
自分の知らない世界になっていても仕方ないと思う。
「でも、その発表が終われば…きっと、ジノさんも連絡取れる状態になるよ…。本当に大変らしいから…」
恐らく…ソースはユーフェミアだろう…
別れて…ユーフェミアが別の男と付き合っていても…そんな風に話せるものなのだろうかと…ルルーシュの中では色々な思いが渦巻く。
「ホントに…私…知らないことばっかりになっちゃったな…」
苦笑しながら下を向くと…スザクが更に声をかける。
「なら…これから知って行けばいいだろ?俺が教えてやるから…。その代わり…お前も…ブリタニアにいた頃の話…少しはしてくれ…」
スザクの言葉に…ルルーシュは更に…不思議な感覚になり…この時…自分の頭の中で整理しきれなくなっていた…

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