幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 19


 ユーフェミアがアッシュフォード学園のクラブハウスからジノの元へと移って、そろそろ1年が経とうとしている。
ジノとユーフェミアは一度、ヴァインベルグ家も当主や、その時、家中の中でバタバタとしていた重役たちと共に、自分たちの求める場所をはっきりと告げた。
その時、流石にあの騒ぎの中でジノとユーフェミアがヴァインベルグの家から完全に離れると云う訳にはいかなかったが…
ただ、ヴァインベルグの屋敷から出て、彼らの生活を送る事だけは認められた。
ヴァインベルグの名を捨てる事は許されなかった。
まだ、家中にあるし、一応、ヴァインベルググループの名前を残るにあたり、ヴァインベルグの一族がそのグループに関わって行く事になる。
それが、どんな形となるかは…この先の、動向次第ではジノも、ヴァインベルグ家の血を引く者として、長男として、やるべき事が出て来る事もある。
やはり、本人たちの意思はともかく、現状ではそれが彼らを取り巻く現実であり、放り出す訳にはいかないと云う事でもあるのだ。
その時…当主である父から…謝罪の言葉が出てきたのだ…
これまで…ずっと…『父』として見る事が出来ずにいたのだが…
それでも、彼は彼なりに、二人を愛していた事は…その時になって初めて気付かされた。
元々、ランペルージ家との婚姻に関しては、コーネリアとの縁談であった事をその時に知った。
その時にユーフェミアに…と強く推したのが当主である『父』であったと云う…。
その話が消えてなくなってしまっていたから云えた事だろう…
シュナイゼルとジノがプライベートでも友人として親しくしている事を知って、又、家の大きさから云っても、ユーフェミアを何とか守ってくれるのではないかと云う…そんな思いだったという。
彼らの父親も、彼らがヴァインベルグ家に対して複雑な思いを抱えていた事は気付いていたようだった…
本当なら、あの、婚約の際の食事会の前にスザクとの事を調べていたのだったら、さっさと別れさせていればよかったのに…実際にそういった手段をとれる場所にいたと云うのに…
その時には、ヴァインベルグ家の当主として…と云うよりも、娘を思う父親の顔だったと…ジノとユーフェミアに説明した当主の秘書が云っていた。
それが原因で、このような事になってしまったなどと責める気もない…と云う事も伝えられた。
最後に…
『当主は…何も、ユーフェミアさまを利用しようと考えた訳ではありませんよ?そう考えていたのは私を含めた周囲の人間です。ですから、本当なら、シュナイゼル氏との婚姻はコーネリアさまに…と云う声も上がっていましたが…それにはコーネリアさまも色々思うところがあったのでしょう…。あの方は本当に頭のいい方で、当主と色々手を回して、さっさとご自身は結婚されてしまいましたよ…』
とだけ告げられた。
その時の秘書の表情は…何とも言えないような表情だったが…結局、互いが互いと直接話す事がなかった為に色々複雑な事になってしまっていたと云うオチだった…

 ユーフェミアは相変わらずアッシュフォード学園に通えているのは、色々誤解があったヴァインベルグ家のお陰である。
今、ユーフェミアは楽しく学園生活を送っている。
時々、卒業して行ったミレイが遊びに来る事があるが…
その時には、学園中が色々な意味で騒ぎになる。
何と云っても、彼女のお祭り好きは殆ど伝説になってしまっている状態だ。
現在中等部に在学している生徒も、当人にあった事はなくとも『ミレイ=アッシュフォード』の名前を聞くと…『あの伝説の!?』などと返してくるとか来ないとか…
確かに、彼女のイベント好きや、そのお陰で数々の伝説を残した…と云う事になっていて…
放課後の生徒会室に遊びに来る事は結構ザラにあり…今日も…
「やぁ、生徒会諸君!生徒会のお仕事…頑張ってるぅ?」
相変わらずのテンションだ…
現在、スザク達の一つ上のグラストンナイツ達は受験生と云う事で、すっかり生徒会室に来る事も減ってしまった。
彼らはどうやら、アッシュフォード学園の大学部ではなく、他の大学への進学や留学を考えているらしく、相当忙しいらしい…
しかし、ミレイの無茶振りなイベント開催のお陰で、相当優秀な成績なので、それほど頑張らなくてもいいのではないかと思われるのだが…
それでも、努力を怠ってはならないと云うその気構えは悪い事ではない…
とは云うものの…現在生徒会長を続けているカノンは何を思ったのか、副会長にスザクを据えたのだ。
そのお陰でスザクは毎日生徒会室へ来なくてはならない状態で…カノンはカノンでミレイに負けないくらいの無茶振りをしてくれるので、相当大変な日々を送っていた。
そして、ユーフェミアも現在ではあの騒ぎの渦中にいた頃とは別人のような行動力を発揮している。
「ミレイ会長…大学部って…暇なんですか?結構高等部の生徒会に入り浸っているじゃないですか…」
「高等部だけじゃないわよ?最近では中等部にも呼ばれちゃってねぇ…。充実した生活を送ってるわ♪」
なんだか噛み合っていない会話の様な気もするのだが…
それでも、そんな事を気にしていたらアッシュフォード学園の生徒会のメンバーなどやっていられない。
「そう云えば…ユーフェミアさんのファンクラブで…ユーフェミアさんの写真集を出すんですって?いい広告塔が出来た上に、生徒会の予算の為に凄い貢献ぶりね…」
ミレイがユーフェミアに話を振るとユーフェミアがにこりと笑った。
「はい…最近、プロのカメラマンさんにも声をかけられて…卒業したら一枚撮らせて欲しいって…」
以前と…かなりキャラクターが変わった…。
とにかく、何にも縛られなくなったと自覚した時…自分から色々とチャレンジするようになったという。
「今じゃ、副会長が頼りないから…ユーフェミアが随分頑張って予算を作ってくれるのよね…」
あの時をきっかけに色々と話をするようになったカレンがちらっとスザクを見ながらそんな事を云った。
そして、そんな風に話を振られた方はと云えば…
「俺に予算組んだり、やりくりしたりなんて…出来る訳ないでしょう!ライ先輩やルルーシュならともかく…」

 今ではルルーシュの名前が出てきても空気が凍る事もなくなり、普通に出て来る名前になった。
「あ、そうそう…今日はライも来ているんだけど…さっきまで一緒にいたのに…どこ行っちゃったのかしら…」
ミレイがそんな事を呟いた。 「ライ先輩が?珍しいですね…。なんだったら、予算の組めない副会長に探しに行って貰いましょうか?」
「カノン…だったらなんで俺を副会長にしたんだよ…」
しらっとそんな事をミレイに云うカノンにスザクはツッコミを入れる。
「そりゃぁ…スザクで遊ぶために決まっているじゃない…♪」
今では生徒会の漫才コンビとなっているカノンとスザクだが…
これはこれで、イベントの際にはいいコンビとなっている。
「そう云えば…この間、ルルからメール来たんだけど…ナナちゃん…やっと、あっちの学校へ通えるようになったんだって…。勉強はずっとルルとルルのルームメイトが見ていたって書いてあった…。あと、1年くらい、その状態で身体を慣らしてから日本に戻れるかもしれないって…」
シャーリーがその場にいる全員に報告するように伝える。
「へぇ…ルルーシュがそんなに仲のいい友達を作ったのね…。私とシャーリーにだって中々ナナリーに対してそこまで許さなかったのに…」
驚いた表情でカレンが云った。
「ああ…ロイド医師からそんなようなメール貰ったわ…。なんだか…凄く仲がいいらしいわ…。そのルームメイトの子…ルルーシュのナイトみたいだって…」
いつも強気に振る舞っているルルーシュの姿しか思い浮かばない者たちは中々想像できないらしく…
「ルルーシュに?」
「ナイト?」
リヴァルとニーナの反応である。
ただ…スザクは、カレンは、シャーリーは、ルルーシュの中にある弱さを知っているから…気持ちは複雑ではあるものの、そう云った存在がいた事に少しだけ安堵した。
ユーフェミアは…その、『ナイト』と云う言葉に反応して…少しだけスザクを見た…
スザクの心に誰がいるのか…そして、スザクが今、謝りたい相手、気持ちを伝えるべき相手を知っているから…
そして、咲世子はとりあえず、全員の様子を窺いながらお茶の用意をしているし、アーニャはさっきから、この騒ぎの写メを録りまくっている。
カノンは、この中の様々な反応を見て、少しだけ笑った…
そして、シュナイゼルの中にいる存在を知るだけに…複雑な思いも抱える事になるが…そこは、カノンの口出しできるところではないときちんと弁えていた。
「あ、ミレイ!お前…」
突然のその声は…
「ライ先輩…ミレイ会長が、どこか行っちゃったって…」
「あのなぁ…僕がそんな事をする訳ないだろう!ミレイが予告なしにこの学園内を歩くとそこら中で騒ぎを撒き散らすんだ!僕はその後始末をしていたんだよ!」
ライの一言に…後輩たちは…『嗚呼…やっぱり…』と、つい納得してしまい、ミレイの方は『まぁまぁ…』と云う表情だ。
騒ぎを撒き散らした本人がこの調子なので、ライが5分程ミレイに対して怒鳴り散らしているが…それでも、ミレイの方は完全にスルーの状態…
後輩たちは…『触らぬ神にたたりなし…』の状態だ。
そして、彼らは思う…
『こんなに便利で不遜な言葉…恐らく、世界中どこを探してもないだろうなぁ…』
と…

 ここでこんな騒ぎになってしまっているので、当然、生徒会業務など進む訳もなく…
その場でお茶会となった訳なのだが…
「しかし…珍しいですね…ライ先輩がミレイ会長と一緒にこちらに来るなんて…」
カノンがそう云うと、ライが苦笑した…
「カノン…今の会長は君だってのに、未だに『ミレイ会長』なのかい?」
確かに…カノンが会長なのだが…カノンは生徒会メンバーの中で『会長』と呼ばれる事がない。
今年は一応新入生が入ってきているのだが…他の生徒会メンバーが『会長』と呼ばないので、結局『マルディーニ先輩』と云う呼び方が定着している。
ちなみに、現在、カノンの命令で新入生たちは次のイベントの物品の買い出しに行っているのだ。
「仕方ありません…。私では…ミレイ会長程の実績は残せませんから…」
その言葉に…現生徒会メンバーは苦笑するしかない。
ミレイか生徒会長をしていた頃を知る生徒たちから、カノンはこう呼ばれていた…
『男ミレイ』
と…
ただ、その呼び名に対しては、カノンのこの気質から、様々な議論を呼んでいるのだが、カノンのキャラクターはどうであれ生物学的にも、着ている制服も『男子』なので、その呼び名で落ち着いている。
その部分を突っ込んだら、
『結局、まだ、ミレイ会長以上にはなれていないから…そう呼ばれてしまうのでしょう?なら…私はまだまだ…って事よ…』
と、ミレイ以上に色々やりまくる生徒会長になる気満々で…
どうやら、どうせなるならオリジナルの呼び名を戴くくらいの事をしなければならない…と思っているらしい…
だから、ミレイが云っていた、イベントの参加に際しては、成績キープを義務付けていたのだが…それは相変わらず続いている。
ただ、それに伴う、会長からの無茶振りがミレイの時とは趣が違っているらしいが…その無茶振りは経験者しか知らず、おまけに尋ねて見ても、誰もが『ヒィィィ…ごめんなさい!ごめんなさい!』としか答えない。 一応、咲世子がサポートしているらしいのだが…咲世子も…『申し訳ございません…。カノン様からのお云いつけで企業秘密となっております…。と云うか、機密情報…だそうですが…』としか答えない…
つまり、生徒会のメンバーでも何をしているのか知らないのだ…
そのお陰で、ミレイが会長をしていた時よりも全国模試の偏差値が伸びているという結果を生み出している。(かなり僅差ではあるのだが…)
「そう…なのか…。まぁ、いいけれど…。僕も、ミレイの話を聞いていて…少し気になっていたんだ…。それで…ミレイについてきたんだけれど…ミレイが来るたびに本当に騒ぎを起こしまくっているようだな…」
ライの言葉にミレイが『何よ…皆が騒ぐのが悪いんでしょ!』と云う目をするが…ミレイ自身、後輩たちが何かをしている時にじっとしていられる性格ではない。
色々ちょっかいを出して、騒ぎにしてしまったようだった…
「それでも…ミレイ会長が来るたびに…学園内がとても明るくなりますよ?」
ユーフェミアがそう告げると…ライは、少し複雑そうな表情をして答えた。
「『明るい』?『騒々しい』とか『トラブルに泣いている』の間違いじゃないのかい?」
呆れたように尋ねるライにユーフェミアが『まぁ、そうとも云います…』と、楽しそうに笑った…
スザクはその時のライの表情が…少しだけ変化した事に…気づいていた…
そして…ライがミレイについてきた理由を…悟った…

 やがて、生徒会室のお茶会が解散となる。
カノンはニーナとリヴァルとアーニャに次のイベントの詳細について話を始めた。
カレンとシャーリーは帰ってきた後輩たちの買った者のチェックを始め、咲世子はお茶の片づけを始めた。
「あの…ライ先輩…」
スザクが帰り際のライに声をかけた。
「なんだい?君が声をかけて来るなんて珍しいな…」
「否…珍しいも何も…ライ先輩にお会いするのは卒業式以来ですが?」
確かにその通りだ…
「あの、ユーフェミア…これから、アルバイトに行くそうなんです…。そこまで送って行ってくれませんか?どうせ…同じ方向でしょう…?」
スザクの言葉に、ミレイがピンと来て『少しくらいは成長したか…こいつも…』と思う。
ユーフェミアの方はスザクがいきなりそんな事を言い出す事に驚いている様だったが…。
別れていたとはいえ、そんな険悪な関係となっている訳でもなく、時々、生徒会のメンバーでユーフェミアがバイトしているジノが通っていた喫茶店に皆でお茶をしに行く事もしばしばだった。
「ユーフェミア君が…バイトを?」
ライが驚いた顔をする。
ある意味当然だろう。
ユーフェミアはヴァインベルグのお嬢様なのだから…
「ええ…。お兄様もカウンターに入った事があるそうなんですよ…。で、そこのマスターさんがいい方で…少しだけ私もお手伝いさせて頂いているんです…」
ユーフェミアがそう云った時…スザクとミレイは二人から離れて歩き始めていた…
「あんた…少しは成長したのかしら?」
「余計な事…かもしれませんけれど…。でも、俺よりもきっと…ライ先輩なら…」
「そこまで解ってるんだ…。まぁ、いいんじゃないの?きっかけとか、チャンスは必要よ…。後は、あの二人が頑張るところだし…。あんたはこれ以上、余計な事はしなくてよろしい!」
「解っていますよ…」
ミレイの言葉にスザクは苦笑した。
どうしてそうしたのかは…正直、よく解らないけれど…
でも、自分なりの…ユーフェミアへの『償い』だったのか…
そう云ってしまう事もユーフェミアに失礼な気もするが…
「ただ…それをきっかけに…また、ユーフェミアが違う幸せを知る事も必要だと思うんですよね…。家庭事情も知っているし、色々あった事も聞きましたけれど…。彼女にはまだ…足りない経験が多いし、ルルーシュに対しての意識の仕方も、そう行ったところからきているんだと思うから…。だから、愛されながら…愛して欲しいと思います…」
「あら…『ユフィ』って呼ばないの?」
「ケジメ…とでも云うんでしょうか…。彼女は以前の様に呼んで欲しいって云ってくれますけれど…でも、その呼び方は…彼女にとって特別だと思える人が呼ぶべき呼び名です。俺はもう…彼女の特別な相手じゃないから…」
「そこ、あんまり拘らなくていいと思うけどなぁ…」
「まぁ、俺の自己満足です…」
スザクは少し下を向いて…笑った…。
ミレイはそんなスザクを見ていて…『ルルーシュ…早く帰ってらっしゃいな…』そんな風に考えていた…

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