ジノの元へ行って…ユーフェミアと話をすると云われて…
正直、彼女がどのような判断を下すか解らない。
ただ…今のこの状態でいいとは思わない…
アッシュフォード学園の中にいるのに…授業にも出られないような状態では…
ヴァインベルグ家と直接取引があったとか、下請けなどをしていた会社などの関係者以外の人間は…既に他のネタに飛びついて、大騒ぎし始めているのだ。
「あの…ミレイ会長?」
相変わらずインパクトの強い会長であったミレイを呼ぶ時はみんなそう呼ぶ。
当の、減生徒会長のカノンでさえこう呼んでしまっているのだからシャレにならないが…
「なぁに?」
相変わらず生徒会室にいる確率の高いミレイに、生徒会の誰かが話しかけた。
「外の騒ぎもだいぶ収まってきたし…ユーフェミアさん…まだ、授業に出られないんですか…?」
元々、マスコミが押しかけてきて、他の生徒たちにも色々影響が出始めていたからユーフェミアは授業を欠席していた訳なのだが…
マスコミさえ引いてしまえば…生徒一人一人がどう考えるかは、それぞれだろうが…
とりあえず、ユーフェミアが授業に出られなくしていた大本が落ち着いているのなら…そう思うのは自然だろう…
少なくとも、ユーフェミアのクラスメイト達は相変わらず彼女へのノートを取っているし、ユーフェミアもそれを使って勉強はしている様だった。
「う〜ん…そうねぇ…。私もそろそろいいかなぁ…と思って、お祖父様に聞いてみたんだけど…。なんか…おうちの方からじゃなくて…お兄さんの方から連絡が来たのよね…」
ミレイの言葉に…スザク、カレン、シャーリーがはっとした。
「まぁ…確か…現在、ヴァインベルグのお屋敷にはいらっしゃらないのよね…ユーフェミアさんのお兄様って…」
ミレイの言葉に返したのは、現生徒会長のカノン=マルディーニだった。
いつでも…どこから、そんなネタを拾ってくるのかは知らないが…
変な事ばかり知っている、情報通だ…
「うん…まぁ、学園の方には以前から今、どこにいるのかは知らせてくれていたけれどね…。あのうちも結構複雑だし…」
「会長…ユフィの家の事…」
ミレイの言葉に驚いて、スザクが口を開いた。
「まぁ、知らない訳じゃないわ…。一応、お祖父様が理事長だし、一応、知っておいた方がいいって言われてた事だからねぇ…。なにせ、中等部の時にはあのランペルージ家の御令嬢までいたし…と云うか、もっと遡れば、あの美男子二人が生徒会の会長と副会長だったんだしね…。一応、おうちの事情は、嫌でも入って来るのよ…」
ミレイの言葉に…彼女が理事長の孫である事をすっかり忘れていた事に気が付いた。
「あ…そうでしたね…」
スザクがなんとなく曖昧に答えた。
「その様子だと…スザクも知ってるんでしょ?まぁ、どっち道、今、アッシュフォード学園東京校にランペルージの名を持っている人が通っていないからねぇ…。いくら影響力があるって云っても…限界は近かったんだけどね…」
ミレイの言葉に…なんとなく解らなくもないと思えてしまっている自分に少し驚くが…
それでも、限界ぎりぎりまで来て…と云う話にはなっていなかったようだ。
「あ…あの…俺たちにはさっぱり解らない話なんですが…」
と、少々戸惑った様な声で話に割り込んできたのはリヴァルだったが…
「まぁ、あんまり気にしないの!多分、聞いて楽しい話じゃないし、それに、人の家の事情はほいほい聞くものじゃないわ…」
ミレイがさらっといつもの調子で流すが…
「だったら…僕たちがいるところで話ししないで下さいよ…」
グラストン・ナイツの一人がぼそっと呟いた。
「僕も知らないよ…。多分、知っているのは、ミレイとスザク、あと、どこで情報を仕入れてくるかは解らないけれど、変な事ばかり知っているカノンだけだ…」
ライの一言…
そこにカレンとシャーリーが入ってこないのは…まぁ仕方ない。
まさか、スザクとカレンとシャーリーがユーフェミアの兄であるジノに遭いに行っている事を知らないのだから…
ただ…ライはスザクが何かを知っている事を…恐らく、ミレイが云った、『ユーフェミアの兄が理事長に連絡を入れてきた』との情報に関わる事である事は予想していたが…
「とりあえず、ユーフェミアさんの授業への出席は…そのお兄さんとの話が済まない事には…こっちでどうこう出来そうにないんだけどね…」
「でも…授業料などは全て一括で支払われているのでしょう?」
ミレイの言葉に珍しくカノンがそんな事を聞いてきた。
「まぁ…でも、それを支払っているのは…ほら…『ヴァインベルグ家』だから…ね…」
ミレイの一言にカノンもスザクも納得してしまった。
「なるほど…」
少し、微妙な感情を込めた一言が…スザクの口からこぼれた。
実際に、ユーフェミアの気持ちがどこまで反映されるのかよく解らない。
と云うより、実際にジノがアッシュフォード学園に来て、ヴァインベルグ家の者たちが待ち伏せていたりしたらどうなるのだろうかと考える。
本当なら、ユーフェミアを強引に当主にするよりジノに戻ってきて欲しいと思っているのだろうから…
そんなスザクの表情の変化に気づいたのか、ミレイがポンとスザクの肩を叩いた。
「まぁ…どれだけの事が出来るか解らないけど…。それに、お兄さんの方もその覚悟があって理事長に連絡を入れてきたんだから…。あんたがそんな顔をする必要はないと思うわ…」
「……あ、はい…」
完全に思考を読まれてしまっている。
ミレイがどこまで事情を知っているのか、どこまで気づいているのか…
時々、その鋭さや情報の速さに驚かされるが…
それでも、この一言は…なんとなく、ど真ん中を付かれていて…でも、こうして知っていてくれる人がいて良かったと思うが…
―――でも…これは俺の甘えだ…
日本でこれだけの騒ぎになっている中でも…
ブリタニアではナナリーの回復に喜んでいる者たちがいた…
「やぁ…気分はどうだい?」
ナナリーの病室にひらひらと手を振りながら入ってきた…長身の銀髪の若いドクター…
彼はランペルージグループの作った研究所の所長で、今回、ナナリーの執刀を担当した医師である。
「あ、随分元気になっていると思います…。まだ、点滴は抜けませんか?」
手術の直後、体力の回復に結構苦労してはいたが…それでも、山を越えたと云う事で、回復は着実に目に見えていた。
「いい傾向だねぇ…。そうやって、点滴が邪魔だと思えたり、歩きたいと思ったりする事は身体の回復を示すサインだし…」
この医師は、ロイド=アスプルンド…ライの兄であり、ルルーシュとナナリーの義兄であるシュナイゼルの旧友である。
「だって…私が早く元気にならないと…お姉さまが…」
ルルーシュが倒れた事を聞いて、ナナリーの方が逆に『私が早く元気にならないと…お姉さまはすぐにめちゃくちゃな事をしてしまいます!』と…とにかく自分の回復の為の努力に関しては気合が入っていた。
「あ〜…確かに君のお姉さん…倒れちゃったけど…あれから、お友達が頑張って生活管理をしているみたいだねぇ…。やっと授業に出られるようになったらしいけど…。ただ、何でも、そのお友達、『お前が私と初めて会った時の体重に戻るまではナナリーのところには行かせないからな!』とか云うお達しで、ここに来られないらしいよ?」
ロイドの説明に…ナナリーがクスッと笑う。
「ノネットさん…ですね…。ノネットさんがいて下されば、お姉さまは安心ですね…。でも…そんな事云ったらいつになったら私…お姉さまにお会いできるのでしょう…」
少し笑って、少し落ち込んだ表情を見せる。
「まぁ、もうそんなに時間がかからないとは思うけどねぇ…。だいぶ血液検査も落ち着いたと思うし…」
「そうですか…。お姉さまが来られないのなら…私が早く元気になって私がお姉さまのところに行かなくては…」
IVH(中心静脈)の点滴で両手が自由なのだが…さっさとおさらばしたい代物だ。
これを付けているとルルーシュはやたらと心配して、何かとナナリーが何かをしようとするとルルーシュが代行してしまうから…
それに、痛みはないものの、寝るときにしても、くしゃみをするときにも何となく気を使ってしまう。(抜けたりずれたりと云う事は基本的にはない。これを入れるときは麻酔までして施すような処置で、誓約書にサインまでさせられる代物だ)
「そうだけど…まだ、点滴は抜けないからねぇ…。君の場合、いくら元気になったように見えても…どう変化していくか慎重に見て行かなくちゃいけないんだから…」
「解っていますけど…。でも、早くお姉さまに会いたいです…」
少ししゅんとしてナナリーが云うと、ロイドも少しだけ困ったような笑みを見せる。
「なら、消灯時間過ぎてまでメールを打っていちゃいけないよ?気分転換に…と思っていたけれど…ナースに『余計な事を奨めないで下さい!』って怒られちゃったよ…。そんなに遅くまで誰にメールをしているんだい?」
ロイドの質問にナナリーがポッと顔を赤くする。
そのナナリーの様子に何かピンと来たらしい…
「そうかぁ…ナナリー君の回復の早さは…それかい?」
「え?あの…私…何も云っていませんけれど…」
顔を赤くして、下を向いているナナリーを見て、ロイドがくすりと笑う。
「まぁ、無理にならない程度にしておいてね?回復が早ければ、早くに帰国できるから…。パソコンの画面で、文字を見ているよりも…直接会いたいだろ?」
ロイドがそう言うと…ナナリーがロイドに顔を見せる事もなく…こくっと頷いた。
「とにかく…今、君は無理をしちゃいけない…。ちゃんと指示された食事をして、指示された薬を飲んで、指示された時間に眠って…。僕も、君が早く日本に帰れるように…頑張るから…」
そう云いながら、ナナリーの髪を撫でた。
まだ、ナナリーは耳まで赤くなっている状態だった。
「じゃあ、これが、今日の検査の結果…。ベッドテーブルに置いておくからね…」
そう云いながらロイドは病室を出て行った…
ロイドが出て行った事が確認できると…ナナリーは窓の外を見た。
建物の向いている方角の関係で…窓の方向に日本があると云う…
「ロロ君…」
その名前を口にする。
ナナリーが手術後、ベッドの上なら好きな事をしていいと云われ、真っ先に欲しいと思ったのが、ネット環境とパソコンだった。
ナナリーの入っている個室は特別室だからネット環境は整っているという。
だから、シュナイゼルに頼んで、ノートパソコンを持ちこんで貰ったのだ。
常に、ベッドテーブルの上に鎮座している。
そして、起き上がれるようになって、パソコンが用意されて真っ先にメールをしたのが…ロロだった…
ナナリーにとって幼馴染以上の存在で…
そして、中々学校へ行く事も出来なかったナナリーにとって、多分、スザクと並んで一番身近な他人だった。
学校に友達はいるが、なかなか合う事もままならなかったから…
それでも同じマンションに暮らしていたロロは頻繁に会える相手だった。
ナナリーがブリタニアに発つ時も…見送りに来てくれた…
他の学校の友達にもメールを出していたが…ロロが一番たくさん返事をくれる。
手術を終えて、パソコンに触れる事が出来るようになって、ロロを含めて友人に一斉送信で起き上がれるようになった事を伝えた…
その時、一番真っ先に返事をくれたのもロロだった…
「スザクさんは…そう云う事…無精しそうなのに…。ロロ君は…こう言う事…マメだから…だから…メールしちゃうだけ…。うん…そう…」
誰に云っているんだ?と聞きたくなるような独り言だが…
以前は、無口だし、あんまり笑わなくて…
でも、ルルーシュが交通事故で入院した時に…枢木家で世話になった時…ロロの優しさを知って…
それから…ロロの存在を意識するようになっていた…
―――私たち姉妹は…枢木家の男の子に惹かれちゃうんですね…
そんな事を思ったりもしたが…
でも、スザクは他に彼女がいると云っていたし、ルルーシュ自身も何を望んでいると云う感じでもなかった…
そんなときふと…こんな事が思い浮かんできた。
―――お姉さま…今でもスザクさんの事…想っていらっしゃるのかしら…。だから…誰ともお付き合いしないのでしょうか…
再びアッシュフォード学園東京校…
日暮れ時となり、生徒会室での作業もお開きになりつつあった時…
―――コンコン…
生徒会室の扉をノックされた。
あれから遅れて生徒会室に来たユーフェミアがここにいるし、この時間に生徒会室に訪ねて来る者など…思いつかない…
「はぁい…どうぞ…」
そのノックにミレイが入室をOKした。
すると…ゆっくりと扉が開く。
そこに立っていた人物は…アッシュフォード学園の制服は着ていない。
ネクタイを締めた…スーツ姿…
「え?」
カレンが驚いた声を出した。
ユーフェミアは咲世子と一緒にミニキッチンの流しで使っていたカップを洗っていた。
だから…今、生徒会室の入口に誰が立っているかを知らない。
ノックの音がして、ミレイが入室をOKしているので、誰か来た事は気付いていたが…
「あ…あの…」
生徒会室の空気が変わった事は…なんとなく伝わってきた。
「どうも…妹が…お世話になっています…」
その声に…ユーフェミアが動きを止める。
やっと…誰が生徒会室に訪れたのかを知る。
「ユーフェミアさま…ここは…私が…」
隣で一緒に洗い物をしていた咲世子が一言、そう告げる…
その咲世子の一言に…ユーフェミアがこくっと頷いて、手を拭く事も忘れて…ミニキッチンから駆け足で生徒会室に出て行った…
「お…お兄様…」
その姿を見て…ユーフェミアの口から出てきたのは…その一言…
「久しぶりだな…ユフィ…。今まで…ごめんな…」
ルルーシュがブリタニアに発ってから…1年以上が過ぎている。
ルルーシュがブリタニアに発ったと同時にジノはヴァインベルグ家を出て行った…
ユーフェミアさえもどこに住んでいるかを知らなかった。
ヴァインベルグ家の方は内情がゴタゴタしていて…とにかく目の前の問題と向き合わなくてはならない状況にあったし…
ユーフェミアの知っているジノの携帯の番号さえも解約されていて…ユーフェミアも連絡を取る事が出来なかった。
「お元気で…いらしたのですね…」
ユーフェミアがそう告げると…ユーフェミアの瞳から涙がこぼれてきた。
その涙が…こんな状態になる前からヴァインベルグ家の中でも色々辛い思いをしていたに違いない事を窺わせる。
「ああ…ごめん…これまで…連絡できなくて…。でも…やっと私も決心がついた…。あの頃のように…二人で…暮らそう…」
あの頃…
ジノとユーフェミアがヴァインベルグの門をくぐる前の…事…
「あの頃…みたいに…?二人で…?」
「ああ…ヴァインベルグの家にいた時みたいな…広い部屋はないし、贅沢は出来ないけれど…」
「あのお部屋は…私一人では広すぎです…。狭いなら…あの頃みたいに…お兄様と同じお部屋で休みますから…。それに私…少しお料理も出来るようになったんですよ…。咲世子さんに教わったんです…だから…」
「そうか…なら…私はこれから…食事の心配をしないで仕事が出来るな…」
「はい…」
生徒会室には…いつの間にか…ジノとユーフェミアの二人きりになっていた…
二人では酷く広く感じる生徒会室の中で…兄妹が再会し、抱き合っていた…
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