幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 13


 ユーフェミアに何も言えないまま…スザクはクラブハウスを後にする…
スザクがユーフェミアを好きだと思った気持にウソがないのは本当だ…
ユーフェミアもそれについては疑いを持っていないようだったが…
しかし…いつからこんな風に気持ちの変化が生まれてきたのかが解らない…
ルルーシュ…
幼馴染で…途中、ルルーシュの母親がランペルージグループの総裁と再婚したという事もあったが…
しかし…ルルーシュ自身は何も変わった様子はなかった…
単に…ルルーシュのファーストネームが変わっただけ…
実際に、スザクの目に映るルルーシュは何一つ変わったようには見えなかった。
幼馴染で、一緒にいる事がごく自然で、当たり前で…
それまで…決してそんな風に意識する事なんてなかった。
ジノと付き合っていると知った時にはさすがに驚いたけれど…それでも、その時にはそんな風に意識していた訳じゃない。
あの時は本当にユーフェミアと一緒にいる事がスザクにとっても大切な時間であったし、ルルーシュに半ば自棄になったように告白された時にも…ルルーシュをそんな風に見る事が出来なかった。
それは多分…本当だ…
では…いつからなのだろうか…
ルルーシュの記憶からスザクの存在がなくなった時…
多分…スザクの思いつくのはその頃だ…
確かに、スザクとユーフェミアの仲を守る為にジノと付き合ったと知った時には動揺したのは事実だが…
それは…当事者である筈のスザクが…何も知らなかったという事の衝撃だ。
ルルーシュは全てを知っていた。
本当なら…ユーフェミアの口から…伝えられるべき…しかも、一番に伝えられるべき話だった筈なのに…
迷いは…多分それをきっかけにしていたのかもしれない…
そう言えば…スザクがユーフェミアと付き合いだして…暫く経った頃から…ルルーシュはいつも苦しそうだった。
何かを抱えていた…
多分…それは…スザク達を取り巻く様々な事情がどんなものかを知っていて…ルルーシュは…スザクの為に…ランペルージの名前を使う事なく、自分自身で出来る事を探し、そして…その見つけた方法は…
ルルーシュ自身を犠牲にしていた…
ルルーシュ自身、苦しかっただろうと思う。
元々、自分の気に入らない相手に対して決して心を開く事のなかったルルーシュだ…
そのルルーシュが…スザクを守る為に…会って間もないジノと…
ジノがそれでも、ルルーシュに対して真摯敵であった事はせめてもの救いだ。
ジノ自身、本気でルルーシュの事を愛していた事は…そして、今でも愛している事は良く解る…
ユーフェミアはああ云ってくれたが…それでも、これまで、自分のしてきた事を考えた時…
「それでも…俺自身は…多分…」
そう呟きながら…夕暮の空を見上げた。

 そんな風にたそがれていると…
「スザク!」
後ろから声をかけてきたのは…カレンだった…
「カレン…」
「ね、今時間ある?」
「あ…あるけど…」
そこまで云った時…スザクは先ほど、カレンがジノのいるところを教えて欲しいと云っていた事を思い出す。
「じゃあ…今から教えてくれない?」
そのカレンの一言にスザクは『やっぱりか…』という気持ちを何とかかみ殺す。
「いいけど…結構遠いぞ?今から行って帰ると暗くなる…」
「大丈夫よ…それに、シャーリーも一緒だし…」
と、カレンがそこまで云うと、シャーリーが学校の塀の陰からひょっこり顔を出した。
「シャーリー…」
この二人は確かにずっとルルーシュと仲が良くて…
カレン自身はいつの間にか情報を入手して全てを把握していたし、シャーリーは具体的な事は何も知らないが…それでも、これまでの状況がルルーシュにとってつらいものであった事を察知していた。
「ごめんね…スザク君…。ルルの事は…私もずっと気になっていたの…。ユーフェミアさんのお兄さんと付き合っていた事も一応は知っていたけれど、詳しい事は何も知らない…。で、ルルが事故に遭ってからは…学園であれだけの騒ぎになっていたのに…何一つ…その話題に触れられる事がなくなっちゃったでしょ?」
「でも…シャーリーはジノさんとは一度も面識がないだろ…」
「だから、私が連れてきた事にすればいいと思って…。この時間なら説得力あるでしょ?ジノさん自身は、まだ、あんたたちがうまく行っているかどうかはともかく、付き合っている事になっているんだろうから…」
カレンのその一言に…スザクは驚きの顔を隠せなかった。
そして、シャーリーも驚いた表情を見せている。
余りに予想通りの反応で…カレン自身、苦笑が零れる。
「これでも私…毎日ユーフェミアのところにノートを持って行って…ちょっとだけと話をしていたからね…。何となく解った…。昨日…ユーフェミアに自分の中で決めた事があるっていわれた時に…ピンと来た…。スザクと話したいって…云っていたしね…」
カレンがそう言うと…二人は更に複雑な表情となった。
「カレン…ずっとユーフェミアさんと話と化していたんだ…」
「うん…。でも、中等部の時みたいにルルーシュの事を話したって、すぐに取り乱したりしていなかったし…。と云うか…ユーフェミア自身が…ルルーシュに対して白旗を上げたって感じなのかな…」
カレンのユーフェミアの事を話す時の表情が…
以前とはずいぶん違っている事に気づく。
「カレン…」
シャーリーが少し複雑な表情を見せながらカレンの名前を呼んだ。
確かに、中等部の頃程は彼女が感情的になる事はなくなっていた…
しかし、事情を知らないシャーリーとしては、ルルーシュが目の前からいなくなったから…だと思っていたのだ。
「まぁ、今でもユーフェミアに対しては複雑な部分はあるけどね…。ただ、この事に関しては…彼女自身、色々頑張ったと思ってる…。今、アッシュフォード学園で匿って貰えているのは…ルルーシュのお陰だと知っても、取り乱しもしないし、その事を知って感情的になって、学園から飛び出すような真似もしなかったし…」

 それでもシャーリーは何となく納得できないのか…未だに複雑そうな表情をしている。
「まぁ、シャーリーは裏側の事情を知らないからね…。私から話す訳にはいかないけど…多少は同情の余地があるわ…。でも、ルルーシュを傷付けた事に対しては私も許していないけど…でも、ユーフェミアは…ルルーシュに謝りたいって…云っていたの…。それに、ナナリーの事を教えたら…本当に喜んでいたわ…」
シャーリーを諭すようにカレンが話す。
「私だけ知らないんだ…なんだか…ズルイ気もするけど…確かに、ルルの家とか、ユーフェミアさんの家とか…色々複雑そうだもんね…」
この辺りはシャーリーの明るさに救われる。
彼女自身、気にならない訳じゃないだろうが…この場で深く追求していい事ではないと自分で判断出来るから…
だから、もし、話していいとするなら、ユーフェミア本人かジノしかいない…。
ずっと、ルルーシュの事もスザクの事もユーフェミアの事も複雑な思いを抱えながら見つめてきたシャーリーに…これから先、カレンの中で評価の変わりつつあるユーフェミアの為にこれからやろうとしている事の協力を願いたかった。
「まぁ、ジノさんが教えてくれるかもしれないし…。それに、シャーリーにも協力して貰うからね…。知るって云う事はそう云う事だから…」
カレンがシャーリーに笑いかけながらそう告げる。
シャーリーもそのカレンの言葉に『自分にも出来る事がある…』そう思っていつもの明るい笑顔を見せる。
「解った…任せて!ルルほど頭は良くないけど…体力なら大丈夫だから!」
なんとなく、良く解らない気合いの言葉だが…
それでも、意味うんぬんよりも、その言葉に救われる気がした。
「解った…でも、帰りは俺がちゃんとカレンもシャーリーも送って行くよ…。ジノさんへの口実はなんであれ…女の子たちだけで暗い道を歩かせたら…きっと、ユフィにもルルーシュにも怒られる…」
スザクの言葉にシャーリーはクスッと笑った。
「スザク君…将来、誰と結婚しても尻に敷かれるタイプだね…」
「ああ…確かにね…。今だってそうだと思うけどね…。スザク自身は結構優柔不断だけど…ルルーシュは勿論、ユーフェミアまでしっかりしちゃって…スザクを振りまわしているものね…」
二人の言葉にスザク自身…少々むっとするが…
ただ…これまで色々あって…一人だと、どんどんドツボにはまって行きそうだった気分が…この二人に救われるような気がした。
「ホント…好き放題言ってくれるよ…」
そうこぼしながらも…内心では二人のこの明るい言葉に
―――有難う…
そう告げていた…
そして…この二人にいい様に振り回されながら…ジノのマンションへと向かって行った…
―――今行って…会えるかどうか解らないけどな…

 ジノは現在、自分で仕事をしていると云っていた。
確かに、ヴァインベルグの家を出て、自分で生きて行こうと思えば自分で働くしかない。
大学も休学状態だと云っていた。
ジノのマンションについてチャイムを鳴らす。
すると、インターフォンから声が聞こえてきた。
『はい?どちら様…?』
「あ…あの…スザクです…。今日は…お願いがあってきました…」
とりあえず、そう告げるが…
『君が私に?まぁ…いい…。とりあえず、そっちに降りて行くよ…。今、ちょっと仕事の関係でこっちはごちゃごちゃしているから…』
その言葉を残し、インターフォンが切れた。
そして…数分と経たない内にジノが姿を現した。
スザクの後ろの…ユーフェミアの来ている制服と同じ制服を着ている二人の女子高生を見て驚きを隠さない。
「一体…これは何の真似だい?そっちは、シュタットフェルトのお嬢さんだろ?そちらは…」
シャーリーを見てジノが尋ねる。
すると、スザクが紹介する前にシャーリーが自己紹介を始めた。
「えっと…ユーフェミアさんと同じ生徒会に所属している、シャーリー=フェネットです!中等部の時にはユーフェミアさんやルル…−シュと一緒のクラスでした!」
ジノとしては…ルルーシュを取り巻く…ユーフェミアを取り巻く人間の中では珍しいタイプで…思わず小さく笑ってしまった。
「あ…あの…」
ジノに笑われたことで、シャーリーが何か失敗したのかと声を出すが…
「否…ユーフェミアの友達にはいないタイプだったんで…。君は初めまして…だね…。ジノ=ヴァインベルグ…。ユーフェミアの兄だ…」
流石に当主の浮気相手の子供であっても、ジノ自身がヴァインベルグを継ぐ気などないと云っていても…いいところのおぼっちゃまと云う雰囲気は隠せない。
それでも…確かに育ちの良さを感じる反面、全てに恵まれてきた…と云う雰囲気でもない。
なんだか…不思議な感じがしたが…
「で、スザク君?一体私に何を頼むつもりだったのか聞きたいところだが…この二人のお嬢さんたちと一緒にここで立ち話と云うのもなんだから…どこかに入ろう…」
ジノがそう云いながらスザクの返事も聞かずに歩きだした。
確かに…こんなところで込み入った話は出来ないとカレンは思うし、スザクも状況的にここで立ち話もしにくいと考える。
シャーリーは…想像とは違ったジノの印象に少し驚いている様だった。
「解りました…高校生でも払える店にして下さいね…」
スザクがそう言うとジノが『やれやれ』と云った感じでため息をついた。
「別に…急な来客ではあったけれど…私が払うよ…。そんな心配をして私に頼みごとをしに来たのかい?」
ジノが呆れたように云うと、その言葉に答えを返したのはスザクではなく、カレンだった。
「まぁ、スザクは頼みごとって云う形であなたと話してくれましたけれど…実際にお願いたあるのは私なんです…。長くなる話になるかどうかは…今のところ解りませんけれど…それでも、それなりに込み入った話になりそうなので…そう云った話の出来そうなところでお願いします…」
カレンの言葉にジノは黙って『解った』と合図するように頷いた。

 10分ほど歩いて…落ち着いた雰囲気の喫茶店に入った。
中は…今は客足が切れているのか…マスター以外に誰もいなかった。
「こんにちは…」
「おや、ジノ君…久しぶりじゃないか…」
「ええ…ここのところ、お陰さまで仕事の方も順調でして…」
なじみの店なのか…そこのマスターが親しそうにジノと話している。
「えっと…ちょっと、色々込み入った話をしたいんですけど…」
「ああ…解った…。今の時間ならもう店を閉めちゃってもいいよ…。ここは…基本的に昼間しか人が来ないから…」
マスターはそう云って、入口の『営業中』の札を返してきた。
「で、注文は?」
「私はコーヒーで…君たちは?」
「俺もコーヒーで…」
「私は紅茶で…」
「あ、私も紅茶をお願いします…」
4人がそれぞれ注文して、奥の席に着いた。
そして…腰かけて5分ほどでマスターが注文されたコーヒーと紅茶を運んで来て、ジノに鍵を渡した。
「とりあえず、戸締りだけは頼むね…。この鍵…いつもの通り、そこの新聞受けからこっちに入れておいて…」
「解りました…すみません…マスター…」
簡単な会話を終えて、マスターと呼ばれた中年男性が店の奥へと入って行った。
「あの…いいんですか?」
「ああ…ここは私がアッシュフォード学園に通っていた頃からの常連でね…。マスターは私の家の事や事情をよく知っているんだ…」
そう云いながら、ジノがコーヒーを一口含んだ。
そして…どうやって本題に入っていいか…悩んでいたカレンを見透かしたようにジノがカレンに声をかけた。
「で、頼みって…何だい?」
ジノが切り出した。
「えっと…その前に、ユーフェミアの事を…聞いて頂きたいんです…」
カレンがジノに対してそう告げる。
「一応、一通りの事は彼から聞いているが…他に何かあるんだい?」
「どの程度…聞いているか伺ってもいいですか?」
カレンの一言にシャーリーははっとした。
そう、ここ最近のユーフェミアは…とにかく変わったと思う。
今日、久しぶりに直接会ってみて、雰囲気が以前とは全然違っていた。
「ランペルージ家のお陰で…ユーフェミアがアッシュフォード学園に匿われている事は知っている…」
カレンとしても愚問だと思った。
スザクだって、ユーフェミアがどんな生活をしていて、何を思っていたのか…今日、二人で話すまで知らなかったのだから…
「そうですか…。ユーフェミアは今…自分に何ができるかを探しながら…色々自分の事を考えています。最近では、授業にも出られないので、その間、提供された部屋で…家事の勉強をしています。私も、彼女にあって、驚きました…。本当に…お嬢様とは思えない程…出来るようになっています…」
カレンの言葉にジノが不思議そうな顔をした。
何故…そんな事を自分に伝える必要があるのか…と…
「何故…私にそんな事を?」
「私のお願いは…ユーフェミアと一緒に暮らしてあげて下さい…。彼女が本当に望む場所は…アッシュフォード学園のクラブハウスじゃなくて…あなたの傍だと思うんです…」
カレンの言葉に…その場にいた全員が…息をのんだ…

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