幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 12


 生徒会でクラブハウス内であれば、ユーフェミアが動き回ってもよいという決定を生徒会で決めた翌日…
放課後の生徒会の席には…
「ユーフェミアさん…」
「ごめんね…こんな形でしか、私たち…会う事も出来なくて…」
ニーナとシャーリーが生徒会室に入ってきたユーフェミアに一番に声をかけた。
ニーナは口には出していなかったが…ずっと、ユーフェミアの事を気にかけていたようで…それでも、中々話しかける事も出来なかった事を随分気にしていたらしい。
「とりあえず、ミレイ前会長からもお許しを頂いたの…。ここに来て貰うからにはちゃんと生徒会の仕事はこなして貰うから…」
カノンが少し悪戯っぽくユーフェミアに笑いかけた。
ユーフェミアは昨日からの驚きに、更に驚きを目の前に突きつけられて…全てを把握できていないかのようだった。
しかし、その驚きは…決して心地の悪いものではなく…寧ろ、温かいものを感じるもので…
「有難うございます…みなさん…」
カレンが何か言ったのかと…最初は思ったのだが…しかし、彼らの様子を見ても、ユーフェミアに対してのいらない同情があるようには見えなかった。
ただ…同じ生徒会のメンバーに対しての視線を送ってくれているだけだ。
「ユーフェミア…後で、スザクと話しなさいな…。きっと、スザクもそれを望んでいるし、知りたい事も山ほどあると思うわ…。中等部の時に、あんた、ルルーシュに言われた事あったでしょ?『私に礼を言う前にスザクに謝れ…。そして、きちんと、事情説明くらいしてやれ…。なんで、当事者のスザクが知らなくて、無関係の私が知っているんだ!?』って…。当事者が知らないのは…私も問題だと思うから…」
カレンがユーフェミアに小さく耳打ちする。
その言葉にユーフェミアがはっとしたような表情を見せるが…
すぐに、落ち着いたのか、静かな笑みを見せながら頷いた。
「解っています…。この生徒会業務の後…スザクと話そうと思います。私自身の過去の事や、そして…今の私の気持ちを…」
ユーフェミアの声はとても穏やかで…これから何を話すのかはカレンには解らないが…
それでも、ユーフェミアにとってそれが最善と考えての事だろうと考える。
そして、カレンの中でも、ある事を実行しようとしていた。
恐らく、カレンがルルーシュと云う人物に惹かれ、彼女を見続けてきて…きっと、ルルーシュならこうすると自分が考える事を…実行しようと…そう考えていた…
その結果…ユーフェミアはともかく、スザクには恨まれる事になってしまっても…それはそれでいいと思っていた…。
カレン自身はユーフェミアに対しては相変わらず複雑な気持ちはあるのは事実だが…
しかし、ルルーシュなら、こうするだろうと思う事に関しては…実行したいと考えていた…

 その日の生徒会業務は…久しぶりにユーフェミアも参加したとあって、あまり進まないのがこの学園の生徒会だ。
久しぶりに全員がそろったとなれば、お祭りになってしまっても仕方がない。
ミレイやライも仲間入りして結局、お茶会となり果てたのであった。
普段は、全員が揃う事なんてめったにないというのに…
こうした特別な事が起きた場合には、人とは、普段は一人や二人欠けていても気にしないのだが、こう言った場合、何だか気になって集まってきて…なんだか特別な日となってしまう。
結局、その騒ぎが収まって片付けが出来る段階となったのは…下校時間も過ぎて、正門があと数分で閉じられてしまう時間だった。
「あ〜あ…結局こんな風になっちゃったのね…」
「片づけは、私がやりますから…皆さんは遅くならない内に…お帰り下さい…」
カレンの一言に咲世子がそう告げる。
しかし…
「否、俺は残る…。いつも咲世子さんに押し付けて申し訳ないし…」
「そうね…それに、咲世子さん、ユーフェミアの食事の支度をしているんでしょ?そっちを優先して?ここはスザクとユーフェミアがやるから…」
スザクの申し出にカレンが便乗してそう続けた。
カレンなりの…お膳立て…のつもりだった。
「そうして下さい…咲世子さん…。こちらの片づけは咲世子さんでなくてもできますけれど…お食事の準備は…まだ、私では無理ですし…」
カレンの意図を読み取ったのか、ユーフェミアもそう提案する。
咲世子の方は事情がよく解らないが…
ここは任せた方がいいと判断する。
「では…お言葉に甘えさせて頂きますね…。他の皆さんはもう、お帰りになったようですけれど…」
「大丈夫…。私は遅くなれば迎えが来るし…スザクを襲うような命知らずはあんまりいないと思うし…」
カレンが軽いノリでそう咲世子に告げると…
咲世子がカレンに『面白い事を仰いますね…』という、表情をした。
咲世子の方はスザクが超人的な運動神経の持ち主だと、耳では聞いていても、その目にしたのは、入学式の時の『美少年コンテスト』の時だけだ。
その、『美少年コンテスト』の時にも、スザクの運動神経を知っている格闘技のクラブの部員たちは怪我をする事を恐れて、あからさまにスザクを避けていたのを目にしているだけなのだが…
「そうですか…。では、お願いしますね…。ユーフェミアさま…終わりましたら、お部屋にいらして下さいね。また、夕食をご一緒いたしましょう…」
そう云って、咲世子は生徒会室を後にした。
残されたのは…スザク、ユーフェミア、カレン…だった。
カレン自身も、すぐにこの部屋を出て行くつもりだった…
「じゃあ、後は二人でお願いね…。私は帰るから…」
カレン自身の判断でそう告げる。
すると、ユーフェミアが…
「有難う…カレン…。また明日…話を聞いて下さい…」
「解ったわ…。私も、ちょっとやらなくちゃいけない事があるから…。あんたも、ちゃんと自分の事を考えるようにするのよ?ルルーシュみたいな貧乏くじばかり弾いている様じゃ、幸せになれないわよ…」

 カレンがその一言を置いて、生徒会室を出て行くと…
とりあえず、スザクもユーフェミアもメンバーたちが食べ散らかしたお菓子のごみや飲んでいたお茶のカップなどを集め始めた。
最初の内はただ…黙って…
何も言う事なく…
お互いに話がある事はよく解っていながら…
それでも、スザクもユーフェミアもあせっている様子は全く見えない。
全てのカップを集めて流しにおいて、ユーフェミアが洗い始めた。
「ねぇ…スザク…。色々…私に聞きたい事が…あるのでしょう?私も…聞いて欲しい事があるんです…」
いつもの口調で…いつものように…特に特別な事などないと云った口調だ。
その口調に…スザク自身は、何となく違和感がある様な気がしていたが…敢えて、無視した。
これから二人でする会話は…
自分たちの本当の気持ちを打ち明けて…そして、これからの自分たちの事を決めて行く為の会話だ…
解っているから… それに、二人とも、その覚悟があった…
ユーフェミア自身、一人で考える時間が長く取れ多分、恐らく、スザクよりも言葉をまとめている。
スザクの方も…出来るだけ自分の聞きたい事…知りたい事を…
感情的にならないようにまとめていた。
「ああ…聞きたい事も…聞いて欲しい事も…たくさんある…。俺たち…中等部の時から付き合ってきたけれど…俺、ユフィの事…正直、何を知っているかと聞かれたら…何も答えられないよ…今の状況では…」
スザクの中で精一杯選んだ言葉を…紡いだ。
憤りを感じた事もあったし、このままの状況でどうなって行くか解らない不安に襲われた事もあった。
スザクがユーフェミアを好きだと思ったのは事実だし、ユーフェミアがスザクと一緒にいたいと思ったのも本当だ。
今だって、お互いの事を嫌いになった訳でも、憎しみを抱いている訳でもない。
ただ…何かがすれ違っている…
もし、そのすれ違いが…きちんと正面を向けるようになるのなら…
そうも思うが…
しかし、ここまで来て、お互いの中で『ルルーシュ』の存在が大きくなり過ぎていた。
二人が付き合い始めて、色んな形で『ルルーシュ』が付いて回っていた。
ユーフェミアがシュナイゼルと婚約していた事を含めて、その事で、『ルルーシュ』が(それはたとえ、ルルーシュが勝手にやっていた事であったとしても)二人の為に動いていた。
そして…ユーフェミアのこの状況に際して間接的であれ、直接的であれ、『ルルーシュ』が関与している事は…よく解っている。
だからこそ…
二人は話をしなくてはならないと…そう思っていた。
お互いの気持ちが一体どこにあるのか…
お互いがお互いを『嫌い』になったという気持ちは全くない。
ただ…外からの物理的な何かによって彼ら自身が変わって行かざるを得なかった…
これが…ドラマや小説なら…そんな障害をも乗り越えて…と云う話となるのだろうが…
しかし…実際にそんなものを抱えながら…お互いの事だけを考えて…と云う訳にはいかないと…子供ながらに思う。
「じゃあ…カレンに私が話した…私の事をまず…聞いて頂けますか?」

 ユーフェミアの言葉に…スザクは黙って頷くと…
ユーフェミアはカレンに話した、自分の生い立ちの話をし始めた。
スザクも流石に驚きを隠せなかったようだが…
しかし、ユーフェミア自身はそんな事を気にしていなかった。
そんな驚きを隠せないスザクを置き去りに…
ユーフェミアとジノがヴァインベルグ家に入る事になった経緯や、その後の、ユーフェミアの心境の変化などを…淡々と話していた。
そして…全てを話し終えると…
「……と云う事なのですけれど…。流石に驚いていますよね…。カレンも驚いていましたし…。でも…こんな自分の境遇を悲観して…ただ、寂しいという気持ちだけでスザクと一緒にいた訳ではない事だけは…信じて頂けますか?」
ユーフェミアが静かにスザクに対して尋ねる。
「俺は…ユフィの事…ちゃんと好きだったよ…。だから…俺はずっとユフィと一緒にいたんだ…。知りたい事もいっぱいあって…でも…聞けなかった事が…辛かった…。と云うより、もどかしかった…。確かに根掘り葉掘り聞く様な趣味はないけれど…それでも、最低限の事を知りたかった…。せめて…シュナイゼルさんとの事や、俺と付き合う事によって、ユフィやランペルージ家の皆さんに対して、どう言う事になるのか…くらいは…」
スザクは小さくそう告げた。
恐らく、その事情を知っていて、そんな事情を無視して彼女と付き合っていたかを尋ねられたら…
答えは詰まってしまうだろう。
今でもスザクは何もできないただの高校生だ。
そんな途方もない話をされたところで、何が出来るのかなんて解らないし、普通に何もできないと思ってしまう。
それは…ごくごく当たり前のことだ。
「そうしたら…きっとスザクは…本当に私の事を好きでいてくれても…こうして一緒にいてはくださらなかったでしょう?結局、ルルーシュやシュナイゼルさん、お兄様に色々心配して貰いながら…やっと…続けてきた…脆いものでしたし…」
そう言われてしまうと…確かにその通りで、何も答える事が出来ない。
現在のユーフェミアの状況を見ていると…それは…痛いほど解る。
「確かに…何も言わなかった私に非があります…その部分においては…。私自身、ルルーシュの言葉で…何度もぐさりときた事はありますし…。自分の今いる家の力も理解しないまま…勝手な事をしてきたのは…確かに本当ですし…。カレンが、あの頃、私に対して憤りを覚えていた事は…今の私ならよく解ります…。でも、ルルーシュはあの頃から理解していたのでしょうか…。立場としては…私とあまり変わらない…いえ、私はまだ、その家の『当主』の血を引いているだけ、ルルーシュの置かれている立場よりもずっと…いいか悪いかは別にして、安定して優位な立場でしたのに…」

 ユーフェミアの言葉に…スザクが色々と気持ちが複雑になる。
ルルーシュは…決して『ランペルージ』の名前で何かをしようとした事はなかった。
スザクとユーフェミアの事を守ろうとした時も…あくまで、自分自身がジノとの取り引きの中で守り続けていたのだ…
「ルルーシュ…」
スザクは思わず幼馴染の名前を口にする。
ユーフェミアにも聞こえているのだろうが…以前なら、ユーフェミアの感情が昂ってスザクに対してその名前を口にする事を泣きそうになりながら嫌がっていたのだが…
今のユーフェミアは…
「スザクも…色々とこの話を聞いて、気づいたのでしょう?私たちを取り巻く者が何であるのかを…。それに…私、色々考えている中で…自分の気持ちを色々整理したんです…」
ユーフェミアが穏やかに話している。
スザク自身、正直、こんな彼女は初めて見るだろう…
毅然と胸を張った…スザクと会えなかった時間に…何か、自分自身で色々考え、自分の中で答えを出したのだろう…
ユーフェミアが食器を洗っている水道の方から、スザクの方へと向き直った。
そして…まっすぐと、スザクの方を見る。
「スザク…今まで…私の我儘を聞いて下さって…有難うございました…。でも、ここまで、一人で色々と整理して、考えて…今の私は…スザクの隣にいる事ができません…」
その瞳には…涙もない。
憎しみの色や、嫌悪の色、怒りの色などは一切見られない。
ただ…酷く穏やかな色をしていた。
「ユフィ…」
ユーフェミアの言葉にスザクが驚いた表情をしているが…
その驚きの原因は…ユーフェミアから『別離』の言葉を投げかけられた衝撃によるものではない。
自分で、必死に言葉を探し、考えていた事を…先に言われてしまった…
そんな驚きの色…
「スザクの事…正直、今でも好きです…。でも、今の私では隣にいる事ができません…。自分の足で立ち、一人で歩く事も出来ない…。ルルーシュやシュナイゼルさん…いえ、ランペルージ家の方々のお力添えがなければ、ここにいる事さえ叶わない…。そんな私が、スザクの隣に立つ資格なんてないんです…」
「ユフィ…俺も…同じ事を考えていた…。ルルーシュにあそこまでさせて…守られて…そんな事じゃいけないと思いながらも…ずっと俺は、ルルーシュに甘えていた…。だから…俺自身がユフィと一緒に歩けるだけの力がない事はよく解っていたし…それが…もどかしくて…」
スザクがそこまで云いかけた時、ユーフェミアがスザクの間近まで近寄って、スザクの唇に人差し指を当ててその言葉を遮った。
「待って下さい…。スザク…まだ、自分の気持ちを無視しているんですか?それって…私に対して凄く失礼ですよ?それに…ルルーシュにも…」
そこまでユーフェミアが云った時…ユーフェミアの瞳から初めて、その雫が落ちて行った…
「ユフィ…」
スザクは思わず、その言葉にユーフェミアを呼ぶ名前だけ言葉を紡いだ。
「解っていらっしゃるんじゃないですか…。なら…自分の気持ちに正直になって下さいな…。あなたが私を好きだと云ってくれた言葉にウソがあるなんて思っていません。でも…やっぱり、ルルーシュの存在は…大きかった…そう云う事ですよね…?」
スザクはただ…何もいえずに…ユーフェミアの濡れた瞳を…見つめる事しか出来なかった…

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