幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 05


 カノンとスザクがそろって生徒会室へ戻る。
「あらぁ…流石カノン…時間がぴったり…」
「そりゃ…これから生徒会長をやって行くんですから…時間くらいきちんと守らないと…」
ミレイの言葉にカノンが笑って答えるが…
スザクとしては、あまり笑う気にもなれなかった。
そして、こんな時に思うのは…
―――ルルーシュなら…どうする…?
ユーフェミアと付き合い始めてからも常に何かにぶつかった時はそう思ってしまっていた。
「なぁに?スザク…カノンにいじめられちゃった?」
茶化すようにミレイがスザクに声をかけてくるが…
スザクとしては何も答える事が出来ない。
「少し、いじめすぎちゃったかしら…。だって…スザクってイジると面白いんですもの…」
まるで、その場をごまかすかのようにカノンが笑いながらそんな風に答えた。
カノン自身は、恐らく、心配してくれているのだろうとは思うが…
ただ…あまりに大きな話で…
解決方法なんて見つからない。
と云うか、カノン自身、スザクにあんな話をしてどうしたかったのか…皆目見当がつかないが…
―――コンコン…
生徒会室の扉がノックされた。
「どぉぞぉ…」
ミレイがそのノックに返事すると、中に入ってきたのは…
「まぁ…ランペルージご夫妻…。ご無沙汰しております…」
ミレイが深々と頭を下げる。
アッシュフォード家はランペルージ家と深い関わりがある。
ミレイの祖父はかつて、ランペルージグループの重役で、現在は父がその地位を引き継いでいる。
「あらあら…ミレイさん…ここはそういう場じゃないんだから…そんな風にかしこまらないで?」
マリアンヌがそう笑いながらミレイに声をかけた。
「今日は…仕事の関係で来た訳じゃない…。我々もアーニャ君に誘われて、夫婦のデートで来ているのだ…。アーニャ君は?」
シャルルがそんな風に尋ねる。
「今は、自由行動中ですので…。放送で呼び出しましょうか?」
カノンがそこに割って入った。
「ああ…そこまではいいよ…。その…予定の時間までは我々も見物していいのかな?」
「そりゃ…どうぞ…。実際にお出まし頂くのは、15時頃になりますので…それまでにこちらに来て頂ければ…」
「あら…そうなの…。なら、シャルル…色々見て回りましょう?なんだか楽しそうなものがたくさんあったわ…」
再婚とはいえ、大学生、高校生、中学生の子供のいる夫婦には見えない。
そのくらいに仲のいい夫婦のようだ。
「ホントに…ルルーシュの両親って、凄いよね…。あんな風にラブラブで…。シャルル社長の出張の時には必ず、奥様のマリアンヌさんがついて行くのよね…。子供たちにとってはいいのかどうか解らないけど…」
「それでも、あのご両親もシュナイゼル氏も…ルルーシュ嬢もナナリー嬢もそれはそれは大切にしていらっしゃるわ…。今回のブリタニアの研究施設、ランペルージグループが全面的に援助しているのよね…」
「あら…カノン…随分詳しいのね…」
「まぁ…その辺りは…色々コネがありまして…」

 意味深なカノンの言葉だが…それ以上聞きだす気はなかった。
と云うより、情報ソースをばらす気も彼自身にはないだろう。
「さて…スザク、カノンが解放してくれたんだし…ユーフェミアさんと楽しんでいらっしゃいな…。あなたも時間に間に合えばどこにいてもいいから…」
ミレイの言葉にスザクはとりあえず、生徒会室を出て行く事にする。
ここにいてもやる事なんてないし、あの二人のそこらの小姑よりタチの悪い説教に付き合う必要もない。
「さて…どこに行くかな…」
そう呟きながら、出店マップを開く。
あまり…行きたいと思うところもない…。
カノンから聞かされたユーフェミアの事…多分、スザクが気にしたところで何が出来る訳でもないし、彼女が何も話さないなら、聞かない方がいいと思うから…
「俺って…冷たいのかな…」
「スザク…さっきからぶつぶつ何か言っているから…周りの視線の方が冷たい…」
「え?うわっ…アーニャ?」
独り言に返事を返され、思わずのけぞった。
「スザク…さっきからずっと変な顔…。ほら…」
そう言ってアーニャは自分の携帯の画面をスザクの方に向けた。
無理矢理見せられた…今さっき撮られたばかりのスザクの顔…
確かに…これを見る限り、『美少年コンテスト』にエントリーされる人間の顔ではないな…と思った。
「ねぇ…スザク…ユーフェミアと付き合ってるんでしょ?」
唐突な質問だが…アーニャは高等部からの入学生だから、そう言う噂を聞いて、確かめたいと思ったのかもしれない。
確かに、ユーフェミアを彼女にしていれば…充分目立つ存在だ。
顔立ちは…美人の類だと思うし、性格も、少し嫉妬深いものの、穏やかだし、フワフワした感じだ。
それに加えて、ヴァインベルグ家のお嬢様…
本当なら、スザクと付き合うなんて…考えられない相手だとも思う。(そう言った意味ではルルーシュも現在ではランペルージグループのお嬢様なのだが)
「まぁ…そう言う事になるかな…。そんな事確かめるためにわざわざこんなところで待ち伏せしてたわけ?」
「ううん…この変な顔…写真にして、1枚100円で売る…。ミレイ会長からの命令…」
アーニャの一言にスザクは顔を引き攣らせる。
まったく…油断も隙もないとはこの事だと思う。
「アーニャ…ちょっと待て…そんな写真売るな!」
「会長命令…」
「会長の説教は俺が引き受けてやるから…その画像、さっさと消去しろ!」
そう言いながらアーニャの持っている携帯を取ろうとした時、またも、アーニャが携帯電話でスザクの姿を撮影した。
「アーニャ!俺に何の恨みがある!?」
スザクの一言にアーニャは目を丸くするが…一言呟く。
「恨みはない…でも、優柔不断…何とかした方がいいと思う…」
アーニャはそれだけ残して、次の獲物(つまり、被写体)を探す為に走り出した。
スザクはその後ろ姿を見ているが…ある事に気がつく…
「あ…俺の写真…ちゃんと消去しろよ!あのブログ女…」
スザクの言葉は…恐らく、アーニャには届いていないと思われるが…

 考えてもみれば、スザク自身、今の精神状態でユーフェミアと一緒に楽しむ…と云うのも何となく気が引けてくる。
ユーフェミア自身が喋らなかった事を…他の人間から聞いた…。
かつてルルーシュに言われた事があった…
『これは私がお前に話すべき事じゃない。お前の恋人はユーフェミアだ。ユーフェミアから聞くのが筋だろう?』
確かに…ユーフェミアは大切な事を何一つ言わない。
中等部のときだって、結局、ユーフェミアから直接聞いた事など数少ない。
他の誰かから聞かされて、あるいは、聞いてしまって、そこで真実を知る…
ユーフェミアはいったい何を恐れているのだろうか…
スザクと一緒にいたいと云うのであれば、ちゃんと、話すべき大切な事は、ユーフェミアの口から聞きたいと思ってはいけないのだろうか?
―――他の誰かから教えて貰う事の方が…ずっと辛いのに…
確かに、ユーフェミアの家の事を考えれば、言いにくい事もあるだろうし、スザクには解らない事もあるだろう…
それでも、他の誰かから聞かされて、よく解らないままでいる…と云う事が逆に、スザクの中にユーフェミアへの疑心暗鬼を生むと云うのに…
確かに…ユーフェミアの事を、子供なりに大切にしていた…
少なくともスザクはそう思っている。
ルルーシュの事で色々疑心暗鬼にさせてしまった事に対してだって、ルルーシュは幼馴染で兄妹みたいなものだ。
ユーフェミアが気にするような事は何もないのに…
「それでも…信用してくれないんだな…ユフィは…」
今日、彼女の事を考えている時の何度目かのため息が漏れる。
カノンの話を聞いて、今のままで、ユーフェミアはどうするつもりだったのかと考えると、本当に訳が解らなくなる。
「一度…ちゃんと話すべきだな…」
周囲はお祭り騒ぎをしていると云うのに…
もし、カノンの話を聞いていなかったらユーフェミアと一緒に回っていたかもしれない。
それなのに…
でも、カノンが悪い訳じゃない。
知らないスザクが悪い訳だし、教えないユーフェミアも悪い…
―――こんな時…ルルーシュだったら、なんて言ってくれるのかな…
思わず浮かんでしまう…幼馴染の名前…
その名前が浮かんだ途端に頭を思い切り横に振った。
―――こんな事だからユフィが気にするんだ…俺は…ユフィと…
きっと…ルルーシュの名前が浮かんでしまうのは…幼馴染として一緒にいる事が心地よかったからだ…
それ以外の何物でもない…
スザクは頭の中でそんな事を繰り返し反芻していた。
ただ…スザクは時と場所を考えるべきだった…
スザクは『美少年コンテスト』にエントリーされている、ミレイにとってのターゲット…じゃなくて、多くの人々に見られていると云う立場だ。
ミレイは監視カメラでその中からベストショットをと…幾つもスナップ写真を作り、審査をしてくれる人々の資料としてきっちりとその、悩んでいる姿のスザクを撮りまくっていた。

 そして、時間が来て、エントリーされた生徒や教師たちが呼び出される。
クラブハウスのエントランスに並ばされているのは、アッシュフォード学園の生徒たちばかりだ。
この催しにエントリーしてきたアイドルたちは…頭脳の段階でリタイヤ…もしくは頑張ってみたけれど、タイムアップと云う事でここにはいないのだ。
「まぁ…当然でしょうね…。あれだけの計算をして、我が学園の格闘技のクラブのレギュラーを押しのけてここに来なくちゃいけないんだから…。名前を売ろうとして、逆に失敗させちゃったわね…」
「募集かけたのはミレイ会長でしょう?しかも、事務所からはがっぽり参加費を徴収したうえで…」
「あと、このイベントでこちらの関係者が撮影した写真は私の自由にしていいと云う事も約束したけどねぇ…。アーニャも随分頑張ってくれたみたいだけど、(計算中の)苦悩の表情しかないとかで…使い物になるのかなぁ…なんて言ってたわ…」
「まともに学校へも行かずにアイドルをやっている連中に、頭脳勝負させたらうちの生徒にかなう訳がないでしょう?ミレイ会長がイベントの度に無茶振りな条件出すから…うちの生徒たちは相当な学力があるんですからね…」
カノンの呆れたようなツッコミにミレイは、あははははは…と返すだけだった。
それに関しては、教師の側からも文句は言われていない。
むしろ、喜ばれている部分は結構あるのだ。
「まぁ、確かに、中等部で『脳みそも筋肉でできている!』なんて言われていたスザクも流石にあの連中には負けていなかったものね…」
「当然ですよ…。なんだかんだ言って、彼、意外と文武両道になってきていますからね…。ユーフェミア嬢のお陰なんでしょうか?あのお嬢様の恋人と云う肩書…いくら一族が黙認しているとはいえ、あまり出来の悪い人間であれば、一族は絶対に許しませんからね…」
「まぁ、確かにねぇ…。その辺はスザクも律儀なものよねぇ…。中等部のときだって、ルルーシュに教えて貰えばいいのに…ユーフェミアさんが気にするからって、カレンに教えて貰っていたからねぇ…。カレン…嬉々としてスパルタしてたけど…」
「え?あのお嬢様が?」
「あの子…あれで結構気が強いからねぇ…。だから、ルルーシュやシャーリーはいつもカレンに頼ってたフシはあるわ…。ルルーシュは自分から言い出せなかったから…カレンがすぐに手だし、口出ししてたけど…」
ミレイの言葉にカノンは色々な人間がいるものだと思う。
確かに、『お嬢様』と呼ぶよりも、『アネゴ』と呼んでしまいたくなる事は多分、これまでにもあったと思われる。

 やがて、時間が経って、エントリーされた人物たちは自分たちが様々な手を使ってミレイに隠し撮りされていたことにも気付かず…
最後の審査の会場となるクラブハウスの生徒会室に集まった。
そして、カノンが何やら審査をする側の人間に何かを配っている。
「この資料を見て、これから出てくる人たちの中で一番気に入った人に投票して下さいねぇ…。投票は彼らが出てきて、一言ずつ何かを言いますから、それを全部聞いた後、その資料を自分の気に入った人物の名前の書かれている箱に入れて下さいねぇ…」
この資料を持ち帰れないのか…と舌打ちしている人間が多分結構いた。
結構な数の舌打ちが聞こえてきた。
そして、時間となって、(殆ど無理矢理着替えさせられた)エントリーされて、生徒会室に戻ってきた者たちの登場となる。
資料には、ミレイが隠し撮りした写真が何枚もある。(しかもミレイの独断と偏見のセリフ付きで)
カノンの説明の後、その事実を知らされた候補者たちが顔色を青くさせて、『帰らせて下さい!晒し者になるなんて御免だ!』
とばかりに叫んでいるが、その辺は傍若無人、『魔王の娘』のミレイが鶴の一声で黙らせる。
「さっきね…咲世子さんに、素敵なミックスジュースを作って貰ったの…。咲世子さんが、防毒マスクを着けて、宇宙服用の手袋をしながら作っていたんだけど…。どっちがいい?」
その場にいる者たちの中で…この言葉を疑う者など一人もいない。
ただ一言…全員が共通していた頭に浮かんだ言葉とは…
―――この人ならやる…
だった…
そして、一通り終えて…結果発表となった…
優勝したのは…
不本意ながら、隠し撮りされまくって、ごちゃごちゃと考え事ばかりしていたスザクに対して、女性たちの母性本能をくすぐったらしい…
「な…なんで…俺?ライ先輩じゃないんですか?」
「まぁ、それだけの運動能力があって、幾つもの隠しカメラに隠しカメラマンに気づかなかったあんたが悪い!これから、生徒会の予算の為にたくさん、稼いで貰うわよぉ…」
スザクはこの時、目の前の女性…否、『魔王の娘』を…悪魔だと思った…
そう、こんなイベントで優勝したら…
かつて、『美少女コンテスト』でルルーシュが優勝した時、ルルーシュはそれはそれは大変な目に遭っていたのを知っている。
そうでなくても痩せているのに、その時、1ヶ月で5kg減ったと聞いた。
そして…クラブハウスのベランダでルルーシュの両親であるランペルージ夫妻から…嬉し悲しのクラウンが授けられた。
「おめでとう…スザク君…。ちょっと見ない内にいい男になっちゃって…」
「……」
「私が後、20歳若ければねぇ…」
「おい…マリアンヌ…いくら戯言でも、このわしが妬かないとでも思っているのか?」
「まぁ…ほんの冗談でしたのに…可愛いひと…」
この夫婦…公衆の面前で夫婦漫才を繰り広げ始めた。
呆然と見つめている周囲をよそに、その仲の熱々ぶりを皆に知らしめたのだった。
本当に、公私の区別をしっかりしているのだとは思うが…
ただ…舞台から降りて、スザクとランペルージ夫妻の3人となった時…
「色々…これから大変だろうけれど…もし、覚悟が出来ないなら…いつでも相談にいらっしゃい…。彼女…そのうちに…この学校へも通えなくなるかもしれないから…」
シャルルは黙ったままだった。
マリアンヌの言葉に…スザクは呆然とするしか出来なかったが…
ただ…自分たちの周りが…色々と変わり始めてきている事だけは…その肌に感じていた…

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