本日は、雲ひとつない晴天…
気候的には非常に外でのイベントもし易い心地よさ…
お昼ごはんを食べた後などは…本当に睡魔との闘いにみんなが明け暮れるような…そんな、快適な気候…
そして、その日はやってきた。
『美少年コンテスト兼生徒会新生徒会長と副会長発表!』
の日…
ミレイも自分が生徒会長として最後のイベントともあって、これ魔にないほど派手に企画を立てた。
本当に、文化祭のようだ。
各クラブ、クラスはミレイのイベント連発に慣れてしまったのか、急なイベントでも、出店などの手配はお手の物だ。
教師の方も、いまさら何を云ったところで云う事なんて聞く訳がないので、何も言わない。
むしろ、ミレイが
『このイベントの連続で成績が下がった者には罰ゲームが待っているからねぇ…♪今度の定期試験、5教科平均60点未満だった場合には、生徒会室でピィーをピィーして、ピィーして貰うからねぇ…』
そう言われる度に生徒たちは青ざめる。
大抵無茶振りなのだ。
偏差値だとか、赤点とか云ってしまうと、色々と問題が生じてくるので(赤点などはその度に違う。平均点が高ければその基準が上がるのだから)とりあえず、点数でボーダーラインを作ったのだ。
元々、学力のレベルでも結構この辺りでは有名なこの学園…
このミレイの無茶振りルールによって、更に評価を上げる結果となり、教師も文句は言えなくなった。
つまり、生徒全員がメリハリのある生活を送り、学園の外でいらん事をしなくなった分、問題が減ったともいわれている。
どの道、イベント好きのミレイの下で、アッシュフォード学園の学生をやっている限り、妙な事をして停学になってもつまらないし、成績を落としてミレイの無茶振りな罰ゲームもいやだ。
そんなところから、ミレイの下で頑張ってきた学生たちは相当優秀な人間が育った。
成績はもちろん、イベントなどではそれぞれの個性を伸ばし、イベント参加すると云う事で、実務でも相当鍛え上げられた。
となると、高卒で就職を希望している者などは、意外にもとっとと就職先が決まり、推薦での大学進学の場合には、それぞれの経験や、それこそ、成績を落としたら地獄をみると云う、その恐怖からか、どのように物事を進めて行けば要領よく物事が運ぶか…と云う事を学んだ者たちは基本的に大学進学もとっとと決めた。
受験による大学進学も…『あのイベントの嵐の中、成績を維持してきたのだから、受験勉強も軽いものだ…』などと、なめ腐った事をほざく輩までいる。
しかし、それも…今日のイベントが最後である…
アッシュフォード学園の敷地内は生徒たちが用意した露店やら催し物などで賑わっている。
派手なイベントになるからと、ご近所にチラシも配ってあり、多くの人たちが訪れている。
「やっぱり…お祭りはいいわね…」
そう言いながら生徒会室へ入ってきたのはミレイだった。
そして、そこにいたのは、ミレイの後継者であるカノン=マルディーニ…
結局くじ引きで生徒会長を決めてしまい、これまでの出来レース選挙をイベントにしなかった事もあったから、今回のこのイベントは生徒たちも張り切っているのだ。
やっと、ミレイのやり方に慣れてきた1年生たちには、せっかく慣れてきたのに…ちょっと気の毒なような気もするが…
それでも、この普通ではあり得ない学園生活を送ったという経験は、きっとどこかで役に立つ…(絶対とは言えないが)
「会長…こんなに派手なイベントになっちゃいましたけど…」
「あ〜もう、そうやって呼ばれるのはカノンになっちゃうのね…」
―――聞いちゃいないわね…
カノンのため息を完全スルーして、ミレイが、生徒会長最後のイベントをどう楽しむか…未だに何かを企んでいる顔だ。
「とりあえず…今回は突発イベントだったのに、こんなに規模が大きくなっちゃいましたから…いろんな意味でセキュリティに問題が…」
カノンがそう進言すると…
「大丈夫…今日のスペシャルゲスト…なんか、協力してくれた…」
そう言って、カノンに手渡したのは、今回の警備員の配置図だ。
このほかにも私服の警備員が会場内を見回る予定だとまで書いてあって、普通、たかだか、学園のイベントにこんなにスペシャルなセキュリティを施すなんて、あり得ないのだが…
「ホント…アーニャったら…いつそんな話をしたの?」
「たまたま…公園でブログ更新していた時…話しかけられた。そしたら、アーニャのブログを毎日見てくれてる人だった…ただそれだけ…」
本当に表に感情を見せなくて、解りにくい相手ではあるのだが…
「まぁ、いいんじゃないの?去年まで中等部にルルーシュとナナリーがいたんだし…」
「それにしたって…マスコミまで来ているんですよ?その中で『美少年コンテスト』だなんて…」
「まぁ、マスコミに嗅ぎつけられたお陰で、なんか、芸能人とかも参加表明してたから…グラストン・ナイツはくじ引きでバートだけになっちゃったからねぇ…。ファンの子たちは怒るわよね…」
「そもそも…そんなところで何をしていたのかしら…」
「夫婦でたまの休みのデートだって…今日も、月に一度の夫婦のデートの日で…どこ行くか悩んでいたって云ってた…」
「でもまぁ…私もランペルージ夫妻とお会いするの…久しぶりなのよね…」
つまり、今日の『美少年コンテスト』の優勝者にクラウンを乗せる役は…
ルルーシュ=ランペルージとナナリー=ランペルージの両親夫妻…と云う事らしい…
そして、今日のイベントは開催された。
今回の『美少年コンテスト』…実はただ、見栄えだけではなく、頭脳や体力などまでも審査される事となる。
つまり、1日かけてのコンテストとなり、最終的に、フォーマルで決めた全員がステージに立って、今日、このイベントに来てくれた人たちの投票によって、優勝者が決まる。
頭脳や体力に関するものは、終わった順にデータが回収されて、最終ステージの時に発表されるのだ。
そして、スタートラインに立つ生徒と、無理矢理エントリーしてきた芸能人たち…
カノンは、一応、推薦が多かったのだが…次期生徒会長と云う事で、辞退した。
と云うか、コピーロボットでもない限り無理だろう。
集まってきた参加者は…学園生徒含めて約30名…
―――まぁ…芸能人が顔を売る為に出てきても…頭脳勝負の時点でうちの生徒には勝てないと思うけれどねぇ…
これまでのミレイのやってきた無茶ぶりの成果はこんなところでも発揮されている。
スタートのゴングが鳴り、参加者は全員走り出した。
「なんで…俺もグラストン・ナイツの先輩たちと同じようにクジ引きにしてくれなかったんだろう…」
スザクが一人そんな事をごちる。
そもそも、こんなミレイの無茶振りが入るような『美少年コンテスト』なんて…絶対に良からぬ事を考えているに違いない…
最初は、頭脳に関するものだった。
今回は時間がなかった為、10桁の加減算を速く、正確に…と云うものだけで済んでいる。
―――わざと負ける様な真似をしたって、全員が最終ステージまで行ってからの審査だし…ミレイ会長からは『アッシュフォード学園の名に傷をつける様な事があったらノニジュースと青汁とトマトジュースとマンゴージュースと(無糖の)飲むヨーグルトと(これまた無糖の)バリウムとサラダ油を同じ割合で完全シェイクしたものを500cc…一気飲みして貰うから覚悟しなさい!』とのお達しだったしなぁ…
作っている人間がまず倒れそうなチョイスだと思ったのは、恐らくスザクだけではあるまい…
それに、普段、頭で計算すると云う事のない芸能人たちに現役の高校生が負けると云うのもいかがなものだ。
バカでも顔さえよければ何でも許されるアイドルと一緒にされるのは流石にイヤだし、ユーフェミアにも申し訳がない…
とりあえず、普段のミレイの無茶振りのお陰で、学園の学生たちはとっととそのステージをクリアした。
次に待ち構えているのは…運動部門である。
これは単純明快…
あらゆる格闘技のクラブのレギュラークラスの人間が行く手を阻むからそれを突破して生徒会室に辿り着け…と云うもの…
ルートは校舎の一階を一周して、一度外に出て、そのままクラブハウスへと向かう…と云う事なのだが…
ただ、格闘技のクラブのレギュラークラスを相手にするので、一応、素人の部類に入る挑戦者たちはその相手と戦うか、その相手をよけるかして突破出来ればいいという。
その相手の横を通り過ぎて、相手の背後に立った時点で、クリアとなる。
ただし、どこに潜んでいるかは不明…
これは、恐らく、スザクがダントツだろう。
ミレイによって作り上げられたあり得ない面白キャラクターが定着したお陰で、格闘技のクラブのレギュラークラスもそこまでの無茶はしない。
スザクが来たら戦ったふりをして、さっさと道をあける…
本当に今やっている格闘技を愛して、長く続けて行きたいと云うのなら、バケモノなスザクを相手にして致命的なけがをして、競技人生を棒に振るよりもさっさと戦略的撤退を謀る方が賢明だ…
それに、ミレイが妙なキャラクターを作り上げなくても、スザク自身、非常に運動能力が高いのだ。
―――ホントはもうちょっと頑張ってくれればいいのに…
と、戦うふりをしてさっさと道をあけてくれる先輩たちにはそう思ってしまう。
一通りやり終えて、生徒会室へ入り、一通りの報告をして、あとは、生徒会でデータ分析をする…と云うセオリーだ。
「お疲れ様…後は、ユーフェミアさんと遊びに行っていいわよ?」
ミレイがそう言うと、カノンがカタンと立ち上がった。
「あの…30分ほど、枢木君とちょっとお話したいんですけど…お借りしてよろしい?」
「まぁ…30分くらいなら…」
「ありがとう…会長…。ちょっといいかしら?」
カノンの言葉にスザクは頭の中に『?』を発生させているが…
「大したことじゃないんだけど…あの、ヴァインベルグのお嬢様がいると…なかなかあなたとお話しできないから…」
更にスザクの中で『?』を増すのだが…
それでも、少しくらいなら…とついて行く。
クラブハウスの2階の…備品倉庫…
「なんだよ…話って…」
滅多に話す事もないし、恐らくこんな形で1対1で話すのは初めてだろう。
「ごめんなさいね…。ちょっと気になった事があったから…。ずっと聞きたかったんだけど…」
そう言えば、入学式の時にもカノンはユーフェミアに対して意味深な事を呟いていた。
だから…その手の話なのだろうか…と思う。
ひょっとすると、あの揉め事に関して、何かの形で情報を得ているのかもしれない。
「で、話って?」
「あなた…どこまでご存じなのかしら…と思って…。あの…お嬢様の事…」
カノンの云う、『お嬢様』とは、ユーフェミアの事だ。
「ヴァインベルグ家の次女だろ?あと、シュナイゼルさんの元婚約者…」
実際にスザクが知っているのはそこまでの話だ。
ルルーシュが関わっている話も彼女がブリタニアへ渡った事で、ジノとの事もとりあえず、何もなかった事になっている。
「そう…まぁ、その程度しか知らないわよね…。今、ヴァインベルグ家…大変なのよ?」
「え?」
突然のその話でスザクが驚いた顔を見せる。
「何も知らないのね…。ユーフェミア嬢がシュナイゼル氏と婚約していたけれど、ある事で白紙になった…。そのある事の全容が…シュナイゼル氏にばれた事は知っていると思うけれど…今日、いらっしゃるご両親にも知られたのよ…」
「そ…そうなんですか…」
なるべく、平静を装うが…これまでユーフェミアがそのような話をした事がなかった。
「まぁ、あのご両親は、確かに子供の恋愛に口出しする事はない…そう仰っているけれど…やはり、トップに知られた事は大きくて、トップの周囲の人たちが、これからのヴァインベルグ家との付き合い方や距離を考え始めているの…。ランペルージグループは世界でも影響力がある企業よ…。もし、ランペルージ家そのものが何もしなくても…」
どこでそんな情報を仕入れてきたのか解らないが…
それでも…なんとなく、カノンの云っている事が真実であると、スザクは察している。
「ああ云う企業のトップの家に生まれたら…その家を守る為に育てられるの…。古い考えだと笑うかもしれないけれど…それでも、あれだけの大企業の場合、大きな責任があるわ…数万単位の社員の生活そのものがそこにあるのだから…」
カノンの途方もない話に…スザクとしてもあっけにとられるしかないが…
しかし、今、ユーフェミアの家がとんでもない事になっている事は…解る…。
「ランペルージ家そのものは動いていないけれど…ランペルージグループに関連する会社が色々動き始めているわ…。ユーフェミアさん、最近、生徒会室によく来ているでしょう?あれは…一人でいる事が危険だからよ…」
スザクは…カノンの言葉に…ただ…愕然とするしかなかった。
そんな事に気づかない自分にも腹が立ってくるが…ただ…もう一人、別のところで見ている自分がいた。
―――俺…ユフィにいったい何が出来るって云うんだ…ルルーシュの名前を出せばすぐにいやな顔をするし…最近…彼女と一緒にいると息が詰まっている…。彼女に…何をすれば…彼女は満足するのだろう…
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