幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 03


 カノンの提案で急遽美少年コンテストが開かれることとなった。
カノン自身、喋らなければ美少年とか、かわいい男の子のジャンルに入るのだろうが…
現在生徒会室では自薦他薦を問わずの募集にエントリーしてきた生徒、教師の確認をしている。
尤も、教師の方は、基本的にミーハーな生徒たちからの推薦が殆どなのだが…
生徒の方もそれなりに数が集まってきている。
「ねぇ…こうして集計してみると…結構カノン君の名前も多いよね…」
集計用紙に目を通しながらシャーリーがぽろりと一言零した。
「まぁ…黙っていれば、綺麗だしね…。今度、美少女コンテストの時に女装させてみれば?」
シャーリーの一言に答えを返したのはカレンだ。
「あ、でも、スザクの数も多いみたいだぜ…。なんだかんだ言って、お子様フェイスの、脱いだら超筋肉質っていう…そのギャップに食いついているみたいだな…」
人ごとなので完全に楽しいだけのリヴァルがそう加える。
「確かに…水泳の授業の時…女子が騒いでいるわよね…。それと…今の時期、水泳部に引っ張って行かれちゃうから…今頃、プールサイドにはデジカメ構えた写真部が並んでいる筈だけど…」
ニーナも集計したデータをパソコンに打ち込みながら答える。
「写真部が?でも、スザクさまは、確か…そういった写真撮影やグッズ販売はミレイさまの許可がないと出来ないのでは?」
そろそろお茶が欲しいころ合いを見計らって、咲世子が生徒会室のミニキッチンでお茶を入れて運んできた。
「それ…ミレイ会長が…写真部に依頼してた…。私も許可貰ったから…宣伝ブログ用に…写真撮ってくる…」
広報担当となっていたアーニャが携帯でブログ記事を作成しながら咲世子の疑問を解決する。
「後は…グラストン・ナイツの先輩方ですね…。全員出場になりそうですよ?」
久しぶりに生徒会室に顔を出したユーフェミアが書類の山の整理をしながら答えた。
スザクがここにいないのに生徒会室に来ていること自体珍しいのだが…
それでも、中等部の時ほどカレンやシャーリーとの距離が広くない事も手伝ってか、スザクがいない時でも顔を出すようになっていた。
「あと…流石ライ先輩ね…。いつもミレイ会長の影に隠れる形になっちゃってるけど…でも、ホントは、表舞台にも立てる『華』を持っているもの…。推薦している人…結構多いわ…」
生徒会役員の中で最も推薦数の多いカノンがそんな事を言って締めくくる。
「どうせ…俺には来ていないですよぉ…だ…」
「リヴァルは美形…って感じじゃないから仕方ないじゃない…」
カレンの一言でリヴァルは撃沈する。
確かに、今年の高等部の生徒会役員は非常に個性が豊かなメンバーが揃っているようだ。

 全員が好き勝手な事を喋りながら作業している中…ふとした事に気がつく。
「そういえば…今日は一年しかいないね…」
誰かがその事に気づいて、ふと口にした。
その言葉に、誰かがリヴァルの様子がおかしいと気がついて…
そして、ミレイ会長がなぜいないのか…エスカレーター組は気付いて黙るのだが…
「あら…今朝、見かけたけれど…なんだか凄い恰好していたわね…」
事情を知らないとはいえ、現時点でそれを言うのはあまりに(リヴァルにとっては)酷だろうという言葉がカノンの口から飛び出す。
「そういえば…こんなカッコしてた…」
と、アーニャが携帯電話のメモリーから今朝、ミレイに会った時に撮った写メをみんなに見せた。
そして、中等部から、ミレイの下で生徒会役員をやってきて、事情を知る者たちが見た時…共通の感想が頭に浮かんだ。
―――今回は和服なんだ…
「お見合い…って仰っていましたけれど…でも、ミレイさまには確か…婚約者がいたのでは…?」
咲世子の言葉で事情を知る者たちの努力は木っ端みじんに打ち砕かれた。
そして、例外的にリヴァルが大泣きしながら生徒会室を飛び出して行った…
「ああ…お見合いって言っても、ご自身の見合いじゃないと思うけどね…流石に…」
スザクがそこまで云った時…
生徒会室の入り口がバッと開き、2年生の生徒会役員、グラストン・ナイツが登場したのだ。
「ああ…会長の話かい?」
「彼女は今、ライ先輩のご両親に泣き疲れて…ライ先輩を見合い会場へ連れて行っているんだよ…」
グラストン・ナイツ…別に五つ子ちゃんと言う訳じゃない筈なのだが…こういうときの息はぴったりと合っているのだ。
「ミレイ会長は…ライ先輩の未来のお義姉さまだ!」
「今からその時の為の練習を…という事で、いろいろライ先輩の世話を焼いているという訳だ…」
「その度にライ先輩は全力で抵抗するんだが…所詮はライ先輩も人の子…。魔王の娘たるミレイ先輩には敵わないという事さ…」
『魔王の娘』
「高等部に入ってから…ミレイちゃん…そんな風に呼ばれているの?」
ニーナが唖然として尋ねるが、グラストン・ナイツの一人がチッチッチ…と指を振りながら否定する。
「ミレイ会長が生徒会長に就任した時のDVDを見るかい?」
1年生の面々が頭に『?』を乱発させながら…それでも流石に興味は沸いているらしく…全員がこくんと頷いた。

 生徒会室のDVDデッキにその時の記録の残ったディスクを入れて、プレイボタンが押される。
そして…画面に映し出されてきたのは…
恐らくは…絶対王制を布いていた頃のヴィクトリア女王でさえも真っ青になりそうなほど派手なドレスを着て、それこそ魔王の威厳を持ったミレイの姿があった。
『ええ…アッシュフォード学園高等部諸君!私がたった今、このアッシュフォード学園高等部生徒会長となったミレイ=アッシュフォードである!この学園ではこの魔王の娘たる私が法律!生徒は全員私に絶対服従を誓いなさぁぁぁい!』
誰もこのミレイの暴走を止める事が出来ず、右往左往している姿まで映し出されている。
「ミレイ会長の時くらいだよ…生徒会長就任でわざわざレンタル衣装を借りてきたのは…」
「おまけにヘアメイクもわざわざ一流のスタイリストを呼んだって言っていたな…」 「そもそも選挙がお祭り騒ぎだった…」
「あの発言で誰も逆らえないし、誰からも反感を買わなかった…。それで、会長の『魔王の娘』発言に真実味まで生まれた…」
「まぁ…後で聞けば…単純に女王様の格好をして、みんなの前で何かを言いたかっただけらしいけれど…」
そこまで言い終えると、5人そろってはぁ…と大きくため息をついた。
「あの…先輩方は…この時…」
カレンがおずおずと尋ねてみる。
そして返ってきた答えは彼らの想像を決して裏切らなかった…
「ああ、僕らは入学したばっかりの頃だよ…。ミレイ会長の場合、1年の時から生徒会長だからね…」
「で、ミレイ会長は、『会長選挙も楽しくやらないとねぇ〜♪』などと言って、絶対に結果の解っているデキレース選挙をするようになった…」
「本当なら、入学早々…君たちみたいに中等部から生徒会役員をやっている訳じゃない俺たちが生徒会役員に抜擢されるなんて絶対にあり得ない…」
「僕らが入学した時、既にライ先輩が副会長をやっていたけれど…ミレイ会長が1年の時は、何人も副会長が代わっていたらしい…」
「あのミレイ会長の下で副会長をまともにやり遂げられる生徒なんて…そうはいない…。僕らが入学する2か月前まで1ヶ月に一度副会長が代わっていたけれど…ライ先輩のお陰でどうやら、きちんと落ち着いたらしいんだ…」
この5人の説明を聞いていて…
何の予備知識もないままミレイ会長の下で生徒会役員をせねばならなかった事に同情するとともに、ライはミレイの下で副会長を1年半以上やり遂げた事に対して…ある意味尊敬の念を抱く。
確かに中等部の時、ルルーシュが…ミレイが会長でルルーシュが副会長…というポジションではあったが…あの頃はまだ、ミレイ自身がそこまで派手な思いつきがなかった為、今ほど大変ではなかったと…ルルーシュが聞いたら怒られそうだが、そう思ってしまう。
この半年…高等部に入り、パワーアップしたミレイの思いつきイベントにはほとほと彼らも困っていたのだから…

 ミレイが会長となった時のVTRを見た1年生生徒会役員たちは…苦笑いを浮かべてしまう。
確かに…ミレイだから許される言動だし、ミレイだから出来る行動だし、あまりにもミレイらしい…。
そして…その言葉通り、生徒会を中心とした全校生徒が完全にミレイの支配下にいるのだ。
何か探し物をしようと思えば、授業を中断しても、全校でその探し物の捜索を行う。
必ず出て来る条件が…
『見つけた部に対しては次期の部の予算を倍にします!』
その一言だ。
その予算をどこから繰り出すかなど…誰にも相談せずに出て来る発言に、副会長のライ、2年のグラストン・ナイツ達は…そんな不可能な発言をする会長の横暴を何とか止めようと彼らは部日の倍増を望むクラブの部員よりも必死になって探している。
これまで、この有能な生徒会役員たちのお陰で部の予算倍増を果たせたクラブは今のところ一つもない。
しかし、部日の倍増を願っているクラブの部員達とて意地はある。
いつまでも生徒会のメンバーにそうやって、部日の倍増のチャンスを潰されてたまるか…とばかりに、その探し物捜索の時には様々な手段をこうじて来るようになっている。
そんな、グラストン・ナイツの涙がながらの訴えを聞いていた1年生生徒会役員たちではあったが…
「しかし…枢木スザク!君が入ってきてくれた事で…我々の負担も減る!」
「そうだ…君の運動能力は人間離れしているとミレイ会長から聞いた!」
「なんでも、素手で校舎の壁を木っ端微塵にするとか…」
「あと、傾斜角90°のところを一直線で走り抜け…平地での100m走が9秒で、傾斜角90°の場所での100m走が9秒13とか…」
「あと、10tトラックを片手で持ち上げるとか…」
この話を聞いて、スザクは思う。
―――俺はどこのバケモノだ?
そして、他のスザクの事を知る1年生生徒会役員たちは
―――ああ…スザクならそれくらいやりそう…
高等部からの生徒会役員たちは
―――流石天下のアッシュフォード学園…
と思っていた。
実際にそんな事が出来る訳もなく…スザク自身、心の中で、
―――頼む!誰かこの先輩たちの発言を否定してフォローしてくれ!
と全力で思っていた。
そんな、頭の中でくらくらしているスザクを横目に、グラストン・ナイツ達はその、ミレイから面白おかしくキャラクターを作り上げられてしまったスザクにきらきらと機体のまなざしを向けるのであった…

 そして、カノン発案の『美男子コンテスト』は生徒会の新会長のお披露目と共に行う事となった。
その『美男子コンテスト』と『生徒会の申請と会長のお披露目』の合同イベントがミレイにとって、高等部最後のイベントとなるのだ。
「じゃあ…優勝者にクラウンを乗せるのは…会長ですよね?」
シャーリーがミレイにそう尋ねると、ミレイが意外にも何か考えている素振りを見せる。
「う〜ん…どうしようかなぁ…。このときは、私は旧会長で、カノンが新会長でしょ?」
そう…このイベントが発案されたときに、会長を決める為のくじ引きは1年を含めて行われた。
そうしたところ、どうやら、よかったのか悪かったのか…カノンに白羽の矢が当てられたのだ。
「そうですね…。二人で…というのも何だかおかしな感じですし…」
カノンもミレイの発言に同意する。
「では…どなたが…?」
咲世子が全員にお茶を配りながら尋ねる。
今回のイベントが合同イベントとなったお陰で随分大規模なイベントとなってしまった。 それ故に、準備の段階でも相当労力を使っているのだ。
時間もあと1週間と迫ってきている。
「なら…私…心当たりある…」
そういったのはアーニャだった。
アーニャはブログを開いており、そのアクセス数も結構上位に来るので、意外にも知り合いが多いという。
「え?誰?」
全員がアーニャに視線を向けると…相変わらずマイペースに携帯からブログの更新をしている。
「最近知り合った人がいる…。結構有名人…。私がアッシュフォード学園に通っているって言ったら…また会いたいって言ってくれた…」
「「「「「有名人?」」」」」
全員が目を点にしてアーニャに尋ねる。
そして、アーニャは携帯のメモリーから一枚の画像を選びだした。
「この人…。頼めば…多分、来てくれる…」
アーニャがあっさりと言葉にするが…
その画面を見てそれを見た全員が後ろにのけ反った。
「え?いいの?」
「大丈夫…今メールしてみた…」
「え?もう?まだその人って決まってないんじゃ…」
「大丈夫…アッシュフォード学園のイベント…一回見てみたいって言ってたから…」
驚いているメンバーをよそに…
再びアーニャの携帯が鳴った。
「あ、返事来た…。その日…大丈夫だって…」
「「「「「「ええええええ?????」」」」」」
「さっすがアーニャ…なら、その人にお願いしちゃいましょ!アーニャ、詳細を送っておいてね…」
「うん…解った…」
そうして…ミレイの高等部最後のイベントの準備は着々と進められていくのであった。

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