幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 02


―――カタカタカタ…
 部屋の中に響くパソコンのキーボードを叩く音…
日本からマメに送られてくるシャーリーからのメールの返事を書いているところだった。 そこに…
「なんだ…ルルーシュ…また日本へメールか?」
そこに現れたのは、アッシュフォード学園ペンドラゴン校に通い始めて、寮で同じ部屋となった、ノネット=エニアグラムだった。
「ああ…ナナリーの事も心配してくれているし…」
「そういえば…1ヶ月後だったな…ナナリーの手術…」
「こちらに来て1年になるけど…やっとナナリーの体力が手術に耐えられるくらいになったからな…。後は…うまくいく事を祈るだけだ…」
彼女はルルーシュがブリタニアに渡ってすぐに声をかけてきてくれた、今ではこちらでは一番仲のいい、気の合う友人だ。
同じ年である筈なのに…彼女は、随分大人びている気がしていた。
というより、お節介だと思った。
人の表情を窺ってはやたらと声をかけて来る。
しかし…相手の心理を読むのがうまいらしく、決して余計なことに首を突っ込まない。
それ故に、ルルーシュは彼女と居て心地がいいと思った。
「だぁいじょうぶだって…。ルルーシュのお義兄さんが中心になってプロジェクトを進めてきたんだろう?それに…人間として付き合うのはちょっと難しいかもしれないが…あの、アスプルンド博士だろ?その技術を研究開発したのは…」
未知の可能性の医療に…不安を表すルルーシュにノネットが明るくルルーシュの頭をポンポンと叩く。
「そう…だよな…。シュナイゼル義兄さまが…不確かな可能性を…私たちに見せる筈がないし…大丈夫…だよな…」
ノネット自身、ルルーシュが不安になるのが解らない訳ではなかった。
しかし…ここでルルーシュが落ち込んでいる事は、ナナリーにとっても良くない事だし、というより、ルルーシュがナナリーの不安を拭い取ってやらなければならない立場だ。
「なぁ…明日、授業が終わったら、ナナリーのところへ連れてってよ…。ナナリーの好きそうな写真集を見つけたんだ…」
「写真集?」
「ああ…ナナリー…動物が好きだろ?ほら…この写真集…喜ぶんじゃないか?」
そう言いながら、ノネットが一冊の写真集を取り出し、ルルーシュに見せる。
それは…大自然を駆け回る野生動物の姿を写し出している写真集だった。
ナナリーは動物が好きだ。
しかし、身体の事もあって、なかなか動物園に連れていく事も出来なくて…
だから、家には動物関係の本やDVDがたくさん並んでいた。
「そうだな…ありがとう…ノネット…」

 一方…その頃…アッシュフォード学園東京校では…
あの、入学式の宝探しの後、この半年でミレイのイベント好きに付き合わされ、疲弊しきっている1年生たち…と思いきや…
今年の1年生はなかなか根性が据わっているらしい…
中等部からのエスカレーター組はある程度、ミレイの事を理解しているからある程度要領を得ているのは解る。
しかし…後頭部からの入学者たちも、そんなエスカレーター組とそん色のない働きをしながら、ミレイ生徒会長のもとでの生徒会役員の経験がある者たちよりも遥かに平然としている。
「これでルルーシュがいたら…もっといろんな事が出来たのにね…」
「というか…私、スザク並みに動ける人…初めて見たわ…しかも…女子…」(カレン談)
「ルルーシュとは違った視点で物を見る人がいるから…企画書が出来上がる段階でホント、完璧に近い予定表が出来ているし…」(ニーナ談)
「これ以上…イベントやっていたら授業…出来なくなるじゃん…」(シャーリー談)
「アッシュフォード学園だけ、高等部を4年制にしちゃいます?そうすれば、多少イベント増えても…」(リヴァル談)
「俺…生徒会やめても差し障りなさそうですね…」(スザク談)
「あ、スザクが辞めるなら…私も…」(ユーフェミア談)
これは…1年生の生徒会役員エスカレーター組の談…
そして…
「こんな私で…お役に立てていたのでしょうか…?」
と、ルルーシュとは違った意味でオールマイティであり、カレンに『スザク並みに動ける人』と評された、篠崎咲世子…
「まったく…こんなことばかりしているの?この学校は…」
と、文句を言いつつも、ミレイの片腕になりそうなほどの働きを見せた、カノン=マルディーニ…。
「とりあえず…言われた事だけやった…」
と、言われて自分のやってきた仕事をすべて、携帯電話の写メに残し、記録を続け、この記録が何かを噴出したと思われるときに大いに活用されたアーニャ=アールストレイム…。
この3人を見て、大いに喜んだのは高等部の生徒会役員の先輩方であり、生徒会長のミレイ=アッシュフォードだ。
そして、同学年のエスカレーター組は…
『これって…絶対に中等部の時よりイベント増えてる…。これ以上増やす気じゃありまいな…』
と、戦々恐々としている。
なかなか個性豊かな人材がそろい、イベント内容も充実している。
「さて…私とライはあと半年で卒業になっちゃう訳だけど…」
生徒会室に珍しく全員が揃った時の…ミレイの突然の発言だった。

 ミレイの言葉に…確かにここにいるメンバーたちはそのことは事実であると頭の中で再確認する。
「そういえば…そうでしたね…」
散々こき使われてきたグラストン・ナイツたちも…いざ、このお祭り生徒会長の卒業を自覚すると…少し寂しいらしい。
確かに…彼女にはいろいろ振り回されてきたと思うが、充実した高校生活を送っていると思う。
「まぁ、僕もミレイもこのまま隣の敷地にある大学部へ行くから…時々は遊びに来るよ…。以前の卒業生の中には、他の大学へ行ってしまって、全く顔を出さなくなっちゃった人もいるけど…」
ライの言葉を聞いても、やはり、残される生徒会メンバーたちの不安は拭い去れないようだ。
グラストン・ナイツたちは、ミレイ自らがスカウトして、育ててきたようなものだ。
なんだかんだいいつつ、ミレイに頭が上がらないのも、彼らもミレイに使われることによって、自分の中で何かが変わった事を自覚しているからだろう。
「それに…そろそろ次期生徒会長を決めなくちゃね…。ルルーシュがいれば、ルルーシュに押し付ける事も出来たんだけど…」
時々出て来る…中等部1年で、パワー全開のミレイのもと、完璧に副会長職をこなした…ルルーシュの事を知らない生徒会役員の中ではまるで伝説の人のように語られている。
「まぁ、彼女に関してはもう仕方ない事なんで…この中で決める事になるが…」
エスカレーター組としては…確かにルルーシュがいてくれれば…と思ってしまう。
確かにルルーシュが生徒会長をやっていたときには、イベントの数は減った。
尤も、ミレイと同じ数だけのイベントをこなすような人物はそういて貰っても困る。
「今回は、グラストン・ナイツの中で、くじ引きして貰う事にしたから♪」
ミレイのその一言に…その場にいた人物たちは目を点にする。
確かに…ミレイのもとで生徒会役員をやってきた人たちだ。
優秀なのだろうとは思う…
しかし、問題はそこではない。
学校によっては、選挙というシステムを知る為に、敢えて、生徒会の3役を全校選挙で決めるという学校もあるという。
それなのに…今、現生徒会長が言ったのは…
「くじ引き…?」
「い…いいんですか?そんなことで…」
流石に3年生以外の生徒会役員はそう尋ねてしまう。
副会長のライも…大きなため息をつくが、それでも、大体の事を把握しているようで、納得はできていなくても理解はしているらしい…
「いいの♪いいの♪副会長は、くじ引きで決まった生徒会長が独断と偏見と趣味で決めていいってことで…」
相変わらず…軽いノリで話しているのだが…
「まぁ、誰が何を言ったって、ミレイが聞く訳がない…。ここは…納得しなくていいから理解してくれ…」
額に右手の人差し指を当てて、メンバーから視線をそらしながらライが告げる。

 そこに…すっと、歩を進めた人物がいる…
「あの…ミレイ会長…何故、そこに1年は含まれていないのですか?中等部のときには…ミレイ会長が卒業の時に1年生にバトンが渡されたと聞いていますが…」
そう告げてきたのは、なぜか…いろいろ迷惑そうに行動していたが、それでも完ぺきにこなしてきたカノン=マルディーニであった。
「あらぁ…意外な人からの質問ね…。別に1年生も入れていいと思うんだけど…ライがね…。それに…中等部のときにはスザク達の一年上の生徒会役員がいなかったからねぇ…」
ミレイの事情説明にカノンはさらに話を続ける。
そこで、戦々恐々とし始めた…こういうときには勘の鋭くなるニーナとリヴァル…
内心、『まずい!』と思いつつも、実は、彼らの学年の中で、このカノン=マルディーニに口で勝てる者がいないのだ。
アーニャはもともと無口だし、咲世子は完全に天然なので、逆に話をややこしくしてしまう。
スザクとリヴァルにこいつに口で勝てというのは、ルルーシュに100mを5秒で走れと言っているのと同じだし、シャーリーもそういった事はあまり得意ではない。
ニーナも口数の少ない方だし、ユーフェミアの場合、お嬢様で、温室で育っているだけあって、丸めこまれてしまうのがオチだ。
残るはカレンだが…カレン自身、成績は悪くないのだが、そういった口の勝負では勝てる見込みがないのだ。
逆にストレートすぎる彼女の性格ではカノンの傘下に入った事にされかねない。
「一応…ここでは年功序列だから…というか、君、やりたいの?生徒会長…」
「ええ…出来る事でしたら…。だって…イベントばかりですし…そのイベントには美少女コンテストはあっても美男子コンテストがないんですもの…」
カノンの一言に…
その場の時間が一瞬止まった…。
そして…その時間を再び呼び戻したのは…シャーリーだった…
「そっかぁ…美男子コンテストかぁ…それなら私もやって欲しい!」
シャーリーの言葉にカノンも嬉しそうに微笑む。
ここで、再び断わってはおくが、カノン=マルディーニは現在、アッシュフォード学園の男子の制服を着ている、男子高校生である。
ちょっと変わっているとは思うが、このキャラクター…このアッシュフォード学園の中ではそれなりに人気のある地位についており、頼りになることも手伝ってなかなかの人気ぶりだ。
そして…そんな言葉の中で、ミレイがにやりと笑い、その笑みを見たライが目元を引き攣らせている。
「じゃあ…やりましょうか…。ただの美男子コンテストじゃ面白くないんで…自薦他薦問わないから…男子アイドルコンテスト!」
この一言で…再び新しいイベント企画が始まるのだ。
そして…次期生徒会長はどうなるんだ?と…この雰囲気の中、気が付いていても突っ込める者は…ここにはいなかった…

 場所は再び、ブリタニア、ペンドラゴン…。
「相変わらずだなぁ…ミレイ会長…」
シャーリーからのメールに目を通しながらルルーシュが呟く。
楽しそうに生徒会の活動をしている事が窺える。
「なんだ?そんなに楽しいのか?ルルーシュのいた東京校の生徒会は…」
「あ、否…東京校の生徒会が楽しいんじゃなくて、アッシュフォード学園理事長の孫娘である、ミレイ会長が面白いんだよ…。私も中等部の時に彼女の下で副会長をしていたが…イベント好きでいろいろ大変だったよ…」
「こっちは、あんまりイベントとかやらないからなぁ…。私も、その、東京校のイベントとやらに参加してみたいなぁ…」
ノネットはルルーシュの話を聞いている段階で興味深そうに言葉にする。
確かに…参加するだけなら楽しい…
縁の下の力持ちをさせられたら、大変だが…
「夏休み…今年は無理かな…日本へ一時帰国するのは…」
「ナナリーが元気になった来年…行けばいいじゃないか…」
「その時にはミレイ会長は卒業しているからな…今年ほど、楽しいとは限らないが…」
ルルーシュは中等部の時のミレイからルルーシュに生徒会のバトンを渡されてからの事を思い出す。
あの真似をしろと言われても所詮無理な話ではあるが…
でも、もう少し彼女と同じ事が出来ていたなら…もっと、スザクと一緒にいる時間を作る事が出来ただろうか…
そこまで考えた時…ルルーシュはぶんぶんと首を振った。
それは…もう過去の事だと…
自分で、あの時…ちゃんとけじめをつけてきたのだと…
それに…シャーリーのメールからは…スザクもユーフェミアも仲良く幸せそうにしていると伝わってきているのだ。
「どうした?ルルーシュ…」
ルルーシュがいきなり強く首を横に振ったり、ぐっと何かを噛み締めているような表情をしていたのでノネットが心配して声をかけてきた。
ノネットの顔を見て、ルルーシュはふわっと微笑む。
「否…何でもないよ…。ごめん…。明日、一緒にナナリーのところへ行こう…。きっと、ナナリーも喜ぶ…」
「ああ…解った…。ルルーシュ…私はお前がそうやって、何かを押し殺しているところも、ナナリーの事で一喜一憂するところも、全部ひっくるめて、私はお前が好きだぞ…。だから…ルルーシュはそのままでいればいい…」
そう言ってノネットはルルーシュに微笑みかけた。
ルルーシュはそんなノネットの言葉を素直に嬉しいと思った。
「ありがとう…ノネット…おやすみ…」

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