幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 01


 ここは…新入生の様子を映し出しているモニタがずらっと並んでいるモニタ室…。
そして…その多くのカメラから映像が送られてきているモニタたちを楽しそうに眺めているのは、アッシュフォード学園高等部生徒会長、ミレイ=アッシュフォード…
相変わらず自分が楽しむためにイベントを開き、ミレイが生徒会長になってからそれこそ、身を粉にして生徒会の為に働いている男子生徒がいた…。
彼の名は、ライ=アスプルンド…。
ミレイの婚約者である、ロイド=アスプルンドの弟で…高等部からの入学生だ。
現在、ミレイの同級生となり、兄のロイドの事は一切関係なく、ミレイが使い勝手のいい副会長として据えていた。
「ミレイ…本当にやるのか?」
「あったり前でしょ?大体…今年、ルルーシュが入学してこないなんて…正直計算外だったし…。中等部で生徒会役員だった人たちは全員…入って貰うわよ…。あと、何人か+αしてあげるけど…」
「ヴァインベルグ家のお嬢さんも?」
「彼女がいないとスザクが来てくれないじゃない…。スザクは力仕事してくれるからねぇ…。ブレーンが足りない分、パワー勝負になる事になりそうだしね…今年は…」
「兄さんも…えらい人を婚約者にしたものだな…」
「なぁに?将来のお義姉さまに向かって…その口の聞き方…」
「ホントにそうなったとき…僕の運命を考えると暗い気持ちになるよ…ホント…」
この傍若無人が許されるのは恐らく…世界広しと云えど、このミレイ=アッシュフォードだけだろう。
それに…彼女に言われてしまうと…何故か、絶対に従うように誘導されている。
どれほどの抵抗を試みても結果だけ見ると、結局ミレイの思い通りに動かされている。
これは…ミレイがアッシュフォード学園理事長の孫娘だからでも、アッシュフォード学園の生徒会長だからでもなく…彼女自身のある意味人徳のなせる技…とでも云うべきか…。
ミレイに命じられた時には、様々な思いが交錯するのだが…結局、彼女の思い通りに動いている自分がいる事に気付く…。
そして…現在2年生で彼らもまた、高等部からの入学生なのだが…ミレイがグラストン・ナイツと勝手に命名した5人の男子生徒たちもそれを、この1年で熟知したらしい…。
今は、ミレイから渡されたインカムで指示を受けながら新入生たちの生徒手帳探しの裏方に回っている。
裏方…と言うよりも…裏工作と言うべきか…
先ほどのミレイの言葉にあったように、ミレイ自身、中等部の頃に生徒会メンバーだった者たちを全員、高等部の生徒会に引きずり込む気満々なのだ。
現在、副会長を務めているライは、『ルルーシュ=ランペルージ』と言う女生徒とは面識がないが…ミレイの行動を見ている限り、中等部の1年の段階でこのミレイ会長の下で副会長を務めあげたという事実を知り…心の底から彼女を尊敬した事もあった。

 一方、そんな事とはつゆ知らず自分の生徒手帳をGet!すべく、高等部の敷地内を探検している新入生たち…。
中等部からのエスカレーターで上がってきた生徒たちは絶対に避けたい『VIP生徒手帳』…。
あのミレイ会長の下…自分たちと同じ学年であったルルーシュ=ランペルージの優秀さをまざまざと見せつけられているのだ。
あんな事を真似しろと言われて出来る訳がない。
そして、あんな事を要求されても絶対に無理だ…。
しかし、あのミレイがそんな事情を考えてくれるかどうかなど怪しいものだ。
『ルルーシュに出来て、あんたたちに出来ない訳がないでしょ!』
と言い出しかねない。
ミレイ自身、ルルーシュがどれほど凄い人間であるのかは解っていた筈だ…。
それに…ルルーシュと同じものを要求されなくても、あんな思い付きだけでイベントの数が増殖していく生徒会長の下での生徒会役員…
身体がいくつあったって足りないのだ。
ただの参加者としてならミレイはとてもいい生徒会長だ…。
イベント内容は楽しいし、それこそ、ミレイの在籍中、ルルーシュが完璧に副会長職を務めあげていたお陰でとにかく、非の打ちどころのないイベント開催だった。
それは…あくまで…ただ…参加する側の意見であり、これが、縁の下の力持ち…と言う立場になったらそうはいかない。
あの、体力だけが自慢であった枢木スザクでさえ、アッシュフォード学園の学園祭の時には…相当ミレイにこき使われ、やつれた顔をしていたのだ。
と言うか、イベント終了後の生徒会の役員達のぐったりした姿を見ているだけに…『凡人の自分には絶対に務まらない!』そう考える者が殆どだ。
ミレイ自身、人を見る目があるのか、生徒会役員には本当に個性豊かで、その人物に合った役割を振り分けられる人材が集められていた。
企画、準備のブレーンはルルーシュ=ランペルージ…
企画内容に必要な機材の担当はニーナ=アインシュタイン…
宣伝広報活動ではカレン=シュタットフェルトとユーフェミア=ヴァインベルグ…
当日の裏方などの体力仕事には枢木スザクとシャーリー=フェネット…
そして、当日までの細かい物品の搬入等の雑用にリヴァル=カルデモンド…
それだけの人材を集めていても、大規模なイベント開催の際には、ミレイ以外の全員がまるで、締め切りギリギリに入稿した作家の様にやつれきった顔をしているのだ。
大きなイベントに関しては確かに年間計画表に記されているのだが…ミレイの思い付きだけで開催されるイベントなどもあるので…生徒会の役員になった日には、成績を維持するのが結構大変なアッシュフォード学園だが…生徒会役員達は一体どうやって成績を維持していたのだろうかと考えてしまう…。
まして、一番負担のあった筈のルルーシュは常に成績はトップだったのだ…

 そして…監視カメラがある事は解っていても、そんな企みがある事はつゆ知らずに見つけた生徒手帳の入った箱を手にしている、スザク、ユーフェミア、シャーリー、カレン、ニーナ、リヴァルであったが…
既に彼らの運命は決まっていた。
ミレイ自身が、あの時の生徒会役員の役割分担とチームワークの良さに関しては、相当高い評価を下していた。
ルルーシュが欠けている事に関してはミレイ自身、痛手とも思うが、高等部では同学年に副会長を担ってくれているライがいるし、2年にはミレイ自ら彼らの総称を名付けたくらいのお気に入りのグラストン・ナイツがいる。
ともすれば、頭数だけでいえば、中等部の時よりも大きな事が出来る…そんな事に胸を躍らせる。
「ホント…今年…ルルーシュが入ってきてくれていればなぁ…。ライも少しは楽が出来たかも知れないのにね…」
ミレイは相当ルルーシュに対しての評価が高いらしい。
それに、色々な想いもあるらしい。
「まぁ、仕方ないじゃないか…。妹さんの為…なんだろ?それに…1年の段階であんまり色々押し付けちゃかわいそうだよ…」
「まぁね…。その分、ライ!あんたに頑張って貰うからね!」
「どうせ答えは『イエス』しか認めないんだろ?兄さんと結婚したら、ミレイの事『義姉さん』って呼ぶのか…。そうなると兄弟揃ってミレイに使い倒される事になるのか…」
高等部からこのアッシュフォード学園に入ってきて、2年間、ミレイを見てきたが…自分の兄は下手すると、マゾ人間なのではないかとうっかり疑ってしまった。
この世に彼女の上に立てる人間がいるのだろうかと思うくらい…。
確かに、地位とかそう言ったものでは、彼女より上の者はたくさんいる。
しかし、肩書が彼女より上の肩書でも、彼女に逆らえる人間がいる様には思えない。
確かに、人を惹き付ける何かはあるし、彼女の言う事は何故か、許せてしまう。
尤も、彼女自身、意識的なのか、無意識的なのか…絶対に出来ないと思われる要求はしない。
出来ない事はないけどやりたくないという事は押し付けてくるが…。
それに、意外と面倒見がよく、グラストン・ナイツたちもそれを慕っていると見ていい。
「とりあえず、リヴァルも生徒手帳を手にしたな…。これで、グラストン・ナイツたちを戻していいな?」
「そうね…あと、3冊くらい…適当に置いておいて…」
「了解…」

 やがて、タイムアップとなり、一人一冊ずつ、生徒手帳を手にした新入生たちが元の場所に戻ってきた。
『さぁ…新入生諸君…これから、その、生徒手帳の箱を開いて貰う訳ですが…その前に、現生徒会メンバーの紹介を忘れてたから、この際だから今やっちゃうね…』
本当は忘れていたのではなく、裏工作をするのに動きにくくなるので、意図的に後回しにしていたわけだが…その辺りは内緒なのだ。
尤も、結果を見れば、中等部からのエスカレーター組の中には気づくものも多くいるだろうが…。
しかし、他の人間にその役目を押し付けられるのであれば、それはそれで構わないと思う。 ミレイの事は尊敬できるし、凄い人間だと思うのだが…
凄い人間過ぎて、彼女について行けると思える生徒が少ない事も事実だ。
出来る事なら、こうして、ステージの上に立っている彼女の姿をこうして凡人として眺めていたい…生徒の大多数はそんな思いだ。
『じゃあ、副会長のライ=アスプルンド…。私と同じ3年生で…色々相談に乗ってくれるお兄ちゃんの様な存在だから…見かけたら色々相談を持ちかけてね…♪』
ミレイのこの紹介にライはギョッとして『このアマ…何をこきやがる…』と言うオーラ全開でそれでも、新入生たちにはややひきつったような笑顔を向けた。
去年、妙な紹介をされたおかげで随分、1年下の生徒たちから声を掛けられまくった記憶があるだけに…正直気が重いのだろう…。
『そして…2年のグラストン・ナイツの5人!美形ぞろいだから…ファンクラブもあるんだけど…ファンクラブに入会するときには必ず、生徒会長である私に一言お願いね♪一応、彼らは生徒会の役員なんで…』
そして…アルフレッド、デヴィッド、バート、エドガー、クラウディオの5人が紹介された。
その度に、それぞれ違うタイプであり、それぞれにファンがついたようである。 ちなみに、このグラストン・ナイツのグッズ販売は生徒会が行っており、その売り上げは全て、膨大な数のイベントをこなす上での開催費に回されている。
恐らく、今年は、その中に枢木スザクとカレン=シュタットフェルトの名前も入る事になるだろう。
彼女がいるとは云え、そのずば抜けた運動神経と、運動神経に似合わない童顔故にファンが多いらしい…。
また、カレンの場合、元々黙っていればお嬢様だし、頼られれば姉御肌な彼女は意外にも男女問わずファンが多いらしい。
他のメンツでもファンクラブが出来れば、勿論、生徒会がバックアップし、その収入で思いついただけで開かれるイベントの為にその収入は使われる事になるのだ。

 そして、ミレイの合図で新入生たちが一斉に箱を開ける…。
一般の生徒手帳にはアッシュフォード学園の校章が記されている普通の生徒手帳だ。
そして…『VIP生徒手帳』には…その交渉の上にでかでかと『VIP』の文字が印刷されている。
『まぁ、見れば一目瞭然になっているから…。確か、9冊か10冊用意してあるんで…その『VIP生徒手帳』を持っている人はここに残ってねぇ…。逃げても無駄よん♪監視カメラで誰がその生徒手帳を手にしているかばっちりチェックしてあるからねぇ…』
相変わらずな行動を取るミレイに…
唖然とする高等部から試験を受けて入学してきた外部入学者たち…
『相変わらずだなぁ…』と一般の生徒手帳を手にしたエスカレーター組達は過去を思い出しながら笑う。
ただ…ミレイの陰謀で『VIP生徒手帳』を手にする事になった面々は…
―――絶対会長の仕業だ!
と、いろんな感情があるようだが、その手にした生徒手帳をまじまじと見つめる。
そして、彼ら以外に拾った3人の生徒は…どうやら外部からの入学者らしい…。
「あれ?あなたもそれ拾ったの?」
小柄なふわふわの髪をポニーテールにしている女生徒にシャーリーが声をかけた。
「うん…でも…私…この学園の事…全然知らない…」
「まぁ…変わってるけど…大丈夫よ…。私、シャーリー=フェネット…よろしくね♪」
「アーニャ…アーニャ=アールストレイム…」
じっとその生徒手帳を見つめていたが、いきなり携帯電話を取り出し、その生徒手帳の写メを撮ったのだ。
そして、ちょっと離れたところで、その生徒手帳を手に取ってしまったらしい生徒がいる。
「ちょ…ちょっと…生徒会って…私は…」
声を聞く限り、男の声に聞こえるのだが…
近くにいたスザクがその生徒に声をかけてみる。
「あ、それ拾ったんだ?君は高等部から?」
「そうよ…。こんな横暴な事があるなんて…聞いていなかったもの…」
「そっか…まぁ、あのミレイ会長だからね…仕方ないと思うけど…。俺は枢木スザク…。俺も…ほら、これ拾ったんだ…。こっちの彼女もね…」
「初めまして…ユーフェミア=ヴァインベルグです…」
「ヴァインベルグって…ひょっとして…」
「はい…あのヴァインベルグ家ですけど…あまりそう云う事は気になさらないで…」
「私は…カノン=マルディーニ…。そう…あなたが…」
男子生徒の制服を身につけているのに、なんだかちょっと変わった感じのするカノンがユーフェミアを見て、少し意味ありげな視線を送っていた。
そして…リヴァルとニーナの傍で…
「えっと…これは…一体どうしたら…」
その生徒手帳を手になんだか戸惑ったような声を出している。
「あ、君も拾ったんだ?」
「まぁ…慣れるまでは大変かもしれないけれど…。私もリヴァルも拾ってるし…。それに、ミレイちゃん、言う事は結構大変だけど…やってみると楽しい事もあるから…」
「あ…そうなんですか?あ、申し遅れました…。私、篠崎咲世子と申します…」
深々と頭を下げる女生徒につられて、リヴァルとニーナも深々と頭を下げる。
「あ、これはご丁寧に…。俺はリヴァル=カルデモンド…宜しくお願いします…」
「私、ニーナ=アインシュタインです…。これからよろしく…」
ここに…1年生から選ばれた生徒会役員のメンツがそろった。
これからの彼らの高等部の生活はここから始まるのである。

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