幼馴染シリーズ 〜第2部〜


Second Tears 00


 幼馴染…
便利で不便な言葉…
自分自身の気持ちがよく解らなくて…
いつも俺の傍にいたあいつが…いきなり俺の知らないあいつになったり、突然、俺の前からいなくなったりする…
正直考えた事もなかったことだったから…
現実を目の前に突き付けられたとき…言葉も出なかった。
あいつは俺の幼馴染で…誰よりも一緒にいた気がする。
確かの俺は男で、あいつは女だったけど…俺の中でのあいつは常に、『ルルーシュ』でしかなかった。
あの時の俺には…好きな子がいて…でも、好きな子がいてもあいつは…ずっと俺と一緒にいるものだと…一緒にいていいのだと思っていた。
もし…あいつが男だったら…俺が女だったら…
そんな不毛な事を考えた事もあった…
あいつに云えば、あの生意気な口調で『バカか…』と笑い飛ばしたに違いない…
俺にとって、そんなあいつが好きだったし、多分、必要だった。
だからこそ…考えてしまった…
何故、俺が男で、あいつが女だったのだろうと…
あいつの中で…俺は…『スザク』だったのだろうか…
俺の中で、あいつが『ルルーシュ』だったように…
好きな子が出来た…
そして、その子と思いが通じ合った後…あいつは変わった…
俺に近づかなくなり、あいつはいつも…一人で何かを抱え込んで、苦しんでいた…。
その、理由を知ったとき…俺は…
今更ながら、ガキだとも思うけれど…けれど、今の俺があの場に立ったところで…一体何が出来たのだろう…

 ルルーシュとナナリーがブリタニアへと旅立って半年が過ぎ、スザク達もアッシュフォード学園高等部へと進学した。
基本的に、中等部に在籍していた者達はそのまま高等部へと上がっていくことが殆どだ。
時々、ずば抜けて成績のいい生徒が他の、アッシュフォード学園よりも偏差値の高い高校に受験し、そちらの高校へと進学する者がいるが…ルルーシュがいなくなった今、スザク達の学年の中でそれだけの頭を持っていたのは、カレン=シュタットフェルトとニーナ=アインシュタインくらいのものだ。
その二人も、今のアッシュフォード学園の環境が気に入っているらしく、他の学校への進学など考えてもいなかった。
大体、アッシュフォード学園だって、決して偏差値が低い訳じゃない。
相当イベントの多い年間行事の中、相応の偏差値を維持しなければならないので、在学している生徒たちの努力も相当なものだ。
まして、スザク達の学年の場合、高等部に進学した段階で…中等部の時、思い付きだけで開催したイベントの数は星の数…という、理事長の孫娘にして、生徒会長のミレイ=アッシュフォードがいるのだ。
彼女の在籍中にこの学園に入学してきた者達はイベントと成績維持のために並々ならぬ努力を強いられるのだ。
しかし、それも日常化しているミレイと同学年の生徒は…常に彼女と一緒と云う状況にありながら、色々とコツを掴んでいるのか、意外と学園生活をエンジョイしているのだ。
今年もまた、桜舞い散る中…スザク達は新しい高等部の制服を着用し、アッシュフォード学園高等部の門をくぐった。
すると…
『ピカピカの新入生諸君!アッシュフォード学園高等部入学おめでとう!さぁ…これから入学イベントをするわよぉ…』
耳に懐かしい…あのお祭り娘な生徒会長の明るい声が…学園に響き渡っていた。
元々、彼女の性格を知る、中等部からのエスカレーター組は『相変わらずですね…』と云う表情を見せ、高等部から入学してきた者達はこの騒ぎに目を丸くする。
「相変わらずだなぁ…ミレイ会長…」
「私たち…また生徒会に入る事になるんでしょうか?」
ミレイの声を聞いたスザクとユーフェミアの言葉だった。
ルルーシュが中等部の生徒会長になってから、ミレイが会長の時ほどイベントの数も多くなかった。
と云うより、あれだけのイベントの数をこなせるのは、ミレイだったからであって、ルルーシュの責任ではないし、ルルーシュの完璧主義な性格を考えた時、ミレイほど頻繁にイベント開催されていたら、恐らく、生徒会の役員の身がもたない。
ルルーシュよりも大らかな性格のミレイの時でも、中々大変だったのだ。(彼女の場合、普段やらなくてはならない仕事をそっちのけでイベントを開催していたので、少しばかり意味合いが違ってくるが)

 そして、ミレイの考えるイベントに戦々恐々とする者、楽しみだとばかりにワクワクしている者、ミレイの性格を全く知らず、一体何が始まるのだ…?とびくびくする者…
様々だったが、ミレイがそんな新入生の事情など、お構いなしだ。
『ええ…それでは…これから、新入生諸君にアッシュフォード学園の生徒の証たる生徒手帳の配布をする訳ですが…その生徒手帳…新入生全員分をこの学園のどこかに隠してありまぁす…』
ミレイの言葉に新入生全員がきょとんとした目になる。
そして、高等部のクラブハウスの二階にあるバルコニーからミレイが姿を現した。
『じゃあ、みんな、こっち見てくれる?生徒手帳はこの箱の中に入っています。その箱をGet!した人から今のこの場所に戻ってきてね…。あ、でも、ここに全員が集まって全員がこの箱を持っていることが確認できたら私がOKサインを出すんで…その時に開けてね。って言うのも…その中には…VIP生徒手帳もあるのです!』
「VIP…生徒手帳?」
新入生の誰もがその言葉にきょとんとする。
『そのVIP生徒手帳Get!した幸運のあなたには…このミレイ=アッシュフォードの手足となって働く生徒会役員と云う名誉が与えられまぁぁぁす♪』
ミレイの傍若無人な発言は…どうやら今も健在らしい…
中等部からのエスカレーター組は今更驚きもしないし、ただ、自分にその『幸運』が舞い降りてこない事を祈るのみだ。
彼女の手足となる生徒会役員の大変さは…去年、この学園の卒業を待たずしてブリタニアへと渡ったルルーシュ=ランペルージを見てきている彼らにとって、普通に御免被りたい『VIP』なのだから…
しかし、こんな傍若無人な発言をしても決して憎まれないのは…ミレイ=アッシュフォードの人徳のなせる技だろう…。
「シャーリー…これ、ルルーシュの発言だったら…あの子の奴隷になりたい候補がいっぱいいただろうに…ミレイ会長が云うと、悪魔のささやきよね…」
ミレイのイベントの凄まじさを中等部の時の生徒会で思い知っているカレンが隣にいたシャーリーにそう呟いた。
「あ、確かにルルなら…男女問わずに奴隷志願者いっぱいいそう…。ルルって…ホントクールビューティーだったし…。でも、ルルがそんな事言う姿…想像できない…」
二人は思わず『女王様』なルルーシュを想像して、『ぜんっぜん似合わない…』と噴き出した。
『さぁ…現在配られているダンジョンマップ(つまり、校内地図)を手にして、お宝探しと行きましょう!ちゃんと、新入生の数分だけあるから…いろんなところを探してみてね…。簡単に見つかる場合もあるし、ちょっと奥まったところに隠してあるかもしれない…。とりあえず、ダンジョンマップに『AF』と書かれている区域は生徒の出入り自由だから…!』
結構適当にルール説明をしているが、とどのつまり、この校内地図を見ながら自分の生徒手帳を探せ…と云う事らしい…
「まぁ、一石二鳥かもね…これで、ある程度校内を把握できるようになりそうだし…」
「確かに…とりあえず、私たちはゆっくり探そうよ…。宝探しみたいに…」
二人の会話は何となく懐かしいものを思い出しているような雰囲気だ。
ミレイらしい…新入生の歓迎会…
『じゃあ…時間制限は3時間!大いにアッシュフォード学園を探検してくれたまえ!よぉぉぉい…スタート!』

 ミレイの掛け声とともに新入生たちは走り出す。
中にはミレイの指示によって配置されている、各クラブの勧誘を行う2,3年の生徒たち…
流石は名門校として名高いアッシュフォード学園…
かなり広い敷地に、充実した設備のお陰で建物の中も色んな教室やら施設が並んでいる。
恐らく、一度、校内案内されても覚えきれるものじゃないし、このイベント中に迷子続出しそうだ。
「基本的には…中等部と同じ作りかと思っていたら…そうじゃないみたい…」
「まぁ…私学だし…こう云うところの構造は、割と好きに出来るのかな…」
スザクとユーフェミアが渡された地図を見ながら歩いている。
無茶な企画の様でいて、それでも、この探検イベントで新入生がこの広い作りの校舎の中で迷子になってしまう…という確率はかなり減ると思われる。
ふつう、地図を見ながらただ歩いているよりも、こうして遊び感覚て、探検している感覚だと意外と覚えやすいものだ。
それに、楽しんでいる部分が大きいので、迷っていても、その迷う事自体を楽しむ事も出来る。
「ミレイ会長らしい…。ルルーシュがいたら…きっと、呆れ果てた顔をしていたでしょうけど…」
ユーフェミアは…ルルーシュがブリタニアに渡った後くらいから…ルルーシュの事を気にするそぶりを見せなくなった。
実際に気にしなくなったのだろう。
今、ルルーシュの名前を出した時も…凄く穏やかな表情でスザクに話しかけている。
そしてスザクがルルーシュの名前を出しても、決して取り乱す事はなくなった。
「まぁ…そうだな…。でもあいつ…凄くクジ運悪いんだよな…。絶対に『VIP生徒手帳』をゲットすると思うゼ…」
「でも、リヴァルは『VIP生徒手帳』が欲しいんじゃないかしら?リヴァル…ミレイ会長にぞっこんだから…」
「じゃあ、俺達が『VIP生徒手帳』を手にしたら、リヴァルを探すか…」
穏やかな会話を繰り広げている。
ルルーシュがいなくなったからこんな風に穏やかな空気が流れている…そんな風に考えるのは絶対に嫌だと思うが…
周囲の見方は一部を除いて、そんな風になっている
「そうね…あ、でも、みんな、その『VIP生徒手帳』だったらどうしましょう?」
くすくす笑いながら冗談を口にするユーフェミアに向かってスザクは思い切り顔を引きつらせる。
「やめろよ…ユフィ…。俺、そう云う不吉な事言われるとホントになるんだよ…昔から…」
「まぁ…不吉なんて…。ミレイさんに云いつけてしまおうかしら…」
そんな話をしながら、校舎を一通り見て回りながらお互い、一冊ずつ、生徒手帳を手に入れる。
箱に入れられ、梱包されているその包みを今の段階でほどく訳に行かないとの事なので…とりあえず、その箱を手に、先ほど、ミレイの説明を聞いた場所に戻る。
「ホント…中等部も、中学にしては広いと思ったけれど…高等部も広いのね…。確かに一度迷子になったくらいじゃ、覚えられないね…」
そんな風に答えて今いるところから…戻らなければならないのだが…

 広い校舎やら、渡り廊下やらを抜けて、微妙に遠い場所に隠されていた生徒手帳をGet!しに行った事に微妙に後悔する。
とにかく、その箱を手にした新入生たちは、上級生たちからのクラブの勧誘の嵐の中に叩き込まれるのだ。
とりあえず、当初の目的の者を手にしていれば、タイムリミットぎりぎりまで勧誘し続けても問題はないという事で…
スザクはこれでも、中等部では運動部からの勧誘は引く手あまただったし、どうにもならなくなって、ミレイからの助け舟で生徒会に入った。
その後は…生徒会所属で運動部の助っ人専門となっていた。
そう考えてみると…
「俺…どっかのクラブに追いかけまわされるのと…生徒会に入ってミレイ会長のしもべになるのとどっちが楽なんだろう…」
ついぼそっと呟いてしまった。
確か…高等部もどこかのクラブに所属しなくてはいけないルールだった…
「さぁ…どちらもスザク…大変そう…」
少し同情したようにユーフェミアが呟いた。
「ユフィ…他人事だからって…」
「だって…他人事だもの…。でも、なんでクラブに所属しなくちゃいけないっていうルールなんてあるのかしら…。いっそ、『帰宅部』もクラブにして、予算提出してクラブとして認めてもらえればいいのに…」
何とも無邪気な発言だが…確かにその通りだと思う。
実際に、ユーフェミアの場合、クラブ活動に力を入れるという生活はまず無理だ。
一応、ルルーシュやジノのお陰でこうして今は、スザクと一緒にいる事を見て見ぬふりをしてもらえているが…実際には、認めて貰っている訳ではなく…目に見えないタイムリミット付きの付き合いだ。
「確かに…そうしたら…ルルーシュも中等部の時…あんなに苦労せずに済んだだろうに…」
スザクは、今のユーフェミアとの状況に…どっぷり浸かっていて…何かを見失っていたのかも知れないし…単に、本当の部分が見えていなかったのかも知れない…
そんな事を呟きながら、晴れ渡っている空を見上げている。
そのスザクから…数歩離れたところにいたユーフェミアの瞳が…そのとき…悲しそうに…寂しそうにスザクを見ていた事は…その時のスザクは気づいていなかった…

『Second Tears 設定』へ戻る 『Second Tears 01』へ進む
『幼馴染シリーズ』メニューへ戻る


copyright:2008-2009
All rights reserved.和泉綾