幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 19


「ありがとう…日本でこんなにいい友達が出来てくれていて…良かったよ…」
 シュナイゼルのその言葉に、カレンもシャーリーも驚きを隠せずにいる。
二人のその表情にシュナイゼルも驚きの表情を見せる。
「まさか…知らなかったのかい?まぁ…確かに急な話ではあったのだけれどね…」
少し申し訳なさそうな顔をするが…それでも、この二人が何を云ったところでルルーシュが日本を離れると云うその事実は覆されないだろうと…二人は思った。
「ルルは…どこへ?」
シャーリーがまだ、その事実を飲み込めてはいないが、シュナイゼルのその言葉を聞いた…その言葉だけを拾い上げて質問する。
「ああ…ナナリーの身体の事は知っているね?」
シュナイゼルが二人に確認する様に聞き返した。
当然二人は頷く。
それを見て、シュナイゼルが優しく微笑み、説明に入る。
「ナナリーの身体にとって、いい治療法が見つかったんだ…。まだ、最新の技術で…その研究所でしか出来ない治療法で…。だから…ブリタニアに渡るんだ…」
「「ブリタニア!?」」
流石に、太平洋の向こうの国の名前を出されて驚かない訳もなく…
確かに、ブリタニアはあらゆる技術で世界の最先端の技術が集まっている国だ。
元々、ルルーシュ達はブリタニア人であるが、義父であるシャルルと母であるマリアンヌが自宅を留守しがちで、女の子二人だけで生活する事を心配した両親が幼い頃から暮らしている日本に彼女たちの住まいを置いていた。
驚きを隠せないまま、今度はカレンがシュナイゼルに尋ねる。
「あの…どのくらい…?」
わずかに声が震えているのが解る。
「そうだね…少なくとも、ルルーシュが高校…向こうのハイスクールを卒業するまでは…」
その答えに二人は呆然とするしかなかった。
「済まなかったね…本当はルルーシュ本人から聞くべき事だったかな…。1学期が終わると同時にルルーシュはナナリーと一緒にブリタニアに渡る…」
迷惑なほど懇切丁寧な答えに、何も言えなかった。

 シュナイゼルが所用があると席をはずし、二人が残された。
「ねぇ…ルルーシュ…なんで私たちに云わなかったのかしら…」
多分、普通に考えれば、素直に出てくる疑問だ。
尤も、彼女たちに云っていないという事は、担任以外、誰も知らないのだろうと思う。
「それに…ナナちゃんの身体が良くなるんだから…喜ぶと思ったんだけれどな…。そりゃ、私たちと離れる事は寂しいと思ってくれるだろうけれど…」
「それに…」
カレンは先ほどのルルーシュとスザクの状況を見た時から、何か気になっている。
具体的にそれが何であるのか…自分でもよく解らないのだが…
「それに?」
シャーリーがオウム返しに聞き返した。
「それに…さっきのルルーシュとスザク…。記憶を失ってから殆ど、スザクとの接触がなかったのに…。いいえ、ユーフェミアとスザクが付き合い始めた頃から、ルルーシュは、必要以上にスザクに近寄る事がなかったのに…」
カレンの言葉にシャーリーもはっとする。
確かに、保健室でルルーシュは眠った状態のまま、スザクの手首を掴んだままだったのだ。
それに…スザクも、何か隠している…そんな感じだった。
「そう云えばそうだよね…。スザクくんは、ユーフェミアさんと付き合い始めてからもずっと、ルルと昔みたいに接したがっていたと思うけれど…」
シャーリーの言葉にカレンが目を丸くしていた。
「ユーフェミアと付き合っているのに?」
驚いたカレンの様子にシャーリーが逆に『なんで?』と云った表情を見せる。
「スザクくんとしては、多分、確かにユーフェミアさんと付き合っているって言う自覚はあったと思うし、きっと、ユーフェミアさんの事は好きなんだと思うよ…今でも…」
恋愛に聡いシャーリーが、ふざける風でもなく、普通に真面目にカレンに説明している。
この年頃の女の子なら、普通に恋愛に憧れを持ったり、夢見たりするものだが…多分、今シャーリーが話しているのは、そう云った友達同士で話しているような恋愛論ではない…カレンはそんな気がしていた。
「でも、スザクくんにとって、多分、ルルって、別次元なんじゃないかなって思っていたんだけど…。友達とか、恋愛とか…そう云った括りじゃないと思ったんだよね…。ルルはスザクくんに対して、恋心を抱いていて…見ていてイライラするほど不器用なことばっかりしていたけれど…」
シャーリーの観察眼にカレンはあっけに取られる。
「シャーリー…以外とルルーシュの事を的確に観察していたのね…」
カレンの言葉に、シャーリーは『何よぅ…』と云う表情を見せるが、カレンの表情を見て、ニコッと笑った。

 病室では…ようやくルルーシュが目を覚ました。
「………」
何が起こったのか…思い出す事が出来ず…周囲を見回す、
見覚えはあるのだが…なんでここにいるのかが解らない。
周囲を見回しても、あの時と違ってこの部屋には誰もいない。
仕方なく、何が起きたかを自分の頭の中で整理し始める。
昼間…ひどい頭痛があって…誰かに保健室に連れて行って貰って…その後の事は覚えていない。
「あの頭痛…何だったんだろう…。眠ってしまう前に…誰かと話をしていたような…」 本当にひどい頭痛だった。
何かを思い出そうとしていた…
自分で思い出そうとしていた訳じゃない。
何かが頭に思い浮かんで…
そして…その事を考えていたら…確か…頭痛が襲ってきて…
「あれは…誰…?」
そんな言葉がふと出てきた。
さっき、そう考えて、そう思って…あの激しい頭痛に襲われた。
そう思った時、自分の中で強い恐怖が生まれた。
先ほどの頭痛は、それほどの激痛だった。
「思い出しちゃ…いけない…」
自分の中でそんな風に思ってしまう。
誰にも迷惑をかけていないのなら…無理にあの激痛を我慢する必要はない…
そんな風に思う。
「思い出したく…ない…」
それは…恐らく、その忘れている事に対してではなく、その事を考えると、あんな激痛を味わわなければならない事への恐怖…
「でも…思い出さなくちゃ…いけない…」
恐怖を抱えながら…ルルーシュはそんな言葉を口にする。

―――コンコン…
 扉がノックされた。
考え事をしていた状態で、はっと現実に意識が戻る。
「ど…どうぞ…」
ルルーシュが慌ててノックに対して返事をすると扉が開き、シュナイゼルが入ってきた。
「ルルーシュ…」
心配そうな表情でシュナイゼルが入ってきた。
シュナイゼルの顔を見て、少し安心したような表情になった。
「すみません…義兄さま…」
ただ…ルルーシュはそんな風にシュナイゼルに頭を下げた。
シュナイゼルとしては、この時期に…あまりにタイミングが良すぎる…そんな風に思ってしまう。
ルルーシュが何を望んでいるのか…
シュナイゼル自身…悩んでしまう。
ルルーシュを傷つけたくない…そう思うのはシュナイゼルの偽りのない気持ちだ。
しかし…ルルーシュ自身が、心の底で何を望んでいるのかが解らなければ…
「ルルーシュ…今は何も考えなくていい…。今は…ブリタニアへ行くことだけを考えなさい…。ナナリーもブリタニアで治療を施せば…元気になるのだから…」
頭痛の原因が、あの時の事故であるのなら…そして、その時に失った記憶の所為であるのなら…考えさせない方がいい…そんな風にシュナイゼルは思う。
気を失ってしまう程の痛みを…再びルルーシュに味わわせたくはない…今のシュナイゼルはそんな気持ちだった。
「さぁ…もう一度眠りなさい…。僕もこれで帰らなくてはならないから…」
そう云って、横になったままのルルーシュの髪をそっと撫でてやる。
ルルーシュも、今は何も考えたくないのか…素直に頷いた。
「はい…義兄さま…」
そう返事するルルーシュにシュナイゼルが優しく微笑んでやると、ルルーシュは安心したように再び目を瞑った。
そんなルルーシュを見ていて…シュナイゼルに安心しきっているルルーシュは自分に向けられた信頼であると、嬉しく思いながらも、義兄としてのポジションから抜ける事が出来ないもどかしさと…なんだか複雑な心境になった。

 ルルーシュの病室から出て行き、病院の正面玄関から出て行こうとすると…そこには…
「君は…」
シュナイゼルはその存在に驚いた表情を隠せなかった。
出来る事なら…もう、ルルーシュに関わるなと云いたい気持ちを必死に抑えていた。
「ご無沙汰しています…シュナイゼルさん…」
そこに立っていたのは…シュナイゼルとしては常に義妹のルルーシュに見えない涙を流させている張本人…と云う認識である、枢木スザクが立っていた。
「スザクくん…一体何の用だ?ルルーシュには出来るだけ会わないでほしいのだが?」
シュナイゼルはあからさまにスザクに対して嫌悪を向ける。
しかし、スザクの方はそれは当たり前の事として受け止めている。
「ルルーシュに会いに来たわけじゃないんです…。ただ…シュナイゼルさんには…お話ししておいた方がいいと思いまして…」
シュナイゼルはスザクのその言葉にぴくっと眉を動かした。
恐らく…ルルーシュが倒れた時の話だろうと…直感的にそう思う。
「解った…立ち話も何だから…」
そう云って、シュナイゼルはスザクを自分の車へと促した。
スザクも素直にそれに従い、病院からほど近いカフェへと入って行った。
「で…話とは…?」
シュナイゼルは運ばれてきたコーヒーを一口口にしながらストレートに尋ねた。
「はい…ルルーシュが倒れた時…俺がルルーシュを保健室に運んだんです。本当に…歩けるような状態ではなかったし、振動でも恐らくは辛かったであろう状態でしたから…」
スザクは前置き話として、ルルーシュを運んだ事をシュナイゼルに報告する。
そして…保健室での出来事を…事細かに説明した。
全ての説明をし終えると、シュナイゼルは信じられない…と言わんばかりの表情をスザクに見せている。
「ルルーシュの…記憶が戻っている…と…?」
「いえ…そこまでは解りません…。しかし…ルルーシュが俺の腕を掴んで、その一言を告げたのは…事実ですし、彼女が今、どんな状態なのか…良く解りませんが…。ルルーシュが先日、俺にブリタニアに渡るという話をして間もなくの話なので…ちょっと気になりまして…」
シュナイゼルはそのスザクの説明に驚愕する。
ルルーシュの仲の良いカレンやシャーリーにまだ告げていない事を…スザクは知っていたのだ…。
しかも、ルルーシュの口から聞いたという。
「君は…もうルルーシュに近づかないでくれ…。これ以上…ルルーシュが君の事で傷つく姿を見るのは…嫌なんだ…。何の為にジノやユーフェミア嬢をルルーシュから遠ざけようとしたと思っているんだ…」
シュナイゼルの苦悩に満ちたその言葉に…スザクは下を向いて黙っている事しか出来なかった。

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