幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 13


 ルルーシュが交通事故で負った怪我は足の骨折と、頭部を打ちつけた事による出血…そして…スザクの事だけを忘れた記憶障害…
脳波の検査をしても異常は見られていない。
医師には、
『何か、精神的に忘れたいと思った事であったのかも知れませんね…。それか…気を失う瞬間に…その相手の事を強く思っていたか…。こうした事故の場合、その瞬間に強く思い過ぎた時にこうした現象が起こる事もあるのです。心当たりはありませんか?交通事故はきっかけに過ぎず、彼女の中でいろいろ悩みがあったのかも知れません…』
検査結果によって導き出された結果と、憶測…。
ルルーシュにとって、スザクの事は辛いこと…もしくは、あの場面で、強く思う相手だったという事だ。
両親は何のことだかよく解っていないようだったが、ある程度の事情を把握していたシュナイゼルは…ため息をつくしかなかった。
そして、ナナリーもその表情から心配そうな表情を隠せない。
ランペルージ家とヴァインベルク家の婚約に関しては、ルルーシュとジノが交際しているという事で、今のところはシュナイゼルとユーフェミアの婚約自体は白紙に戻されている。
ただ、ランペルージ夫妻はその過程に何があったのかを知らない。
シュナイゼルも、ルルーシュが自分の意思でジノと付き合い始めたのだと素直に思っている訳ではなく…ただ…そこに、ユーフェミアとスザクの事が絡んでいるであろうと云う予想のみで、ルルーシュにも、ジノにも、ユーフェミアにも確認はしていない。
カンファレンス室から彼らが出てくると、ジノとユーフェミアが待っていた。
「あの…ルルーシュは…?」
ジノが声をかけると、シュナイゼルが両親を制して彼に説明し始める。
その様子に両親も今は首を突っ込まない方がいいとその場を離れた。
ナナリーも心配そうに残ろうとするが…シュナイゼルが優しく微笑みかけてナナリーに言った。
「ナナリー…スザク君のところへ行って、退院した事と、それと…ルルーシュの事…話しておいで…。彼も、きっと心配しているだろうから…」
「はい…シュナイゼル義兄さま…」
そう一言残して、ナナリーもその場から離れた。

 ナナリーの姿が見えなくなってシュナイゼルがはぁ…とため息をついて、二人の方を見た。
「さて…僕が説明する前に、君たちに聞きたい事がある。ルルーシュが僕に何も言わせずに、ジノとの交際を報告してきた…。ルルーシュがあんな風に僕に電話をしてきたのは初めてだったよ…。どういう事なのか…君たちには説明する義務があるよ…僕に対しても、ランペルージ家に対しても…」
シュナイゼルが厳しい表情でジノとユーフェミアを見た。
シュナイゼルが起こるのはある意味当然だと、ジノもユーフェミアも思う。
「解った…私から説明するよ…シュナイゼル…」
そのジノの一言で3人は場所を変える事にした。
病院近くのカフェに入り、しばらく沈黙が続いた。
ユーフェミアは下を向いたままだし、ジノも、どう言葉を切り出していいか悩んでいる様子だ。
そして、シュナイゼルの方はと云えば、イライラしながらも、その感情は一切表には出さずにジノの言葉を待っている。
シュナイゼルにとって、ルルーシュは可愛い義妹であり、そして、誰よりも幸せになって欲しい女性でもあった。
そして、あんな暗い声でジノと付き合うという報告を入れてきた時…何かあったのだとすぐに解ったが…ジノにもルルーシュにも尋ねる事はしなかった。
恐らく、その時、シュナイゼルが出て行ってしまっては、ルルーシュのやろうとしていた事を邪魔する事になると直感的に感じたからだ。
「ルルーシュは…」
言葉を選んでいるジノを横目に…ユーフェミアが下を向きながら声を出した。
「ルルーシュは…私とスザクの為に…お兄様と…」
その一言で…シュナイゼルがこれまで繕っていた表情を一気に変える事になる。
「君は…ランペルージ家との婚姻の話があることを承知で、枢木スザク君と交際し、更には、ルルーシュを犠牲にした…と云う事かな?」
シュナイゼルの声色には怒りが込められている事がよく解る。
シュナイゼルの怒りもある意味当然だとジノは思う。
ジノ自身、彼と一緒にいて、シュナイゼルがどれだけルルーシュとナナリーを…とりわけルルーシュを大切にしているか…解っていたからだ。
「ちがう!ユフィとスザク君を守るための条件を出したのは私だ!ルルーシュが私と交際すれば、私が、持てるもの全てを持って、二人を守ると…」
ジノの言葉に…シュナイゼルは更なる怒りをあらわにした。
ルルーシュの性格はシュナイゼルもよく知っている。
そして、そんな条件を突きつけられて、ルルーシュが出すであろう答えも…。
そう思った時に、シュナイゼルはその場から立ち上がる。
「君たちにルルーシュの容体を知る資格はない!二度と、ランペルージに関わるなと云いたいところだが、私の立場ではそんな事はこの場で決断できない…。ただ…ヴァインベルク家に対してはそれ相応の対処を考えさせて頂く!」
シュナイゼルは、普段の一人称ではなく、ランペルージグループの後取りとしてのシュナイゼルとして、その言葉を残し、伝票を掴んでそのカフェを後にした。
ジノとユーフェミアはそんなシュナイゼルを止める事も出来ず…ただ、黙って見送る事しか出来なかった。

 病室では、様々な検査疲れからルルーシュが眠っていた。
確かに、あの事故から2日が経って、多少落ち着いてきたという事で…脳波の検査を色々とした。
いきなり、記憶障害があると云っても、今のルルーシュにはそんな事はよく解らない。
ただ…ユーフェミアの隣にいた男子の表情が異様に暗かったな…そんな印象くらいしかないし…。
しかし、ナナリーと医者曰く、ルルーシュはその男子の事を忘れているという。
思い出そうとすると頭が痛くなるし、無理して考えても、ちっとも解らない状態だ。
ただ…ナナリーと昔の話をしていて…何となく自分の記憶の中にぽっかりと穴があいているような気がする…そんな自覚だけはある事に気がついた。
考えてみても解らない。
明日…ナナリーがアルバムを持ってくると云う…。
昔の写真の詰まったアルバムを見せれば…また何かが変わるかもしれない…そう云う判断だったからだ。
普段、入院準備や、ナナリーの入院中の看護はした事はあっても、こうして、入院患者になったのは初めてで…
結構入院生活と云うのも疲れるものだと実感しながら、検査を受け、そして、自分の病室のベッドに沈み込んだ時そのまま眠ってしまった。
そして、目が覚めた時には部屋の中は薄暗くなりかけていた。
「…ん…眠っちゃったのか…。でも…ナナリー…なんであの男の事…あんなに拘っていたんだろう…」
ふと…あの医師とナナリーとのやり取りに抱いていた疑問を口に出した。
茶色い、やや癖のある髪をしていて…そして…強くて、優しい光の翡翠の瞳が印象的だった。
ジノのアクアマリンの瞳も綺麗だと思うが…あの、『スザク』と呼ばれた少年の…あの、優しい翡翠の色は…どこか懐かしくて…温かかった。
そんな印象を持つ人物は…今のルルーシュの中にはいない。
多分…それは…ナナリーの云う通り…ルルーシュが記憶を失っているから…。
医師は…それがいつ戻るかは解らないと云っていた。
明日、思い出すかも知れないし、10年経っても思い出す事が出来ないかも知れないと…。
思い出した方がいいのか、思い出さない方がいいのか…
思い出さなくてはいけないのか、思い出してはいけないのか…
そして…ルルーシュ自身が、思い出したいのか、思い出したくないのか…
頭の中でいろいろ考えてしまう。
ただ…あの時、『スザク』は…悲しそうな…瞳をルルーシュに見せて…この部屋を出て行った…それだけが思い出されてきた。

 その頃…ナナリーはスザクの家でスザクの帰りを待っていた。
本当は出直そうかとも思ったのだが、事情を知ったスザクの母親が
『なら、今日は泊ってらっしゃい…。ルルーシュちゃんがそんな事になっちゃって、自宅でナナリーちゃん…一人でしょう?ご両親には私からちゃんと連絡しておくから…。と云っても、同じマンションだし…学校にも差し支えないでしょ?』
そんな事を云ってナナリーを引きとめた。
そして、両親に電話をして、暫くの間、ナナリーは枢木家で預かる事となった。
スザクの母親が客間をナナリーに仕える様に準備をしている間にナナリーは学校に必要なものや着替えなどを自宅から持ち出した。
ナナリー一人ではそれだけの荷物を運べないので、スザクの弟…ロロが手伝いをしてくれた。
ロロはナナリーとは同じ年で、同じ学校に通っているが、クラスが違うので、あまり話をした事はない。
昔から、スザクと遊ぶ時には誘っていたのだけれど、ナナリーが中には入れる時にロロがいた事はあまりなくて…しかも、何となく、近づきにくい雰囲気だったので、ナナリー自身どう接していいか解らずにいたのだ。
でも、当時のロロは、ルルーシュに憧れていたらしく、いつもルルーシュに可愛がられているナナリーに嫉妬しているのだと、スザクが云っていた。
ロロは…今でもルルーシュに対して好意を抱いているのだろうか…ナナリーは時々思う事があった。
その気持ちが何であるのかは…よく解らないけれど…。
「ナナリー…これで全部?」
「あ、はい…ありがとうございます…ロロくん…」
ナナリーが必要な荷物をまとめてバッグに詰め終わると、言葉少なにロロがそう尋ねて、ナナリーの荷物を持っていく。
以前ほど、ナナリーに対しての視線が突き刺さる感じはしてはいない。
無口なところは変わっていないのだが…。
ナナリーが立ち上がろうとして、ふらついた時、ロロが荷物を放して、さっとナナリーが倒れないようにその右腕で支える。
スザクほど体格に恵まれている訳ではないが、その腕は…力強くナナリーを支えた。 「大丈夫?具合悪い?」
ロロのその言葉にナナリーがフルフルと首を横に振った。
「そう…気をつけて…。ナナリーは、ルルーシュさんと違って結構おっちょこちょいだよね…」
「お姉様と比べるなんて…ひどいです…。お姉さまは…しっかりされていて…私なんかと比べちゃいけない人です…」
ナナリーが俯いてそう云うと、ロロがやや苛ついたように言葉を吐いた。
「そうやって自分を卑下する女は…可愛くない…。ナナリーにだってあるよ…ルルーシュさんにはない…いいところがさ…」
ロロのその言葉にナナリーがきょとんとする。
そんな風に言われたのは初めてだったから…
嬉しいのか…照れくさいのか…よく解らない感情が襲ってくる。
「あ…ありがとうございます…。そんな風に云って下さったのは…ロロくんが初めてです…」
そうやってナナリーがロロに笑いかけながら云うと…ロロは…一瞬驚いて、ふいっと顔を横にそむけた。
「ほら…さっさと行くぞ…」
そう云ってロロは荷物を持ちなおして歩き出した。
ナナリーも『はい…』と答えてロロについていった…。

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