幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 12


 ナナリーも回復して、退院してきた。
とはいうものの、まだ、寒い時期で、体調管理の難しい時期でもあった。
だから、ルルーシュもかなり気を使ってナナリーを連れて帰ってきた。
そして、全ての事情を知った後、ジノが何かと気にかけてくれるようになっていた。
「ナナリー…大丈夫か?」
自宅について、ナナリーの部屋に連れて行く。
「お姉さま…心配し過ぎですよ…。私は大丈夫です…」
そう云いながらナナリーがルルーシュに笑いかける。
いつも、二人で生活しているのに、ナナリーが入院するたびにルルーシュは一人でこのマンションの一室に取り残された気分になってしまう。
それが…嫌でたまらなくて…ナナリーが体調を崩すと必要以上に心配している。
「そうか…。でも、無理はするなよ?さ、着替えて、寝ていろ…。お医者様も言っただろ?まだ無理してはいけないって…」
ルルーシュがナナリーの着替えを出しながらナナリーを諭すように言った。
今回は、インフルエンザと云う事で面会も限られていて…やっと、退院許可が出た時には、ルルーシュ自身、安堵からその場に崩れ落ちたくらいだ。
それ故についつい過保護になってしまっているのだろう。
「お姉さま…私の心配より…お姉さま、私の入院中に、お痩せになったのでは?」
ナナリーがルルーシュの着ている服のサイズのバランスを見てルルーシュに尋ねる。
ナナリーは意外とそう云う所に聡い。
ナナリーが入院するとルルーシュは自分の食事などかなり適当に済ませる悪い癖がある。
ルルーシュ自身、ナナリーの事が気になって食欲がなくなる…と云う事もあるのだが…。
「そ…それは…多分、ナナリーの気の所為だ…」
痛いところを突かれてルルーシュの言葉が少々どもる。
「じゃあ、お姉さま、手を貸して下さいな…」
そう云って、ナナリーの着替えを渡そうとしているルルーシュの右手を引っ張りこむようにして、ルルーシュの手首に自分の指を回す。
「ほら…前にこうした時には、私の人差し指と親指の頭が届くくらいでしたのに…今では重なってしまっていますよ?ダメじゃないですか…そんな事をしていたら、私よりもお姉さまの方が具合悪くなってしまいます…」

 こう云う時のナナリーにはルルーシュは決して逆らえない。
普段は素直でルルーシュの云う事を聞く可愛い妹なのだが、ルルーシュが自分の生活をないがしろにしていると、すぐにそれを見つけて、説教し始めるのだ。
このときばかりは姉妹が逆転状態になるのだ。
「そ…それは…ナナリーの手が大きくなった所為だよ…。ナナリーは成長期だから…」
ルルーシュがそこまで云うとナナリーがぴしゃりとルルーシュを叱りつける。
「お姉さま…私は今日まで入院していたのです。毎日体重を測っていますし、1週間に一度、ちゃんと身長も測っていましたから…。いきなり手が大きくなってしまう程の成長はしていません!」
ナナリーがそこまで云うと、ルルーシュも流石に困った顔をする。
「ご…ごめん…。期末試験とかあったからな…いろいろ忙しくて…。それに…ナナリーがいないと一人きりの食事だろ?そう云う時って、どうしても簡単に済ませてしまって…」 ルルーシュのいい訳の様な弁解にナナリーがため息をついた。
「じゃあ、お姉さま、今日は、ちゃんとした食事を作って下さいね。私も入院中のお食事は…うんざりしていたので…」
ナナリーがそう云いながらルルーシュに笑いかけると、ルルーシュもほっとしたように頷いた。
「ああ、解った…。何か食べたいものはあるか?これから買い物に行ってくるから…」
「お姉さまの作った物なら何でも…。入院中、お姉さまの作ったものが食べたくて仕方なかったから…」
「解った…。今から買い物に行って、すぐに戻ってきて、作るから…。それまではちゃんと大人しくしていろよ?あと、誰か来てもインターフォンにも出なくていいからな…。ナナリーは病み上がりなんだから…」
いつものルルーシュのセリフで出かけていく。
いつものルルーシュのセリフにナナリーもニコッと笑って見送る。
「行ってらっしゃい…お姉さま…。早く帰ってきてくださいね…」
ナナリーを見て、ほっとしたようにルルーシュは手を振り、ナナリーの部屋から出て行き、自分の部屋で出かける準備をした。

 ルルーシュがマンションを出て行こうとした時、スザクもどこかに出かけようとしていた。
冬休み中だから、きっと、ユーフェミアと出かける約束でもしていたのだろう。
そんな風に思いながらスザクに声をかけようとした時、スザクもルルーシュに気がついたらしいが…それを無視するかのようにすたすたと歩いて行ってしまった。
ルルーシュとしては、一瞬驚くが、それでも、ユーフェミアがやたらとルルーシュの事を気にしていたようだから、それを気にしての事だろうと…判断した。
本当は、ただの幼馴染なのだから、普通の友人として接するくらいなら別に構わないじゃないかとも思うのだが…スザクがユーフェミアの事を考えてルルーシュを避けるのであれば仕方がない。
何となく、寂しいような、納得できないような、複雑な思いもするが、それでも…スザクとユーフェミアの為にルルーシュはジノの申し入れを受けたのだ。
それに、最初のルルーシュの気持ちはどうであれ、今では決して不幸せな結果だったとも思わないから…。
しかし、ルルーシュのそんな考えとは裏腹に、スザクは自分の中で色々と考えていた。
それをルルーシュが知る事になるのはまだ先の話ではあったが…。
ただ、今日ルルーシュがスザクに声をかけようとしたのも、ナナリーの事を報告したかったからだったのだが…。
あの時、自分の中でどうしていいか解らない状態であったとはいえ、スザクとユーフェミアのデートを邪魔をしたのだから…その義務はあると考えたのだ。
「まぁ、買い物から帰ってきたらおばさんに託ておけばいいか…」
そんな事を呟きながら、ルルーシュは近所のショッピングモールへと足を向けた。
冬の太陽は、すぐに落ちてしまう。
急がないと、暗くなってしまう…そんな事を思いながら、ルルーシュは少し歩く足の動きを速めた。
ショッピングモールでは、夕食の買い出しをしている主婦や、冬休み中でお使いを頼まれている子供たちが買い物かごを持って溢れていた。
「急がないと…」
そう呟きながら、夕食の献立の材料をかごに入れていく。
久しぶりのナナリーとの食事だから、どうしても張り切ってしまう。
誕生日も、クリスマスも結局…一人で過ごしていたのだから…

 買い物を終えて、外に出ると、雪が降り始めていた。
このあたりでは1年に数えるほどしか雪は降らない。
雪が降っている事に気がついた買い物客たちが慌ててレジを済ませて家路についていく。
ルルーシュもさっさと帰ろうと急ぎ足でマンションへと向かって歩いていく。
しかし、こう云う時に限って信号に引っ掛かるのだ。
「寒いんだから…早く信号変われ!」
ぶつくさ言いながら横断歩道に設置されていた歩行者信号が変わるのを待っていた。
他の信号が変わるのを待っている人たちも同じように考えていたらしく、軽く足踏みをしながらすぐに横断歩道を渡れる準備をしている。
雪がだんだん本降りになってきそうな気配だ。
ルルーシュが暮らしているこの地域では、あまり雪が降る事がないので、変に積もると外出が出来なくなる。
「もう少し…買い置きしておいた方がいいかな…。明日、外に出られないと困るし…」
そう云いながら、肩から下げているショッピングバッグの中身と許容量を確かめる。
少し中に余裕がありそうだった。
「よし、もう一回回って来よう…」
そう呟いて、その横断歩道から離れてショッピングモールの駐車場へと入っていく。
このショッピングモールは駐車場を歩いて入っていく形式なので、混雑している駐車場の中、周囲をきょろきょろしながらルルーシュは歩いていく。
そして、歩行者用の通路に入って、さらにショッピングモールの入口へと歩いていこうとした。
駐車場内の横断歩道を横切ろうとした時…左の方から車が突っ込んできた事に気づいた。
もし…これがスザクやカレンであったなら…避けられたのかも知れないが…
ルルーシュはその車の方を見て呆然と立ち尽くすしかなくて…
その立ち尽くしていた時間も…ほんの数秒の出来事だった。
ルルーシュの細い身体が空中に投げ出された。
手に持っていたショッピングバッグはルルーシュの身体から離れ、中身が散らばっていくのが見える。
その時の光景は…まるでスローモーションで…
―――スザクに…ナナリーが退院した事を…云えなかった…
ルルーシュの頭にその思いがよぎってすぐ後に…ルルーシュは意識を手放していた。

 病院内は…慌ただしい事になっていた。
ルルーシュが交通事故と云う事で、ルルーシュの家族が呼ばれ、そこからジノにも連絡が行った。
外傷そのものはそれほどひどい状態ではなかったが、その割に目を覚まさない。
ナナリーが母の腕に縋りながら泣いている。
シュナイゼルも病室のベッドで眠っているルルーシュを見つめながら辛そうな表情を見せている。
ルルーシュの義父も気丈を振舞っていたが、後妻の連れ子とは云え、ずっと可愛がってきた娘の容体を気にしている。
他にもジノ、ユーフェミア、そして、スザクが立っていて…ルルーシュの様子を見守っている。
「ん…」
あれからどれほどの時間が経っていたか解らないが…ルルーシュの長い睫毛が動いた。
「ルルーシュ!」
義父と母がルルーシュに声をかける。
「義父様…母様…」
ルルーシュが傍にいる両親を呼んだ。
「お姉さま…良かった…良かった…」
ナナリーがルルーシュの手を握りしめながら泣きじゃくっている。
「ごめん…心配かけて…」
「心臓が止まるかと思ったよ…ルルーシュ…」
シュナイゼルやジノ、ユーフェミアの存在も見つけてルルーシュは二人に謝る。
「ごめんなさい…シュナイゼル義兄さま…ジノ…。ユーフェミアも心配してくれたのか…」
ルルーシュが申し訳なさそうに顔を向ける。
ただ…そこに、必ず呼ばれるであろう名前が呼ばれなかった事にその場にいる人物全員が気がついた。
そこにあえて誰も口を出さなかったのだが…その次のルルーシュの言葉でルルーシュの異変が解った。
「あ…ユーフェミア…隣の人…彼氏か?ごめん…デートの邪魔をしたか?」
ルルーシュの言葉にその場の人間が固まった。
その中で一番顔色を変えたのは…
「お…お姉さま…スザクさんですよ…。幼馴染の…」
ナナリーの言葉にもルルーシュは何のことか解らないと言った表情を見せている。
「スザク?何を云っているんだ…ナナリー…私はそんな奴は知らない…」
ルルーシュのその一言に、さっきから言葉の出なかったスザクが一言だけ残して病室を出て行った。
「お大事に…」
ルルーシュはその後ろ姿をきょとんとした顔で見ていたが…。
ただ…病室内の空気は…ルルーシュが目覚めた時とは全く違ったものになっていた…

『First Love 11』へ戻る 『First Love 13』へ進む
『幼馴染シリーズ』メニューへ戻る

copyright:2008-2009
All rights reserved.和泉綾