思わず、教室を飛び出してきてしまったルルーシュだが…
とりあえず、自宅に戻ろうと足を動かしている。
正直、スザクの心の中にルルーシュの事は既にいなくなっていた事を知って、ショックを受けている自分に少し驚きを覚えている。
ルルーシュは…確かにユーフェミアの兄のジノと付き合っている。
それは、ルルーシュが決めた事で…
自分で自分にウソをついているつもりもなかったし…ただ…ジノに自分の気持ちがどこにあるのか解らないと云ったのは、確かに本当で…。
その後、ジノと一緒にいる時間があった。
その時には…確かに、ルルーシュの中からスザクがいなくなっていた…そう思っていたのだが…
今更、スザクがユーフェミアに云われてルルーシュの様子を見に来たと言われて、あそこまでショックを受けるとは思っていなかった。
「ルルーシュ…」
後ろから声をかけられた。
「カレン…」
ルルーシュが振り向くと、ルルーシュ同様にカバンを持ったカレンが立っていた。
どうにもショックを隠せない表情を見て、カレン自身、流石にどうしていいか解らなくなる。
「ルルーシュ…もう無理するの…やめたら?まぁ、スザクがユーフェミアを好きなのは仕方ないけれど…それでも、ルルーシュがあの二人の為に犠牲になるのはやめたら?」
カレンの一言にルルーシュがはっとする。
「カレン…知っていたのか…」
更に驚いた表情を見せて、カレンに尋ねる。
「まぁ、うちも…シュタットフェルト家だからね…。世界の経済を動かしている企業同士の政略結婚の話はちゃんと入って来るわよ…」
カレンの言葉にルルーシュは俯く。
「ごめん…黙っていて…。確かに…カレンの家なら…そう云う噂も…」
自分がこれほどまでに脆く崩れるとは思わなかった。
しかし、ナナリーの事で、どうしようもなくて…そんなときに、目の前にスザクがいたのでは…ルルーシュ自身…それに縋ってしまうのはある意味仕方なかった。
カレンが、ルルーシュの傍まで行って、ルルーシュの背中をぽんぽんと叩いている。
「あんた…よく頑張ったよ…。っていうか、ヴァインベルグのお嬢様ってのも、ホント、自覚がない事には驚きだけど…。このまま学校さぼるなら…ルルーシュの家に行っていい?私もカバン持ってきたはいいけど…行くとこないのよね…」
カレンが軽く笑いながらルルーシュに提案する。
確かに、ルルーシュの家なら…誰もいない。
「じゃあ、うちにおいでよ…。ナナリーもいなくて…結構凹んでいるから…」
ルルーシュが絞り出すようにカレンに答える。
そんな二人に声をかけてきた人物がいた…
「ルルーシュ…それに…君は…シュタットフェルト家の…」
なんたる偶然と云おうかなんと云おうか…
と云うより、間が悪いというか…
「ジノ…」
「昨日はごめんな…電話…出られなくて…。と云うか、学校は?」
目の前に立っているのは、ユーフェミアの兄であるジノであった。
「あなたが、ヴァインベルグ家の…。まったく…あなたのおうちって、ホントに一流企業なの?子供たちのやっている事って…滅茶苦茶よね…」
カレンがジノを目の前にまたまた云いたい事をズバッと云っている。
「カレン…」
ルルーシュが止めようとするが、カレンの方は止まるつもりもないらしい。
「ま、否定はしないね…。私も、ユフィも、企業を支える一族の人間としては…結構勝手な事をしている自覚はあるよ…。そして、そう云う噂が流れている事も…ね…」
ジノの態度にカレンがカチンと来たらしく、さらに声を荒げる。
「あんたたち兄妹の所為で…ルルーシュばかりが傷ついているじゃないの!別に、あんたの妹が誰と付き合おうと勝手よ…。でもね…後ろめたさがあるからって、ルルーシュに対してのあの態度はなによ!品性を疑うわ!」
先ほどのルルーシュ達のやり取りにはよほど頭に来ていたらしい。
仮にもお嬢様である女の子の言葉とも思えないほど声を荒げてジノに突っかかっていく。
カレンのその一言にジノが反応する。
「ルルーシュ…ユフィが君に何かしたのか?」
ジノの目は怖いほど真剣で…ルルーシュが怯えるほどだ。
ルルーシュはそんなジノが怖くなって、首を横にふるふると振っている。
「ルルーシュ…なんで隠すのよ…。あれだけ無神経な事をされて、云われて…なんであんたはそうやって、一人で抱え込もうとするわけ?この際、スザク自身痛い目に遭った方がいいのよ!」
カレンの言葉にジノはルルーシュの両腕を掴んだ。
「ルルーシュ!君が傷ついているんじゃ…意味がないだろう!私は君を守ると君に誓ったんだ…。ちゃんと…云って欲しい…」
ジノのそんな真剣な顔を見ていられなくなって、ルルーシュはただ静かに首を横に振った。
「本当に…何でもないんです…。私が…甘えていただけだから…」
力なく、ジノの問いに対して答える。
彼らに後ろめたさがあるなら、ルルーシュにだって、ジノに対する後ろめたさがある。
ジノと連絡がつかなかったとは言え…ルルーシュはスザクの優しさに縋ったのだ…。
それが…ユーフェミアに云われたから起こした行動であっても…ルルーシュはその優しさに縋ったのだから…
「ルルーシュ…私は言った筈だ…。君の中に私がいなくても、私は君を守ると…その言葉にウソ偽りはない…。ユフィが余計な事をしたなら、私が謝る…。済まなかった…」
ジノのその態度にカレンがカッと頭に血が上る。
「あんたねぇ…」
そう云いかけたカレンをルルーシュが制した。
「ジノ…それはあなたが謝るべき事じゃない…。それに…私には…あなたの優しさに甘える資格なんて…ないから…」
ルルーシュがジノに腕を掴まれたままの状態で静かにジノに答えた。
ルルーシュは静かに、昨日の事を包み隠さず話した。
ナナリーの事、帰ってきて、スザクが待っていたこと、そして、そのスザクの優しさに縋りついて泣いた事、そして、今朝、何故スザクがそんな事をしたのか…理由を知った事…すべて…
「だから…バチが当たったんです…。あなたの優しさに縋って、スザクの優しさに縋って…弱い私に…。だから、ジノは悪くないし、ジノが謝ることじゃない…。むしろ、私が謝らなくちゃいけないんです…。本当にごめんなさい…」
ルルーシュはそう云って、ジノに頭を下げた。
そんなルルーシュを見て、ジノがルルーシュの腕を放す。
その時のルルーシュは、決して涙を見せなかった。
凛として…自分を律して…震える事さえなかった。
「だから…私の事なんて、振っちゃってください。ただ…スザクの事は…ユーフェミアとスザクの事だけは…見逃してください。勝手なお願いだって解っています…。でも…今回の事は…スザクもユーフェミアも…悪くないから…」
ジノもカレンも、そんな風に自分を律しているルルーシュの姿に見とれた。
カレンは、ジノがルルーシュを欲した理由が解った気がした。
確かに…こんなに強く美しい姿を見せられたら…男なら黙ってはいないだろう。
むしろ、幼馴染でずっと一緒にいたスザクの目を疑ってしまうほどだ。
「ルルーシュ…。私は最初に云っただろう?必ず君を私の方に振り向かせて見せると…。あいにく、この程度の事で諦められるほど私は物分かりがよくないんでね…。むしろ、以前よりももっと君を欲しいと思うよ…。心ごと…」
ジノのとんでもない告白には、カレンも唖然とするしかないが…確かに…今のルルーシュはそのくらい言われて当然のようにも見えた。
気高く、全てを慈愛で包み込もうとする…
「あなたはもっと、頭のいい方だと思っていましたけれど…」
ルルーシュがやや呆れたように言葉を返した。
「君が彼に惹かれている事は知っていたからね…そんな事は、最初から覚悟の上だし、私にだってプライドはある…。やられっぱなしというのは性に合わない…」
何となく蚊帳の外に追いやられているような気分になっていたカレンが我に返る。
「ねぇ…あんた、本気で云ってるわけ?」
カレンがジノを睨みつけるように尋ねる。
「ああ、もちろん…。私はルルーシュがランペルージと関係なくても欲しいと思ったと思うよ…。彼女は…自分の価値を解っていないだけで…キチンと輝いているからね…」
このキザッたらしい言葉には少々呆れ果てるが、確かにジノの云っている事は間違いではないとカレンも思う。
「なら…キチンと妹の管理もしなさいよね…。あんな風にルルーシュを苦しめるようなら…私が許さないから…」
カレンの言葉にジノが最大限の礼を払って答えた。
「承知いたしました…」
ジノの態度はいちいちカレンの気に障る。
ただ…人を見る目は確かだとカレンは評価している。
「ま、あんたは人を見る目はあると思うわ…。少なくとも、あのバカスザクよりも遥かにね…」
カレンがそっぽ向きながら、そんな風に云うと、ジノが心外そうに笑った。
「おいおい…あんなガキと一緒にするなんて…心外だな…。ま、きちんと自分磨きが出来れば、私の次にいい男になれると思うがね…」
いたずらっぽく言い放つジノを見て、カレンがふっと笑った。
「おい…二人とも、私を抜きで何を話しているんだ…」
ルルーシュが間に割って入る。
「ごめん、ルルーシュ…。多分、この男がうそつきじゃなければ…バカスザクは恐らく、大丈夫よ…。ユーフェミアと付き合い続けても、別れても…ね…。ま、私はこの男をルルーシュの恋人とは認めないけれど…候補…くらいには考えてあげるわ…」
まるで、小姑の様な言い草である。
「ルルーシュ…今回の事は本当に済まなかった…。君がそんな風に自分を責めることじゃない。それに…君が弱っている時に…傍にいてやれなくて…本当に申し訳なかった…」
そう云って、ジノは再びルルーシュに頭を下げた。
「あ…あの…私…」
ジノのその態度にルルーシュは対応をどうしたらいいのか困り果てているようだが…
やがて、3人が笑いだした。
こんな状況の中、おかしなメロドラマでも繰り広げている気分だった。
「また…今度、動物園に…連れて行ってください…。その時にちゃんと、お互いに謝って、仲直り…って事でいいですか?」
ルルーシュがそう提案すると、ジノが笑って頷いた。
「ああ…それで充分だ…」
「はいはい…ごちそうさま…」
カレンとしては、ただ痴話げんかの仲裁をしていた気分になってきた。
「カレン、ありがとう…。色々と…ごめん…」
ルルーシュがカレンにそう謝った。
そして、塀の陰から、この様子をうかがっていた人物がいた。
先ほどの出来事で、気になって、ルルーシュとカレンを追ってきた…スザクだった。
スザク自身、今、自分の気持ちがどこにあるのかが、解らなくて…そして、今の会話で、ルルーシュが何を隠しているのか…大体把握した。
スザクの中で…様々な思いが渦巻いていて…そして、それが後悔なのか、罪の意識なのか…正直解らない気持ちを抱えていた。
でも…ルルーシュの犠牲の下の、今のスザクの状況を…何としても打開したい…そして、自分の力で、自分のことを決めて、それを守っていきたい…そんな気持ちに駆られていた。
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