幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 10


 ナナリーが入院した翌日…
ルルーシュの携帯にはこれでもかとばかりに電話やらメールやらが入っていた。
と云うのも、ナナリーが熱を出した時にとにかく片っ端からアドレスの中のプライベート用の携帯電話にかけまくったからだ。
とりあえず、大体の説明をして、騒がせてしまった事を謝ってはいるのだが…。
しかし、あそこまで誰にもかからなかったのに、いざ、用がなくなってしまうとどうして、こんなにもかかって来るのか…。
確かに、先にかけたのはルルーシュの方なのだが…。
とりあえず、病院には、何かあったらすぐに携帯にかけて欲しいと伝えてあったので、こんなにたくさんかかってきてしまうと、病院から何かの連絡が来た時には困ってしまう。
だから、ルルーシュは電話の応対が5件目になった時、昨日、電話をかけた相手に対して、メールを送ったのだ。
そうしたところで、電話の呼び出し音が落ち着いた。
「はぁ…こんなに騒ぎになるなんて…。だったら、私がかけた時に出てくれればいいのに…」
ルルーシュはぶつくさ言いながら自分の携帯電話を睨んでいる。
昨日…ナナリーを病院へ連れて行って、入院準備が一通り終えて、帰ってきた時に…自宅マンションの前に…スザクが立っていた…。
ルルーシュが電話をかけた時、ユーフェミアと一緒だった。
スザクがルルーシュの名前を呼んでいたから、あの時、スザクの携帯にかけたのがルルーシュだとユーフェミアは知っているだろう…。
今日、学校で会った時…また何か言われるのだろうか…
否、それよりも、スザクと顔を合わせにくい…。
いくら、弱気になっていたからと云って、あんな風に泣いてしまった事…
そして、あの場で、スザクに縋ってしまった事…
確かに、ジノに連絡がつかなかったとは云え…どうして振り払わなかったのか…
否、ここでこれだけごちゃごちゃ考えるなんて…自分は、自分でまだ、スザクを吹っ切れられずにいるのだろうか…
ルルーシュの頭の中では色々とぐるぐる回っている。

 教室の扉を開けると、まだ、スザクもユーフェミアも来ておらず、ルルーシュは内心ほっとする。
「おっはよ…ルル…」
「あ、おはよう…シャーリー…」
後ろから明るい声でシャーリーがルルーシュに声をかける。
ルルーシュもシャーリーの声に返事をする。
「なぁに?ルル、なんだか元気ないね?」
「あ…ちょっと…ナナリーが具合悪くなっちゃって…」
とりあえず、差し障りがないだろうと云う程度に返事をするが…
流石に、自宅に帰ってきて、玄関前にスザクがいて…と云う話は出来なかったが…。
変に考えてしまうのは…ルルーシュの中に何か、わだかまりがあるからだろうか…。
ルルーシュは…ユーフェミアの兄と交際していて…
スザクは…ユーフェミアと交際していて…
でも、昨日、あそこにいたのは…スザクで…
「ああ…もう!」
ルルーシュが思わず大きな声をあげてしまい、まだ全員そろわない教室ではあるが、そこにいた全員の視線がルルーシュに集まる…。
「え?あ…」
ルルーシュも焦って、周囲を見て、下を向く。
色々考えていると、いろんな事が思い出されて、つい、我を忘れてしまったらしい。
「ルルーシュ…なんか変よ?どうかしたの?」
ルルーシュの様子に驚いたカレンが声をかけてきた。
「あ…否…別に…。ナナリーが入院しちゃって…だから…ちょっと疲れているのかな…」
かなり苦しい言い訳なのは、解ってはいるのだが…とりあえず、今はそう云うしかない。
実際に、ナナリーが入院したのは事実だし、その騒ぎで疲れているのも事実で…
だけど、ルルーシュが本当に心に引っ掛かっているのは…別の事で…。
―――ウソは言ってない…ウソは…
自分の中で思う。
と云うか、ルルーシュ自身、ここで自分に言い訳している理由も、否、自分に言い訳していると云う自覚があるかどうかすら怪しいところである。
そうしている内に、スザクとユーフェミアのカップルも教室に入って来る。
気が付いてはいたが…あえてルルーシュは気がつかないふりをした。
ここで、ナナリーの事などを訪ねられたりしたら、また、ユーフェミアの気を害するだろうし…。
確かに、ユーフェミアにスザクとルルーシュの事を言われた時には、ユーフェミアの云っている事は彼女の妄想の中で被害者意識を抱いているだけだと思っていたのだが…。
ルルーシュは少しだけ思ってしまう…
―――何故、あの時あそこにいてくれたのがジノでなかったのだろう…
と…。

 とりあえず、スザクとユーフェミアは笑いながら話しているようで、内心ほっとしながらも、何となくチクリとするものを感じる。
あの時、ルルーシュがスザクに電話をかけてしまったのは失敗だったのかも知れないとさえ思っている。
「まったく…私も少しは大人にならなければな…」
口の中でそう呟く。
でも、彼らがちゃんと二人で登校して、笑いあっているのなら…多分それでいいのだとルルーシュは自分に言い聞かせている。
確かに、あれはルルーシュの甘えが招いた事かも知れないが…。
「なぁ…ルルーシュ…ナナリー…大丈夫か?」
ぼーっと考え事をしている時に声をかけられた。
「え?あ…おはよう…」
ルルーシュ自身、スザクが声をかけてきたという事は解ったようだが、何を言われたのか、把握できていなかったらしい。
「お前…大丈夫か?俺は、ナナリーは大丈夫か?って聞いたんだけど…」
スザクがあきれ顔で話してくる。
その隣にはユーフェミアもいて…
「妹さん、大変だったんですってね…。大丈夫ですか?」
ユーフェミアのその一言で、大体の事を把握した。
―――そうか…スザク、全部話したのか…
多分、ルルーシュが泣いたとか、そう云う話はしていないだろうが…
「あ…ああ…。元々身体の弱い子だから…。ちょっと入院が必要だけど…大丈夫だ…」
何とか我にかえり、そう説明した。
否、きちんとルルーシュを現実に戻したのは恐らく…ユーフェミアの一言だ。
「色々と済まない。昨日も、デート中に悪かった…」
ルルーシュはそう云って二人に謝る。
確かに、電話をした時にはスザクと一緒にユーフェミアがいたのだ。
「いえ…お兄様も心配してらしたんです。ルルーシュからの着信があったのに、何度かけ直してもつながらないって…」
あの後、ジノは何度もかけなおしてくれていたらしい…
「ああ…病院にいたから…。それで、今朝まで、電源切ったままだったの…忘れていて…」
ユーフェミアと、こんな風に話をしていると…なんだか不思議な感じがした。
昨日は…あんな茶番劇をしたのに…今日はルルーシュの妹の事を心配しての会話…。
本当なら、あの時、スザクの携帯に電話をかけた事を責められてもおかしくないと思っていたのに…。
「あとで、お兄様にちゃんと電話をして差し上げて下さいね…。随分、心配していましたから…」
ユーフェミアのこの言葉に…ルルーシュは何だか、頭から冷水を浴び去られた気分になった。
原因は…何なのか、ルルーシュには解らなくて…
「あと、お兄様にちゃんと言っておきましたから…。ルルーシュの電話には…ちゃんと出て差し上げて下さいね…って…。大切な妹さんが熱を出されて、ルルーシュの辛い時にお兄様の声を聞かせて差し上げられないなんて…ルルーシュが可哀想ですもの…」

 ユーフェミアの今の一言で…ルルーシュの中で何が引っ掛かっていたのか…解った気がした…。
否、今まで無視していたものに…無理やり目を向けさせられたとでも云おうか…。
―――そうか…私はバカだ…
ルルーシュの心の中で自分を罵倒する言葉が次々に出てくる。
そんなユーフェミアの言葉に流石にスザクも焦ったのか、ユーフェミアに声をかける。
「おい…ユフィ…」
「あら?スザク…だって、お兄様ってば、おうちに携帯を忘れて行ってしまったんですもの…。それで、ルルーシュはお兄様と連絡が取れなくって…。だから、私、スザクにお願いしたのよ?ルルーシュがどうしたのか、様子を見てきてって…」
流石に今の一言はルルーシュに強い衝撃を受けた。
―――そうか…スザクは…ユーフェミアに頼まれて…
ルルーシュは無言で席を立った。
さっきから少し離れたところで彼らのやり取りを見ていたシャーリーとカレンが心配そうにルルーシュを見ている。
「ごめん…ちょっと…具合悪いから…帰る…」
そう云って、カバンを持って教室を出て行く…。
その後をシャーリーとカレンが追ってきた。
「ルルーシュ…」
「ルル…」
二人が同時にルルーシュを呼びとめる。
ルルーシュは二人の方を見る事もなくただ立ち止まる。
「ごめん…本当に具合悪いんだ…。先生に…そう云っておいてくれないか?」
そう云って、ルルーシュがそのまま歩いていく。
二人はそのルルーシュを止める事が出来ずにいた。

 ルルーシュが見えなくなると、カレンがいきなり教室へと向かって歩き出した。
「カレン?」
シャーリーもその後についていく。
教室に入ると、スザクの前に進み出た。
そして…カレンの右手のひらが、スザクの左頬を力いっぱい張り飛ばした。
「!」
スザクがカレンのいきなりの行動に驚いて目を見開く。
何が起こったのか、よく解らないと言った顔だ。
そして、カレンの方を見ると凄く、怒りを湛えている表情が窺える。
「あんたね…ルルーシュがどうしてああなったのか…まだ解らないわけ?全てをルルーシュに押し付けて…自分たちだけは幸せですって…。いい加減、反吐が出るわ!」
カレンのこの言葉の意味が解るのは、スザクと、ユーフェミアだけだ。
シャーリーも何のことか解らないと言った表情をしている。
「なんで、私がそんな事を知っているか不思議って顔ね…。うちも、シュタットフェルトって云うそれなりの家なのよ…。嫌でも、そう云った情報は入って来る…。あんたたちが幸せになるのはいいわ…ルルーシュもそれを望んでいるんだから…。でも、ルルーシュから貰った幸せに後ろめたさがあるからって、ルルーシュの気持ちまで抉る事ないでしょ!あんたたち…最低よ!」
そう云って、カレンも自分のカバンを持って、教室を出て行った。
教室にいた生徒たちはスザクとユーフェミアを除いて呆然としている。
「スザク…大丈夫?」
ユーフェミアがスザクの傍に駆け寄って来る。
「平気だ…放っておいてくれ…」
スザクはユーフェミアを突き放す。
カレンに言われた事は…確かに…その通りだった。
スザク自身、ルルーシュが何も知らなくていいと言ったその言葉に甘えていたのかも知れない。
実際には、スザクはルルーシュがどうして関係しているのか、ちゃんとした事は解っていなかった。
ただ…ルルーシュに甘えていた事…今になって、痛感していた…。
―――本当に…これでいいんだろうか…

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