幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 09


 あの騒動の日の放課後…ルルーシュはすっかりクラスメイトに取り囲まれていた。
あの茶番劇のお陰でルルーシュはクラスメイト達に妙な印象を持たれてしまったらしい。 しかし、ルルーシュとしては、自宅で待っているナナリーの為に一刻も早く帰りたいのだ。 そんなところへ…
―――ピンポンパンポン…
『えぇ…1年D組、ルルーシュ=ランペルージさん、至急生徒会室までお越しください…。繰り返します…』>
生徒会長、ミレイ=アッシュフォードからの呼び出しであった。
クラスメイト達はルルーシュが生徒会に名前を置いている事を知っていたから、その放送での呼び出しはルルーシュにとっては天の助けだった。
「ごめん…ちょっと行ってくる…」
その一言だけ残して、カバンを持ってルルーシュは生徒会室へと向かった。
クラスメイト達は生徒会長の呼び出しを恨めしく思っていたようだが、それでも、あの生徒会長に逆らう事など出来る筈もなく…
ルルーシュの背中を見送るしかなかった。
ルルーシュの望まないところで、ルルーシュはどうやら、クラスの中で注目されるキャラクターにされてしまったらしい。
元々、それほど人付き合いの上手な方ではないルルーシュにとっては戸惑いばかりで、嬉しいとか、嫌だとか・・そんな判断すら今は出来ていなかった。
ただ…人と云うものの、見方と云うのは…簡単に変わってしまうものだという実感だけはあった。
それまで、ルルーシュが黙っていれば、その教室でいるのかいないのか、認識されていたかどうかすら解らない状態だったのに…。
あんな茶番劇一つで人の目に映る時の映り方が変わってしまう事に少々驚いているが…
しかし、あの時点で、ルルーシュにとって、あの呼び出しは天の助けとしか言いようがなかった。

「失礼します…」
 生徒会室の扉を開くと、ミレイの他にカレン、シャーリーが立っていた。
「あ、ルル、大丈夫だった?」
「あの状態じゃ、あんた、帰れなかったでしょ?妹さんの事だってあるんだし、会長にお願いしたの…」
シャーリーとカレンがルルーシュを見て、そう説明した。
クラスメイト達の態度の変化に気がついた二人が気を利かせたのだった。
「ありがとう…助かった…。ここ最近、寒くなってきて、ナナリーの体調も良くないんだ…」
ルルーシュは素直に二人に礼を云った。
ルルーシュにとって、何よりも大切な妹…
シャーリーもカレンも、そして、ミレイもそれを承知していた。
「ルルーシュ、今日は仕事はないから…裏から帰りなさい…。相変わらず、新聞部や放送部が正門の前で待ち構えているし…」
そう、ルルーシュがジノと付き合い始めてそれなりの時間が経っていると云うのに、いまだに他のネタが見つからないのか、追いかけ回されているのだ…。
「すみません…。じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます…」
そう云って、ルルーシュは自分のカバンを持って生徒会室から出て、裏門に向かった。
こちらの方は…人通りが少ない。
代わりに、運動部のロードワークの出入口になっていて…出発する時間と帰ってくる時間を避ければ人目につく事も少ない。
ルルーシュはそのまま裏口から学園を出て、いつも買い物しているスーパーによって、自宅へと帰って行った。

「ただいま…」
 ルルーシュがマンションの扉を閉めながら、自宅にいるであろうナナリーに聞こえる様に帰ってきた事を口にした。
しかし…ナナリーの声が返ってこない。
いつもならば、ナナリーの自室からナナリーが出てきて、
『おかえりなさい、お姉さま』
とルルーシュに笑いかけてくると云うのに…。
ルルーシュはどうしたのかと思うが…とりあえず、靴を脱いでナナリーの部屋の方へ歩いていく。
―――コンコン
「ナナリー?」
ノックをして、声をかけてみるが…返事が返ってこない…。
ルルーシュはナナリーの部屋に入ると…ナナリーがベッドに横になり、布団にくるまったまま、身動き一つない…。
「ナナリー?どうした?ナナリー!」
ナナリーの様子がおかしいと気がついたルルーシュがナナリーのベッドに急いで寄っていく。
そして、ナナリーの身体を返してナナリーの顔を見ようとした時、はっとした。
「ナナリー…いつから…?」
ナナリーがひどい熱を出しているのが解った。
「お…おねえ…さま…お…かえり…なさ…い…」
ナナリーが苦しそうにルルーシュに云った。
ルルーシュはナナリーの様子に真っ青になる。
高い熱を出して、まだまだ、熱が上がっているらしく、がたがた震えている。
そして、息が出来ているのか…と思う程、咳き込み始めた。
「ナナリー!」
ルルーシュは慌てて部屋を飛び出し、体温計をナナリーの脇に挟ませる。
そして、見てみると…
「39度…」
体温計の無情な表記にルルーシュが愕然と呟いた。
ナナリーはよく熱を出すが、ここまでの高熱はあまり出した事がない。
風邪をこじらせたり、インフルエンザにかかったとき以外は…
「インフルエンザ…」
ルルーシュがその自分の考えにびくっと身体を震わせた。
予防接種は受けさせていたのだが…

 ルルーシュは携帯を取り出して、とにかく、誰かを呼ぼうと携帯のアドレスを開く。
まず、シュナイゼルの携帯…
呼び出し音が3回なったところで、
『ただ今、電話に出る事が出来ません…。発信音の後でメッセージを…』
無情な電子アナウンサーの声にルルーシュはすぐに携帯を切り、次にジノの携帯にかける。
しかし、ジノの携帯からも無情な電子アナウンサーの声が聞こえてきた。
恐らく、まだ、大学で講義を受けているのか、他に用事でもあったのか…
とにかく、思いつく限りの電話番号に電話するが、まだまだ、大人たちは仕事をしている時間で、プライベート用の携帯は電源が切られている者ばかりだった。
最後に残されていた…スザクの携帯番号…
ルルーシュは半ば自失の状態でスザクの携帯を鳴らした…。
『はい…ルルーシュ?』
携帯の向こうから、スザクの声が聞こえてきた時、ルルーシュがほっと力が抜けて、涙が止まらなくなった。
「スザク…ナナリー…ナナリーが…」
泣きじゃくってしまってまともに話が出来なくなっているルルーシュにスザクも驚いていた。
『ルルーシュ!どうした?落ち着け…今、自宅か?』
「うん…。みんなに…電話したのに…誰も…出られなくて…。でも…ナナリー…凄い熱で…」
ルルーシュが泣きながら状況の説明をしている。
そんなとき…電話の向こうから無情な声が聞こえてきた…
『スザク…いつまで話しているの…?』
ユーフェミアの声だった…。
どうやら、一緒にいたらしい…。

 ルルーシュはその声にはっと我に返った。
「ごめん…スザク…。デート中だったんだな…。邪魔した…」
『え?おい!ルルーシュ?』
ルルーシュはそのままスザクの声を聞かずに電話を切った。
ここは…ルルーシュがしっかりしなければならない…そう思ったから…。
ルルーシュはきゅっと自分の涙を拭いて、ナナリーのところに戻った。
相変わらず、苦しそうに息をしている。
「まず…病院へ…連れて行かないと…」
ルルーシュは自分の携帯のアドレスからナナリーの行きつけの病院へ電話した。
普段通っている病院なので、ナナリーの名前とドクターの指定をして、状況を説明すると、来ればすぐに診てくれるとの返事が返ってきた。
そして、ルルーシュはタクシーを呼んだ。
熱を出している妹がいるので、玄関まで来て、車まで運んでほしいと伝える。
ルルーシュは自分の身支度を整え、ナナリーのパジャマを着替えさせて、出かける準備をさせた。
手荷物のチェックをして、タクシーが来るのを待った。
「ナナリー…大丈夫…。私が…ちゃんとナナリーの事…守るから…」
殆ど周囲の状況を把握できない状態のナナリーを抱きしめながらそう呟いた。

 病院へ連れて行って、診察を受けると…インフルエンザと診断された。
落ち着くまで入院させた方がいいと言われた。
確かに、自宅ではルルーシュしかいないし、ルルーシュに感染ってしまったら、元も子もない。
いつもナナリーが通っている病院なら、ナナリーも慣れているし、ルルーシュが自宅で看病するよりも確かだろう。
ルルーシュはとりあえず、自宅に戻ってナナリーの荷物を取って来る事にした。
日の短い冬なので、外は薄暗くなり始めていた。
とりあえず、病院の前で待機していたタクシーに乗り込み、自宅へと向かう。
そして、降りる時に、荷物を取って病院に戻ることを運転手に伝えて、いつも、いつ、ナナリーが入院してもいいようにとまとめておいた荷物を取って再びタクシーに戻った。
病院へ戻り、ナナリーの病室を確認して、荷物を持っていくと、マスクをしたナースが出てきた。
「あの…ナナリーは…?」
「大丈夫ですよ…。今は点滴を打って眠っています。ルルーシュちゃん、あなたも気をつけなさいね。今年はインフルエンザの流行が早いから…」
そう云って、何度もナナリーが入院している事もあって、顔見知りになっていたナースがナースステーションに戻って行った。
病室に入ると、ナナリーが眠っていた。
ナナリーの荷物を置いて、傍らのいすに腰かけた。
「ナナリー…」
ふと、ナナリーの名前を呼ぶ。
ナナリーが入院すると云う事は、また、ルルーシュの一人の夜が何日か続く事を示しているのだ。
暫く、ナナリーの様子を見ていたが、目を覚ます様子もないので、ナースに何かあったら連絡をくれるよう頼んで、自宅に帰る事にした。
病院は嫌いだった。
ルルーシュはいつもナナリーと二人きりで暮らしている。
ナナリーが入院すると、ルルーシュが一人になるからだ…。
それでも…ナナリーにとって、最善の方法である…ルルーシュはそう考える事にしていた。

 ルルーシュがマンションに帰ってきた。
そして、玄関の前に…人影があった。
この寒空の下…
その人影がルルーシュの姿を見つけると、駆け寄ってきた。
「ルルーシュ!」
その声の主は…スザクだった…
「ス…ザク…なんで…」
「それはこっちのセリフだ!あんな中途半端な状態で電話を切りやがって!ナナリーは?」
スザクの顔を見ると、結構長い時間待っていたのか、寒さで赤くなっていた。
「ごめん…。ナナリーは…インフルエンザだって…。落ち着くまでは…入院する…」
下を向いたまま力ない声でスザクに質問に答える。
「デート中に済まなかったな…。ちょっと疲れたから…」
そう云って、玄関の扉を開いて、中に入ろうとすると、スザクがルルーシュの手を引っ張った。
昔…ナナリーが具合悪くなって、ルルーシュが泣いていると、いつもスザクがギュっとして、ルルーシュの頭を撫でてくれた。
「大丈夫…ナナリーは…大丈夫だから…」
一瞬だけ…ただの幼馴染のルルーシュとスザクに戻った。
いろんな思いが込み上げて、ルルーシュはスザクの胸に縋りついて…泣いていた…

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