中学に入学して、それほど時間が立っていないと思いつつも、既に、季節は冬を迎えようとしていた。
去年の今頃は…ルルーシュの誕生日に近いからと、ナナリーと一緒に色々準備していた気がする。
小学生から中学生になったと云うだけで、これほど自分の周囲の環境が変わる事になるとは思わなかった。
学び舎が変わるだけで、いつもと同じように過ごすのだと思っていた。
しかし、7月のスザクの誕生日の時にはルルーシュからではなく、ユーフェミアからバースデープレゼントを貰った。
正確には、当日、本人がくれたのはユーフェミアで、ルルーシュとナナリーからのプレゼントは、家に帰った時に、母親から渡された。
ルルーシュの誕生日はスザクの誕生日より5ヶ月ほど遅い。
ユーフェミアと付き合いだしてから、同性との友達と遊びに行く事もあるが、基本的にはいつもユーフェミアと一緒にいる気がしている。
そして…ルルーシュがスザクに近づかなくなった。
ユーフェミアの家があの、ヴァインベルク家である事は知っていた。
だが、その家の抱える複雑な事情と云うのを知らなくて…結局、今、スザクがユーフェミアと付き合っていられるのは、ルルーシュのお陰なのだ。
ルルーシュ自身は
『私が決めた事だ!スザクには関係ない!』
と切って捨てる事だろう。
しかし、スザクとしては、やはり心に何かが引っ掛かって来る。
一時は、傍から見ていて、何かを抱えていると云うのがよく解るようなルルーシュの態度ではあったが…
ユーフェミアの兄、ジノと付き合い始めて、少しずつ、ルルーシュが笑うようになっている。
ただ…スザクと話すときは…スザクもいろいろ気にし過ぎている所為もあり、ルルーシュと話す時にはぎくしゃくしてしまう。
―――誕生日なんだから…いつもみたいに『おめでとう』って云いながら、ルルーシュに何かをあげても変じゃないよな…
と、何を悩んでいるのだか…と第三者から見れば、ただのおバカさんに見えるような事で悩んでいた。
そんな時に…スザクの携帯が鳴った。
「はい…」
発信元を見る事もなく、スザクは携帯に出た。
『もしもし…スザクさんですか?』
電話の相手はナナリーだった。
「やぁ…ナナリー…久しぶり…。元気だった?」
ルルーシュの妹、ナナリーとはスザクも小さい時から仲良く遊んでいた。
ルルーシュはやたらと男っぽく振舞うのだが、ナナリーは反対に、かわいらしい所作の似合う少女だった。
『はい…最近、スザクさんってば、ちっとも遊びに来て下さらないんですもの…。お姉さまの誕生日も近いですし…また去年みたいに…』
ナナリーの明るい声が心地よかった。
ルルーシュとは元に戻った筈なのだが…それでも、何となくぎくしゃくしているような気がしてならない。
「そうだね…ナナリー…今度、一緒にプレゼントを買いに行こうか…」
ナナリーが一通り話し終えた時にスザクが提案した。
ナナリーは小さい頃から身体が弱いので、ルルーシュが心配するだろうが、恐らくは、スザクと一緒であれば、連れ出しても文句は言われない。
それに、ナナリー自身、あまり嬉しそうに話すので、ついつい、そんな事を提案してしまった。
『本当ですか?じゃあ、お姉さまの誕生日の前の日曜日に…』
「解った…。じゃあ、朝、ナナリーを迎えに行くから…」
そう云って、電話を切った。
ナナリーのあの口ぶりだと、ナナリー自身もルルーシュを心配しているようだった。
確かに、スザクがユーフェミアと付き合いだして、ルルーシュは変わった気がする。
本心を隠し、何かを…否、スザクを守る為にいつも苦しそうにしていた。
でも、この間の生徒会室では…ルルーシュは普通に話をしてくれた。
そして、ジノからかかってきた電話を受けた時…ルルーシュはスザクの知らないルルーシュの顔をしていた。
幼馴染である事は今も変わらないし、変えようもない。
幼い頃、
『お互いに別の人を好きになって、別の人と結婚しても、俺達はずっと幼馴染だからな!』
スザクがそんな事を言うと、ルルーシュが笑いながら…
『当たり前だろ?過去は変わらないし、私はお前の幼馴染でいたいし…。私、お前と一緒にいると楽しいよ…スザク…』
そんな事を云って笑いあっていた。
ルルーシュの母がランペルージ氏と結婚した時だって、ルルーシュもナナリーも朱雀対する接し方は変わらなかった。
しかし…中学に入って…スザクがユーフェミアを好きになった頃から…何かが変わった。
ユーフェミアの事は好きなのだが…やっぱり、男同士で遊びに行きたいとも思うし、ルルーシュとナナリーとも話をしたいと思う。
ただ…友達曰く、
『女ってのは、自分の恋人にはずっと一緒にいて欲しいものらしいぞ…』
とか言われた。
別に…常に一緒にいる事で飽きたりしないのか?
と言うか、中学1年の身空で一人っきりと一緒に居続けるのはなかなかしんどいものがある。
「別に…俺が他の友達と一緒に遊んだって、ユフィの事はちゃんと好きなのにな…」
最近のユーフェミアはやたらと不安そうにスザクと一緒にいたがるのだ。
ナナリーから電話を貰った翌日…学校へ行くと、すぐにスザクのところにユーフェミアが寄ってきた。
「おはよう…スザク…」
いつもにこにこ笑っていて…恋人にするには理想的だと思う。
見た目は可愛いし、ちょっと天然っぽいところはあるが、基本的には優しいし、スザクの事も好きでいてくれているようだ。
しかし、ここ最近のユーフェミアの態度はまるで、何かに怯えているような感じがする。
「おはよう…ユフィ…」
いつものように笑顔で挨拶を返した。
そして、ユーフェミアが話を続ける。
「ねぇ、スザク…今度の日曜日…一緒に映画でも見に行きませんか?」
ユーフェミアがにこにこしてスザクをデートに誘っている。
朝からこの二人がいちゃいちゃしているのはクラスメイト達にとっては珍しくもなくなっているので、話している内容は聞こえていても、基本的には完全に聞こえないふりである。
ルルーシュもそんな二人のやり取りに特に興味を示すでもなく、シャーリーやカレンと話している。
しかし、日曜日は…ナナリーと先約があった…
「あ…ごめん…今度の日曜日は…」
そう云いかけた時、ユーフェミアの表情が曇っていくのが解った。
「予定…あるんですか?」
やや落ち込んだようにスザクに尋ねた。
「ああ…ごめん…。その次の日曜日なら…」
今年のルルーシュの誕生日は金曜日だから、その後の日曜日なら問題はない。
だから、そのつもりで答えたのだが…
「今度の日曜日がいいんです!今度の日曜日でなくてはだめなんです!」
普段では見る事の出来ないユーフェミアの態度だった。
流石にこのユーフェミアの変化に教室中の視線がスザクとユーフェミアに集まった。
「お…おい…ユフィ…。別にその次の日曜日には予定はないだろう?だったら…」
スザクがそう云いかけると、ユーフェミアが泣きそうになりながらスザクを睨んだ。
「だって…その次の日曜日では…ルルーシュの誕生日が過ぎてしまいます…」
その言葉に驚いた表情をしたのは…スザクと云うよりも、無関係だった筈のルルーシュだった。
「ねぇ…ルルーシュ…あんたって、ユーフェミアのお兄さんと付き合っているんでしょ?何でユーフェミアがあんたの誕生日に拘ってるのよ…」
その台詞を聞いたカレンがルルーシュに尋ねた。
「私がそんな事知る訳がない!あの二人の痴話げんかに付き合っていられるか!」
「でも…ユーフェミアさん…ルルを睨んでるけど…」
そうシャーリーに言われて、ユーフェミアの方を見ると、確かに…涙ぐんでルルーシュを睨みつけている。
ルルーシュはやれやれと言ったため息をついた。
「放っておけ…本当に私は関係ない。それに、今度の日曜日は私はシュナイゼル義兄さまのところに行ってくるし…」
そう云って、ユーフェミアから目を逸らせた。
これ以上、あの二人に振り回されるのは御免だと言わんばかりである。
「ユフィ…なんでそんなにルルーシュを気にしているんだ?ルルーシュは君とお兄さんと付き合っているんだろう?」
スザクが宥めるようにユーフェミアに声をかけるが…
「でも…経緯が経緯ですもの!私だって…」
ユーフェミアがそこまで云いかけた時、ルルーシュが席を立ってユーフェミアの前まで歩いていく。
「ユーフェミア…一体何を勘違いしているのかは解らないが…今のその言い方は私に対しても、あなたのお兄様に対しても大変失礼な発言だ!撤回して頂こうか…」
ルルーシュは必死に怒りを抑えている状態で、それでもその怒りを抑えきれずにいると云った状態でユーフェミアを見る。
そのルルーシュの態度と言葉に教室内がしんと静まり返った。
その後、ルルーシュは言葉を発する事もなく、ユーフェミアの言葉を待っていた。
「わ…私は…」
暫く続いた沈黙にユーフェミアが耐えきれなくなったのかユーフェミアが何かを云いかけて廊下へ出て行った。
「ユフィ…」
スザクが後を追おうとした時、ルルーシュが声をかけた。
「スザク…ナナリーが我が儘言って済まなかったな…。ナナリーには私から言っておくから…日曜日はユーフェミアに付き合ってやれ…」
その一言だけ言うと、ルルーシュは自分の席に戻った。
スザクはその言葉に戸惑いを覚えたが、すぐにユーフェミアを追って行った。
「とんだ茶番劇だな…朝から何をやっているんだか…あの二人は…」
呆れたようにルルーシュが席に戻っていすに腰掛ける。
すると、ルルーシュの周囲にはクラスメイト達がどやどやと集まってきた。
「ランペルージさんって…かっこいいのねぇ…」
一人の女生徒が口を開くと、それに呼応して、集まってきた生徒たちが色々云い始める。
さっきの茶番劇でどうやら、妙な感情を抱かれてしまったらしい。
シャーリーもカレンも輪の外に避難してしまっている。
―――あの裏切り者たちめ…
ルルーシュはそんな事を思いながら、輪の中でどうしていいか解らない状態でその場にいたのだが…。
―――キーンコーンカーンコーン
始業のチャイムが鳴った。
そして、教室の入り口には担任が立っていた。
「お前ら…さっさと席に着け!」
そのどなり声で蜘蛛の子を散らすように生徒たちがルルーシュから離れて行った。
内心、助かったと思いつつ、さっき出て行ったユーフェミアとスザクの事を気にしていた。
結局、スザクは一体何をしていたのか…と云う、怒りにも似た感情が湧きあがる。
昨日、ナナリーが日曜日に出かけると言っていた時には、嫌な予感はしていた。
ルルーシュはナナリーと出かけるのは、家族以外の同伴での外出はスザク以外は許していなかったから…。
出かけると言われた時、それ相応の予想はついた。
―――しかし、ユーフェミアがあそこまで怒るとは…
ルルーシュの中で、再び何かが変わっていくのかも知れないと…何かがルルーシュに訴えているような気がした。
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