幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 03


「ユーフェミアをランペルージ家に嫁がせるよりも…私が君を欲しいと思うよ…ルルーシュ=ランペルージ嬢…」
 そのジノの言葉にルルーシュは一瞬目を丸くし、再び、鋭いアメジストの光をジノに向ける。
「あなたはご自分の立場を解っていて、私にそんな事を仰るのですか?」
「まぁ、一応私は次期当主候補だ。君のような女性なら、ランペルージ家の中の君の立場を考えても、一族を納得させる自信はあるよ…」
ジノはランペルージの家族構成をよく知っているようだった。
ルルーシュの義父と義兄が早々、ルルーシュをヴァインベルク家の跡取りの婚約者になどと考える筈がなかった。
対等な立場での相互協力の為の婚約…と言う事にはなっているが、家の力を見た時には、対等であると思う方が愚かである。
ルルーシュには目の前のジノの考えている事が解らない。
そして、スザクは目の前のこの状況が全く理解できない。
そんな二人の様子を面白そうに笑いながらジノが口を開く。
「私は、君自身を気に入ったんだよ…ルルーシュ=ランペルージ嬢…。君は、君の価値を知らな過ぎる。それは、いろんな意味で罪だと思うけどね…」
ジノの意味深な言葉にルルーシュはさらに困惑し、スザクは完全に自分に関係はあるのに、入っていけない話となってしまっている。
「ルルーシュ…お前、俺に何を隠しているんだ?何で、ここでユフィの兄貴が出てきて、更にはお前の話になっている?」
業を煮やしたようにスザクが口を開いた。
状況も事情も知らないスザクにしては当然だろう。
「……」
「枢木スザク君、君の交際相手のユーフェミアは私の妹で、ヴァインベルク家の次女で、ランペルージ家のシュナイゼル氏の婚約者だ…」
「ジノさん!」
ジノの言葉にルルーシュが思わず大声を出した。
「おや、ルルーシュは隠し通すつもりだったのかい?どの道、そんな事をランペルージ家はともかく、ヴァインベルク家が許す筈がないだろう…」
不敵な笑みを浮かべながらジノはルルーシュを見る。
ルルーシュはジノを鋭い眼光で睨みつけている。
―――私が何とかする為の対策を考える時間すら与えなかった…。一体…何の為に…
「いい目だ…。大切な者を守ろうとする者は良い顔をして、強くなる。ますます気に入ったよ…ルルーシュ…」

 ルルーシュが怒りと驚愕と、底知れないジノに対して恐怖に近い感情が芽生えてきた。
「そんなに泣きそうな顔をしないで…。別に、私は君を困らせたい訳じゃないんだ…。どうせ、彼はユーフェミアの恋人なら、私が君を貰い受けても構わないだろう?」
「な…何を言っている…!」
「君が今、守ろうとしている者たちを君の手で守る方法が一つある…」
ジノのその言葉にルルーシュはびくっとなる。
そんなルルーシュを見て、ジノは嬉しそうに微笑んだ。
「やはり君は頭がいい…。君が、そうしてくれれば、私はスザク君と、ユーフェミアとの仲を私の持てる全てを持って守って見せよう…」
ジノの言葉にルルーシュは全身をぶるぶる震わせている。
「そこに、私の気持ちがついていかなくても良いと仰るのか?あなたは…」
「大丈夫…そんなものは、私の手で、手に入れて見せるよ…」
ジノは相変わらずの笑顔で、ルルーシュを見ている。
スザクはと言えば、あまりの事で言葉も出てこない。
自分の好きになった相手がそんな相手だったとは…予想だにしなかった。
確かに、雰囲気からはスザクとは育ちが違うとは思っていたが…
それでも、こんな大きな話になるとは、考えてもみなかったから…。
「少し…時間を頂けるだろうか?義父様や兄様にも…相談しなければならないから…。もちろん、あなたの申し出を受ける場合には『私の気持ち』として、義父様と義兄様には伝える…」
絞り出すようにルルーシュが言葉を紡いだ。
「ああ、構わないよ…。私は気が長い方だ。なんだったら、君の心の中に存在する相手が消えるまで私は待っている。勿論、その間も君は私が守ろう…」
「解った…出来るだけ、早く…お返事しよう…」
「その時には、その口調が…もう少し、女性らしくなっている事を期待しているよ…」
「一言多い奴だな…」
ルルーシュはジノを一瞥して、スザクすらもその場に残して、その場から立ち去ろうと足を進める。
ルルーシュのそんな姿を見て、一度、ジノの方を見る。
「あの…俺には状況がまったく掴めてはいないのですが…どうやら、俺とユフィの事はユフィの家の方では歓迎されてはいないという事なのですね?」
スザクは胸を張り、ジノの目を見て尋ねた。
ジノは、『いい目だ…でも、まだまだ青い…それに、世の中を知らない目だ…』と思いつつも、返事を返してやる。
「まぁ、そう云う事になるな…。君は、いい友人を持ったね…。彼女が男であれば、きっと君の無二の親友になったに違いないのにな…」
そう言って、ジノは踵を返した。
そして心の中で呟いた。
―――まだまだ、女を見る目も青いな…

 ルルーシュは、ただ、一目散に家路を歩いていた。
多分、スザクを守る為にはジノの申し出を受ける事が一番だし、スザクが何も知らないままであれば、もっと良かったのに…と思う。
ジノは…ルルーシュのスザクへの気持ちを知っているようだった。
確かに、必死に彼を守ろうとしている姿を見れば、誰でもそう思うだろう。
「でも、なんで私がスザクと一緒にいる時にそんな話をした…。私との取引なら、別に、私一人の時で充分の筈だ…」
早歩きしながら、呟く。
あんな中途半端な情報のまま、スザクがルルーシュに何も聞いてこない訳がない。
全部説明したら…スザクが苦しむだけだ。
それに、ジノは、ユーフェミアがこういった状況に陥ると承知の上でスザクと付き合っていたと言っていた。
普通の中学生なら、中学生同士の可愛らしい恋愛だ。
大人から見たら、『ごっご』の遊びの範囲である。
しかし、ここに、ランペルージの名前とヴァインベルクの名前が絡んでくるとそう云う訳にはいかない。
当然ながら、ユーフェミアにはそう云った教育が施されている筈である。
遊びの範疇であれば、一族も何も言わないだろう。
しかし、ユーフェミアの中でそうではないと、少なくともジノは思った。
だから、あんな風に釘を刺しに来たのだ。
「おい、ルルーシュ!」
背後から声をかけられ、肩を掴まれた。
ルルーシュはスザクの方を見る事が出来なかったが、その場に立ち止まった。
スザクはそんなルルーシュの目の前に移動し、両肩をつかんで、がくがくと揺らした。
「お前…全部知っていたのか?しかも…随分以前から…」
スザクは行き場のない怒りを感じているようだった。
本当は、その怒りはルルーシュに向けられるべきものではない。

 スザクはその辺の事を解っているのかどうか、解らないが、ルルーシュの肩を揺さぶっている。
とりあえず、ルルーシュはなされるがままになって、スザクから視線を外している。
「ルルーシュ!答えろ!」
「スザク…痛い…手を離せ…」
ルルーシュは静かに言葉を口にした。
スザクははっとして、ルルーシュの方から手を話した。
「お前は…多分、知らない方がいい…。大丈夫だから…。お前の事は、私が守るから…。お前は、ユーフェミアと幸せになればいい…」
感情のこもらない笑顔と言葉だけがやっと出てきた。
そう、何も知らない方がいい。
知らないまま、幸せになった方がいい…。
もし、ルルーシュがジノの望む通りにすれば、円満解決だ。
ユーフェミアだって、スザクに教えなかったのは、ルルーシュを利用する為だったのかも知れない。
なら、それに乗って、スザクが笑顔でいられるなら…多分…それが一番いい…。
「それに、これは私がお前に話すべき事じゃない。お前の恋人はユーフェミアだ。ユーフェミアから聞くのが筋だろう?」
確かにその通りだ。
ユーフェミアとて、言いにくかっただろうが、これは、ルルーシュからスザクに話すべき事じゃないし、スザクだって、蟠りを残さない為にもユーフェミアの口から聞くべきだと思った。
「恐らく、私はスザクの知りたい事を全て知っている。でも、それは私が話すべきじゃない。それに、スザクがその事を尋ねて、答えないような相手なら、スザクにとって、好きになる価値はないと思うから…」
我ながら、ひどい事を言っていると思う。
中身は正論でも、もっと言い方はあるだろう。
「私は、スザクの事が好きだよ…。お前がユーフェミアを好きでも…。だから、私は私の出来るやり方で、お前を幸せにしてやる…。だから…お前は幸せになれ…」
こんな形で告白する事になろうとは…。
しかし、ルルーシュは、これが最善の策だと考える。
そうすれば、誰も傷つかない…その時は本気でそう思っていた。

 自宅マンションへ帰ると、ルルーシュは、シュナイゼルと連絡を取った。 ジノと、交際したいと…。
シュナイゼルの驚きの隠せない様子は受話器の向こうのシュナイゼルの声で解った。
ランペルージ家で、相手がそれなりの家の相手であるのなら、政略的、戦略的にも放っておけない場合もある。
ライバル企業の相手と恋愛に落ちても、周囲は認めないし、当人同士は不幸になるだけである。
今回は、既にシュナイゼルの婚約者がヴァインベルク家のユーフェミアだ。
これが現実になったら、ややこしい事この上ない。
「義兄様、私は、ランペルージの名を戴いてはいますが、政略的にも、戦略的にも役に立てる立場ではありませんし、ジノさんも今は私を愛してくださっているようですし…。それに、途中心変わりをしても、普通の恋愛にはつきものですから。私はそう言った価値のない立場ですから、普通恋愛も許されるでしょう?」
そんな訳ない事を承知はしているが、そうでも言わなければ、事が穏便に済む筈もない。
それに、遊びの相手であれば、一向に構わない。
今の段階ではヴァインベルクの名前よりも、ランペルージの名前の方が強いのだから… 「何があったんだい?」
「何もありません。私の意志です。」
今回はルルーシュもそう言って、シュナイゼルにさえ譲らなかった。

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