幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 02


 振り返ると、そこには、ジノ=ヴァインベルクがいた。
「確か…あなたは…」
「ジノ=ヴァインベルク…ユーフェミアの兄だ…」
「私は、ルルーシュ=ランペルージ、こちらは妹のナナリー=ランペルージです」
ルルーシュは目の前の長身の男に頭を下げた。
何の用だろうと不思議に思っていると、ジノがふと、真面目な顔をして、ルルーシュを見た。
「ユーフェミアの学校での様子を教えてくれないだろうか?あと、知っていたら…枢木スザクの事を…」
「!」
やはり、ヴァインベルク家はスザクの事を察していたらしい。
「スザクさんの?」
そこに驚いて声を出したのはナナリーの方だった。
「君たちは、枢木スザクの事を知っているのか?」
ルルーシュはただ…黙っている事しか出来なかった。
ルルーシュの変化を見て、ナナリーも口を噤んだ。
「教えてほしい…。これは、こちらとしても重要な問題なんだ…」
言われている事は解る。
ルルーシュは彼らが惹かれあっている事を知っているから…口を噤むしか出来なかった。
もし、事の次第を彼に教えたら、スザクとユーフェミアは無理矢理でも引き裂かれる事になる。
そう思った時、ルルーシュの中で、何か黒い感情が現れる。
ユーフェミアがスザクの前からいなくなれば…
そう思った時にルルーシュは左右に頭を振って、そんな考えを振り払った。
「スザクは、私の幼馴染です。ユーフェミア嬢と何があるのかは私は知りません。それに、スザクは…私の…」
咄嗟に口をついたウソ…。
多分、こんなウソ、きっとあっと云う間にばれてしまうけれど、明日にでも別れさせられてしまう事はないだろう。
スザクに黙ってこんな事を言っては、後で何を言われるか解らないが、多分、これで、何か対策を考える時間が多少は出来る筈…。
「……そうか…。君の必死な気持ちを汲んで、その言葉を信じる事にする…」
ジノは、そんな言葉をルルーシュに投げかける。
「……」
ルルーシュは、ジノの顔を見る事が出来ず、俯いてしまう。
そんなルルーシュを見て、ジノはぽんぽんとルルーシュの頭を軽く叩いた。
「ありがとう…。ユーフェミアはいい友人を持った…。済まなかったね…ルルーシュ…」
その一言を残し、ジノはその場を去って行った。

 ルルーシュの様子の変化に気づいたナナリーがルルーシュの傍に寄ってきた。
「お姉様…スザクさん、もしかして…」
「言うな!今、ここでその事が公になったら…ランペルージ家はヴァインベルク家に圧力をかける。そうしたら、スザクの家も…」
「お姉様…」
ナナリーも事の次第を察して、黙り込んだ。
あのジノと云う男、全てを解った上で、ルルーシュにああ云う態度を取ったのだ。
ルルーシュの弱みを握ったところで、彼に何の得もありはしない。
一体何の為に?と云う思いよりも先に、これから、どうしていく事がいいのかを模索しなくてはならない。
ルルーシュの立場は所詮、ランペルージ家当主の後妻の子供…。
ランペルージ家の次の当主がシュナイゼルにでもならない限り、ランペルージ家にルルーシュの居場所もナナリーの居場所もない。
生活の保証はされるし、当主と、次期当主候補の寵愛を受けていると云うだけであって、ルルーシュとナナリーには何の基盤もない立場なのだ。
ヴァインベルク家が、ルルーシュがジノと婚姻を結ぶ事よりも、ユーフェミアがシュナイゼルと婚姻を結ぶ事の方が確実と踏んでいるから、こう云った選択になったのだろう。
正直、今の自分の立場が歯痒いが…どうする事も出来ない。
どうする事も出来ないのに、こう云った情報だけは入ってくる。
解っていても何も出来ない自分の無力さに泣けてくる…。
しかしこの状況を打破する方法を…ルルーシュには解らない。
相手は、世界の経済の一角を担っている大企業が二つ…。
それに…自分の中に、その現実以外の理由が渦巻いている。
―――ユーフェミアがいなくなれば…スザクは、また、ルルーシュの元へ戻ってくるかも知れない…
そんな思いが気持ちの中にない訳じゃない。
しかし、そんな考えをぶんぶんと頭を左右に振って振り払う。
そんなルルーシュを見たら…スザクはきっと、ルルーシュを嫌いになる…。
それが怖い。
そして、そんなドロドロした自分の気持ちが嫌で堪らなかった。
そんな、自分の立場を振りかざして付け入るなんて…そんなのは最低の人間のする事だ…。
ルルーシュはそう思うと、そんな事はルルーシュのプライドが許さなかった。
ルルーシュの母のように、いつも毅然としていたい…ルルーシュの目標でもあり、尊敬する母の姿を思い浮かべる。
―――そう…母様は…こんな時、絶対に、二人の幸せの為に動く…
そう思って、ルルーシュは再び顔を上げた。

 翌日、学校へ行くとユーフェミアは欠席していた。
スザクの様子はいつもと変わらない。
昨日の今日で、ユーフェミアも学校へ来るのが辛いのかも知れない。
ヴァインベルク家でもユーフェミアとスザクの事が問題になったのだろうか?
ジノには取ってつけたようなウソをついたが、そんなものが通用しているとも思えない。
しかし、昨日、ランペルージ家の息女としてユーフェミアとは対面しているので、ランペルージの名前を使えば、ユーフェミアに会う事は可能だろう…。
今のルルーシュには…多分、このくらいしか出来る事はない。
ヴァインベルク家も仮にもランペルージ家の令嬢であるルルーシュを蔑ろにする訳にもいかないだろう。
「おはよう…ルルーシュ…」
「ああ…今日はユーフェミアは休みなのか?」
「うん…。今朝、風邪を引いたってメール貰ったよ…」
「そうか…」
まだ、携帯電話は取り上げられてはいないらしい。
でも、それもいつまで続くのか…
状況を知っているルルーシュは何も知らずに笑っているスザクが、いつまで笑っていられるのだろうと…心の中で考えてしまう。
一応、表向きにはスザクの事は気づかれていない事になっているから、スザクに対して何かをされている様子はない。
しかし…昨日の時点で、既にジノには知られている。
あの場ではやり過ごしてくれたし、今でも一応こうして普通にスザクが学校へ来られているところを見ると、まだ、スザクの方には何もされていない事は解る。
まずは、ユーフェミアから…と言う事か…。

 しかし、腑に落ちない事もある。
ユーフェミアはルルーシュと違って、ヴァインベルク家の正妻の正式な息女だ。
将来、こうした政略結婚をしなくてはならない事を解っていた筈だ。
それなのに、一般の中学に通い、スザクと交際している…。
ユーフェミアの我が儘でこの学校に来たとしても、それには必ず、条件が付けられている筈だ。
特に、色恋沙汰など絶対厳禁であった筈…。
それを解っていて、スザクに黙って、スザクを振り回していたのだろうか?
そして、ルルーシュでも知っていた事なのだから、中学入学の時点で、シュナイゼルとの婚約は知らされていた筈だ。
様々な事情を考えた時、ルルーシュはユーフェミアに対しては大きな怒りを感じる。
人には人の役割がある。
ユーフェミアもその役割を持った人間だ。
そう云う家に生まれたからにはその自覚が必要である事は学ばされる筈である。
解っていて、スザクと交際していたのかと思うと、ユーフェミアを許せなくなりそうだ。
―――スザクは…真剣にユーフェミアの事を想っているのに…

 放課後、久しぶりにルルーシュはスザクに声をかけた。
ユーフェミアと交際を始めてから一度もスザクと帰宅した事がない。
「スザク、久しぶりに一緒に帰らないか?」
「ん?ああ、そうだな…」
ルルーシュの突然の申し出にもそれほど深く考える事もなく、スザクはルルーシュの誘いに乗った。
二人は久しぶりに並んで歩いていた。
ただ、ルルーシュの方は、様々な現実に、押し潰されそうになっており、言葉が出てこない。
そんなルルーシュを心配しながらも、スザクはただ、ルルーシュの隣を歩いていた。
「なぁ、ルルーシュ…今日は元気がないな?昨日、家族で食事をしたんだろ?」
スザクには家族で食事をした事にしていた。
細かい話をする訳に行かなかったから…。
「ああ…久しぶりに義父様、母様に会ったよ…」
その後の言葉が続かない。
今ある現実を…スザクに伝えるべきか、否か…
そんな事を考えている時、ふと後ろから声をかけられた。
「ルルーシュ…」
そこには、昨日の食事会で会ったジノ=ヴァインベルクが立っていた。
「ジ…ジノ…さ…ん…」
どうやら、確証を得る為に尾行られていたらしい。
目を丸くしてジノを凝視する。
どうしたらいい???
そんな事が頭をぐるぐる回っている。
「ルルーシュ?」
何も知らないスザクがルルーシュの名前を呼ぶ。
「君が、枢木スザク君か…。私はジノ=ヴァインベルク…ユーフェミアの兄だ」
「ユフィの?」
スザクのその一言にジノがふっと笑ってルルーシュを見た。
「ユフィがこんな呼び方をさせる奴だ…。君も、せっかくお友達の為についたウソも、彼本人に明かされてしまったね…」
軽い調子でジノがルルーシュに言葉を続けた。
そのジノの態度にルルーシュは拳を握り震わせ、ジノを睨んだ。
「一つ、伺いたいのですが…」
「なんなりと…ルルーシュ嬢…」
その呼び方にルルーシュもかなり腹が立ったようだ。
「ユーフェミア嬢は、こう云う状況になる事を承知でスザクと付き合っていたのですか?スザクの周囲の人間を巻き込んで…スザク自身を傷つける事を承知で…」
怒りが止められない様子でルルーシュはジノに食ってかかった。
「?ルルーシュ?」
一人だけ話の呑み込めていないスザクだけが不思議そうな顔をしている。
「だとしたら?」
ジノはまるでルルーシュを逆撫でするように答えた。
「だとしたら…私はユーフェミアを許さない!絶対に…」
怒りに声を震わせてジノを睨みつけながら言った。
ジノはそんなルルーシュに向かってふっと笑ってこう答える。
「ユーフェミアをランペルージ家に嫁がせるよりも…私が君を欲しいと思うよ…ルルーシュ=ランペルージ嬢…」

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