幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 01


 入学式から半年ほど経ってくると、新入生たちもだんだん学校生活に慣れてきている。
ルルーシュ自身も、クラス内に仲のいい女友達もできた。
スザクもまた、親しい友人が出来ているようだった。
これは小学生の頃から変わらない光景…。
ルルーシュもスザクも、お互いに幼馴染で仲がいい事は小学生の頃ならクラスの全員が知っていたし、二人が一緒にいる事が珍しくなかったから、誰も何も言わなかった。
しかし、中学に入り、周囲の環境が変わった。
ルルーシュとスザクが幼馴染である事を知る人も、小学生の頃に比べると少ない。
そして、お互いがお互いの世界を作り出すようになり、少しずつ距離を置いている事が解る。
意図的にではなく、自然にできる、お互いの距離…。
入学式のときに、自分の気持ちに気づいて以来、イライラする事も多くなり、スザクと目を合わせる事も出来なくなっていた。
まるで、自分が何か悪い事をしているような気さえしてくる。
それに…ユーフェミア=ヴァインベルクの存在…。
ルルーシュは名前を聞いた時に驚いた。
まだ、非公開ではあったが、ユーフェミアはルルーシュの義兄、シュナイゼルの婚約者となる筈の相手である。
ルルーシュの母は、シュナイゼルの父と再婚した。
シュナイゼルの父は世界的に大きな企業を経営しており、様々なビジネスで活躍を続けている。
そして、ヴァインベルク家もまた、シュナイゼルの父の経営する企業に負けないくらい、大きな企業である。
ユーフェミアはそのヴァインベルク家の次女である。
お互いの相互協力の名の元に取り決められた婚約…。
ルルーシュの場合、再婚相手の子供であるので、基本的にそう言った政略結婚のコマにされる可能性が少ない。
それに、シュナイゼルがことのほかルルーシュを可愛がっている。
ルルーシュにそう言った婚約話が来ても、シュナイゼルが全力で阻止し続けているのだ。

 ルルーシュはルルーシュとナナリーに与えられたマンションに帰って行った。
「ただ今…」
「おかえりなさい…お姉様…。今日の学校はいかがでしたか?」
ルルーシュの顔を見ると、嬉しそうにナナリーが尋ねる。
「ああ、楽しかったよ…。スザクは相変わらず運動部の勧誘に追いかけまわされていたけれどな…」
ルルーシュはナナリーにその日にあった事を話してやる。
ナナリーは生まれつき体が丈夫でない為、学校を休みがちとなっている。
それ故に、ルルーシュの学校生活を聞くのが楽しみらしい。
大まかに話をしてやって、ルルーシュはその席を立った。
「今から食事の用意をするから…。今日は、和食だ…」
そう言って、学校の帰りに買ってきた食材の準備を始める。
義父も母も、仕事で外を飛び回っている。
義兄のシュナイゼルも大学へ進学した為、このマンションから離れて暮らしている。
本当なら、ユーフェミアと同じクラスになった事を伝えるべきなのかもしれないが、シュナイゼル自身も、いろいろ忙しいらしく、なかなか連絡も取れずにいた。
―――ピンポ〜ン…
突然玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろう…こんな時間に…」
「スザクさんは今日はご一緒じゃなかったのでしょう?なら、スザクさんじゃないんですか?」
ナナリーの言葉を聞きながら立ち上がり、インターフォンを取る。
「はい…」
『ルルーシュかい?僕だよ…』
「シュナイゼル義兄様?すぐロックを外します…」
そう言って、ルルーシュはマンションのロックを解除した。
かちゃり…
扉が開くとそこにはルルーシュとナナリーの義兄であるシュナイゼルが立っていた。
「おかえりなさい!シュナイゼル義兄様…」
シュナイゼルの顔を見るなり、パッと明るい笑顔でナナリーがシュナイゼルに挨拶した。
連れ子同士の義兄妹とは言え、とても仲が良かった。
「やぁ、ただ今…ルルーシュ、ナナリー…。いきなりですまない…」
優しい笑顔で二人の顔を見て声をかけたシュナイゼルにルルーシュも表情が緩んだ。

 シュナイゼルが大学へ進学し、このマンションを出た。
そして、季節外れの中、シュナイゼルが帰ってきた。
「義兄様…大学は?」
「多少、サボりもあるけれどね…。それに…ちょっと気になる事を聞いたから…」
シュナイゼルがふと表情を変えてルルーシュの方を見た。
「気になる事?」
「ああ、ルルーシュ。君、ユーフェミア嬢と同じ学校に入ったらしいね…?」
知られたのか…いつかは知られること…ルルーシュはそう思いながら、黙って頷いた。
多分、いつか、その事は聞かれると思っていた。
「はい…。今は、私と同じクラスなんです…」
「そうか…」
ふっとため息をつきながらシュナイゼルが何か考え込むように顎に手を当てた。
「あの…何かあったのですか?シュナイゼル義兄様…」
「あ、否…大丈夫だよ…ナナリー…。ランペルージ家と云うよりも、相手の方の家の問題だから…」
ルルーシュがシュナイゼルの言葉に少し、何かの不安をおぼえた。
ランペルージ家、ヴァインベルク家の両家は、世界的にも大きな企業として存在し、世界経済の一角を担っている。
その両家の婚姻が結ばれるともなると、世界の経済のバランスが当然変わってくる事にもなるが、それは、うまく行っても、不調に終わっても同じ事が言える。
「ルルーシュ…ユーフェミア嬢と、ルルーシュの幼馴染のスザク君…と言ったかな…」
「え?」
そこにいきなりスザクの名前が出てきてルルーシュは驚きを隠せなかった。
「ヴァインベルク家からも相談を受けてしまってね…。急遽、この連休中に、両家の食事会が執り行われる事になった。僕も、寝耳に水で驚いているんだが…」
最近、スザクとは距離を置いてはいたが、スザクの様子はずっと見てきた。
確かに、最近のスザクのユーフェミアに対する態度は…ルルーシュもシュナイゼルの危惧とは別の意味で気になっていた。
まだ、中学生の…多分、淡い小さな恋心なんだと思う。
スザクは…ユーフェミアを、ユーフェミアはスザクを…多分、そう云う事なんだと思った。
だからこそ、ルルーシュ自身、自分の知らなかった感情に苦しんでいた。
―――感情とは…厄介なものだ…

 数日後、シュナイゼルの言ったとおり、近くの料亭で食事会が執り行われた。
ルルーシュもナナリーも正装をしての出席だった。
「お義父様、母様、ご無沙汰しています」
「久しぶりだな…ルルーシュ、ナナリー…」
義父が二人の娘たちにそっと微笑みかけた。
後妻の連れ子とは言え、シュナイゼル同様、この二人の娘を可愛がっている。
できるだけ、大企業の争いなどに巻き込まれないように…との配慮でルルーシュとナナリーは日本にマンションの一室を用意された。
「そろそろお時間です…」
給仕の男がその場にいる家族たちを促した。
食事会の為の広間に行くと、既に、ヴァインベルク家の人々は着席していた。
これが、今の両家の力関係…。
ユーフェミアはきっと、この婚約から逃れる事が出来ないのだろう。
彼女のスザクに対する恋心は解っているが…今のルルーシュにはどうする事も出来ない。
それに…ユーフェミアがいなくなれば…そんな、子供染みた、黒い感情が時々顔を出してくる。
ルルーシュはそんな自分が嫌で堪らなくなる。
スザクだって、ユーフェミアの事が好きなのだ。
気づきたくはなかったが、気づいてしまった事実…。
今は…スザクの傷が浅いうちに…と、思う事しか出来なかった。

 その場に全員が揃うと、ヴァインベルク家の紹介から始まった。
「……。こちらが、長男で、ユーフェミアの兄にあたります、ジノ=ヴァインベルクです」
金髪の…青い瞳の…女の子受けしそうな男が紹介された。
ルルーシュは特に興味もなさそうに頭を下げた。
「では、ランペルージ家の皆様の紹介に入ります…」
そう云いながら仕切り役の男が厳かに紹介に入る。
ルルーシュはその間も、ユーフェミアの事が気になり、何度もユーフェミアの方を見る。 いつもの、スザクに見せている表情とはまるで別人で…
でも、何らかの脅しのようなものを受けているのか…ただ、目を伏せて下を向いていた。
こう云った家に生まれたからには、当たり前のこと…。
まして、自分の家の危機ともなれば、一族は何としても回避の道を探る。
ランペルージ家は今のところ、事業もうまく行っており、今回の婚姻に関しても、相手よりも一段高い位置にいる。
極端な話、相手がこちらの要求を飲まない場合、一方的にこの話を破談にする事も出来るのだ。
もし、スザクとユーフェミアが変に進展でもしたら…ヴァインベルク家は一族を守る為に、スザクとの関わりを一切断たせるだろう。
いや、スザクの家に圧力をかける事さえ、しかねない。
恐らく、今の両家の力関係はそう言った状況であると、ルルーシュは今回の食事会を見て察した。
ただ、今、目の前にいるユーフェミアは、その事も全て受け入れ、ここにいると解る。
そんなユーフェミアを、ルルーシュは黙って、その時は見つめる事しか出来なかった。

 食事会が終わり、シュナイゼルとユーフェミアが二人で会話する時間が設けられた。
その間はルルーシュ達もとりあえず、時間が空いている。
「ナナリー、疲れていないか?」
「ええ、大丈夫…。お姉様こそ、何かずっと難しいお顔をされて…大丈夫ですか?」
「私は大丈夫…。ユーフェミアは私のクラスメイトだからな…。ちょっと驚いていたんだ…」
知っていた事だったので、半分はウソだったが、今はそう答えるしかなかった。
自分の母親もなかなか厄介な家の後妻になったものだと思うが、それでも、義父は後妻もその子供たちも本当に大事にしてくれている。
今では、本当の親子の様に接しているし、そう言った感情も持っている。
そんなとき、後ろから声をかけられた。
「君、妹の事を、知っているのかい?」
声をかけてきたのは、ユーフェミアの兄、ジノだった。

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