幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 00


 私が、幼馴染のあいつを気になりだしたのは…中学の入学式…。
小学生の頃のやんちゃ坊主の姿が…いきなり、ネクタイを締めた制服姿になって…。
ずっと、ただ、一緒に笑っていられれば良かったのに…
でも、そう意識した瞬間、私の中の何かが、それを許さなくて…
ドキドキしていて…何だかよく解らなくて…
あいつの一挙手一投足が…気になって…。
素直に自分の気持ちを言えれば、少しは違ったのかな…
自分の気持ちに素直になれていれば…少しは違ったのかな…
こんな感情は初めてだった。
他人の性格が羨ましいと思うなんて…
自分が、ああいう女の子だったらなんて思うなんて…
私はあいつの幼馴染…
それだけ…。
でも、私の中では…
そう云えば、誰かが言っていた…
初恋と云うのは実らないものだと…。
要するに、私と一緒にいて、あいつは幸せになる事はない…そう云う事…。
なら、私は…どうしたら、あいつを幸せに出来るんだろう…。
誰かに恋をするって、その相手の幸せを願う事。
自分と一緒にいて幸せでいてくれるならいい…。
でも、あいつと一緒にいてあいつを幸せに出来るのは…私じゃない…
なら…私に出来る事は?
その人が幸せなら、自分は幸せ…なんて、そんな陳腐な事は云わない。
でも、ただ、私は…あいつに笑っていて欲しかった…
これは、私の初めての恋の…悲しい…失敗談…

 桜舞う校門をルルーシュとスザクが潜り抜けた。
風が少し強くて、桜の花びらが舞っている。
「ルルーシュ…お前、スカートなんて殆どはいた事ないからな…。大丈夫か?」
1か月前より、大人びた雰囲気を醸し出し、スザクが幼馴染のルルーシュに声をかけた。
初めて見た、ちょっと大人の顔をした幼馴染…。
「へ…平気だ…。私だって、スカートをはいた事くらいはある!」
そう云いながら、ルルーシュはスザクを睨んでいるが、実際のところは、足はすぅすぅするし、膝の周りをひらひらまとわりついて、落ち着かない。
「あ、みんな、ルルーシュ見てるな…。黙っていれば、お前、ホント、綺麗だからな…」
「なんだよそれ…。別に私は…」
そう云いながら、周囲を見ると…確かに視線が集中しているのが解る。
人に注目される事は好きじゃない。
出来れば目立たないようにしたい…。
でも、ルルーシュのその、整った顔立ちは嫌でも周囲の目を引いてしまう。
ルルーシュは赤くなって、下を向いてしまう。
「ルルーシュは…俺にとって、自慢の幼馴染だな…。こんなに綺麗で、頭がいい幼馴染って、そうはいないよな…」
そう笑いながら、スザクはルルーシュに言った。
―――幼馴染…
その言葉にルルーシュは今までに感じたことのない、寂しさと切なさを感じた。
なぜかはよく解らないけれど…でも、何だか、切なくて…
スザクの幼馴染である事が嫌な訳ではない。
むしろ、一緒にいた時間はとても楽しかった。
ふざけてじゃれあって…そんな風にずっといられたら…なんて、心のどこかで思っていた。
でも、時間は、残酷に流れていく。
ルルーシュもスザクも、お互いが女であり、男であるという事実を受け入れる時が来たのかもしれない。

 クラスの編成表を見る。
「あ、ルルーシュ…俺と同じクラスだ…」
そう云って、スザクが自分の名前のあったクラスを指差した。
「D組か…」
ルルーシュがそう云った時、後ろから誰かがぶつかってきた。
「?」
ルルーシュが振り返ると、長い髪をした女の子がその場に転んでいた。
「君、大丈夫?」
最初にそう声をかけたのはスザクだった。
スザクのその行動に、ルルーシュは目を丸くした。
相手が女子であっても、ルルーシュにはした事ない接し方だった。
「あ…ごめんなさい…。私ってば、ちゃんと前を見ずに走ってしまっていて…」
そう云って、彼女が立ち上がろうとすると、さっとスザクがその女の子に手を差しのべた。
「大丈夫?立てる?」
そう云うスザクにその女の子はニッコリ笑って、スザクの手を取った。
「ありがとう…えっと…」
「枢木スザク…。君は?」
「私は…ユーフェミア…。ユーフェミア=ヴァインベルクです…」
ルルーシュはそんな二人のやり取りをただ、黙って見ている事しか出来なかった。
―――こんなスザク…私は知らない…
このようなスザクを見て、ルルーシュは何となく、スザクとの距離を感じた。
そして、同時に…自分は女であり、スザクは男である…事に気がついた。

 スザクの事は何でも知っていると思っていた。
ずっと、一緒にいたから…。
でも…あの、ユーフェミアと云う女生徒に見せたスザクの顔は…初めてだった。
なんだか…目の前が…真っ暗になった気がして…
―――ドサッ…
その場に倒れた。
入学式までの間、ルルーシュは体の弱い妹の看病と、家を留守にしがちな親の代わりに家事の一切を取り仕切っていた。
そんな中、入学の準備などが重なり…そして、目の前で繰り広げられた出来事と、自分の気持ちに気づいてしまったショックで…
「ルルーシュ!」
ルルーシュを呼ぶスザクの声が…本当に、本当に遠くで聞こえた気がした。

 ルルーシュがふと目を覚ますと、見知らぬ天井を見ていた。
「気がついたか…」
デスクにかけていた養護教員が声をかけてきた。
「私…」
「ルルーシュ=ランペルージ…お前は貧血で倒れたんだ…。まったく…入学式早々倒れるなんて…どんな生活をしているんだ…」
呆れたようにその養護教員が言う。
「す…すみません…」
上半身を起こし、ルルーシュは目の前の養護教員に頭を下げた。
「私は、ここの養護教員のヴィレッタ=ヌゥだ。お前らの年頃になると、極端なダイエットで貧血を起こす奴が後を絶たない!お前はそんな細い体をしていて、まだ痩せたいのか?」
「あ…いえ…別に…ダイエットをしていた訳では…」
そう云いかけた時、保健室の扉をノックする音が聞こえた。
「あの…ルルーシュは大丈夫ですか?」
そこから顔を出したのはスザクだった。
「ああ…さっさと教室へ連れて行ってやれ…。それと、お前も自分の彼女にこんな極端なダイエットをさせるな!」
「へ?彼女?」
スザクが驚いてヴィレッタに聞き返した。
そんなスザクの、些細なセリフにも何かが引っ掛かった。
―――チクッ…
ルルーシュの胸にまた、何かが突き刺さった。
さっきから、ルルーシュの頭の中がおかしくなったのかと思えてくるほどにルルーシュの知らない感情が生まれてきている。
ルルーシュはスザクの彼女じゃない。
ルルーシュはスザクの幼馴染…。
そんな事は解っている…
でも…
「先生…ありがとうございました。もう平気なので、教室へ行きます。」
そう云ってルルーシュはベッドから降りて、保健室を出て行った。

 ルルーシュは保健室にスザクを置いたまま廊下を足早に歩いた。
校舎の見取り図は暗記済み…
スザクの案内など必要ない…
そう思いながら、今はスザクと顔を合わせたくなくて…
何だかよく解らないけれど…イライラして、どうしていいか解らなくて…
―――そう云えば…あんなスザクも知らないけれど、こんな私も知らない…
「待てよ…ルルーシュ…」
そう云って、後ろからスザクはルルーシュの肩をつかんだ。
「さっきからおかしいぞ…俺、何かお前にしたのか?」
「何の話だ?別にいつもと変わらない…」
明らかに自分の口調がイライラしている事は解る。
でも、なんでそんな風になっているのかもよく解らない。
ただ…あの、ユーフェミアと云う女生徒とスザクのやり取りが…よく解らないけれど…切なかった。
見た感じ、ルルーシュとは正反対な感じだった。
素直そうで、ふわふわしていて…
ああいうタイプなら、スザクも、ルルーシュに見せた事もないような態度を見せるのか…と、心の中で思った。
多分、自分にはまねできない…
あんな風に、ふわふわとスザクに笑いかけるなど…
素直に、『ありがとう』と云う事も…。
こんな時、自分のプライドの高さが嫌になる。
気の強さが疎ましい。

 ガラっ…
勢いよく教室の扉を開いてしまった。
教室の中ではがやがやとみんなが騒いでいたが、勢いよく開いた扉に、教室内の視線がルルーシュに集中した。
「!!」
何となく居心地が悪い…。
勢いだけで扉を開いて、クラス中の視線を集めてしまうなど…。
ルルーシュは下を向いて、恐らく自分のために空けられていたのであろう席に着いた。
そして、ただ、そのまま、下を向いている事しか出来なかった。
そこへ、一人の女生徒が声をかけてきた。
「あの…先ほどはすみませんでした…。後ろからぶつかってしまって…驚いたでしょう?」
さっきの長い髪の少女だった。
本当にふわふわした雰囲気で、誰からも好かれそうな…そんな感じだ。
「いや…こちらこそ、いきなり倒れて驚かせてしまってすまなかった…」
下を向いて、小さく返す事しか出来なかった。
本当は、今の自分を誰にも見られたくない。
まして、ルルーシュが嫉妬している相手になど…
「ランペルージさんですよね?私、ユーフェミア=ヴァインベルクです。よろしくお願いします。」
そう云って、ユーフェミアはルルーシュに対して右手を差し出した。
ルルーシュはあまり気乗りもしなかったが、しぶしぶ右手を差し出した。
「ルルーシュ=ランペルージだ。よろしく…」
その後、一言も声を発する事も出来ずに再び下を向いた。
ルルーシュにとって、多分、この少女の持つ光が眩しすぎた。
多分、これは嫉妬…
認めたくない…
嫌だ…
そんな思いを抱えて、後から入ってきたスザクと目を合わせる事もなく、初めてのホームルームを迎えた。
やり場のない自分の気持ちに…ただ…翻弄されながら…

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