現在…スザクとライは…ジェレミアの執務室のカーペットの上に…(ジェレミアもどこでそんなものを覚えてきたかは知らないが)正座させられていた。
スザクは確かに日本人ではあるが、武道を学んでいて慣れているとはいえ、あまり得意ではない正座…
そして…ブリタニア人であるライにとっては…相当きついであろう正座…
「お前たち…私の目を盗んで一体何をしている!囚人を牢から出して、テロリストと会わせるなど!」
早速、カレンとルルーシュを刺した少女を会わせた事がばれて二人がこっぴどく説教をくらっているのだが…
どうやら、このエリア11で、様々な『日本文化』を取り入れてジェレミアの説教がバージョンアップしたらしい…
そして、ジェレミアの説教を引き受けると云ったヴィレッタの方は…中華連邦の件での報告でこのトウキョウ租界に戻ってきていると云う事で、完全に軍の方に駆り出されている状態だった。
ここで二人は思う…
―――こんなの詐欺だ!
と…
それでも、あの時に得られたものは確かに大きい。
確かに大きなリスクも孕んでいたが…
何せ、皇族の殺人未遂犯と現在ではルルーシュの計らいによってシンジュクゲットーの治安維持を任されているレジスタンスグループのメンバーだ。
ジェレミア自身、あの時得られたものを踏まえた上でこの二人を自分の目の前で正座させて説教を食らわせているのだが…
しかも、どっかの動物調教用の鞭を自分の手の上でピシピシ音を鳴らしながら…
―――結構楽しんでないか?この状況…
と思ってしまうのは…多分、罪ではないと思いたいくらいだ。
「まったく…お前たちはルルーシュ殿下が甘い事をいい事に好きな事をし過ぎだ!ここは政庁だぞ!」
確かに…政治の中枢で総督を刺した女とかつて総督を襲った女を引き会わせているのだ…
心配になって当然なのだが…
しかし…
「あの…ジェレミア卿…今回の件に関しては…ルルーシュの考えでもあった訳で…」
スザクがそう一言口を出すと…ジェレミアが一気に般若の形相となる。
「いくら殿下の御命令とは云え、お前たちが勝手にやっていい事とそうでない事がある事くらい弁えろ!確かにお前たちが得たものに関しては私も評価はしている!しかし…何も得られなかった場合、紅月カレンが裏切っていた場合…どうするつもりだった?それこそ取り返しのつかない事が起きていたかも知らないのだ…」
ジェレミアの言葉にスザクはむっとするが…しかし、自分たちは元々、反ブリタニアのレジスタンスグループだったのだから…
そう疑われても仕方ないし、逆に、そう云った事を一切疑われなくなった時、ルルーシュの周囲に危険が増す事はスザクにも解っている。
「紅月カレンに関しては…俺が連れてきました…。万一の時は…俺自身が…彼女を撃つつもりで連れてきていますし、彼女もそのつもりでここに来ていました…」
スザクがジェレミアの目を見ながらそう訴える。
「元々貴様の仲間だろう?貴様の云う事が…」
「ジェレミア卿!枢木卿の云っている事は本当です。それに…彼女にはルルーシュ殿下に対して刃を向ける意思はありません!」
色々揉めていたジェレミアの説教ではあったが…
そこに…
「お前たち…一体何をしているんだ…?」
ヴィレッタに車椅子を押されているルルーシュが入って来た。
流石にこの光景を見てルルーシュも驚いている。
そして、そこで茶番劇を繰り広げている3人は同じ事を思う…
―――この皇子は…大人しく養生すると云う事を知らんのか!
ヴィレッタはただ何も云えずに溜息をついている。
「殿下!また医師の許可なく動き回って…。又御熱を出されたらどうするのです!」
「お前たちが勝手に面白そうな事をやっているのが悪い!」
流石は…『黒の死神』と云われるほどの取り引きに長けている皇子である。
口では絶対に負けない自信があるらしい…
「ヴィレッタ!何故殿下の車いすをお前が押しているのだ!何故起き出そうとする殿下をお止めしない!」
ここに来てジェレミアの責任転嫁である。
ヴィレッタは『やれやれ』と云った表情でジェレミアに対して返事する。
「お言葉ですが…ジェレミア卿…。ジェレミア卿でさえ口ではルルーシュ殿下に敵わないと云うのに…私などに殿下をお止め出来るとお思いか?」
正座させられている状態でこの状況を眺めている二人も『確かに…』とうんうん頷いている。
そして、流石にヴィレッタはジェレミアの扱い方をよく知っていると感心している。
「とにかく…この二人は何故こんなところで座らされている?こんな床の上にそんなカッコで座らされていたら辛いだろう?」
ルルーシュは日本について色々学んでいるようだが…まだ、『正座』と云う者を知らないらしい…
「あ、俺たち…ジェレミア卿に説教されているんだよ…。ルルーシュも聞いたんだろ?あのルルーシュを刺したラティスの姫君とカレンを会わせた事…。その事をジェレミア卿に黙っていた事で…怒らせてしまったらしいんだ…」
既に反省などしていないと云った態度でスザクがルルーシュに告げる。
「でも…あれは私が命じた事だろう?本当なら、私も立ち合いたかったのだが…。それに、面白い事も解ったし…」
ルルーシュは更にこの状況を不思議に思ったらしく、その表情で頭の中で疑問符が飛び交っているのがよく解る。
「しかし…殿下…。こいつらは私に黙って…」
「お前に云うと絶対に反対するだろう?私が熱を出してお前を説得できる状態じゃなくなってしまったから、ヴィレッタが見かねてこいつらに色々手配したのだろう?何故、こいつらを説教する必要があると云うのだ?」
ルルーシュの言葉にジェレミアも言葉がつまる。
どうして、説教されるだけされてから登場するのだろうか…と云う、至極当たり前な疑問はとりあえず、頭の隅っこに追いやる事にした。
それを気にしていたら、きっとこの先話が進まない…
ただ…現時点で一つ大きな問題がある…
ジェレミアがこの二人に説教していた時間は約1時間半…
その間、ずっとこのカーペットの上に正座させられていた二人が…
―――立ち上がれる自信がないぞ…
と云う事だった…
その後、やっと、足も落ち着いて来て…やっとやっと立ち上がり、そのジェレミアの執務室の応接用のソファに腰掛ける。
「で、殿下はどう思われますか?二人の話を聞いて…」
さっきの話はすっかりなかった事にしてしまっているジェレミアがルルーシュに尋ねる。
「まぁ、あの女が適当に選ばれた刺客ではなかった事は解ったな…。まさか、この短時間でそこまで解るとは思っていなかったが…」
「ルルーシュ…どう云うつもりであの二人を引き合わせたんだ?」
スザクがずっと考えていた疑問を投げかけた。
「ああ…世間話の中で彼女の取り捲いている状況を分析できると思ったからな…。まさか、ここまで突っ込んだ話が聞けるとは思わなかったな…」
「では、ここまでの成果と云うのは…」
ライが更に疑問を投げかけると、ルルーシュは少し笑いながら答えた。
「ああ、嬉しいイレギュラーだな…。紅月カレンに礼を云っておいてくれ…」
「どこまで調べられれば良しとしていたんだ?」
「まぁ、話し方などで、嘘の有無は解るし、紅月カレンがどんな風に話したとしても、お互いにブリタニアに攻め込まれた国の人間であると云う共通点があるからな…。現在のその国の状況が解る…。ただ、日本と違ってラティス公国は一応、独立を保ってはいるがな…」
ルルーシュの言葉に…どう答えていいか解らないが…それでも、ルルーシュが考えていた以上の収穫はあったらしい…
「しかし…現在のラティスは…」
ヴィレッタが表情を曇らせて言葉を口にする。
元々、中華連邦の動きを見る為にフクオカ基地にルキアーノ=ブラッドリーと共に赴いており、今回はその件についての報告にトウキョウの政庁まで赴いているのだ。
「そうだな…あの女の話も総合すると、色々と厄介な事が起きている事は確かだな…」
ルルーシュが腕組みして頷いた。
恐らく、ルルーシュが死んでいれば完璧だったが、負傷させる事でも相当な動揺を誘う事を解っていての物だ…
だとすると、中華連邦が今回、黎星刻を捕らえられ、そして、天子もエリア11に留め置かれている状態で…どう動くかはずっとルルーシュの中でも気になっていたのだが…
「ブリタニアもその辺りはあまりほめられた国とは云えないが…中華連邦はさらに上をいくな…。そんな事をしてブリタニアを敵に回して何になるのだか…」
ルルーシュが呆れたように呟くが…話しはそれどころじゃないと言いたげな周囲の空気だ。
「どうする?中華連邦が本気なら…エリア11の駐屯軍だけではどうにもならないんじゃ…」
「確かに…技術的にはブリタニアの方が上だが…中華連邦の方が数としては遥かに多いからな…。それに、エリア11は国土が狭い…。そんなところに攻め込まれたらたまったものではないな…」
「殿下…それに、それが本当だとするなら…これはエリア11だけにとどまる話ではありません。僭越ながら…私からシュナイゼル宰相閣下に報告させて頂きましたが…」
「殿下…このままでは…中華連邦と…?」
「まぁ、あまり好ましくはないが…。ただ、こうなってしまうと黎星刻たちの亡命もやむを得ない事になるな…皮肉な事に…」
ヴィレッタと、あの二人の少女たちの話から総合して出た結論…
それは…中華連邦とラティス公国が裏側で手を結び、ブリタニアに対して戦争をしかけて来る気配がある…と云う事だった。
確かに…そうなると…確実に、本国を巻き込んだ戦争となるのは確かで…
出来る事なら回避したいと考えるのだが…
「現在のフクオカの状況ですが…時折、ブラッドリー卿のヴァルキリエ隊が出動しています。まだ、交戦していると云う事はないのですが、常に、にらみ合いが続いている状態です。タイミングを考えると、ルルーシュ殿下が負傷された時期と一致していますので…。ブラッドリー卿もその辺りのタイミングに着目していて様です…」
ヴィレッタの報告に…あまりに話が出来過ぎている事もあり…呆れるしかないのだが…
「つまり、中華連邦はラティスの技術を取り込んで…と云う事か…。しかし、ラティスの技術は基本的には戦地での前線と云うよりも、暗殺やトラップの為のものではないのか?」
ヴィレッタの発言にジェレミアがこう返すのは…確かにその通りだ。
「ただ…ラティス公国は解らない事が多い事も事実です。以前、ルルーシュ殿下がラティス侵攻に出向いていらっしゃいましたが…結局、完全に落としきる事が出来ず、ラティス公国の国土そのものは狭くなったものの、国家はそのまま残っている状態が続いていましたし…。現在もかの国は様々な国際条約を無視しながら様々な研究をしている事は知られている事です…」
ライがこう発言すると、やはり、この場の人間はぐっと黙ってしまう。
確かに…今回ラティス公国からの花嫁候補の受け入れもその部分を知りたいと云うブリタニア側の思惑もあった訳だが…
実際のところ、今回集められた早嫁候補の2割はブリタニア本国の何らかの思惑が絡んでいる国も入っており、こんな事件がなければルルーシュやその候補となっている姫たちの意思は完全に無視された状態で婚姻を結ばされていた可能性もある。
ラティス公国もその一つだ。
「ただ…ラティスとしても…こんな形でブリタニアとの関係をぶち壊したいと思っていたのでしょうか?」
スザクが疑問形で発言する。
「ラティスは技術立国ですし、国土は小さいが豊かな国です。それ故に、現在の世界情勢の中、この日本同様、様々な国から侵略の危機に晒されている事は明白です。そんな中、仮に中華連邦と水面下で軍事同盟を結んで、こんな形でのブリタニアへの宣戦布告に近い事をするなんて…考えにくい事です…」
「そこに…ブリタニアのお国事情が絡んできているんだろう?恐らくは…。実際に、ヴァルドはそうやって動いていた訳だからな…」
こうなると、様々な事が要因となってこんな事態となっている。
「本当に…整理するのが大変ですね…」
ライの一言にルルーシュがふっと笑った。
「まぁ、難しく考えればな…。ヴァルドは『ルイ家』の所縁の者なのだろう?そして、キャスタールの皇位継承を望んでいる…。となれば、例のシンジュクゲットーの話から繋げて行けば…構図としてはそれほど難しいものでもあるまい…」
ルルーシュの言葉に…あまりに単純で、簡単な構図なので、口にしてこなかったとは云えない面々だが…
だが、一番辻褄があっていると云ってしまえばそれまでだ。
「で、構図は解ったが…どうするつもりなんだ?」
「一応、シュナイゼル宰相閣下の指示を仰ぐ…。もし、中華連邦が本気で敵対するつもりなのであれば…黎星刻とあの少女の亡命を急がないとそれこそ面倒なことこの上ないからな…。で、黎星刻には気持ちとして複雑かもしれないが、色々と協力して貰わないと困るな…」
「では、あの、ルルーシュ殿下を刺した女の処分は?」
「まぁ、出来るだけ紅月カレンと話をさせて、その記録を全て回せ…。シュナイゼル宰相閣下に報告すれば、閣下がこのエリアに入られるのは確実だ…。その時には…黎星刻、中華連邦の幼い国家元首殿、そして、その女を閣下に引き渡す事になるからな…」
ルルーシュの言葉に…真面目に養生しないでそんな事を考えていたのか…と思ってしまうのだが…しかし、そんなルルーシュの無茶が現在、危機的状況になっているこのエリアの為になってしまっている事に…なんだか複雑になってしまう。
それと同時に…もし、ルルーシュに万一の事があった時、このエリアはどうなるのだろうかと云う不安もよぎる。
現在では、ルルーシュが先頭になって施しているブリタニア人、日本人関係なく実力のある者がその実力に見合った部署でその能力を振るえるシステム作りが順調に進んでおり、生産力も技術力も向上しているのに…これがストップしてしまっては…
「あと、黎星刻の亡命手続きと、シュタットフェルト家への養子縁組の話を早急に進めろ…。シュナイゼル異母兄上に話しを回せばすぐに手配できる筈だ…」
「イエス、ユア・ハイネス…」
そう云って、ジェレミアが出て行った。
「ヴィレッタ、『ルイ家』の動きを『リ家』を使って探らせろ…。コーネリア異母姉上に連絡を入れればすぐに動いてくれるだろう…」
「イエス、ユア・ハイネス…」
ヴィレッタもその一言をおいて部屋を出て行った。
そして、3人が残された中…
「ルルーシュ…お前はもう休め…」
スザクが口を開いた。
ライも困ったような顔をしてルルーシュを見ている。
「ホントに…殿下の騎士は…大変な仕事だと思い知らされていますよ…」
「なら、やめるか?」
ルルーシュもしれっとそんな風に尋ねて来るが…
「お前…本気で云っているのか?俺たちがなんて答えるか解っていて云っているだろう…」
スザクは半ば顔を引き攣らせてルルーシュを睨んでいるが…
ルルーシュの方はそんな者何のダメージも受けはしないと云う表情だ…
「冗談だ…。私の騎士が務まるのはお前たちくらいだ…。それに…私が認める騎士もお前たちしかいない…」
ルルーシュが少しだけ申し訳なさそうにそう告げる。
「解っていらっしゃるなら…もう、お休み下さい…。また御熱を出されたら…シュナイゼル宰相閣下がいらっしゃったとき、我々は八つ裂きにされます…」
ライがそう告げるとルルーシュは…
「それは困るな…。部屋へ…連れて行ってくれ…」
そう云って、以前よりも柔らかい表情を見せた…
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