皇子とレジスタンス



皇子の側近

 ルルーシュが無理をして、怪我が治り切っていないと云うのに公務を強行したお陰で、再びルルーシュが熱を出す事となり…
現在、ルルーシュは政庁にあるルルーシュの執務室の隣にある総督用の個室で横になっている。
そして…二人の騎士がルルーシュの看病をしているのだが…
ルルーシュが倒れたと云う事で真っ青になって入って来たのは…
ルルーシュの幼少の頃からルルーシュに仕えているジェレミアだった。
たまたま、フクオカから中華連邦の動きに関しての報告をしにトウキョウ租界に戻っていたヴィレッタが苦労して宥めていたが…
何とかジェレミアを抑えたヴィレッタが二人の騎士に告げた。
『お前たち…私が戻らなかったらどうするつもりだった?ルルーシュ殿下がこの状態では殿下がジェレミア卿を止めると云う事も出来ん…。まったく…何をしていたかは知らんが…あまりジェレミア卿の血圧を上げるような真似をしないでくれ…』
そうは云われても、自分の主のコントロールの仕方さえよく解っていないのに、ジェレミアのコントロールまで出来る訳がない。
確かに…ルルーシュの今回の行動は無茶としか言いようがないし、何故、配下の者に任せなかったのか…と云う疑問にもつながる。
結局、あそこでルルーシュの異変に気付いたので、ライが直接話したラティス公国の娘に関しては何一つ触れる事が出来ずにいたのだ。
仕方なくライは運よく戻っていたヴィレッタに一通りの話をした。
そして、頭に血が上ってしまっているジェレミアではこの話を進めるのは無理だと判断したヴィレッタが
『ジェレミア卿のお叱りは後で私が引き受けてやる…。その、『紅月カレン』とか云う娘と引き合わせろ…。恐らく殿下は彼女を通しての懐柔を図っているのだろう?』
流石に長くジェレミアの下でルルーシュに仕えている女性だと思った。
それに、こうなった時の判断はジェレミアよりはるかに冷静だ。
ジェレミアがそう云った面で劣っていると云う訳ではない。
ただ、ジェレミアはルルーシュに対して、マリアンヌ皇妃の事もあり、とにかく、あらゆる危険から遠ざけようとしているフシがある。
しかし、そんな風に過保護にしていては、ルルーシュ自身、あの弱肉強食のブリタニア王宮の中で生き延びる事など出来ないし、まして、大切に思う者を守る事も出来ないのだ。
それが解っているからヴィレッタがいつも、ジェレミアの宥め役となっていた。
苦労している事は良く解る。
見た目に美人の部類に入るのに、きっと、恋人を作っている暇などないのだろう…
尤も、彼女自身、現在のところ、そんな者を望んでいる様にも見えないのだが…
出世第一…と云っている割には、庶民出の母を持つ皇子に仕えている辺りに、矛盾を感じるが…しかし、彼女なりの思いがあって、そして、彼女なりにルルーシュやナナリーの事を思って仕えているのだろうと思う…。
そして、二人はヴィレッタに頭を下げた。
『申し訳ありません…我々が…もっと殿下をお諌め出来れば…』
『バカ者!あのルルーシュ殿下がこうと決めて止められる人間など、この世界にナナリー皇女殿下以外にいない!済まないな…ジェレミア卿も…悪い方ではないのだが…』

 ヴィレッタの言葉に…彼女も苦労しているのだなぁ…と二人は思うが…
しかし、ルルーシュを見ていると解る気がした。
確かに…ルルーシュのやる事は、ついて行く者としては苦労が絶えない事が多い。
それでも…そんな無茶をするルルーシュを放っておけないと思う、不思議な何かがある。
そして…最初の頃と比べて随分表情が柔らかくなっているし、彼らに対する接し方も変わっているが…
―――本質部分では…やはり中々他人を頼る事を…知らない…
そう思えてしまう。
確かに、それは二人にとって焦れてしまう部分でもあるが…
しかし、様々な話を聞いていると、無理矢理そう云った事を押し付けてもルルーシュは却って心を閉ざしてしまいそうな気もする。
どうする事が一番いいのか…解らないが…
こんな事が続くようでは困る…
とりあえず、スザクが呼び出しているカレンの元へと向かった。
「カレン…頼みがある…」
スザクが考えていた当初の目的はカレンとあの、ルルーシュを刺したラティス公国の姫君の偽物と話をさせる事…であったのだから…
スザクのその考えは間違ってはおらず…ただ、ルルーシュが全てを話していなかった…それだけの事なのだが…
「何?まだ、何かあるの?いい加減、ここの宿舎…居心地悪いんだけど…」
「悪いな…。でも、カレンだってルルーシュが総督になってからの日本…それほど悪いとは思っていないんだろう?」
「名前が取り戻せれば…完璧だと思うわ…。確かに…。実際にシンジュクゲットーで治安維持をしていても、私たちが抑えに行っているのは日本人同士の争いだったり、日本人の犯罪だもの…。ブリタニア人に関してもないとは云わないけれど…大したものね…」
スザクの言葉にカレンは素直に答えた。
実際に、シンジュクゲットーから上がってくる報告の殆どは、日本人同士の争いとか、日本人の犯罪行為に対して出動したものが大半を占めている。
その辺りは、ブリタニア軍とカレンたちの報告がほぼ一致しているので間違いはないだろう事は解る。
「まぁ…名前に関しては…恐らくもう一度テロ活動して、ブリタニア軍を追っ払うところから始める事になる…。ルルーシュを相手にやる気か?」
「冗談じゃないわ…あんな奴を敵に回すのなんて御免よ…。あいつが日本人になればいいのに…」
カレンのその言葉にスザクが苦笑した。
確かに…ルルーシュが日本人になれば、日本人が政治のトップに立っている事になる。
まぁ、その上に神聖ブリタニア帝国と云う大きな国がのっかっている訳だが…
少なくとも、人に使われないと何もできないリーダーの下にいるよりも遥かにマシと云えるかもしれない…
「で、頼みって?」
「ルルーシュを刺した…女の取り調べに…協力して欲しい…。彼女は…カレンと違って、本当にルルーシュを刺しているんだ…」
スザクは下を向いて、静かにそう告げた。
確かに…ルルーシュがけがをした事は知っていたが…
そのルルーシュを刺した犯人の取り調べに協力しろと云うのは…
「なんだか…又ややこしい事になっているみたいね…」

 カレンの言葉にスザクもため息を吐く事しか出来ない。
あの時は、完全にジェレミアを含めたルルーシュの側近たちの失態だ。
様々な国の人間が集まる中…騎士も着けずに会場に総督を置いておくなど…まさに丸腰だと云っているのも同じだ。
その事実を隠していて、何かの作戦があったのであればともかく…
「ややこしいと云えばややこしい事だけれど…多分、カレンの考えている様な事とは違う…」
スザクがそう云って、事の詳細を話した。
そして…最後まで話した時…
「あんたも…とんでもない皇子様に仕えているのね…。早死にするわ…」
カレンが発した一言がそれだった…
確かに云われている事は御尤もだと思うが…
しかし、スザク自身、その主に惹かれているのだから仕方がない。
そして、共に仕えているライも…
もっと云えば、ルルーシュに仕えている数少ない側近や、ナイトオブラウンズであるジノ=ヴァインベルグ、『ヴィ家』の後見貴族であるアッシュフォード家もルルーシュに惹かれているのが…良く解る。
確かに、ルルーシュの母親も偉大な人だったとは聞いてるが、スザクとライはその母親を知らない…
だから、他の者たちはともかく、スザクとライに関しては、ルルーシュ個人に対する気持ちでルルーシュに仕えている事になる訳だが…
「まぁ、それでも放っておけないんだから…仕方ないだろ…。カレンだって…ルルーシュに対して悪い感情を持たないから、俺の云う事を信じて着いて来てくれたんだろ?」
その一言にカレンはプイッと横を向いた。
彼女自身、まだ、完全な敵同士だった頃から、ルルーシュとは色々あったのだから…
「私は構わないわ…。でも、なんで、あんた一人で来ているのよ…。いつもうざいくらいにあの皇子様、自分で何でもやりたがるのに…」
カレンの素朴な疑問が突き付けられた。
これに関しては騎士の立場としてほとほと困っているのだが…
「ま、その何でも自分でやりたがる事が裏目に出て、現在、ダウンしているんだよ…。云っただろ?ルルーシュは刺されたって…。本当はまだ、安静にしていなくちゃいけないのに…お前たちへの説明を自分でやると云って聞かなかったからな…」
スザクの言葉に…カレンはしっかりあきれ顔だ…
「あんた…転職した方がいいじゃない?まだ、あのグループのリーダーの座なら、あんたに明け渡せるわよ?」
半分は冗談だが…半分はシャレになっていない様な一言だ。
確かに…苦労の多い立場である事は確かだ…
「別に…今は戻る必要ないだろ?それに、俺がここにいるから、あのグループは政庁でも信用されている部分もあるんだ…。それは…解るだろ?」
スザクは大きく息を吐いてから、そう告げる。
「まぁ…それは認めるけど…。でも、このまま…馴れ合っていていいの?多分…これからもまだ…出て来るわよ?私たちなんかよりもっと過激に、『日本を取り戻せ!』って云ってくる連中が…」
「まぁ…その辺りの予測は出来ている…こっちでも…。でも、今、この地に暮らす日本人が平和に暮らす事…喜怒哀楽を表現できる事…それが今の俺にとっては一番だと思う…。いくら国の名前が変わったところで…俺たちは日本人だ…。それは違いないだろ?」
「その事が解る連中が…増えるといいんだけどね…」

 スザクの申し出にカレンが承諾した事をライとヴィレッタに連絡した。
そして、ヴィレッタ付き添いの下、ある部屋にラティス公国から向けられた刺客の少女が連れて来られ、そこに少し遅れてスザクとカレンが入って来た。
「枢木卿…どうやら、説得はうまく行ったようですね…」
ライがそう云うと、カレンがムッとした表情をする。
「あのねぇ…別に私はあんたたちのやろうとしている事全てを否定してかかっている訳じゃないわよ…。ちゃんと…あの、私たちと同じ歳の総督の事は…認めている部分は認めている…。ただ…」
カレンがムキになって話していると、間にヴィレッタが割って入った。
「済まないが…この娘をあんまりここにいさせる訳にはいかない…。何ればれるが、話の途中でジェレミア卿に見つかると厄介だ…。話しを始めてくれ…」
ヴィレッタの一言で彼らが黙り、そして、カレンと少女が席に着いた。
「とりあえず、紅月カレン…少し、彼女と話をしてくれないか?私とルルーシュ殿下の二人の騎士は邪魔にならないよう別室にいよう…。当然、この部屋には鍵をかけさせて貰うし、取り調べの一環だから、全てチェックする事にはなるが…」
「まぁ、それは仕方ありませんね…。監視が点いていると解っていて、彼女があなた方の必要だと思う情報を出すかどうか疑問なんですけれど…」
カレンがそう答えると、ヴィレッタの方も落ち着いて答える。
「そんなもの、我々も期待などしていない…。それに、取り調べと銘打っているのだ…監視がない訳がなかろう?勿論、勝手に死なない様にちゃんとすぐに入って来られる場所に医師の配置は済ませてある…」
「舌を噛んだりしたら…?」
「妙なドラマの見過ぎだな…。舌を噛んでそう簡単に死ねるものか…。あれは舌をかむ事によって出血多量となるから死ぬのだ…。そこまで出血する前にちゃんと適切な処置をすれば命に別条はない…」
ヴィレッタがやれやれと云った表情で答える。
そして、ヴィレッタのこの説明で、ここに連れて来られた少女にここでの自殺は不可能だと示している。
カレンのその質問はカレンがそんなつもりで口にしたとも思えないが…
それでも、それなりの効果を得られたようである。
恐らく、カレンがその話を出さなかったとしても、ヴィレッタはその辺りのくぎを刺していただろう。
変に怪我をされて、身動きとれなくなっても困る。
それに、今回はルルーシュにもジェレミアにも報告せずにやっている事だ。
ルルーシュに云えば、
『私も立ち合う…』
そう云って聞かない事は解り切っていた。
ジェレミアとしても、今回のルルーシュの奇策に関してはあまりいい顔をしていない事は…二人の話を聞いていても、良く解るし、内容を聞いていて、ジェレミアがいい顔をする策とも思えない。
しかし、中華連邦の動きなどを考えた時、ルルーシュには早く回復して貰わなくてはならないし、出来る事なら、この事件の調査の中で解りそうな事を情報として得たいと思うところもある。
現在の中華連邦の動き…
―――余り放置しておくわけにはいかない…
それは、陣頭指揮に当たっていたナイトオブテンであるルキアーノ=ブラッドリーも同じ判断を下している。
人間性として問題はあっても、皇帝の直属の十二騎士の一人なのだ…

 ヴィレッタたちが別室でこの部屋の様子を窺う。
つまり、部屋の中にはカレンとラティス公国から送られた少女の二人しかいない事になる。
「あの…名前…教えてくれない?私は紅月カレン…。日本人よ…。それで、あなたと同じで、あのルルーシュ=ヴィ=ブリタニアを殺そうとして失敗した一人…。と云うか、あなたほどうまく行ってないけどね…。傷付ける前に取り押さえられちゃったし…」
カレンがそんな風に話し始めた。
確かに、今のルルーシュを失った時、このエリアは大きな損害を受けるのは…何となく解る…。
あの、神聖ブリタニア帝国宰相のお気に入りの異母弟で、本人自身、そんな肩書がなくともかなりのキレ者だ。
実際に、政治手腕は、現在の底辺で暮らしている日本人たちからの不満が殆どないのだ。
確かに、末端での差別はあるが、公の差別は一切ない。
実力があれば確実に出世できる道が創られているし、確実に生活できるだけの収入を得られるシステムを創り上げていた。
人とは、とりあえず、食うに困らない状況が出来れば、その環境をまず維持しようとする。
余裕が出来過ぎると余計な事を考え始める事になるが、生きる為にギリギリのラインを少し引き上げてやり、少なくとも、飢えに苦しむ事のない状況を作ってやると、ひとまず抵抗は収まる。
つまり、ルルーシュはこのエリアの人間を『奴隷』と云う家畜として見ている訳ではなく、底辺で暮らす『労働者』として見ている訳だ。
そして、人間であれば、能力があれば、その人間にとって敵した配置をする…
それによって、このエリアの生産性を上げ、人々の生活水準が上がったのだ。
「名前…まだ…誰にも云ってない…。云っては…行けないって…。だから、私は…ラティス公国エリス=ウル=ラティス…」
「そう…なら、エリスって呼べばいいのかしら?」
カレンがすかさずそう尋ねる。
少女は驚いた表情を見せるが…とりあえずこくりと頷いた。
そんな少女にカレンが言葉を続けた。
「別に…私はあなたを取り調べるつもりなんてないわ…。私はブリタニア軍じゃないし…ブリタニア人でさえないんだから…。ただ、話しさせて欲しかったの…。まぁ、あのルルーシュ総督の騎士の枢木スザクって、私の幼馴染で、私が今いるグループのリーダーだったんだけど…色々世話になっているからね…。いざって時はちょっと逆らえなくって…」
まるで、何かの愚痴をぶちまけるような口調だが…
そして、特に何の計算もなしに話しているような感じだが…
ただ、取り調べの中で…『名前を云っては行けない』と云う事は一言も云わず、ただ、黙秘していた少女だった…
別室からその様子を見ていたスザクとライが少々驚いた表情を見せた。
そして…部屋の中では更に話が続けられている。
「まぁ、私、あなたの事、あの、ルルーシュ総督を刺したお姫さまだってことしか聞いていないんだけど…よくパーティー会場にナイフ…持ちこめたわよね…。そこまでセキュリティ甘いとも思えないんだけど…。あの皇子様の環境を考えると…」
「あ…えっと…それはもう、調べられてる…。あの…総督の居住区の執事長が…」
カレンの話のノリで、少しずつ…言葉や話の内容を選んではいるものの、ポツリポツリと話し始めている状況に…驚きを隠す事が出来ない。
―――本当にルルーシュは…ここまで読んでいたのか…?
スザクは素直にそんな事を考えながら、その様子を見ていた…

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