ルルーシュの容態が落ち着いて…暫くすると…次々にルルーシュに面会を求める人々が集まってきた。
流石に本調子でない状態ないし、こうなった理由も理由だけに、面会の許可を出す相手は絞られてきた。
それでもルルーシュはエリア11の総督と云う事で…次々に政務や今回の事件についての報告が入って来る。
本当なら、それだけの事をこなすのはまだ無理であろうに…
スザクもライも、そして、ジェレミアもルルーシュがまだ、ケガ人の状態でこうした形で仕事をしようとするのを止めようとするが…少し回復して、口が達者になると彼らの言葉など聞きはしない。
正直、ルルーシュにあの事件の事について問い詰めた時の事をちゃんと頭に入れているのかどうか怪しいとさえ思ったが…
それでも、以前は、ルルーシュに謁見を求めてきた者が人払いを求めた際には、(当然、何かあった場合、すぐに飛び出してこられるように、又、その時の話をリアルタイムで聞く為の者が潜んでいたが)云われるがまま人払いをしていたけれど…
今は、人払いを求められても…
『この者たちは私の真に信用出来る騎士たちである。内密の話であれば、この二人はたとえ、殺される事となっても口を割らないと私が保証する…』
そう云いきって彼らを退席させる事はなくなっていた。
あの後…二人がミレイから話を聞いた。
あの事件の詳細を尋ねに云ったのだが…その、詳細の話の後に…ミレイはこう付け加えた。
『あなたたち二人がEye to Eyeでやり取りをしていたのを見て…相当ヤキモチ妬いていたみたいよ?あんな殿下を見たのは…私、初めてだわ…』
と…
ミレイの言葉には驚かされたが…
多分、今回のミスの発端となった姫君たちに取り囲まれていた時に、ルルーシュを連れ出した時のことであろう事は予想が付くが…
二人は顔を合わせて…少々驚いた表情を見せて、自分たちの仕える『皇子殿下』の解り難い感情表現には…これからも頭を抱える事になりそうだと…苦笑した。
お互いに、『ルルーシュにとってのNo.1』を争っている自覚はあった。
しかし、ルルーシュがヤキモチを妬くような感情は一切持ち合わせていないし、そんな風にルルーシュが考えていたとなると…やはり苦笑するしかない。
ただ…この間の、今回の事件について問い詰めた時のルルーシュの様子を窺う限りではそれも…ある意味いたしかたないのかもしれないと…そんな風に思えてきてしまう。
しかし、ルルーシュは頭が悪い訳ではない。
バカなところもあるが、頭が悪い訳じゃないし、きちんと失敗から学習している。
その結果が…現在、ひっきりなしに来る重要な案件から、殆どご機嫌伺いの様な謁見までスザクとライを同席させている…と云う事に繋がっているのだろう。
確かに立ち合っていると、重要案件の中には、外に漏れたら大変な事になる事や、政庁内でも必要以上に広まっては困る事まである。
―――経った…15歳で…それだけの者を背負っていると云う事なのか…
二人とも…実際にルルーシュの云う通りに、彼に会いに来る人間の話を聞いていてつくづく思い知らされた。
治療中のケガ人相手にそんなに仕事をさせるな…そう思いながら、ルルーシュに四六時中付いていた騎士二人だったが…
『ルルーシュ殿下…ジノ=ヴァインベルグ卿が、この度の件での中間報告をしたいとの事ですが…』
インターフォンから声が聞こえてきて…3人が表情を変えた。
今回の件に関しては…とにかく複雑な状況になっている。
国内にいる協力者、そして、実行に移したラティス公国…
ブリタニアとしても嫌な火種を抱えた事になる。
「通してくれ…」
『イエス、ユア・ハイネス…』
インターフォンが切れて、3人は黙ったまま顔を見合わせる。
ルルーシュがこのエリア11の総督に着任してから…最大の難題とぶつかっていると…そう思う。
今回の事は、ルルーシュの身近にいた人間が動いていたの。
しかも、エリア11でのルルーシュの居住区の執事長と云う立場の人間が…
色々な者が絡んできている。
ルルーシュの懐に入り込める人間が今回は実行犯として捕らえられた。
いきなり降って湧いたルルーシュの見合い話には、確かにおかしいと思っていたが…
それにしたって、やる事が派手だ。
いきなり、パーティのさなかにルルーシュを殺そうとするなど…
いくらなんでも失敗する可能性が高い。
つまり、ラティス公国はどうであったかは知らないが、捕らえられた執事長を操っていた黒幕の方は、ルルーシュを殺すこと自体が目的でなかったと考えるのが自然で…。
執事長はパーティ会場にエリア11に派遣されているナイトオブラウンズ3名が存在し、ルルーシュの後見貴族の娘であるミレイが側室候補として入り込んでいた。
確かにルルーシュの騎士二人はそこには不在であったが、そんな状況下で…しかもルルーシュは後見の少ない、『ヴィ家』の皇子だ。
常に暗殺を警戒しなければならない立場であったし、そんな『ヴィ家』の皇子が次期皇帝の座に一番近いと云われている現宰相のお気に入りで、将来はシュナイゼルが即位した暁には宰相の地位に就く事は殆ど確実視されている。
そんな皇子が暗殺に対する訓練をしていない訳がなく…
あの場で本当に殺されていたとしたら、シュナイゼルとて、目にかけたりはしなかっただろう。
「とにかく…ヴァインベルグ卿のお話を聞きましょう…。背後関係が解れば…きっと、色々と対策を練る事が出来ますし…」
ライのその一言に…二人とも頷くしか出来ない。
確かに、情報のない中、色々考えていても仕方がない。
「とりあえず、今、私に解っている事は…あの執事長は前任のエリア11総督と懇意にしていた。そして、前任の総督は…キャスタール=ルイ=ブリタニアの…後見貴族だ…」
二人とも、聞き慣れない名前だった…
そこで…あまりルルーシュと近しい異母兄弟ではない事を悟る。
「キャスタールは…私の異母弟だ…。ブリタニアの第15皇子…。幼いゆえに…まだ、表に出てきてはいないが…母君は大公爵の娘だ…」
「その情報を踏まえた上で、ヴァインベルグ卿の話を聞け…と云う事か?」
「知っておいた方が…話しは進めやすいだろうな…」
やがて、ジノがこの部屋へと訪れた。
「失礼します…殿下…」
ジノが襟を正して入ってきた。
ルルーシュがケガをしていて、正式な政務の場ではないとはいえ、これは、れっきとした『ナイトオブラウズ』としての任務だからだ。
「とりあえず、報告書だけは読んだ…。後は…他に何か解ったか?」
ルルーシュが余計な事はいらないとばかりにジノに話を進めさせようとしている。
ジノも、これはいつもの事だと理解しているのか、『はいはい』と云った表情で一回だけ礼をしてルルーシュに近づいた。
「この二人を置いておいても…よろしいので?」
ジノがわざとらしく訊く。
ルルーシュとしては、云い飽きたせりふだったが…
「この二人は私の真に信用出来る騎士たちである。内密の話であれば、この二人はたとえ、殺される事となっても口を割らないと私が保証する…」
確かに、皇族が関わって来るとなると…そう滅多な相手にその情報を渡す訳にはいかない。
スザクもライも気を引き締めた。
「イエス、ユア・ハイネス。では、報告に入りましょう。ラティス公国の王族の中で、遠縁ではあるのですが…キャスタール殿下の母君の親族の親戚筋に当たる者がおりました。恐らく、今回の件は、どちらから出た話かは、一目瞭然です。恐らく、キャスタール殿下本人と云うよりも…周囲の者の思惑が強く出ていると考えるのが自然でしょう…」
先ほど、ルルーシュが口にしたルルーシュの異母弟の名前が早速出てきている。
スザクもライも正直、ここまでブリタニアの皇族について調べると云う事が出来なかった。
と云うのも、自分たちの主の忙しさもあるが、自分たちのブリタニア軍や成長の中における立場が邪魔をしていた。
スザクはどれだけルルーシュ個人が認めていたとしても、実力があったとしても、多くのブリタニア人にとっては『ナンバーズ』なのだ…。
その現実は変わらない。
そして、ライは、ブリタニア人である事は確からしいが、過去の記憶のない、ある意味、不審者だ…。
IDも持っておらず、ロイドが勝手に作ったと云っていた。
ただ…ロイドは確かに普通の人間として付き合うには非常に難しい部分があるが、それでも、人を見る目は…恐らく信用できる…
ルルーシュはそう思っていたし、これまで、スザクとは違った形でルルーシュに対して忠誠を誓っている。
スザクの場合、忠誠を誓っていると云う感じでもないが…彼は、そう云った事を完全に取り払った存在になっているし、ライは、常に陰からルルーシュを支えてくれている事はよく解っているのだ。
それを…早くほかの者たちにも気付いて欲しいとは思っているのだが…
それでも、ブリタニアは差別社会、格差社会の世界だ。
ルルーシュだって『皇子』と云う肩書はあるが、そんなものは実際に役に立つ事などあまりない。
ルルーシュの場合、母親の身分が低かった為に、ルルーシュとナナリーの『ヴィ家』を支える後見貴族はあまりに少ない。
だからこそ、ルルーシュは自分の実力を高めて行くしか、生きて行くすべがなかったのだ。
一人ならいい…。
別に皇籍を剥奪されようが、どこかに人質に送られようが…
でも…ルルーシュにとって…たった一つ…守らなくてはならない者があった…
妹の…ナナリー…
だからこそ…ルルーシュは、ルルーシュの家の名前にこだわる事のない騎士を求めたのかもしれない…
ジノの云っている事は…まぁ、ルルーシュの想像通りの報告だ。
「で、キャスタール個人の意思はなくとも、罰せられるのはキャスタールも同じだ。あの、キャスタールを溺愛しているキャスタールの母君がこんなに簡単に露呈するような策を容認するとは考えにくい…」
ルルーシュ自身、キャスタールの母親が身分の低い母を持つルルーシュに自分の息子が関わる事を嫌ってあまり、話もした事がない。
本当は、キャスタールの母親はシュナイゼルの軍に息子を入れる事を考えていたようだが…目障りなルルーシュがシュナイゼルのお気に入りと云う事で…キャスタールを次の皇帝候補として祀り上げる事を考えていた。
そして、シュナイゼルの下でどんどん頭角を現してきたルルーシュに対して危機感を覚えたのだろう…
「その辺りは…何故、あのような形の策を取ったのかは未だ謎です。こんな、調べればすぐに露呈する事ですし…。遠縁と云っても、キャスタール殿下の母君のいとこに当たるそうですよ…。大公爵家のラティス公国の王族の中の遠縁と云うのは…」
「政略結婚か?それにしても、そんな話、異母兄上が知らない筈があるまい…。どうやって隠していたのだ?」
「これに関しては、巧妙に隠されていたようです。今回はこちらとしても調べるのに骨が折れましたから…。確かに『ヴィ家』は貴族の御親戚がありませんから…そう云った事は0と云ってもいい…。しかし、貴族の母君を持つ皇子殿下、皇女殿下の場合、皇子殿下や皇女殿下の御存じない御親戚がたくさんいるようです。時々、『ブリタニアの皇子殿下の親戚だ!』などと王宮に訴えて来る輩もいるくらいですから…」
「皇室もこれでは大変だな…確かに、外交面ではそうした、陰に隠れた親戚筋と云うのは役に立つだろうが…」
そうなって来ると…非情に話がめんどくさくなる可能性を秘めていた。
「ヴァインベルグ卿…」
黙って聞いていたスザクがジノに声をかけた。
「なんだ?」
「自分はそのキャスタール殿下の事は不勉強でよく存じ上げないのですが…。その殿下は…皇位継承順位は一体、何位なのでしょうか?」
スザクの指摘に…ルルーシュもジノも少し考え込むそぶりを見せた。
スザクもライも皇族の中枢の事はよく解らない。
これまで、その皇子殿下の事を調べる事さえできていない状態だったし、解らない事は聞いておいた方がいい…そう思っての質問だったのだが…
「そうか…」
「確かに…その点は考えられますね…」
ルルーシュとジノがスザクの質問で何かを思いついたようだった。
「「???」」
当然だが、話の見えないスザクとライは不思議そうな顔をしている。
それに気づいたルルーシュが説明を始めた。
「キャスタールは…現在皇位継承権第20位だ…。第15皇子と云う事もあるが…。ただ…私を陥れて、シュナイゼル異母兄上が失策を犯したと云う事になれば…また…皇位継承順位が変わってくる…」
ルルーシュの説明に…スザクもライも納得できたようだが…
確かに…権力争いともなると…当事者はともかく、周囲がいらないところで頑張るらしい…。
実際に、その権力争いに振り回された、ルルーシュを刺した…ラティス公国の姫君の身代わりの娘…
『仇討ち』と云う、甘言に踊らされたのだろう。
そして、『お前の親の仇は…お前の手で打つべきだ…』とでも言われて…年端もいかない、恐らく、人を殺す為にナイフを持った事すらない娘を騙した…
確かに、彼女自身、ルルーシュに恨みを持っていただろうし、仇討ちの理由もある。
そして、本当は外国の平民では決して近づく事の出来ない相手に…簡単に近づく事が出来る…
そんな餌をぶら下げられれば…世間知らずな娘ならその言葉に乗って来るだろう。
使い捨ての『コマ』であると云う自覚があったかどうかは別だが…もし、その『仇』を討つ事が出来れば、自身はどうなってもいいと思っていたに違いない…
ブリアニアの皇族を殺して、捕まった場合…厳しい尋問が待っている事も知らずに…
厳しい尋問と云うには、少し語弊があるだろう。
はっきり言えば、『拷問』だ…
きっと、あんな年端もいかない少女が耐えられる筈もない。
まして、『少女』と云う事であれば、実際の『拷問』以上に厳しい現実が待っている。
それは…『女』と云う性別を持つが故の悲劇…とでもいえる…
「ジノ…その女の取り調べは?」
「いえ…一応、今のところは軍ではなく、私の配下にさせていますが、いずれは軍に移送される事になり、私の手から離れる事になります…」
ジノの言葉に…ルルーシュは辛そうに目を瞑った。
「何か…喋っているか?」
「いえ…殆ど…。私の配下ではそう云った尋問を厳しく禁止しておりますゆえ…。殿下はそう云う事を嫌っておられるので…」
「シュナイゼル異母兄上の配下であれば…皆そうだ…。しかし、本国に送られてしまったら…私の手ではどうする事も出来ない…」
ルルーシュとジノの会話に…スザク自身は非常に辛そうな顔をした。
レジスタンスをしていた頃…自分のところに集まってきたレジスタンスの中で、ブリタニア軍の尋問を受けて…廃人になって帰ってきた者がいた。
それを思い出す。
「ルルーシュ…ルルーシュ自らが取り調べる事は…出来ないのか?」
スザクが居た堪れなくなってルルーシュに尋ねる。
「やっては見ようと思うが…素直にはいてくれるといいのだが…」
何かを信じて、自分の正義の為に戦う者の意思は強い。
決して自分の保身の為に口を割ると云う事はしない。
それ故に、軍内部の取り調べが厳しいものとなって行ったとは…想像に容易い。
しかし…
そう考えている時…ライが思いついたように、口を開いた。
「あの…ヴァインベルグ卿…あの、中華連邦の神虎のパイロットは…どうされていますか?」
「え?いきなり何の話だ?」
「そろそろ…天子様にお会い頂いては?ロイドさんもいいデータが録れているとご機嫌の様ですし…」
いきなりのライの発言にルルーシュも目を丸くしている。
「ですから…彼は…ルルーシュ殿下に対して刃を向けた方です。その方は、現在、殿下の采配一つでその命が決まる立場ですし…。もし、ルルーシュ殿下自らが話を聞いてダメな場合、彼は…宥め役になって頂けると思うのですが…。幸い、天子様は殿下に対して悪い印象を持たれていないようですし…」
ライがにこりと笑って進言する。
「どうせ、あの方も色々ありそうですから…このまま…と云う訳にはいかないでしょう?運が良ければ、執事長たちがどのように中華連邦と通じていたのかも解るかもしれませんし…」
ライの一言で…場の空気はまた…一変した…
copyright:2008-2010
All rights reserved.和泉綾