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皇子とレジスタンス



秘められた戦い

 ルルーシュはアーニャとジノを呼び出し、これからのルルーシュの居住区での警備、警護について話した。
ルキアーノには対中華連邦の作戦の要として抑止力になるかは微妙になるところだが、キューエルとヴィレッタを付けて九州のフクオカのエリア11のブリタニア駐屯軍と合流させた。
少なくとも、現在、様々な国のVIP待遇でもてなさなければならない姫君やブリタニアの皇族や貴族が入り込んでいる中、ブリタニア皇帝にとって不利益となる行動を起こすとも考えにくいが、色んな意味でルルーシュの邪魔にはなる。
だから、キューエルとヴィレッタを彼につけなければならないと云う部分ではそれなりに痛手があるが、エリア11の総督に着任したばかりのころとは違って現在ではスザクやライと云った、ルルーシュの騎士がいる…と云う事で、妥協したのだ。
恐らく、ルキアーノが変な方向に火がついてしまうとルルーシュでも抑えきれない。
シュナイゼルの命令でさえも平然と破って見せる様な相手だ。
不要な混乱を招きたくないと思うのは…至極当然だった。
「アーニャ…申し訳ないが…側室候補者として入り込んでくれるか?幸い、アーニャがナイトオブシックスであると云う情報は私の居住区の中で知る者はここにいる者たちだけだ…」
ルルーシュがアーニャに対してそう告げる。
「命令…でしょ?それに…殿下のお嫁さんなら…側室でもホントになっていい…」
突拍子もない事を云うナイトオブラウンズだとも思うが…
ジノは苦笑しながら口を開いた。
「殿下…彼女はいつもこんな感じです…。とりあえず、彼女を紛れ込ませてどうされるのですか?」
「中華連邦の元首であられる姫君が私の正室候補として中華連邦から送り込まれてきた。正直、年齢を見て驚いたが…。それに、お飾りとはいえ国家元首を…」
ルルーシュが云いにくそうに…憤りを隠せないと云った表情でジノに告げる。
「ああ…あの噂は本当だったんですね…。ただ、本当にその国家元首の姫君を側室なり正室にした場合、確実に中華連邦の中で暴動が起きますよ…。そうなれば…このエリアにも…」
一応ナイトオブラウンズと云う事で一通りの情報は噂程度の話でもきちんと把握している様だった。
「それは解っている…どの道、私が引き受けなくとも次はどこかの大公爵の家にでも見合いに行かされる事にはなる…。その前に何とかしたいものなのだが…」
「だったら…今、特派にいるあのパイロットに預ければいい…」
ルルーシュの言葉にアーニャが反応してそう告げる。
アーニャが云うほど簡単でも単純な話でもないのだが…
ルルーシュが考えているのは結果的にアーニャの提案している事だ。
「我々もその為に動く所存です。ですから…アールストレイム卿…」
ライがそこまで云いかけた時…アーニャがライの脛を思いっきり蹴りつけた…
「そんな呼び方したら…今度こそコロス…」

 確かに初めて会った時にそんな事を云われたが…
「ライ、不敬罪には問わない…。だから、彼女の望むとおりにしてやってくれ…」
「……イエス…ユア・ハイネス…」
結構痛そうな表情を見せながらライが答えた。
どうもライの性格は非常にまじめらしい…
と云うか、融通が利かないと云うか…
その点、スザクは割とプライベートな部分では細かい事を気にしている様子もない。
気にしなさ過ぎて最初の頃はよくジェレミアに説教されていたが…
この二人を見ているといいコンビだと思うし…少しだけ、羨ましくもなった。
―――私には…こうして、お互いを高め合える、何でも言い合える相手が…いるのだろうか…
そう頭の中で考えてみるも…
これまで、自分とナナリーの身を守るのが精いっぱいで周囲の人間に気を配るとか、誰かを見て羨ましいなどと考える余裕もなかったのだから…
―――そう云う意味では…私がブリタニアを発つ時にはあれ程ユフィやナナリーに心配をかけておきながら…今までで一番余裕が出来ている気がするな…
これまで、自分の事だけで…自分のやるべき事だけを考えてきた。
他の者が目に入っていなかったとも云うが…
余裕が出来るようになったのは…恐らく、ルルーシュ自身が成長した事よりも…この二人がいたからこそ…特に、スザクの存在は大きかったと…ルルーシュは客観的に分析する。
コーネリアがこのエリア11を発つ前にルルーシュに云った言葉があった…
『おまえ…私と一体幾つ年が離れていると思っている?流石に今の私と同じ年になってもこんな事が続いていたら情けない事だが…お前は…よくやっている…』
と…
しかし、本当によくやっているのは…自分ではない…
ルルーシュはそんな風に思う。
大体、シュナイゼルほどの力があれば、こんな見合いなど突っぱねる事が出来た筈だ。
こちらからでも簡単に調べられるような露骨な敵意をむき出しにしている連中の娘までが送り込まれているのだ。
そして、解っているのに、『正式な来賓』としての扱いなので、こちらから一方的に追い出す事も出来ない。
―――いっそ、骨肉の争いになろうと…女どもを争わせて諜報活動をしている連中を炙り出すか…
ルルーシュの中での諜報活動とは別に、相手の情報を知る事だけではない。
ターゲットとなる重要人物に対して知らない間に近づき、闇から闇へと葬るように殺す事も…諜報活動の役目だと思っている。
実際に、そう云った形で近づいてきた者だっていない訳ではない。
―――こんな状況の中、何ゆえに婚約者だの側室だの考えねばならん…
ルルーシュの頭の中ではげっそりとやつれていた。

 数日後、ルルーシュはとりあえず、解っている範囲でのルルーシュにとっての怪しい人物の顔を確かめておこうと、女たちが集う中庭やエントランスなどに足を踏み入れた。
当然ながら、専任騎士であるスザクも一緒なのだが…
しかし、ブリタニアの植民エリアの総督で、ブリタニアの皇子ともあろう者が第一の側近である専任騎士として日本人であり、ブリタニア人からはイレヴンと云う名前で蔑まれている人物が傍に仕えている事に対しては様々な反応だ。
「ご無沙汰しておりますわ…ルルーシュ総督…」
そう声をかけてきたのは、『キョウト六家』から正室候補として送り込まれてきた皇神楽耶だった。
確かにエリア11に暮らしていたイレヴンではあるが、彼女の場合血筋が血筋なのでそうそうないがしろにする訳にもいかないし、折角多少なりとこのエリアでのルルーシュに対する支持者が増えてきたのに、そこでその支持者を怒らせるような事は得策ではないと考えての措置だった。
大体、彼女が正式にルルーシュの正室ともなれば、それはそれで大きな問題が起きて来る事にはなるのだが…
「お久しぶりです…皇の姫君…」
ルルーシュは最大限に礼を払った。
とりあえず、ここで上から見下ろす形での態度はあまり好ましいとは言えない。
「ルルーシュ様…私、ここにきて1週間程になるのですが…この中でお友達ができましたの…」
神楽耶の口からあまり聞きなれない言葉が出てきた。
「友達…ですか…」
「ええ…こちらの方ですわ…。中華連邦の元首であらせられます…天子様ですわ…」
そう云って、神楽耶は彼女の後ろに隠れていた少女を紹介した。
確かに…まだ10歳にも満たないともあって、幼いし、周囲に対して酷く怯えた表情を崩す事はない。
「あ…あの…神楽耶さま…」
神楽耶の後ろに隠れた少女がびくびくしながら神楽耶に声をかけてきた。
確かに…この様子だと、神楽耶以外に声をかける事も出来ないだろうし、まして、他の女たちも彼女に対して声をかける事もしないだろう。
「天子様…この方がルルーシュ=ヴィ=ブリタニア殿下ですわ…。この、エリア11の総督であらせられますの…」
神楽耶がルルーシュを天子に紹介するが…天子の方はとにかくいきなり放り込まれたこの魑魅魍魎の住まう魔城で、すっかり何もかもが怖くなってしまった…と云う感じだ。
ルルーシュは本来ならジェレミアや執事長が見ていれば怒鳴りつけてきそうな行動に出た。
「お初にお目にかかります…私はこのエリア11の総督で、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアと申します…。以後、宜しくお願い致します…」
ルルーシュはそう云って天子に対して頭を下げた。
天子は驚いたように目を丸くしてルルーシュを見ている。
「あ…あの…中華連邦から来ました…天子です…」
小さくそれだけ口にすると下を向いてしまった。
恐らく、ルルーシュが怖いのではなく、この場所が怖いのだろうとルルーシュは察する。
中華連邦の元首が…このような形で国から他国へと売られているのだ…
下手に口を出せば内政干渉となり国際問題になり、更に彼女の立場を危うくする事になるので、ルルーシュとしても何をしてやれる訳ではない。
ただ…この幼い国家元首…
恐らく、周囲に守るべき人物がいないから…こうしてブリタニアに売られてきた…
―――私が死んだら…ナナリーも…
そう頭を過った時…ルルーシュはぐっと拳を握っていた。

 一方、ルルーシュが自身、このエリアに連れて来られた多くのVIPの立場にいる少女、女性たちの中で様々な苦悩をしている中…特派には…
「やぁ…ロイド伯爵…」
そう明るい声で特派の研究室に入ってきたのは…
「ヴァ…ヴァインベルグ卿???」
その姿に驚いて声を上げたのは声をかけられたロイドではなく、セシルだった。
ロイドの方はコンピュータのディスプレイから目を放そうとしない。
どうやら、シンジュクゲットーで確保した中華連邦のナイトメアの構造を調べている様だった。
「なんだか、熱心…と云うか、楽しそうだけど…ちょっとだけ、耳貸してくれないかな?ロイド伯爵…。今回はルルーシュ殿下の御命令だから…」
ジノがそうロイドに声をかけるのだが…
ロイドの方はディスプレイから目を放そうとしない。
ただ、ジノが入ってきた事で耳は多少ジノの声に傾けてはいるようだ。
「なんですかぁ?ヴァインベルグ卿…。今ちょっと忙しいんで…」
相変わらずマイペースな返事をして来るロイドにセシルが慌てて嗜めようとしたところをジノがそっと彼女の動きを止めた。
「えっと…セシル=クルーミー中尉…だったよね…。いいよ…。耳をこちらに傾けていてくれれば…。その『神虎』にも関わる事だしね…」
「で、ご用件は?」
「うん…一度、そのナイトメアのシミュレーターを作って私の乗ってみろとの御命令なんだけど…。あと、そのパイロットはどこ?ちょっと話もしたいんだけど…」
ジノは好奇心旺盛な性格らしく、この研究室の中をきょろきょろと見回している。
そんなジノの方を見る事もなくロイドが口を開いた。
「ああ…ヴァインベルグ卿の乗っている『トリスタン』とはだいぶ構造とか違うんで…。実力とか才能以前に難しいかもしれませんけど…。まぁ、プログラムは作ってみましょ…」
相変わらず軽いノリでロイドが返す。
ジノ自身は階級だの、身分だので、プライベートにまで言葉遣いを強制するつもりはないし、ここはプライベート…とまで云わなくても公の席ではない。
公の席であれば、それ相応に注意も必要なのだが…
「へぇ…まぁ、中華連邦のナイトメアだもんなぁ…。あと、鋼髏のシミュレーションプログラムは作れるかって…殿下が尋ねてらした…」
「出来ますよぉ…多分、『神虎』よりはるかに簡単ですけど…でも、そんなものでどうするんです?」
ロイドがやや眉をひそめてジノに尋ね返した。
ジノ自身、確かにご尤もな疑問だろうと云う事でロイドに答えてやった。
「なんでも…中華連邦との争いに備えたいとか…。色々画策しているみたいだった…。中華連邦のお国事情の中の一つを動かす事になりそうだったから…」
「中華連邦の…お国事情…?」
「ロイド伯爵だろ?『神虎』をパイロットごと預かったって殿下にお教えしたのは…」

 ジノの一言にロイドはようやく手を止めて、ジノの方を見た。
ロイドの表情は…普段とそれほど変わってはいないようだが…
「なぁにをまた、悪い事を考えているんでしょうねぇ…あの殿下は…。まぁ、シュナイゼル殿下のお怒りに触れない程度であれば…協力しますけどぉ…」
「まぁ、怒られちゃうかもしれない事だけど…。でも私も今はルルーシュ殿下の御命令に逆らえないからね…。だから、聞くだけは聞いて貰う…。返事はルルーシュ殿下御本人が聞きたいそうだから…」
「そうですかぁ…じゃぁ…本題に移ってくださぁい…」
「どうやら、中華連邦の元首の姫君と『神虎』のパイロットを会わせたいらしい…。その後の事は私も知らないが…」
ロイドもセシルもルルーシュが何を思ったのか…何となく気付いた。
ルルーシュ自身、自分が失脚する訳にはいかない事を彼自身が一番よく知っている。
だからこそ…ロイドもセシルもジノの言葉に対して、素直に答える事が出来る。
「「イエス、マイ・ロード」」
恐らく、最も効率のいい形で…
そして、ルルーシュに責が及ばないように、細心の注意を払った状態で…
どんな奇策を使うかは解らないが…
現在のところ、中華連邦からの攻撃はない。
当然だ。
中華連邦の一部の人間の為にエリア11の総督の正室候補としてエリア11に送り込んでいるのはまごう事なき、中華連邦の国家元首なのだ。
きちんと自分たちの目的を果たす為には確実に天子に生きていて貰わなくてはならない事は中華連邦も、ブリタニア側もよく承知している。
それは…ルルーシュの失脚を願う者たちも承知している。
「とりあえず、殿下からのお使いはこれでお終い…。後もう一つ…私の個人的な用事があるんだけど…」
ジノが軍人の顔となってややその顔に笑みを浮かべながらロイドに訴える。
ロイドは微妙にイヤな予感を覚えながらも…普段の顔を崩さずに答える。
「なぁんでしょ…」
ロイドの内心では、『ルルーシュ殿下が無茶をなさる方だから…類は友を呼ぶのかなぁ…。僕、ひょっとして凄いジョーカーカードを引かされてるのかも…♪』などと思っているが…
ジノ自身、ロイドのそんな内心を気づいているのか、いないのか、よく解らない表情でニヤッと笑った。 「そのパイロットと会わせてくれない?シミュレーターでいいから対戦してみたいんだけど…」
ジノのその一言だけなら問題ないし、本当にそれだけならロイドとしてはウェルカムなのだが…
ロイド自身が人と話す時には確実に何か別の思惑を持っている事が多いのでそう云った時の他人の表情を見れば大体、何かもう一つの思惑がある事には気づく。
「本当に…それだけですかぁぁぁ?」
「一応…ね…」
こんな、腹の探り合いと云うか、狐と狸のばかし合いのような空気の中、セシルが空気を変えようと口を開いた。
「まぁ、ルルーシュ殿下の御命令なのでしょう?なら、ロイドさんもそんな顔をしないでください…。少なくとも、ロイドさんの大切なランスロットシリーズを取り上げられる事はないでしょうし…」
セシルもその辺りは慣れたもので、その一言で彼らの表情を変えた。
「ん〜ま、そうだね…。セシル君…星刻君…連れて来てくれる?ホントは鏡のシミュレートテストの時間、もっと後なんだけど…」
「解りました…」
セシルはその一言を残してその部屋から出て行き、ロイドはジノにパイロットスーツに着替えて来るように指示してシミュレータの準備をし、ジノは指示された通り、指示された部屋に向かって歩き出した。

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